野菜の自動収穫ロボットを開発したAGRIST株式会社で熱く働くエンジニアの想いとは

新しい分野に挑戦する企業の先進的な取り組みや事業、成長を支えるエンジニアの活躍を紹介するこの企画。

今回は、テクノロジーで農業課題を解決するベンチャー企業「AGRIST株式会社」を取材しました。

テクノロジーで農業課題を解決する農業界の救世主「AGRIST株式会社」

AGRIST株式会社のピーマン自動収穫ロボット「L」

AGRIST株式会社は、ロボット技術・AIなどのテクノロジーで、農業が抱えるさまざまな課題を解決するベンチャー企業です。

農業従事者の高齢化や次代の担い手不足などの課題に対し、自動収穫ロボットやセンシング技術で解決へと導く事業を展開しています。

宮崎県新富町に本社を構える同社は、全国に販路を拡大し、地方から世界の農業課題を解決するグローバルベンチャーへと成長を遂げようとしています。

会社名 AGRIST株式会社
住所 宮崎県児湯郡新富町富田東1丁目47番地1
事業内容 農業ロボット開発事業・AI開発事業・ソフトウェア開発事業
設立 2019年10月
公式ページ https://agrist.com/
働き方 ハイブリッド勤務(出社+リモートワーク)

その目標を支えているのが、AGRISTのエンジニアです。ハードとソフトの両面から農業に必要なテクノロジーを生み出す同社には、どのようなスキルやマインドを持った方が活躍されているのでしょう。代表取締役兼CTOの、秦裕貴さんにお話を伺いました。

本日お話を伺った方
AGRIST株式会社の代表取締役兼CTO秦裕貴さん

AGRIST株式会社
代表取締役兼CTO

秦 裕貴さん

持続可能な未来の農業を実現する、アグリテックベンチャー

AGRIST株式会社のビジョン
▲AGRIST株式会社は、"100年先も続く持続可能な農業を実現する”というビジョンを掲げている。(公式サイトから引用)

編集部

はじめに、AGRISTさんの業務内容についてお聞かせください。

秦さん

"100年先も続く持続可能な農業を実現する”をビジョンに掲げる当社は、テクノロジーで日本の農業が抱えるさまざまな課題をスマート農業(※1)やアグリテック(※2)で解決するベンチャー企業です。具体的には、野菜自動収穫ロボットやソフトウエアの開発により、テクノロジーを活用した次世代農業を実現することを目指しています。
(※1)スマート農業:ロボット、AI、IoT等の先端技術を活用したスマート農業技術の研究開発、社会実装に向けた取り組み
(※2)アグリテック:農業(Agriculture)と技術(Technology)を組み合わせて作られた造語。ドローンやAI、IoT、ビッグデータなど、農業領域でICT技術を活用し、農業を活性化しようという取り組み

AGRIST株式会社のオフィス

編集部

AGRISTさんは宮崎県新富町の「新富アグリバレー」(※)にオフィスを構えていらっしゃいますが、創業のきっかけについて教えてください。
(※)新富アグリバレー:一般財団法人こゆ地域づくり推進機構による、新富町を農業スタートアップの集積地にするというプロジェクトの一環で立ち上げられたコワーキングスペース。

秦さん

AGRISTの創業は、一般財団法人こゆ地域づくり推進機構が、宮崎県新富町をアグリテックで盛り上げるために立ち上げたプロジェクト「新富アグリバレー」を開始したことに起因します。

農業分野で新しい事業を始めるには、生産者の理解が必要ですが、1年に1回しか収穫できないため慎重な方が多い分野ということもあり、参入にはさまざまな課題があります。しかし、こゆ地域づくり推進機構が、我々が創業する前から生産者の方や行政、周辺のプレーヤーをつなぐ役割を担ってくれたおかげで、スムーズに参入することができました。

データに基づくテクノロジーソリューションで、再現性の高い農業を実現

AGRIST株式会社のキュウリ収穫ロボット

編集部

日本の農業はどのような問題を抱え、AGRISTさんの技術はその解決のためにいかにして役立てられているのでしょうか。

秦さん

現在、日本の農業は高齢化が進み、農業従事者の平均年齢は68歳と言われています。高齢による離農や後継者・担い手不足から、2030年には農業従事者が半減されると予想されています。

農業は人が生きる上で欠かせない、食べ物を作る仕事です。農業が衰退することはかなり危機的な状況であり、それは日本国内だけではなくて、世界的にも食料問題や供給問題を招く恐れがあります。

これらの課題に対し、当社は自動収穫ロボットなどのハードウェアだけではなく、ロボットから収集した農場ビッグデータをAIで解析し、収穫量の予測、センシング技術を活用した農業IoTなどのソフトウェアを活用することで、再現可能で生産性の高い農業の実現を目指しています。

AGRIST株式会社が自治体と提携した手掛けた鹿児島県東串良町のSustagramFarm

編集部

農業の衰退は日本国内のみならず、世界的にも大きな課題となっているとのことですが、その要因はどこにあるとお考えですか?

秦さん

農業は儲かりにくいというイメージが強いことが農業衰退の要因の一つだと考えています。

これらが影響して、後継者や業界全体の人手不足を招いており、ひいては生産性を向上するための技術開発や健全な競争が起こりにくい状況が作られているのではないでしょうか。

AGRISTはテクノロジーを活用した高効率な農業を実現することで農業のイメージを変えていくことにも貢献したいと考えています。

ピーマン収穫に革命を起こす自動収穫ロボット「L」

AGRIST株式会社のピーマン収穫ロボット「L」
▲ピーマン収穫ロボット「L」による作業風景。多様な条件下でも安定した収穫が可能。

編集部

AGRISTさんでは自動収穫ロボットやソフトウェアの開発の両面から農業の課題解決に取り組まれているとのことですが、どのような商品・サービスを提供されているのでしょう。

秦さん

ロボットではピーマンやキュウリを対象とした野菜収穫ロボットを開発、販売しています。

ロボットと聞くと、タイヤで地面を移動するイメージを持つ方が多いと思われますが、ピーマン自動収穫ロボット「L」はワイヤー吊り下げ式でビニールハウス内を移動し、内蔵カメラとAIでピーマンの位置や大きさを把握、ベルト巻き取り式のハンドで収穫することができます。

吊り下げ式にすることで、ぬかるんだり枝葉が落ちた圃場でも、安定走行が可能です。

また、ピーマンやキュウリは、生育状況にバラツキがあるため、収穫できる果実とそうでないものが混在します。ロボットに搭載された内蔵カメラとAIが成熟度を判別し、確実に収穫できるのが特徴です。

編集部

圃場の環境に左右されることなく、成熟した作物を確実に収穫できることは、農業が抱える人手不足の解消にもつながりますね。

スマート農業における環境データとAIの役割

AGRIST株式会社の農場での定植作業風景

編集部

ソフトウェアの技術やサービスについてもお聞かせいただけますでしょうか。

秦さん

作物の生育には温度、湿度、日射量、CO2濃度の管理が大きく関係します。

これらを計測するセンサーは既に商品化されていますが、ハウス内は場所によって環境が異なるため、1箇所の測定では正しいデータを取ることは困難です。また、エリアごとに複数のセンサーを設置するには費用がかさみます。

これに対し、当社で開発したピーマン自動収穫ロボット「L」は、ハウス内を移動しながらエリアごとのメッシュデータを収集することが将来的に可能です。

加えて、作物の背丈、芽や花、実の数など、センサーで直接計測できない情報を搭載カメラが撮影、データ化し、AIを活用したアプローチで解析をすることができます。

例えば、広い圃場の場合、限られた人数で作物の状況を全て把握するのは難しく、病害虫の発見が遅れると甚大な被害をもたらします。自動収穫ロボットが見回り作業をすることで、少ない人数でも広い圃場をカバーすることができます。

編集部

生育条件が異なる作物に対しても、AIなどのテクノロジーや集積したデータによって、再現性を高めることができるのですね。

アグリテックを活用した自社農場で、未来の農業を確立

AGRIST株式会社の試験圃場である「AIロボット農場」
▲AGRISTが自社で運営する「AIロボット農場」

編集部

AGRISTさんの技術は、どのような農業現場で活用されているのでしょう。また、課題に感じられていることはありますか?

秦さん

実証実験を含め、農業法人様や大規模経営をされている農家様、自治体などに導入いただいております。導入の背景には農業従事者の高齢化や担い手不足に危機感を抱き、スマート農業の必要性を強く感じられていることが挙げられます。

しかしながら、手作業や農業従事者の感覚によって長年営まれてきた農業分野に、導入費用がかかるロボットやAI技術が参入するにはまだハードルが高いというのが実情です。

そこで当社では、もう1つの事業として、自社農場を運営しています。アグリテックを開発している我々が、自らロボットやソフトウェアシステムを活用した農業を自分たちで実践し、体現することでスマート農業モデルを確立し、事業展開を図る方針です。

AGRIST株式会社の「AIロボット農場」の前に立つ農場管理者2名

編集部

AGRISTさんがモデルケースを作り、アグリテックによる農業の課題解決を示すことで、スマート農業の普及につなげることができるのですね。今後の展望についてもお聞かせいただけますでしょうか。

秦さん

2019年の設立から4年目を迎え(取材は2023年10月)、ようやく収穫ロボットが形になってきました。また、自社農場の成績も良く、こちらにおいても拡大を計画中です。昨今は異業種から農業分野に参入する企業も増えており、スマート農業の導入が期待されます。

当社は、ロボットと栽培管理技術、農場をパッケージ化し、主に農業参入を検討中の企業に対して、ロボットテクノロジーを活用した再現性の高い農業パッケージを提案していきたいと考えております。

そこでボトルネックになるのが、栽培技術の習得と天候などに左右されることが多い農業の不確実性です。この点をロボットとソフトウェアシステムで排除し、リスクヘッジができれば、参入いただける可能性が高まると思っています。

農業に関心がある、幅広いスキルを持ったエンジニアが活躍

AGRIST株式会社のエンジニアのキュウリ収穫ロボット開発風景

編集部

自社でアグリテックを開発されるAGRISTさんでは、現在、エンジニアは何名在籍されているのでしょう。ポジションも含め、お聞かせください。

秦さん

23名のスタッフのうち、エンジニアとしては12名が在籍しています。

ポジションとしてはロボット開発のハード部分を担うもの、制御システムや動きを作るソフトウェアシステムを担うもの、また、AIを開発するもの、集積したデータをクラウド上で解析したり、可視化する仕組みを作るクラウドエンジニアというような作業分担になっています。

編集部

AGRISTさんのエンジニアは、どのような方が活躍されているのでしょう。

AGRIST株式会社の大澤さん
▲営業セールス部で広報を担当されている大澤さん。エンジニアの仕事ぶりにいつも感銘を受けているそうです。

同席の大澤さん

プロダクトに対して熱い思いを持つメンバーが活躍しています。当社ではChatGPTを農業版にアレンジしLINEを使ったチャットボット形式でスマート農業を無料体験できるサービスを提供しているのですが、そこからもわかるように常に新しいプロダクトにチャレンジし続ける姿勢がありますね。

それはロボットの開発においても同様です。農家の課題を直接聞いて「課題を解決していく」と強く決意したメンバーもたくさんいますし、私から見てもすごく情熱が感じられます。

秦さん

エンジニアという仕事柄、集中して作業することが多く、オフィスが静かなときもありますが、そこと議論する場を分けているので、会議の場では活発に意見が交わされています。また、当社は農業自体にも興味があるエンジニアが多く、現場が好きな者が多いように思われます。

アイデアから実現までの挑戦と創造的エンジニアリングができる、AGRISTの開発環境

AGRIST株式会社のエンジニアの開発風景

編集部

エンジニアの勤務形態はどのようになっていますか?

秦さん

ハードウェアを作っていて、現場に出向くこともあるため、基本的には出社するスタイルで仕事をしている人がほとんどです。とはいえ、完全出社をマストにしていることはなく、ぞれぞれの業務内容やワークスタイルに合わせて働き方をフレキシブルに選択することが可能です。

現在、当社は宮崎県新富町と茨城県つくば市に拠点があり、勤務地は業務内容によって異なります。

ソフトウェア開発においては、リモートワークでも成立すると考えており、こちらにおいても柔軟に対応しています。

編集部

フレキシビリティーが高い環境とお見受けしますが、AGRISTさんの社内の雰囲気についてもお聞かせいただけますでしょうか。

秦さん

エンジニアの中でもロボットを作りたい方にとっては非常に楽しい環境だと思います。農業用ロボットはテクノロジーとしては発展途上にあり、まだ誰も正解にたどり着いていない分野です。アイデアを出しながら開発に取り組む当社は、時に意見がぶつかることもありますが、活気に溢れています。

工作室には一通りの加工機械を揃えており、試作ロボットを農場で実験し、課題が見つかったらすぐに持ち帰って加工、実証実験を繰り返すことができます。この改良のサイクルが早いことが当社の特徴です。

手法としてはロボットコンテストの感覚に近く、ゼロイチでどんどんアイデアを出し、実践しています。製品化にはメーカー出身のエンジニアから意見を募り、両方を同時並行的に行っています。

編集部

AGRISTさんのエンジニアが、自分の仕事へのこだわりと、社会や農業界のために役立ちたいという熱い思いを持って開発にあたられていることが良くわかりました。

ゼロイチからアイデアを生み出す若手から、メーカー勤務経験のあるベテランがジョイン

AGRIST株式会社の圃場でのようす
▲農家の方々から実際の意見を聞き、プロダクトに取り入れることも多い。

編集部

AGRISTさんの採用ページを拝見すると、高専時代から注目されてきた若手エンジニアからベテランエンジニアまで、さまざまな年代の方がジョインされている印象です。採用ポリシーについてお聞かせください。

秦さん

幅広いスキルと経験を持ったエンジニアを採用しています。

ロボットコンテストなどの出場経験があり、ゼロイチからアイデアを生み出すことが得意な若手エンジニアから、メーカーで1つのプロダクトを企画から量産、デリバリー、セールスまで担った経験を持つベテランエンジニアなど多岐に渡ります。

エンジニアのほとんどは農業経験はなく、農業分野も未経験ですが、当社が本社を置く宮崎県新富町は、農業が盛んな町で、身近に農地があります。このような環境は生産者の声が届きやすく、農業現場が抱える課題を肌で感じることができます。

生産者のリアルな声を聞き、テクノロジーで解決することに魅力を感じ、ジョインするエンジニアが多いように感じます。

編集部

AGRISTさんのエンジニアと生産者がコミュニケーションを図り、開発に生かされることはありますか?

秦さん

自社農場で自動収穫ロボットの実証実験をしている時など、近隣の農家さんがふらっと来られるので、自然にコミュニケーションが生まれます。

作物は季節や天候によって生育状況が異なるため、経験豊富な農家さんの声は開発をする上でとても役に立っています。話を伺うと、農家さんは本当にさまざまな工夫をされています。現場の生産者に日常的にお話を伺える環境は、当社の強みでもあると感じます。

コアバリューは“YES,We Can”。自由な発想とテクノロジーで農業を変える

AGRIST株式会社のメンバーが展示会に出展したときのようす

編集部

若手からベテランまで、幅広いスキルを持ったエンジニアが活躍されているAGRISTさんが、開発の場で大切にされていることがあればお聞かせください。

秦さん

コアバリューに“YES,We Can”を掲げる当社では、「できるか?できないか?」ではなく、「やるか!やらないか!」で、世界を変えることを大切にしています。

農業系のロボットの中でも、ピーマンやキュウリの事例はほとんどなく、いわば発明に近い領域です。そのため、エンジニアは培ったスキルを活かしながらも自身のバックグラウンドに過度にとらわれず、意見やアイデア、独自の視点などをフラットに出せるようにしています。

会議においても、エンジニアチームが全員集まって行うことも多く、ブレーンストーミングを大切にしています。

農業に興味関心を持ち、日本の新しい農業の発展を目指す方を歓迎

AGRIST株式会社の代表取締役兼CTO秦裕貴さん

編集部

日本の農業が抱えるさまざまな課題をテクノロジーで解決へと導くAGRISTさんの事業内容や、フレキシブルな働き方などに興味を持った読者は多いと思われます。最後に、採用において求める人物像や、転職を検討している読者に向け、メッセージをお願いします。

秦さん

当社では現在、ロボット系のソフトウェアエンジニアとクラウドソフト系のエンジニアの他、事業開発部門、自社農場のスタッフを募集しております。

全ての職種に共通するのは、農業に興味関心を持ち、農業の課題、食料供給に関する課題を何とかしたいという強い思いです。農業に関するバックグラウンドの経験は問わないですし、むしろこれまで農業になかった視点からアイデアを出していただける方を歓迎します。

農業を事業にするには、分野を問わない豊富な知識やさまざまな工夫が必要であり、総合格闘技的な要素があると思っています。広く考えると流通や金融の領域などにも関わるポイントはたくさんあるので、それらを掛け合わせたビジネスに興味を持つ人も含め、ぜひ共に日本の農業の発展を目指していきましょう。

編集部

AGRISTさんのテクノロジーは、農業従事者の高齢化や後継者不足など、さまざまな課題を抱える農業の救世主になると感じました。農業に革命を起こす御社の技術に携われることは、エンジニアにとって非常に魅力的であり、興味を持った読者も多いと思われます。

本日はありがとうございました。

■取材協力
AGRIST株式会社:https://agrist.com/
採用ページ:https://agrist.com/recruit