女性や若手が活躍できる環境を作っている企業や自治体にインタビューする本企画。今回は、福島県いわき市にお話を伺いました。
福島県浜通り地域の中心的な役割を担う福島県いわき市
福島県内最大の面積を誇り、中核市として海に面する「浜通り」地域の中心的な役割を担っているのがいわき市です。フラガール発祥の街としても知られ、文化発祥の地としての側面も持っています。
同市役所では2022年度から構造改革に着手しており、業務効率化を達成するための取り組みを進めています。市役所に残っている慣習や従来の考え方を見直し、より職員が働きやすい職場環境を作るために奮闘しているのです。
自治体名 | 福島県いわき市 |
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住所 | 福島県いわき市平字梅本21番地 |
公式ページ | https://www.city.iwaki.lg.jp/ www/index.html |
2011年の東日本大震災、2019年の東日本台風、そして直近のコロナ禍を受け、同市では危機管理部が立ち上げられました。職場環境を見直すとともに、有事の際に素早く動ける体制も構築されています。
同市の改革への取り組みについて、総務部職員課人事係主査の佐藤天音さんにお話を伺いました。
「男性の職場」というイメージだった技術職でも女性が活躍
編集部
いわき市役所さんには現在何名の職員さんがいらっしゃって、男女比はどのぐらいなのでしょうか?
佐藤さん
いわき市役所には2023年4月1日時点で3657人の職員が在籍しています。そのうち1610名は女性なので、男女比はおおよそ半々といった状況です。また、管理職の女性比率は約10%となっています。
現在女性のキャリア支援の取り組みも進めており、管理職の女性比率も伸びていくことが予想されています。
編集部
女性活躍に力を入れられているのですね。いわき市役所さんにはいろいろな部署があると思いますが、各部署で女性の活躍例が増えているのでしょうか?
佐藤さん
自治体の職種には土木や建築に関連する技術職がありますが、十数年前に比べるとそういった職種でも女性の採用例が増えていますね。
もちろんこれまでも技術職について女性を受け入れて来なかったわけではありませんが、やはり「男性の職場」というイメージがあったでしょう。しかし、時代の変化もあって技術職に対するイメージにも変化が見られます。
いわき市役所の採用パンフレットにも女性の技術職員のインタビューが掲載されているなど、より女性に対して技術職への間口が広がっていると感じています。
編集部
時代の変化に合わせていわき市役所さんの姿も変わってきたのですね。
職員が市役所改革のアイデアを出す「IWAKI NEXTワーキンググループ」
▲市役所の慣習や働き方を見直す構造改革の取り組みが進んでいる
編集部
女性が活躍できるフィールドが広がるなど変化を続けているいわき市役所さんですが、変化を促すような取り組みは何かされているのでしょうか?
佐藤さん
いわき市役所は2022年度に構造改革推進本部を立ち上げ、業務効率化や市民サービスの改革を実現するための取り組みを進めています。
公共機関であれば共通する課題として挙げられると思いますが、やはり年功序列といった慣習や古い考え方があります。構造改革推進本部は、そこを打破するための組織です。
本部内では職員で構成される「IWAKI NEXT」と呼ばれるワーキンググループを設置し、部署をまたがって取り組みが進められています。大きく3つのグループがあり、それぞれの活動の質を高めつつ、連携・連動して次の時代を「生み出す」政策実行仮定の実現に挑戦する、というミッションを掲げています。
編集部
本部では具体的にはどのような取り組みがなされているのでしょうか?
佐藤さん
本部ではIWAKI NEXTと連携しながら、業務や市民サービスのDX化を推進しています。例えば、ペーパーレスやテレワーク環境を構築したり、行政サービスのオンライン化を進められたりなどしていますね。
また、情報発信の方法も大きく変化しました。内田(広之)市長が広報活動を強化していくという方針を掲げておりますので、例えば固いイメージだった採用パンフレットを柔らかいイメージに変えるというのも構造改革の制作の一つに挙げられます。
編集部
現場の職員さんが主導で改革が進められているという点が特徴だといえそうですね。
佐藤さん
ワーキンググループは若手職員を中心に構成されており、意見がしっかり反映される仕組みとなっております。従来型の係員から係長補佐、課長と意見が上がっていくスキームではなく、構造改革推進本部という組織の意見として改革案が出されるので反映されやすくなっているのです。
編集部
順序を踏んで進めていくという旧来のやり方ではなく、スピード感を持って改革に取り組めるのですね。
構造改革によって業務効率が改善し市民サービスにも好影響が生まれる
編集部
いわき市役所さんの変化について、佐藤さんはどのように見られているでしょうか?
佐藤さん
私がいわき市役所に入職して10年が経ちましたが、10年の間で大きく変わったと感じます。紙で進めていた業務がどんどんデジタルツールに変化していますし、まさに今が転換期だといえるでしょう。
今では市役所内でもビジネスチャットツールが導入されていますが、個人情報を扱う機会が民間と比べて多いということもあり、セキュリティ面で課題があってなかなか導入が進まなかったのです。
この問題を突破したうえでツールが導入されていますので、当時の担当者は並々ならぬ努力があったと伺えます。
編集部
デジタルツールで職員さんの業務が効率化されることで、市民サービスにも良い影響が生まれそうですね。
佐藤さん
例えば市民に寄り添った対応ができなかったという事象が発生したとすれば、その原因はやはりほかの業務が忙しくて市民に向き合えなかったというところもあると思います。
改善のためには人員の配置というのを考えなければならないのは当たり前として、さまざまなツールを導入して業務も効率化していければ、その分市民に向き合えます。
実際に市役所の対応について市民からの評価も上がっていますし、これは組織が何かしたというよりはそれぞれの部署の職員が努力をしていることが大きいですね。
編集部
構造改革で環境が良化した組織で個人が活躍することで、市民サービスにも好影響を与えているのですね。
有休の平等性を高める結婚休暇などの特別休暇制度
編集部
いわき市役所さんの現在の残業時間の状況について伺わせてください。
佐藤さん
いわき市役所の月平均残業時間は、2020年度は11.9時間でした。2019年度は約13時間でしたので、わずかではあるものの減らせているという状況です。
自治体の残業時間というのは、例えば災害など外的な要因で変化するものでもあります。業務効率化が進んだから残業時間が減ったとは一概にはいえませんが、数字として結果が表れています。
編集部
残業時間の削減が進んでいるのですね。休暇制度についてはどのようなものがあるでしょうか?
佐藤さん
休暇制度についても、いわき市役所ではどんどん取りやすくなっています。例えばお子さんが熱を出したり学校行事があったりといったときに、一般的には有休を取得することになると思うのですが、いわき市役所は有休と別の枠組みで休暇を取得できるのです。
また、新婚旅行や結婚式で休暇を取れる結婚休暇という制度もあります。こちらについてはコロナ禍の状況で旅行に行けなかったり式を挙げられなかったりといった状況がありましたので、取得可能期間を延長する対応を取りました。
編集部
有休を使わないでお子さんの付き添いができるというのはとてもありがたいですね。
佐藤さん
子育て中は、自分のために使う有休という状況は減りがちです。それでも、有休はどの職員にも同じ日数与えられています。有休以外の休暇制度があることで、有休の平等性が保たれると考えています。
もともと「有休を自分のために使えない」という意見は職員間であったので、さまざまな休暇制度が設けられていることで助かったという声は聞こえますね。
編集部
いわき市役所さんが子育て世代が働きやすい職場にするという思いを強く持っていらっしゃることが伝わります。以前からそのような姿勢でいらっしゃるのでしょうか?
佐藤さん
いわき市役所は2017年に子育て世代が働きやすい職場環境を作ることを宣言する「イクボス宣言」を発表しました。当時はまだまだ社会的にイクボスが注目をされ始めたころだったのですが、国全体で育休の取得率を上げていこうという方向性に進み始める中でいち早く宣言しています。
いわき市役所は女性の育休取得率は100%で、男性の取得率についても2019年から上昇し続けています。まだまだ女性に比べると取得期間は短いですが、全く取得しないという状況は減りつつありますね。
編集部
社会が男性の育休取得促進に動き始めていますが、いわき市役所さんでは社会的な動きが出る前から取得率が上がっているのですね。
有事の際の体制強化のため危機管理部を2020年に設置
編集部
いわき市役所さんは危機管理モデル都市を目指してさまざまな取り組みをされているそうですが、具体的な取り組みについてお教えください。
佐藤さん
いわき市は2011年の東日本大震災をはじめ、2019年の東日本台風、直近ですと2023年3月に市内の一部が台風で増水するなど、さまざまな災害が短いスパンで立て続けに起こりました。そんな危機に機動的に対策に当たるために、2020年に危機管理部という部署を立ち上げました。
危機管理部に所属している危機管理課と原子力対策課は以前は総合政策部に属しており、この2つに災害対策課を合わせて作られたのが危機管理部になります。
編集部
なぜ改めて危機管理部が立ち上げられることとなったのでしょうか?
佐藤さん
危機管理部が立ち上がった背景としてはコロナ禍が挙げられます。危機管理とは自然災害に限らないということをコロナ禍によって実感したところでしたので、さらに体制を強化していこうという背景で危機管理部が誕生しました。
新設された災害対策課では市内を対象にした避難訓練の実施や、災害が起こった場合の役割分担のマニュアル作成など、有事に備えた業務を行っています。
もし有事が起こった場合は危機管理部が司令塔の役割を務め、それぞれの部署と連携しつつ物資や職員、お金の差配を担うことになります。
編集部
有事の際は他の自治体さんと連携をとることも重要だと思いますが、その点はいかがでしょうか?
佐藤さん
東日本大震災の際は、他の自治体さんから職員さんを派遣してもらい、長期でいわき市の職員として取り扱ったうえで従事してもらいました。土木の技術や建築関係の知識を持っていらっしゃる方が派遣されましたので、大変助かりましたね。
また、台風の際もいわき市と友好都市を結んでいる市町村さんから何名か職員さんが派遣されました。
編集部
危機に対応する体制がしっかり作られているのですね。
民間の経営感覚を持ち新しい発想を提示してくれる人材を求む
編集部
最後に、いわき市役所さんに興味を持っている方に向けてメッセージをお願いいたします。
佐藤さん
民間でも同様の課題だと思うのですが、自治体は人やお金のリソースが減少傾向にあります。特に、地方になればなるほどその傾向が強いです。今後は少ない投資で大きな成果を出すことがより重要となってくるでしょう。
ですので、いわき市役所は民間の経営感覚を持っている方を歓迎します。これまでの庁内の慣習を学んでいくのではなく、新しい視点を持ってこれまでになかった考え方を提示してくれるような人材を求めているのです。
民間の企業で社会人の経験を持っている方であれば、新しい何かを生み出せるのではないかと期待しています。
いわき市役所では社会人経験枠という採用枠も設けていますので、興味を持たれた方はぜひご応募いただければと思います。もちろん、若いパワーも大歓迎ですので、新卒でいわき市役所に興味を持たれた方も、ぜひご応募いただければと思います。
編集部
構造改革を進められているいわき市役所さんだからこそ民間企業を経験した方が活躍できる場がたくさんあると感じました。本日はありがとうございました。
■取材協力
福島県いわき市:https://www.city.iwaki.lg.jp/www/index.html
採用ページ:https://www.city.iwaki.lg.jp/www/genre/1000100000332/index.html