企業のSDGの取り組みや若手活躍などをお伝えしているこの企画。今回は道路や橋梁など公共インフラ構造物の点検・調査等、土木・建設業界に関連するロボットやAI開発を手掛けるオングリットホールディングス株式会社にインタビューをさせていただきました。
オングリットホールディングス株式会社とは
オングリットホールディングス株式会社は、道路や橋梁などのコンクリート構造物、照明灯といった、道路附属物の点検・調査の土木・建設業界に関連するロボットやAI開発を手掛けている企業です。
公共インフラの点検作業には専門的な知識が求められますが、オングリットホールディングス株式会社は、インフラ点検にロボットやAIを活用することで点検業務の効率化を実現。未経験者でも図面作成が可能なシステムを構築しています。
会社名 | オングリットホールディングス株式会社 |
---|---|
住所 | 福岡県福岡市博多区上牟田1丁目8-7 |
事業内容 | ・関連会社の経営、管理及びこれに附帯する業務 ・土木、建設業界に関するロボット及びAI開発 ・自社開発ロボット及び点検用特殊車両のレンタル及びサービスの提供 |
設立 | 2018年3月 |
公式ページ | https://www.on-grit.com/ |
今回は代表取締役の森川さんに、IT技術による公共インフラ事業の課題解決やSDGsへの取り組み、専門知識を持っていない若い世代をはじめ、業界未経験者でも活躍できるオングリットホールディングス株式会社のカルチャーなどについてお話を伺いました。
ITテクノロジーで土木・建設業界の人手不足を解決
▲オングリットホールディングス株式会社はITテクノロジーを活用した独自のシステムで土木・建設の現場を支えている(公式サイトから引用)
編集部
はじめに、オングリットホールディングスさんの事業内容について教えていただけますでしょうか。
森川さん
当社は橋梁やコンクリート構造物、照明灯など道路附属物の点検業務を担う企業です。
“テクノロジーを活用し世界中の人へ働く機会と豊かさを提供する”というミッションのもと、土木・建設業界をアップデートし、安心して暮らせる社会をつくるため、「インフラ点検事業」「AI /ロボット開発事業」に加え、自社開発製品を活用して未経験者に業務を依頼する「アウトソーシング事業」の3つの事業を展開しています。
▲オングリットホールディングス株式会社のミッション
編集部
3つの事業の中でも「AI /ロボット開発事業」はオングリットホールディングスさんの特徴かと思われます。こちらについて詳しく紹介いただけますか?
森川さん
橋桁の裏側など高所の点検は、足場を組んだり高所作業車に乗って作業をします。近年はドローンを用いることで安全かつ、効率的な点検作業ができるようになったものの、損傷箇所の画像を使ってCAD(※)図面を作成し、点検調書を作成する作業は手入力で行うのが一般的です。
(※)CAD:設計図面を作成するためのソフトウェア
図面や点検調書の作成は専門知識が必要な上に、点検作業の中で最も時間を要するため、作業者の大きな負担になっています。
当社が開発した「マルッと図面化®」では、現場で撮影した構造物の画像から、ひびわれなどの損傷箇所をAIが自動抽出。作業効率を大幅にアップするだけでなく、CADデータの作成など専門的な知識を持たない方でも図面作成ができる画期的なツールです。
また、現在開発中の道路照明の点検に特化した高所点検ロボットでは、撮影した画像をAIが解析し、ボルトの緩みなどの異常を検知することができます。振動センサーにより、画像では判断できない内部の異常を診断することが可能です。
編集部
道路や橋などの社会インフラの点検作業に御社の技術が注がれることで、点検ミスなどのヒューマンエラーが軽減され、私たちは安全に暮らすことができるというわけですね。
カーボンニュートラルな点検作業でSDGsに貢献
編集部
AIやロボットなどのITテクノロジーの活用は、SDGsに大いに貢献すると期待されています。オングリットホールディングスさんではSDGsにどのようなかたちで取り組まれていますか?
森川さん
高所作業車を使った街灯や標識などの道路付属物の点検を、高所作業車に代わってAIやロボットなどのITテクノロジーが担うことで、カーボンニュートラル(※)社会の実現に取り組んでいます。
(※)カーボンニュートラル:CO2などの温室効果ガスの排出量と、森林等が吸収する量を差し引いて、実質的にゼロにする取り組み
道路付属物の点検は、高所作業車を路肩に駐車し、リフトで昇降して作業をします。作業中は作業車が常にアイドリング状態になるため、CO2が排出され続けます。加えて、作業内容によっては道路に交通規制をかける必要があり、渋滞の原因になることもあります。
他にも道路規制に関する警察署への申告や規制看板、交通整理員の手配など細かい業務が作業効率を悪化させているのが現状です。
これらの課題に対し、点検作業をAIやロボットなどのITテクノロジーが担うことで高所作業車が不要となり、道路規制においても必要最低限の時間・人員で済むため、作業効率向上が期待できます。
また、道路照明の点検作業は車に乗車して、対象となる構造物を1つひとつをチェックするのが一般的ですが、当然のことながら車を走らせた分だけCO2が排出されます。
オングリットホールディングスではバスやタクシー、ごみ収集車など日常的に街中を走行する車にカメラを搭載し、車からスクリーニング(※)的に道路照明の異常や落書きなど調査をする「インフラ監視システム」の実証実験を進めています。
(※)スクリーニング:多数の中から特定の条件に合うものを抽出するために選別すること
この技術を地図とリンクすることによって、どの道路照明に修繕が必要かを地図上で確認することができます。当社ではこれらの技術によって調査の手間を軽減するとともに、CO2削減とDX(※)への貢献を目指しています。
(※)DX:Digital Transformationの略語。テクノロジーにより産業構造を変化させること
編集部
公共インフラや道路照明の点検は社会生活における必要不可欠な作業ですが、CO2の排出や関わる人員の確保など、さまざまな課題があるんですね。御社のITテクノロジーを用いることでそれらの課題が解決され、地球環境の配慮や作業の効率化が図れることがよくわかりました。
誰でも図面作成ができるシステムを構築し、就職弱者に雇用を創出
編集部
20018年設立のオングリットホールディングスさんですが、創業のきっかけを教えていただけますか?
森川さん
シングルマザーになった学生時代の友人から、子育てをしながら働ける仕事がないという相談を受けたことがきっかけです。何か力になれることはないかと模索していた時、ゼネコンで開発部長を務めていた夫から、土木・建設業界の深刻な人手不足問題を聞きました。
人手不足で困っている土木・建設業界と、子育てをしながら働ける仕事を探している人をマッチングさせることで、両者が抱える問題を解決できるのでは、と考えるようになりました。
でも、マッチングを成立させるためには、土木・建設業界で働くために必要なスキルを何かで補わなければなりません。そこで思いついたのが、未経験者でも道路や橋梁などの点検作業の要領が理解できるデータベースの作成です。
編集部
素晴らしい行動力ですね!森川さんは土木・建設業界で働いた経験はあったのでしょうか?
森川さん
それが全くないんです。でも、当時専業主婦だった私には、独学でITを学んだり、家事の合間にデータを入力をする時間がありました。私のように土木・建設の専門知識がない人でも図面が作成できるシステムがあれば、人手不足問題を解決することができ、雇用も生まれると考えたんです。
そこで、夫が開発した画像をなぞるだけでCAD化できるシステムをベースに、独自のシステムを構築しました。これが先ほどお話しした「マルッと図面化®」のファーストモデルです。
システムを作っているうちに、シングルマザーだけでなく、日本語がつたない留学生や障がいを持った方でも、テクノロジーを活用すれば雇用の場を創出できるのでは、という考えに至りました。そこで留学生5名にシステムを活用してもらい、福岡市内にある約200箇所の橋梁点検作業を図面化したんです。
完成した図面のクオリティの高さが評価され、お客様からぜひ来年もお願いしたいと言っていただけるまでになりました。さらに福岡県主催のビジネスプランコンテストでファイナリストに選ばれたことが自信となり、データベースの作成を始めてから4年後の2018年に起業しました。
編集部
御社が提供するテクノロジーは、安心・安全なインフラだけではなく、さまざまな課題を抱えた就職弱者に雇用の機会をつくっているんですね。先ほど紹介いただいた「アウトソーシング事業」は、この時の経験から生まれた事業のように思われますがいかがでしょう。
森川さん
おっしゃる通りです。例えば、AIに学習させる画像データの作成は従来、何万枚もの画像のボルトの位置情報を手入力でしていたのですが、ボルトが写っている画像の部分をクリックするだけで位置情報が自動化されるシステムを開発しました。
アウトソーシング事業ではこのデータの作成業務部分を、障がい者施設などに業務をアウトソーシングをし、社会貢献に取り組んでいます。
20〜30代が活躍。決定事項は社員全員で話し合うのがオングリット流
編集部
土木・建設業界に新風を吹き込んでいるオングリットホールディングスさんの社内カルチャーや会社の雰囲気などについてご紹介ください。
森川さん
40代が若手とされる土木・建設業界ですが、当社は20〜30代がメインに活躍しており、活気にあふれています。プライベートでも仲が良く、休日などは趣味が合う人同士でオフを楽しんでいるようです。
また、当社の特徴として、業務に関する決定事項はトップダウンではなく、社員全員で話し合って決めるようにしています。現場から図面作成の担当者に引き継ぐといった日常の業務はもちろん、“土木・建設業界をアップデートし安心して暮らせる社会をつくる”というビジョンも、社員全員でパワーワードを出し合って決めました。
編集部
志を同じにすることで御社のミッションである“テクノロジーを活用し世界中の人へ働く機会と豊かさを提供する”を実現しているんですね。
1人ひとりの個性を活かし、各々が輝ける場を提供
▲さまざまなバックボーンを持った社員が活躍するオングリットホールディングス株式会社
編集部
業界未経験者も多く在籍しているとのことですが、どんな業種から入社されていますか?
森川さん
社員の多くは土木学科で学んだ経験はなく、前職がコンビニエンスストアのスーパーバイザー、テレビ局のアシスタントディレクターなどバックボーンもさまざまです。また、障がい者手帳を持っているメンバーも在籍しています。
オングリットホールディングスが大切にしているのは、社員1人ひとりの個性を伸ばすことです。障がい者手帳を持っているメンバーはコミュニケーションを取るのは少し苦手でも、数字にとても強いといった個性があります。
また、苦手なことを克服しようとする向上心を持っており、お客さまとの打ち合わせの場に出たいという本人の意思を尊重し、周囲が資料作成の仕方や、打ち合わせで話す順番などのアドバイスをしています。
このように、社員1人ひとりが輝ける場をつくっていこうとする共通認識があるのが当社の強みです。土木・建設は男性が多い業界ですが、点検士として現場作業に当たっている女性社員がいるのも、個性を大切にするオングリットならではだと思います。
編集部
性別や年齢、前職の職種に関わらず、1人ひとりの個性を大切にしている御社だからこそ、社員のみなさんがいきいきとやりがいを持って働いているんですね。
チャレンジ精神と高い向上心を持った方が活躍
▲オングリットホールディングス株式会社では、自ら学ぶアグレッシブさと向上心を持った方が活躍している
編集部
森川さんから見て、成長を感じられる若手社員の方がいらっしゃればぜひ、紹介いただきたいです。
森川さん
20代の若手で成長著しいのが、前職でインフラの維持管理分野を担う建設コンサルティングで働いていた入社2年目の者です。
ITを活用した業務にチャレンジしたいという向上心からオングリットに入社した経緯があり、入社当初は現場の点検業務を学んでもらいました。チームリーダーとして活躍後は、本人が希望するIT関連の部署に移動しました。
もともとIT分野に興味を持っていたということもありますが、自ら進んで当社で使用するPython(パイソン)というプログラミング言語を勉強したり、現場で必要な資格も独学で学んで資格取得を目指すなど、向上心の高さには私自身も学ぶものがあります。
編集部
なるほど。希望するポジションに就くために努力をされているんですね。そのような方に対し、オングリットホールディングスさんではキャリア育成に関するサポートなどはされているのでしょうか。
森川さん
キャリア育成のサポートの一環として、外部から土木の講師を招き、勉強会を開催しています。土木もITも日進月歩の世界なので、基礎的な知識を身につけるだけでなく、最新の技術を学ぶことが重要です。
目指すキャリアを身につけることで、新しいポジションにチャレンジする機会が生まれます。また、専門的な知識がない方でも勉強会などに積極的に参加することで、知識を身につけることが可能です。
▲外部から講師を招き、就業時間内で勉強会を実施。社員のキャリア育成にも尽力している
助け合いながら成長し、失敗を恐れず挑戦を楽しめる方を歓迎
編集部
チームワーク抜群のオングリットホールディングスさんですが、採用をするにあたり、求める人物像について教えていただけますか?
森川さん
これまでお話しした通り、当社には土木・建設業界未経験者がほとんどです。未経験者はもちろん、経験者や専門的なスキルを持った方も歓迎します。スキル以上に求めるのは、“助け合いながら成長する、失敗を恐れず挑戦を楽しむ、諦めずにやり遂げる”というオングリットホールディングスのバリュー(価値観)に共感できることです。
道路や橋梁などの社会インフラは、地域社会を支えるとても大切な構造物です。それらの安全を守る点検業務は、安心・安全な暮らしに貢献する、とても尊い仕事と言えます。
ロボットやAIなどのITテクノロジーは、ヒューマンエラーの軽減や作業効率アップ、人手不足を解消することで、建設・土木をより良い業界へと変えていくことができます。
社会、そして業界の両方に貢献できる当社に少しでも興味を持ってくださった方はぜひ、気軽に見学にいらしてくださいね。社員一同、お待ちしております。
編集部
土木・建設業界が抱える課題に、テクノロジーと社員の個性を活かしたマンパワーで向き合うオングリットフォールディングさんの真摯な姿勢を、今回のインタビューで存分に感じることができました。
本日は貴重なお話をありがとうございました。
■取材協力
オングリットホールディングス株式会社:https://www.on-grit.com/
採用ページ:https://recruit.on-grit.com/