新しい働き方を取り入れたり、SDGsへの貢献に挑む企業の皆様にお話を伺うこの企画。今回は、徳島大学発ベンチャー企業として、食用コオロギの生産や商品開発を行う「株式会社グリラス」を取材させていただきました。
株式会社グリラスとは
▲「コオロギ×テクノロジーが生み出す新たな調和で、健康でしあわせな未来を。」とうたう、グリラスさんのホームページ
今後、世界の人口増加が見込まれる中、大きな課題となっているのが食料問題です。その解決策の1つとして、国際連合食糧農業機関(FAO)は2013年に昆虫食を推奨する報告書を公表しており、世界で昆虫食に目を向ける動きが広まっています。
こうした中、2019年に代表取締役の渡邉崇人さんが株式会社グリラスを創業。グリラスは徳島大学での30年におよぶコオロギ研究を基礎とし、世界でトップレベルの知見やノウハウを持つフードテックベンチャーとして知られています。現在は徳島県美馬市に2つの廃校を活用した生産拠点・研究拠点を持ち、食用コオロギに関する事業を行っています。
会社名 | 株式会社グリラス |
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住所 | 徳島県鳴⾨市撫養町⿊崎字松島45-56 |
事業内容 | ⾷⽤コオロギの⽣産 ⾷⽤コオロギを⽤いた⾷品原材料および加⼯⾷品の製造、販売 ⾷⽤コオロギの飼育管理サービスの開発、販売等 |
設立 | 2019年5⽉ |
公式ページ | https://gryllus.jp/ |
働き方 | フレックスタイム(職種によってテレワーク可) |
そんな株式会社グリラスメンバーの働き方や目指すことなどについて、自身もグリラスの魅力に惹かれて徳島に移住したという採用広報担当の池田さんにお話を聞かせていただきました。
グリラスは食用コオロギの生産から販売まで一気通貫で行う
▲グリラスさんの事業の歩み
編集部
グリラスさんは食用コオロギの開発を行うフードテックベンチャーでいらっしゃいますが、社名はコオロギに由来するのでしょうか?
池田さん
はい。社名の「グリラス」は、フタホシコオロギの学術名である「Gryllus bimaculatus」に由来しています。学術研究を基に、常にコオロギのイノベーターであり続けるという強い決意が込められています。
編集部
現在の事業についてご紹介いただけますか。
池田さん
徳島大学で長年行ってきたコオロギの研究を基礎として、食用コオロギの研究、生産、加工、販売まで一気通貫で行っているのが特徴です。
豊富なタンパク質を含み、食味もよいコオロギの特徴を活かし、原材料の提供だけでなく、自社ブランドで加工食も販売しています。このほか、コオロギ飼育で出る残渣(ざんさ)を農業肥料として活用するための実証実験や、動物用コオロギの生産、販売など、さまざまな事業を行っています。
コオロギで「タンパク質危機」と「食品ロス問題」を解決
▲グリラスさんの企業ミッション(同社ホームページより)
編集部
グリラスさんは「コオロギの力で、生活インフラに革新を。」というミッションを掲げていらっしゃいます。昆虫食を通して、どのような革新や課題解決を目指しているのか教えてください。
池田さん
グリラスが食用コオロギを通して解決したいのは、食の社会課題です。
1つが、人口増加に伴って発生するといわれているタンパク質不足です。2019年6月に国連より発表された報告書によると、世界の人口は2050年には100億人に近づくとされていますが、これに伴う食料問題の一つとして挙げられているのが動物性タンパク質の不足です。
なぜ動物性タンパク質が不足するかと言うと、魚や野菜は収穫するとすぐに食べられますが、畜肉はどうしても穀物を与えて育てるというひと手間が必要になってくるからです。成長するまでに時間がかかるうえ、広い土地を必要とすることから、急激な人口増加にあわせて生産量を上げることが難しいとされています。
このタンパク質不足という問題に対して、これまで未利用であった甲類をタンパク源として供給していきたいというのが私たちのミッションです。持続可能な開発目標SDGsでいうと、目標2「飢餓をゼロに」に直結する取り組みです。
編集部
コオロギのような昆虫であると飼育の手間が減るのでしょうか。
池田さん
これは昆虫全般に言える特徴なのですが、既存の畜肉牛や豚、鶏に比べて、環境負荷を低く育てることができます。昆虫は飼育に必要な餌や水の量が少なく、飼育過程で発生する温室効果ガスの量というのも少なく育てることができます。
数字で表現すると、牛だと約1キロ体重を増やすのに10キロぐらいの餌が必要になります。牛の場合は内臓や骨など食べられない部分もたくさんありますので、いわゆる「牛肉」である食べられる部分を1キロ作ろうとすると、25キロぐらいの餌が必要になると言われています。
一方で、コオロギは全身が可食部であり、そのまま丸ごと食べられます。そのため、コオロギの体重増加がそのまま可食部の増加ということになりますが、コオロギの場合、だいたい1.7キロから2キロの餌を食べると、体重が1キロ増加すると言われています。
このように、昆虫食は環境負荷の少ないタンパク源と言えます。
▲グリラスさんは「サーキュラーフード」としてのコオロギに着目した
編集部
数ある昆虫の中でも、コオロギを使うのはなぜですか?
池田さん
食用昆虫の中でも、コオロギは雑食性という特徴を持っているからです。
よく似ている昆虫で、イナゴやバッタでもよいのではと言われることがありますが、イナゴは稲しか食べませんし、バッタは生きている草しか食べません。
そのため、例えばバッタを飼育するには広大な牧草地が必要になってきます。そのほかカイコもよく名前が挙がるのですが、皆さんご存知の通り、カイコは桑の葉っぱしか食べないため、餌としての桑の葉の調達が必要です。
ところが、コオロギは珍しいことに雑食性で、葉っぱでもお肉でも何でも問題なく食べます。この大きな特徴を生かし、グリラスでは食品ロスを100%与えてコオロギ飼育をしています。
つまり、人間が食べられずに捨てられてしまったものを餌としてコオロギを飼育し、人間に必要な新しいタンパクを作っているということになります。
編集部
そのフードサイクルが実現するから、循環型の食品”サーキュラーフード”と呼ばれるのですね。
池田さん
はい。私たちが解決したいもう1つの食の社会課題が、食品ロスです。持続可能な社会に必要となる”サーキュラーフード”であるコオロギを通して、SDGsでいうと12番「つくる責任、つかう責任」に寄与したいと考えています。
今、世界では年間約9.3億トンの食品ロスが発生しており、その量は全世界で生産されている食品の約3分の1に相当すると言われています。世界のある一方では食料が足りてないのに、ある一方では食料を捨てているというちぐはぐな状況をコオロギでつなげたい。こんなふうに考えて事業展開を行っております。
無印良品が販売した「コオロギせんべい」で話題を集める
▲グリラスさんの自社ブランド商品はオンラインショップで販売している
編集部
グリラスさんでは実際に、コオロギを使ったどのような製品を販売されているのでしょうか?
池田さん
無印良品さんが2020年に発売し、話題になった「コオロギせんべい」は、グリラスが開発した食用コオロギパウダーを練り込んだ商品です。
この「コオロギせんべい」に続き、2021年6月にはグリラスの自社ブランド商品を販売するECサイトを立ち上げました。現在は「C.TRIA(シートリア)」というブランドで、甘さ控えめでザクザクとした噛み応えとコオロギの香ばしさが心地いいチョコクランチ、プロテインバーやコーンスナックなどを販売しています。
編集部
ECサイトにはコオロギパウダーを原料として使った製造担当者さんの「穀物由来の香ばしい香りがして味も良い」「調味料として違和感なく使うことができるし、素直に美味しいなと感じた」といった感想も載っていますね。
池田さん
コオロギは「陸のエビ」とも言われ、昆虫の中でも特に優れた食味を持っています。香ばしいエビのような風味が特徴なんですよ。
▲チョコクランチはザクザクとした噛み応えとコオロギの香ばしさがウリ
■グリラスさんのオンラインショップはこちら
https://gryllus-online.jp/
メンバーが半年かけて作ったグリラスの5つのバリュー
▲元図書室を活用したグリラスさんのオフィス
編集部
ここからはグリラスで働く皆さんについて伺います。メンバーの行動指針のようなものはありますか?
池田さん
去年、社員みんなで半年かけて考えて、バリューを策定しました。ビジョンとミッションは2021年に行った企業リブランディングの際につくったのですが、このときはバリューをあえて設定しませんでした。当時はまだ社員が5名程度で、グリラスが大事にする文化や価値観が醸成されていく段階だったからです。
そこで、メンバーが30名ほどになったのを機に、バリューを決めることにしました。メンバーがそれぞれに考える「グリラスの良さ」を損なうことなく、「なりたいグリラスの姿」に向かえるように議論を重ねました。
こうしてできたのが、グリラスの5つのバリューです。「地球規模の視座を持ち、社会課題の解決を。」「自ら率先し、持続可能な社会の実現に向けた取り組みを。」「等身大のコミュニケーションと、うそ偽りない信頼構築を。」「高い目標に向けた大胆な挑戦と、それを楽しめる環境づくりを。」「根拠と論理を元に思考し、仮説と検証をもって行動を。」の5つとなっています。
▲メンバーで議論して決めたグリラスさんのバリュー(同社noteより)
編集部
策定の過程を聞いて、グリラスメンバーの想いが詰まったバリューだということがわかりました。
廃校を活用したラボで、裁量を持って働く社員たち
▲グリラスさんの生産拠点である美馬ファームは廃校を利用している
編集部
次にグリラスメンバーの働き方について質問させてください。働く場所はどのような環境ですか?
池田さん
本社は徳島県鳴門市で、同じ徳島県の美馬市というところに2つの廃校を活用した生産・研究拠点「美馬ファーム」と「美馬研究所」を持っています。ここに出勤するメンバーのほか、テレワークを行っているメンバーもいます。
編集部
廃校を使われるところも、持続可能な社会の実現を目指すグリラスさんらしさの表れですね。いくつか拠点をお持ちですが、社内のコミュニケーションはどのようにされていますか?
池田さん
小さい会社で、部門ごとに場所が別れているということもありませんので、コミュニケーションは円滑にできています。ラボで対面で働いている者もテレワークで働いている者も分け隔てなく、といった感じです。四半期に一度集まって社員総会を行ったり、また今後は出社推奨週というのを作ろうとしています。
編集部
働く時間については、いかがでしょうか?
池田さん
最近、フルフレックス制度を導入しました。各々の裁量で仕事を進めている人が多いなという印象です。
例えば、徳島市内に在住している子育て中のメンバーがいますが、徳島市から美馬市までは車で1時間ぐらいかかるため、朝のお子さんの送りはだんなさまが、夕方のお迎えはご自身が担当されています。この社員の場合は、朝6時くらいから出勤をして、会社で研究開発をした後、15時、16時くらいに退社をするという感じです。
編集部
それぞれのライフスタイルに合わせて働ける環境があるのですね。
池田さん
必ずしも毎朝6時出勤で良いですよ、というわけではありませんが、自身の状況に合わせて気軽に相談できるような体制は整っています。
県外から「移住して、出社したい」と思わせるグリラスの魅力
編集部
ところで、池田さんご自身はどのようなご縁でグリラスさんに入社されたのですか?
池田さん
私は新卒で入社しました。大学生のときにライターの仕事をちょっとやっており、グリラスの1人目の社員として働いていた友人の縁で、グリラスで広報関連の記事を書いたのがきっかけです。
グリラスはそれまで新卒社員は採ったことがありませんでしたし、私も当時入社は全く検討していませんでした。しかも実は元々虫は苦手だったのですが、一度徳島に来たときにコオロギを使ったラーメンを食べさせてもらったら、びっくりするぐらいおいしかったんです。こんなにおいしいものがまだ知られていないのかと驚き、これを世に届ける仕事は面白そうだなと思い、入社を決意しました。
編集部
徳島の働く環境はいかがですか?
池田さん
海、山、川に囲まれていて、環境がとても良いんですよね。うちの会社はよく「徳島大学の出身の人が多いのですか?」と聞かれるのですが、そんなことはなく、6~7割がたは県外からの移住者です。みんなそれぞれ本当に楽しそうに暮らしているので、環境が合う人にはすごく良いのではと思っています。
編集部
広報のお仕事はテレワークでも可能かもしれませんが、池田さんは移住して、出社していらっしゃるんですね?
池田さん
はい。働き方としてはテレワークもできたと思いますが、会社に来た方が楽しいんです。先ほど廃校を使っていると申し上げましたが、学校当時の図書室をオフィスとして活用していまして、そこにいろんな人が集まって会話するのがすごく面白いです。グリラスには、移住して出社したいという魅力があります。
メンバー増に向けて、人事評価制度を整備中
▲グリラスさんの食用コオロギ生産拠点「美馬ファーム」の様子
編集部
グリラスさんは今後メンバーを増やしていかれると思いますが、人事評価制度についてはどのようなものを取り入れていますか?
池田さん
評価制度に関しては、まだ仮導入の段階ですが、等級制度を採用しております。グリラスが求める能力の要件定義をして、本人のスキルや入社してからの業務内容に応じてグレードを決めています。
等級以外にも、専門性を高めるか、マネジメントスキルを上げていくか、一定グレードに達したときに、どちらに進むかを決めてもらう形を採用しています。
編集部
一人ひとりの進みたい方向性に任せながら、しっかり評価する制度を作っていこうとされているんですね。
ミッションに共感した人はぜひ応募を
編集部
最後に採用についてお伺いします。グリラスさんではどのような方に応募してほしい、チャレンジしてほしいとお考えですか?
池田さん
グリラスの「新しい食の選択肢を届けたい」という思いをはじめ、会社のミッションや先ほど紹介したバリューに共感いただける方です。私たちはいろんな事業を展開していますが、何か一つでも自分が成し遂げたいと思うことがあれば、ぜひお声掛けいただけたら嬉しいです。
また、一番重要なのが、環境適応力だと思います。事業がめまぐるしく変わっていきますので、今一生懸命頑張っていることを3ヶ月後にも同じようにやっているとは限りません。そういった変化を楽しめる方に来てもらいたいです。
編集部
池田さん、本日はありがとうございました!
食料問題の解決につながるフードテックは大企業も参画するなど、注目を集めています。グリラスさんが目指す未来や価値観、SDGs目標への寄与に興味を持った方は、ぜひホームページや公式noteを覗いてみてください。noteではコオロギが持つ可能性や、グリラスの目指す未来など、さまざまな情報を発信されています。
■取材協力
株式会社グリラス:https://gryllus.jp/