領域を問わず、社会的に大きな意義を持つ事業を展開している企業・法人にお話を伺う本企画。今回は、保育・教育分野での子育て支援を中心に、就労支援や農業など多岐にわたる分野で新しい挑戦を続ける社会福祉法人どろんこ会の本部スタッフにインタビューをさせていただきました。
社会福祉法人どろんこ会:保育革新への挑戦
どろんこ会グループは、安永愛香理事長・高堀雄一郎代表が日本の保育・教育のあり方に疑問を持ち、1998年に保育園を開設したことから始まりました。約25年間、社会に大きな影響を与えながら成長を続け、現在では全国約170施設、2,300人を超える規模になっています(2024年4月現在)。
グループの理念の根幹には、子どもたちに一つでも多くの「ホンモノの経験」をしてほしい、「にんげん力」を育みたいという想いがあります。この理念は運営するすべての施設に浸透しています。また、グループ全体として農業や旅行事業など、新しい分野へのチャレンジを常に続けているのが特徴です。
法人名 | 社会福祉法人 どろんこ会(どろんこ会グループ) |
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住所 | 東京都渋谷区渋谷1-2-5 MFPR渋谷ビル 13F |
事業内容 | ・認定こども園・認可保育園・学童保育などの運営 ・児童発達支援センター・事業所の運営 ・就労継続支援施設の運営 ・米・野菜の生産・販売 ・保育事業コンサルティング ・学び事業 |
設立 | 2007年3月(社会福祉法人の設立年) |
公式ページ | https://www.doronko.jp/ |
このインタビューでは、社会福祉法人どろんこ会で活躍している本部スタッフ3名にお話を伺いました。東京都東大和市に新しくオープンした施設を中心に、グループの理念や、SDGsやESD(※)に関連した保育の取り組み、組織としての強みなどについてお聞きしました。
(※)ESDとは、Education for Sustainable Development(持続可能な開発のための教育)の略称で、SDGsと密接に関連し、国際的にも注目されている教育アプローチです。
キーワードは「インクルーシブ保育」。東大和に誕生した施設とは
▲「子ども発達支援センターつむぎ 東大和×東大和どろんこ保育園」の外観
編集部
最初に、どろんこ会さんの理念についてお教えいただければと思います。
村岡さん
私たちが大事にしている理念、基本姿勢を一言で表現すると「インクルーシブ保育」という言葉に集約されます。インクルーシブとは「包摂的な」という意味ですが、私たちは「混ざり合う」「自己選択・自己決定」という想いも込めています。
編集部
主事業である保育・教育の分野では、その想いをどのように実践されているのでしょうか。具体例をお聞かせください。
村岡さん
2024年4月に東京都東大和市にオープンした「子ども発達支援センターつむぎ 東大和×東大和どろんこ保育園」が、まさに当会の理念を体現した施設です。
この施設は、認可保育園と児童発達支援センターを一つ屋根の下にした、東京都初のフルインクルーシブ施設です。児童発達支援センターは障害のあるお子さんのための施設で、発達支援やご家族の相談対応、地域の小規模事業所への助言など、地域の中核的な発達支援施設としての役割を担っています。
従来、保育園と児童発達支援センターは別々の制度下で運営されており、建物も支援も分かれていました。しかし、私たちはこの壁を物理的にも心理的にも取り払い、障害の有無に関係なく全ての子どもが同じ場所で共に保育を受けられる環境を実現しました。これは国への働きかけの成果でもあり、社会を変える大きな一歩だと考えています。
▲異なる年齢の子どもたちが、障害の有無にかかわらず、また年齢の違いも越えて自由に行き来できる施設となっている
村岡さん
「壁がない」というのは、施設内で保育園と児童発達支援センターの部屋や活動を分けていないということです。利用者は自由に行き来できます。
年齢がバラバラの子たちが、障害の有無も関係なく、自分で選択した場所で過ごすことができる。これが当会の考える「インクルーシブ」です。そして、国の保育所保育指針と児童発達支援ガイドラインに基づき、年齢や障害の有無にかかわらず全ての子どもに「生きる力」を育む保育を提供しています。
編集部
今のお話は、SDGsの目標の一つ「質の高い教育をみんなに」というメッセージとも重なりますね。SDGsが国連で採択されるずっと前から、課題解決のために活動を続けていることがよくわかりました。
子どもの主体性を育む:本格的な農業体験の意義
▲どろんこ会が実施している活動の様子を抜粋。人格形成に非常に大切な乳幼児期にこそ本物の体験ができるよう、農業や食育にも力を入れているのが特徴
編集部
「子ども発達支援センターつむぎ 東大和×東大和どろんこ保育園」の特徴について、もう少し詳しく伺いたいです。
村岡さん
東大和の特徴は、なんといっても保育園と児童発達支援センターが完全併設されていることです。閑静な住宅地にありながら、子どもたちがのびのびと過ごせる2階建ての広々とした施設なんです。
私たちは「大きな家」と呼んでいますが、広い空間を大人も子どもも裸足で元気に走り回っています。実際にご覧になっていただけると、雰囲気の良さがすぐにおわかりいただけると思います。
また、広いのは園舎だけでなく、園庭も同様です。間もなく系列園からヤギや鶏が引っ越してくる予定です。田んぼや畑も作り、さまざまな体験ができるようスタッフが園庭づくりを進めているところです。
編集部
どろんこ会グループでは、創設当初から子どもたちを新潟県南魚沼市に連れていき、田植え・稲刈り体験ツアーを実施しているほか、同地域に株式会社南魚沼生産組合を立ち上げ、減農薬でコシヒカリを栽培し、ライスセンターも運営して給食米を自給自足していますね。さらに、関東圏での減農薬・無農薬野菜の栽培にも取り組まれているとお聞きしました。「食」の大切さも意識的に伝えておられるのですね。
村岡さん
おっしゃる通りです。特に強調したいのが、私たちの農業体験は形だけのものではないということです。
例えば「ジャガイモを収穫してみよう」というプログラムで、ただ畑に行って掘り出して終わりというものを用意している施設もあると思います。しかし、人格形成にとって非常に大切な乳幼児期に、そこだけ切り取って体験させるのは、果たして本当に子どもたちの「にんげん力」を育むことにつながるのでしょうか。この根本的な部分を追求していくのが、どろんこ会ならではだと感じています。
具体的には、私たちは農業の取り組みを「畑仕事」と呼んでいますが、その活動では子どもたちが中心となって日々土を耕し、水やりを欠かさず、作物の成長を見守ります。収穫した後は、感謝をして美味しくいただくところまでを体験します。ここまでやるのが本当の農業だと考えており、このような経験が子どもたちの将来につながると信じています。
バリアフリーの保育環境:施設の垣根を越えた新しい保育の形
▲保育園の日常風景。異年齢保育では、年上の子どもが年下の子どもを自然と手助けする場面も多く見られる
編集部
東大和の施設について伺い、非常にユニークで意義深い取り組みだということがよくわかりました。どろんこ会さんがこのような取り組みを始められた経緯についてもお話しいただけますか。
曾さん
我々は「インクルーシブ保育のパイオニア」として、2015年から関東圏を中心に保育園・児童発達支援センター、児童発達支援事業所の併設施設を展開してきました。2024年5月時点で、合計17施設となっています。
現在、障害のある未就学児は、保育園や幼稚園とは別の場所で発達支援を受けることが多く、育つ場が分離されている状態が主流です。小学校以降も、特別支援学校や支援学級で学び、放課後は放課後等デイサービスに通うなど、分離された状態が続きます。
このような状況の中、2022年9月に国連の障害者権利委員会が日本に対して改善勧告を出しました。これは、障害者権利条約の取り組みが不十分だという指摘で、特別支援教育という区分を中止し、障害の有無にかかわらず共に学ぶことを求める内容でした。
私たちどろんこ会は、この国際的な指摘を受ける以前から、厚生労働省や内閣府などに提言を続け、施設の設計や運営面でも工夫を重ねながら、状況を変えようと努力してきました。「インクルーシブ保育」に関する経験と実績があるからこそ、さらにモデルケースとなる施設を展開し、先頭に立って日本の保育を変えていきたいと考えています。
編集部
世界基準の目標を掲げて、国内の現場から保育を変えていこうとされているのですね。施設の利用者の方々からは、どのような反応がありましたか?
村岡さん
ありがたいことに、多くのポジティブな声をいただいています。私は東大和の施設の立ち上げに関わり、利用者の方々とお話しする機会が多いのですが、子どもよりも大人の変化が大きかったと実感しています。
東大和は公立施設の民営化でもあり、もともと児童発達支援センター単独の施設でした。そのため、既存の利用者の方々にとっては、保育園の子どもたちと日常的に交流しながら生活するというのは初めての経験で、イメージがつかみにくかったようです。当初は「本当に大丈夫なのか」と心配される保護者の方も多くいました。
しかし、私たちは利用者の方々と丁寧な対話を続け、無事に開園を迎えることができました。そして、保育園の子どもたちと児童発達支援センターの子どもたちが一緒になって楽しく過ごす光景を目にして、多くの保護者の方々が感動されていました。
今後も子どもたちは助け合い、ぶつかり合い、教え合いながら、さまざまな力を身につけていくでしょう。このようなインクルーシブ保育の現場で見られる子どもたちの成長を、他の事業者や自治体とも共有することで、日本の子育てを変える大きな流れを作っていきたいと考えています。
SDGsへの貢献:どろんこ会の「クラフトサポート」が実現する循環型社会
▲園の日課である雑巾がけで使う雑巾は、「クラフトサポート」の活動で作られたものも多い
編集部
先ほどSDGsについての話が出ましたが、「質の高い教育をみんなに」広めること以外にも、どろんこ会さんが取り組んでいることはありますか。
大塚さん
はい、私たちは障害者雇用の一環として「クラフトサポート」という取り組みをしています。これはSDGsの考え方と合致すると考えています。
クラフトサポートは、運営施設で使用する雑巾や足ふきマット、お手製のおもちゃなどの布製品を、グループで採用した障害者の方々が製作する活動です。作業は在宅で実施でき、住んでいる場所に関係なく働くことができるのが特徴です。
▲クラフトサポートで作成された可愛い品々。大人も障害の有無にかかわらず「子どものために」働いている
大塚さん
どろんこ会の保育に対する考え方や、クラフトサポートの取り組みに共感いただいた企業様との協力も実現しています。
例えば、ホテルや旅館で不要になったタオルやシーツをご提供いただき、各施設の子どもたちが日々使う雑巾や足ふきマットに作り変えています。これらは非常に厳しい検品を通過した、まだ十分使えるきれいな布ばかりです。それらをリサイクルすることで、業界を越えて環境への負荷軽減につなげています。
また、保育園の玄関には「勝手かご」という大きなかごを設置しています。これは、サイズが合わなくなった子ども服を入れ、サイズの合うものを持ち帰れるという、保育園利用者も地域の方も誰でも気軽に利用できる小規模なフリーマーケットのような仕組みです。
モノを簡単に捨てずに循環させることができているのも、どろんこ会の特徴といえますね。
多様性が生み出す革新:どろんこ会の組織力の源泉
編集部
続いて、さまざまな社会貢献を続け成長されてきたどろんこ会さんの組織としての特徴をお聞かせください。
大塚さん
私が所属している本部の職員を見ていて思うのは、「多様性のある組織」ということですね。保育業界の経験者はもちろん多いのですが、他分野から参画したメンバーも多いです。例えば、私は以前アパレル業界にいましたし、村岡は旅行業界で活躍していました。
保育業界の常識や前例にとらわれず、各メンバーが自分の経験を活かして新しいことに挑戦していけば、どろんこ会はさらに成長できると考えています。そのため、いろいろな業界の方を積極的に採用しています。
ただ、経験やスキルは違えど最終的に目指しているところは同じです。「子育てから世界は変わる」という想いに共感しているメンバーが集まっているので、さまざまなアイデアを形にしながらもその方向性は一致していて、大きなパワーを生み出しています。それが私たちの強みだと感じています。
編集部
ちなみに、大塚さんは他業界の経験が現在の仕事で活かせたという経験はありましたか?
大塚さん
アパレルの仕事が直接いまの仕事に繋がったということはないのですが、「疑問を持てた」ことは大きいと思います。
保育園の運営について知識がなかったからこそ気づくことはありますし、「なぜこういう仕組みなんですか?」と素直に聞くことができます。それが改善のきっかけとなったり、新しい事業に繋がったりするんです。
村岡さん
私の場合、入社してすぐに新規事業の立ち上げに携わりました。代表の高堀が「保育はいろいろなジャンルと組み合わせることができる」とよく言っていることもあって、旅行業界の経験を活かし「子どもの育ちと学びを刺激する体験型の旅行」をスタートさせました。
これまでも我々は、新潟県南魚沼市への田植え稲刈り体験ツアーを通して、大自然の中での遊びや労働から食の大切さを学べる経験を提供してきました。今後は日本にある数多くの地域資源とどろんこ会が有する全国約170の施設をつなぎ、新たな企画を打ち出していきます。
どろんこ会は組織としての決断もスピーディーですし、戦略などの提案をしても「実績がないから無理」ということはなく、入職して間もない私に大きな裁量を与えてくれました。本当に働きがいのある環境だと実感しています。
▲どろんこ会は新潟県南魚沼市に株式会社南魚沼生産組合を設立。子どもが田んぼを体験できる仕組みを整えているほか、地域の農業維持にも貢献している
曾さん
2019年に新卒で入社した私から見ても、いろんな人材がいるからこそ、個々の強みを活かしてフットワーク良く新しい取り組みをどんどん実施できているのが「どろんこ会」なのだなと改めて感じます。
保育を中心とした事業展開は変わらないのですが、乳幼児だけを対象としているわけではありません。2022年には、新たに就労継続支援事業に取り組み始め、事業所内でカフェの運営を開始しました。また、関東圏で無農薬による野菜作りも始めました。
0歳から生涯にわたる全ての期間において、全ての人がよりよく生きられる社会を目指し、チャレンジを続けています。
現場主義の徹底:保育園研修から始まる組織の一体感醸成
▲大塚さんが稲刈りを体験している様子。OJT研修など「現場を知る」ことを重視している
編集部
新しくどろんこ会さんに入職した後は、どのような学びの機会があるのでしょうか?
大塚さん
様々な制度がありますが、特徴的なのはOJT研修です。どの部署に配属されても、必ず5日間保育園で研修を受けることになっています。保育経験がほとんどないメンバーでも、朝から夕方まで保育士の先生たちの指導のもと、子どもたちと生活を共にします。
これにより、理念が現場でどのように実践されているかを直接見ることができ、また職員とのコミュニケーションを取る機会にもなります。どろんこ会は本部と現場の距離が非常に近く、本部スタッフも「現場感覚」を持ち続けることが組織の強みだと考えています。そのため、この研修は最初の重要なステップとして位置づけています。
編集部
多岐にわたる事業を展開されているからこそ、部署間、メンバー間で理解し合うことが大事になってくるのですね。
大塚さん
その通りです。本部だけでも13の部署があり、各施設を含めると非常に多くの部門があります。しかし、メンバー間の交流は非常に活発です。
私は新卒採用を担当していますが、「就職セミナーのノベルティのデザインを広報部の曾さんに相談しよう」「保育園に行く前にどんな様子か運営部の村岡さんに聞こう」など、気軽に他部署の方々に声をかけています。部署や施設など、グループ内での垣根がないのが自慢したいところです。
曾さん
また、2024年度から私の発案でランチ懇親会を始めています。各部署から最低1人は参加するルールで、他のチームの状況を聞ける機会になっています。理事長や代表も参加し、気軽に話せる場となっています。
この懇親会は、他部署の人との相談のハードルを下げる効果もあります。今後もさらに交流の機会を増やしていきたいと考えています。
さらに強調したいのは、どろんこ会は年齢も経歴も国籍も関係なく、自由に意見していける組織だということです。私は海外出身の新卒でしたが、入職後すぐに「Web社内報の立ち上げ」という重要な任務を任されました。
2024年からはグループ全体のSNS運用も担当しており、自分の意見を出すだけでなく、現場スタッフの声も反映させながら、保育業界や社会全体の改善につながる情報発信を目指しています。
どろんこ会が求める人材:「子育てから世界を変える」熱意ある仲間
編集部
最後に、この記事を読んでどろんこ会さんに興味を持った方に向けてメッセージをお願いいたします。
村岡さん
入社して1年余り経ちましたが、強く実感しているのは「子育てから世界を変えたい」「子どもの『にんげん力』を育みたい」という理念が、外部からも内部からも一貫しているということです。
この理念に共感いただける方は、ぜひご自身の経験を活かして、私たちと共に保育・教育分野やさまざまな業界の発展に貢献していきましょう!
曾さん
どろんこ会は、社会を変革したいという強い思いを持っています。「世の中のさまざまな課題を解決したい」という方は、ぜひ一度ご連絡ください。
先ほど申し上げたように、個人の経歴に関係なく、アイデアを尊重して仕事ができる環境がありますので、安心してご応募ください!
大塚さん
保育士の採用に携わることが多いのですが、そこでお伝えしていることをここでもお話しします。
どろんこ会では、本部、保育園、発達支援、就労支援を問わず、個人の希望や得意分野を活かせる環境が整っています。自身の経験や能力を基に、「現在の自分にできることは何か」「目標達成に必要なことは何か」を考えられる方なら、必ず活躍できるはずです。ぜひ、共に働きましょう!
編集部
本日は、異なる部署で活躍し、新卒と中途で入職経緯も異なるお三方からお話を伺うことができました。社会に大きな影響を与えるビジョンや、個性を活かして常に挑戦できる働き方など、どろんこ会さんの魅力がよく理解できました。ありがとうございました!
■取材協力
社会福祉法人どろんこ会(グループ公式サイト):https://www.doronko.jp/
採用ページ:https://recruit.doronko.jp/