SDGsの達成に向けた取り組みを大切にし、若手が活躍できる職場づくりを進めている企業や自治体にインタビューする本企画。今回は、長野県伊那市にお話を伺いました。
新産業技術の導入やSDGsの推進で注目される長野県伊那市
▲伊那市の西箕輪から望む南アルプス
長野県の南部に位置し、南アルプスと中央アルプスの2つの山脈に囲まれ、その間に天竜川が流れる伊那市。伊那市役所では新産業技術の導入やSDGsの推進などの事業を行なっており、社会情勢の変化に柔軟に対応した新しい取り組みが注目されています。
自治体名 | 長野県伊那市 |
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住所(本庁舎) | 長野県伊那市下新田3050番地 |
公式ページ | https://www.inacity.jp/ |
今回は、企画部企画政策課の織井さんと総務部総務課の北原さんにお話を聞かせていただきました。
若手職員が活躍しやすいアイデア促進とコミュニケーション
編集部
最初に、若手職員に関してお伺いします。伊那市役所さんでは若手が能力を発揮できる職場づくりは何かなさっていますか。
織井さん
伊那市では、市民の課題解決に寄与すべく、若手職員に限らず、広く庁内横断的にアイデアを募集しております。市長がいつも「対話と現場主義」と言っているのですが、まず政策を実施するにあたり、対話の中で若手も含め職員にアイデアを出してもらいながら、予算の策定をしていきます。その際は、まずは現場で働いている職員の意見を反映させることを積極的に行なっております。
特に、新産業技術事業など大きな予算を必要とする事業は国の交付金を活用していますが、若い担当者が国への交付金申請書類なども含めて、策定をして進めております。
このように、若手職員の意見は受け入れやすいですし、大きな事業にも携われる職場だと思います。
編集部
市役所全体として、トップダウンで言われたことだけやっていくというよりは、自分から積極的にアイデアを出して、その予算を確保するという雰囲気ということでしょうか。
織井さん
そうですね。トップダウンでくることもありますが、それを形にするのは職員なので、当然そこのアイデアはボトムアップで行なっておりますし、市長もそうしたアイデアは積極的に受け入れる考えを持っているかと思います。
編集部
先ほど市長の言葉で「対話」という言葉がありましたが、対話を行なうために取り組んでいることはありますか。
織井さん
基本的には定期的に係会を行なったり、取り組んでいる事業の進捗状況を確認したりするのはもちろんのこと、何が課題でどんな問題があるのかという意見を出しながら、解決に向けて対話をしていく。そうしたコミュニケーションをとるように心がけています。
若手職員がまちづくりに挑む。空洞化問題と新たな移動手段
編集部
北原さんは採用を担当されているとのことですが、若手職員の方の働きぶりについて、何かエピソードはありますか。
北原さん
現在、伊那市では中心市街地が空洞化していて、空き家や空き店舗が多くなっていることが問題になっています。そこで、伊那市を将来持続可能な都市にするために、まちづくりを推進するプロジェクトチームを立ち上げました。メンバーは主事級、主任級といった比較的若い職員の中から、自ら応募する形で募っています。
自分から手を挙げて参加しているということもありますし、若さならではの熱意もあり、意見交換がかなり活発化していると聞きます。内容を聞くと、やはり私たちだけでは考えられないようなアイデアが出ているなと感じます。
編集部
どんなアイデアか差し支えない範囲でお伺いできますか。
北原さん
伊那市の市街地には高校が2つあるのですが、今後1つに統合されることになっています。そうすると、統合した方の最寄り駅は、利用者数がこれまでよりもずっと多くなることが予想されます。そうした中で、駅の新たな利活用や、学生たちをいかに市街地に滞留させるかといった視点で、空き店舗などを使いながらいろんな学生や住民が集まれるようなスペースをといったアイデアが出ています。
また、移動手段としてMaaS(※)を活用したり、新しく開発された電動キックボードを利用したりするという案もあるようです。
(※)「Mobility as a Service」の略。公共交通機関や自転車シェアリングなど複数の交通手段を統合し、利用者がアプリなどを通じて簡単に移動できるようにすること
編集部
人流の変化を捉えて、まちの抱える課題を解決するための新しい試みをしていこうとしているのですね。
モバイルクリニックやドローン配送は利用者に好評
▲ドローン配送の様子
編集部
先ほど新産業技術事業というお話が出ましたが、具体的にはどんな事業に取り組まれていますか。
織井さん
モバイルクリニックやドローン配送を導入しています。モバイルクリニックは、通院が困難な方のもとに、移動診察車で出向いて診察するというものです。モバイルクリニックと呼ばれる自動車と病院の医師をオンラインで繋いでいます。
ドローン配送は、近くにスーパーがなく買い物に行くのが困難な方、特に高齢で運転免許を返納して移動手段がないという方に、ドローンを利用して物を届けています。午前中に注文すればその日の夕方に商品が届く仕組みです。
伊那市は長野県下でも3番目の面積があり、中心市街地から離れた中山間地にも多くの住民が住んでいます。そのような方々がそこで暮らし続けるためには、どのようなサービスを提供すれば良いのかということを、職員一丸となって考えながら進めています。
編集部
利用者からの反応はいかがでしょうか。
織井さん
ありがたいことに、どちらも好評です。高齢者は移動手段を持たない方が多く、家族に仕事を休んでもらって医療機関や買い物に連れて行ってもらうようなケースがありました。また、医療機関に着いても診察までの待ち時間が長いことも高齢者の負担となっていました。そうしたことから解放されたと喜びの声を多くいただいております。
食料・水・エネルギーを地域でまかなうことを目指す伊那市
編集部
続いて、伊那市さんが積極的に取り組んでいるSDGsについてお伺いできればと思います。
織井さん
伊那市は面積の82%が森林なんです。そのため、市長は「食料と水とエネルギーを地域でまかなえる都市」を作るという目標を掲げております。
どういうことかと申しますと、森林を整備することによって水の涵養(かんよう:徐々に養うこと)になりますし、水があると美味しい農作物もできます。さらには、森林から生み出されるバイオマスエネルギーを使うことによって、CO2の排出の削減にも繋がりますし、森林そのものがCO2を吸収します。
伊那市はアカマツとカラマツを細粉して固めた木質ペレットの生産量が全国でもトップクラスです。それらバイオマスを使ったペレットストーブやペレットボイラーなどのバイオマスエネルギーを利用すれば、環境にやさしい暮らしができます。
そうした循環型社会を目指し、伊那市では2016年3月に「伊那市50年の森林(もり)ビジョン」を策定しました。また、12月には「伊那から減らそうCO2!!~伊那市二酸化炭素排出抑制計画~」を策定し、その延長線上として、2021年には「2050年カーボンニュートラル宣言-伊那から減らそうCO2!!への決意-」も宣言し、未来の伊那市のためにCO2の排出抑制に取り組んでいます。
編集部
未来の環境にも配慮しながら、地域内で水や食料、エネルギーをまかなえるよう取り組んでいるのですね。
長期的な視点でスマート農・林業やプラスチック削減に取り組む
編集部
そのほかに、SDGsに関して特徴的な取り組みはございますか。
織井さん
伊那市では、2021年に国の「SDGs未来都市」に選定され、SDGsの達成に向けてさまざまな取り組みを行なっています。経済面では、一次産業である農業・林業について、スマート農業・スマート林業を推進しながら、きちんと産業として成り立たせることでSDGsに貢献していく。
社会面では、先ほどお話しした新産業技術を活用しながら課題を解決して、持続可能なまちづくりを進めていく。そして最大の取り組みは、プラスチックごみの削減によるCO2の排出抑制です。
経木(きょうぎ)という、昔おむすびをくるんでいたような、木を薄く削ったものがあるのですが、伊那市はその経木の産地でもあり、原料となるアカマツは「伊那マツ」と呼ばれブランド化されています。それをプラスチック製品の代わりに包んだりお皿の代わりにしたりという活用をしています。
また、家庭で使う食器洗いのスポンジをヘチマたわしに代えるなどの普及もしています。ヘチマたわしについては、福祉との連携もしていて、福祉団体の皆さんにお手伝いしていただいています。
これらの取り組みを通じて、長期的な視点で2050年のカーボンニュートラルを目指しています。
編集部
豊かな自然を生かして地域の経済を良くしていくというのは、大変やりがいのある仕事だとお見受けします。職員の皆さんの反応はいかがですか。
織井さん
伊那市ならではの恵まれた自然を活用して、さまざまなものを展開していけるところも魅力ですし、そうした取り組みを通じて、伊那市から日本を変えていこうという意気込みの職員も多いと感じています。事業は幅広く、それぞれ行なっている内容は異なるのですが、各人が信念を持って取り組んでいるのではないでしょうか。
住みやすく子育てしやすいまち・伊那市
編集部
伊那市役所さんでのお仕事とは少し離れてしまうのですが、ここで伊那市さんの魅力を教えていただけますか。お気に入りのスポットなどを教えてください。
北原さん
豊かな自然に恵まれているのもありますが、最近公園の遊具が新しく整備されて、遠出をしなくても近所の公園で子供は喜んでくれるので、なかなか良いスポットではないかなと思っています。普段から小さいお子さんを連れたご家族が多く利用しています。
織井さん
私は、中心市街地に大きなスーパーなどがあって、不自由なくいろんなものが揃う環境でありながら、車でちょっと行けば里山や川があって子どもを遊ばせられるところが良いと思っています。伊那市には林道バスが走っていて、1時間位くらいで標高2,000mくらいまで行けるので、そこから登山を始めて、南アルプス北端の仙丈ヶ岳(せんじょうがたけ)というところまで日帰りで行ける点も魅力ですね。自然と都市部が融合していると感じます。
編集部
子育てや生活がしやすいまちなのですね。自然が身近な点も素敵です。
住民と密着してまちづくりに関わりたい人を歓迎
編集部
最後に採用に関してお聞かせください。伊那市役所さんで働くことに関心を持っている方に向けてメッセージをお願いします。
北原さん
伊那市では、本日の取材でもお伝えした新産業技術やSDGsなど外部から注目を浴びるような事業もありますが、基本的には地道な事務作業が多いです。ただ、それらも全て「住民の生活を良くしよう」「伊那市を素敵なまちにしていこう」という思いにつながるもので、やりがいは見出せると思っています。
また、伊那市は子育てや暮らしがしやすい住み良いまちですので、都会から見ても魅力的な部分がたくさんあると感じています。ですから、地元の方はもちろん、移住を検討している方も、ぜひ力を貸していただければ嬉しいです。一緒に良いまちにしていきましょう。
織井さん
伊那市では、「伊那に生きる」「伊那に暮らし続ける」ことを実現するために、地域の恵みと新しいテクノロジーを融合したまちづくりをしています。住民と密着してまちづくりに関わりたいという皆さんを歓迎しています。
編集部
新産業技術やSDGsなど新しいことも柔軟に取り入れたり、住民の視点に立ってまちづくりを進めたりすることのできる人が伊那市役所さんにはフィットしそうですね。本日はありがとうございました。
■取材協力
伊那市役所:https://www.inacity.jp/
採用ページ:https://www.inacity.jp/shisei/ina_shokuinsaiyo/index.html