社員のキャリア形成を後押しする企業をインタビューする本企画。今回は、総合通信事業を手がけるKDDI株式会社の人事制度と、リーダー職およびエキスパート職を務めるお二方のエピソードを中心にさまざまなお話を伺いました。
通信を核として事業領域を拡大するKDDI株式会社
KDDI株式会社は、基盤事業である通信を核として「au」ブランドによる携帯電話事業を展開するほか、DXや金融、エネルギーなど、事業領域の積極的な拡大を行っています。
会社名 | KDDI株式会社 |
---|---|
住所 | 東京都千代田区飯田橋3-10-10ガーデンエアタワー |
事業内容 | 電気通信事業 |
設立 | 1984年6月 |
公式ページ | https://www.kddi.com/ |
事業領域の拡大に伴い、多様かつ高度な専門性を持つ優秀な人材を確保・育成するため、KDDI株式会社は2020年から段階的に「ジョブ型」を主体とした人事制度に移行しました。
新たな人事制度では、年功序列ではなく成果や挑戦、能力、人間力に基づいて評価するほか、組織のマネジメントを行うリーダー職(ZLD)と高い専門性を持つエキスパート職(ZEX)による「経営基幹職」が創設されました。
今回は、当時31歳でZLDに抜擢されグループリーダーとして活躍する前田義和さんと、ZEXとして専門性を活かしてプロジェクトをけん引するエキスパートの大橋絵里子さんに、それぞれのキャリアについて伺いました。
営業やSEを経て、当時31歳でリーダー職(ZLD)に
編集部
まずは経営基幹職としてグループリーダー(ZLD)を務める前田さんから、これまでの経歴や現在のお仕事についてご紹介いただけますでしょうか。
前田さん
私は2012年に新卒で入社し、IoTの営業を3年半担当しました。その後、当時のジョブローテーション制度でIoT部門のSE(ソリューションエンジニア)となり、お客様のサービスやシステムの提案や開発に携わることになりました。
現在は、IoTだけでなくメタバースなどのDXを含むDX・IoTソリューション部でグループリーダーを務めています。
編集部
前田さんが現在の部署で関わったプロジェクトにはどのようなものがありますか?
前田さん
例えば、駅やビルなどに設置されているシェアオフィスサービスなどでは、回線提供はもちろん事業構想を一緒に考えたり、デバイスやシステム開発などまで協力させていただいております。他にも相対する企業様のコンシューマ向けIoTサービスの回線/デバイス/システム/データ分析の提供業務を複数やっています。DX分野ではメタバース空間でコンテンツ制作やお客様イベントの開催、XRサービスの法人向けの提供なども事業創造本部と連携して行っております。
また、最近力を入れているのは、顧客接点強化サービスとして、エンドユーザの顧客データ、IoTから収集したセンサーデータを組み合わせて、マーケティングや新商品開発につなげるデータ分析コンサルティングやCDP(カスタマーデータプラットフォーム)/ID基盤の提供を行っております。
マネジメントを志した理由は「経営に関わりたい」という思い
編集部
前田さんは2021年にZLDになったと伺いました。当時31歳で、最年少での経営基幹職抜擢だったそうですね。マネジメントに関わるお仕事はご自身の強い希望だったのでしょうか?
前田さん
そうですね。大学生になる前から「経営に関わりたい」という思いを持っていました。大学では情報工学を専攻しましたが、ビジネスコンテストに参加したり、経営に関する勉強もしていました。
このような思いがあったので、自身の仕事の採算計算をして、捻出した利益から業務委託を外注する提案を上申して、マネジメントの時間を確保した上でチームリーダーに立候補したり、キャリアプランについて上司と話す際には「リーダーを目指している」と伝え続けていました。
編集部
抜擢の背景には、どのような理由があったとお考えですか?
前田さん
結局のところ運やタイミングが一番だと思います。実力が高くてもポジションが空くか、新しくできるタイミングで無いとチャンスは来ないので。
強いてあげるとすれば、KDDIは2016年以降、従来の回線事業にとどまらず、お客様のビジネスに全力で貢献する「本業貢献」を掲げてきました。そのパイロットに該当するような案件を私が提案から構築運用まで担当しており、初代の2016年の変革実践担当に抜擢いただきました。その後本業貢献サービスはDXサービス/IoTサービスとして拡大していき組織も大きくなっていきました。 優秀な社員がたくさんいるなかで私を評価してもらえたのは、お客様の本業に貢献するようなサービスの創出を率先して行ってきたからだと思います。
初めの頃はプレーヤーとして現場に踏み込みすぎたことも
編集部
前田さんは現在、グループリーダーとして26名のメンバーを率いているそうですね。マネジメントする立場になってみて感じた難しさはありますか?
前田さん
リーダーに求められるのは、メンバーが活躍できる環境を作り、経験を積んでもらうことです。しかし、グループリーダーになって1、2年の頃は「実際に自分がやる姿を見せて学んでもらおう」と思ってしまい、プレーヤーとして現場の業務に踏み込みすぎることがよくありました。実際は失敗する経験も必要ですし、動いてみないと経験は積めないので経験のチャンスを奪ってしまっていたのかもしれません。
編集部
そのような状態から、どのようにして「理想のリーダー」へと成長していったのでしょうか。
前田さん
私の動きを見ていた上司が、「グループのメンバーが増えれば、現場業務をする余裕がなくなるだろう」と考えたようで、当初十数名だったメンバーが26名に増えました。その結果、上司の狙い通り、現場の業務に関わる余裕はなくなりました。
また、私のもとにはチームリーダーが3名おり、優秀な彼らと仕事をするうちに信頼感が生まれ、安心して任せられるようになってきました。グループリーダーになって3年目にして、ようやくリーダーらしい動きができるようになってきたと感じますね。
編集部
前田さんがグループリーダーになった2021年は新型コロナウイルスが流行していました。出社が制限されるなかで、マネジメントやコミュニケーションに課題を感じることはありましたか?
前田さん
コロナ禍以降、チャットでのコミュニケーションが多くなったことで、伝え方について反省することがよくありました。
対面やビデオ会議とは異なり、チャットは簡潔なテキストでやり取りをすることが多いです。発言者の表情も見えないため、受け取る人によっては「冷たい言い方をされた」と感じてしまうことがありました。その結果、コミュニケーションロスが発生してしまったこともあります。
私の場合、会議などが立て込んで忙しい時はチャットの連絡が雑になりがちでした。そのため、最近は出席がマストではない会議はチームリーダーや担当者などに任せ、その分メンバーと会話する時間を増やそうと心がけています。
編集部
グループ内のコミュニケーションを円滑化し、組織力を高めるためにも、権限委譲できる部分は積極的にしようと考えているのですね。
前田さん
そうですね。時間的な余裕は心の余裕を生み、マネジメントにプラスに働きます。会議だけでなく、例えば1億円以下の案件ならチームリーダーに任せるなど、自分なりの権限委譲のルールを作りたいと考えています。
メンバーの成長を後押しするマネジメント術とは
編集部
リーダーとしてグループのメンバーを評価する際に心がけていることはありますか?
前田さん
ジョブ型の人事制度を採用するKDDIでは、年功序列ではなく成果や挑戦、「人間力」の高さなどで評価しています。当社の経営基幹職は研修やマニュアルを通じて、全員がこのような評価基準をしっかりと頭に入れています。
また、私はメンバーそれぞれの強みが活きるようなチームづくりをしたいと強く思っており、年齢に関係なくマネジメントの素質があると感じればリーダー的な立場を担ってもらいます。実際、私のグループのチームリーダーは3人のうち2人が20代です。
編集部
KDDIさんは、1on1による日々の対話を大切にしていると伺いました。前田さんはどのような姿勢でメンバーとの1on1に臨んでいますか?
前田さん
テーマはメンバーに決めてもらうことや、話を最後まで聞くことを意識しています。
話が途中で止まる時は、そこに悩みや迷いを抱えている可能性があります。そんな時こそ話しやすい環境を作ってしっかり最後まで聞くようにしています。
本来、私は自分が8割しゃべってしまうタイプなのですが、経営基幹職向けの研修を繰り返すなかで少しずつマネージャーとしての姿勢が身についてきたと感じますね。
編集部
KDDIさんは経営基幹職向けの研修などがしっかりしているので、リーダー職についたばかりの人でも安心してグループを率いることができそうですね。
「ふたつ上の目線」を意識し、より大きな組織をマネジメントしたい
編集部
今後、マネジメントのプロとしてどのようなキャリアを歩みたいとお考えですか?
前田さん
私は常に、今の自分のポジションの「ふたつ上の目線」を意識してきました。チームメンバーだった時は「部長」の目線を、グループリーダーの今は「副本部長」の目線を意識しています。そうすることで高い目標を持ち続けられますし、常に経営視点で物事を見ることができるからです。今はまだまだ高すぎる視座についていけてないですが、1つずつ経験を積ませていただいております。
経営に携わりたいという自分の希望を叶えるためにも、より大きな組織をマネジメントできる存在に成長し、ビジネスや組織に変革を起こしたいと思っています。
編集部
常に高い視座で物事を見ている前田さん。最年少で経営基幹職となったその姿は、若手社員がキャリアを考える際のお手本にもなっているのではないかと感じました。
エキスパート職(ZEX)として専門性を活かしプロジェクトをけん引
編集部
ここからは、専門性の高いエキスパート(ZEX)として経営基幹職につく大橋さんにお話を伺います。まず、大橋さんの経歴やお仕事内容から教えてください。
大橋さん
私は大学と大学院で工学を学び、2015年にKDDIに新卒入社しました。入社後は技術開発を手がける部署で基地局の開発や、VoLTEというauの音声通話システムの開発を担当し、2021年に現在の部署に異動してからは、開発エンジニア出身のIoT関連のフロントSEとしてお客様との技術面の交渉などを行っています。途中、技術面以外での強みも開拓したいと思い立ち、2022年には2ヶ月半のアメリカ留学にチャレンジし、本場のプロジェクトマネジメントを学んできました。
編集部
具体的にはどのようなプロジェクトを担当しているのでしょうか。
大橋さん
自動車メーカー様のコネクテッドカー(※)の開発・グローバル展開をサポートするプロジェクトに携わっており、通信プラットフォームや通信回線提供などの技術ソリューション提案を行っています。
(※)インターネットの通信機能をもつ自動車。事故時に自動で緊急通報するシステムなどが実用化されている。
エンジニアの立場から技術的なお話をするだけでなく、アメリカ留学で学んだプロジェクトマネジメントの知見も役立てています。
編集部
技術に関する知見だけでなく、ビジネスサイドの視点も取り入れながら、エキスパートとして活躍されているのですね。
大橋さん
そうですね。学生時代は主に無線の研究をしていたので、入社時点では基地局の開発などに携わることを想定していました。しかし、現在の部署に異動しフロントSEとしてお客様やパートナーとなる海外の通信事業者との交渉を担当するようになってからは、自分で技術を提案してお客様に喜んでもらうことの楽しさを発見しました。
これからも、2つの軸を掛け合わせたエキスパートとして活動したいと思っています。
現場でスキルを試し続けたいからエキスパートの道を選択
編集部
大橋さんは2023年10月に32歳でZEXになったと伺いました。マネジメントを担うリーダー職ではなくエキスパート職を希望した理由は何だったのでしょうか?
大橋さん
チャンスがあるならステップアップしたいという思いはあったので、上司との面談では常に経営基幹職を目指したいということを伝えていました。ただ、ZLDとZEXのどちらに進むかについては初めから明確だったわけではなく、上司と話しながら決めました。
私は現場で動くことが好きですし、新しい知識を学んだらすぐに実践してみたいという欲求が強いタイプです。そのため、興味のあることを自分の手でまずやってみることができるエキスパート職の方が力を発揮できると思いました。
編集部
周りにアドバイスをもらいながら、自分らしく活躍できる働き方を見つけたのですね。
目指すは交渉もアドバイスもできるオールラウンダーなエンジニア
編集部
ZEXになったことで意識に変化はありましたか?
大橋さん
EX(エキスパート)という肩書きに引っ張ってもらった部分もありますが、「自分はエキスパートとして動かなくては」という自覚が生まれ、視座も高くなりました。
それまでは、「自分のスキルを生かす場所は自分のプロジェクト」という考えを持っていましたが、今はもう少し事業全体を俯瞰した考え方ができるようになり、ほかの人が担当しているプロジェクトにも自分の知識や経験を踏まえたアドバイスをするようになりました。
編集部
「エキスパート」という言葉だけを見ると、自分の仕事に集中して技術を高めるというイメージを持つ方もいるかもしれませんが、大橋さんは他のプロジェクトへのノウハウ共有も積極的に行っているのですね。
大橋さん
当社では、何のエキスパートとして動くかはある程度自分で決めることができます。私が自分に定めた「エキスパート」は、ネゴシエーションができてアドバイザーとしても動けるエンジニア、オールラウンダーとして動けるエンジニアです。
そのため、人にうまくアドバイスしたり、気づきを与えることができるような専門性をもっと高めたいと思っています。
ZEXのロールモデルとして若手が気軽に相談できる存在になりたい
編集部
ジョブ型の新しい人事制度は2022年に完全移行が完了したばかりですが、大橋さんはZEXとして自分に求められていることをしっかりと意識し、新しいキャリアを切り拓こうとしていると感じます。
大橋さん
新しい人事制度が導入されて間もないこともあり、ZEXのロールモデルが確立されているとは言えません。周りの方々にも相談しながら、今も自分の強みを活かした働き方を試行錯誤しているところです。
編集部
大橋さんご自身が、ロールモデルとなっていくのではないでしょうか?
大橋さん
そうですね。若手社員のためにも、一つの見本となるような存在を目指したい気持ちがあります。
リーダー職の場合は、若手社員と接する時に「上司と部下」になりがちかと思いますが、私のいる部門では、エキスパート職は、若手社員も異なるプロジェクトのメンバーも、比較的近い目線で気軽に相談ができるようなポジションだと思っています。こうした点でも、エキスパート職としての存在感を出していきたいと思っています。
編集部
実際に、ZEXとしてほかの社員の相談に乗ったり悩みを解決したことがあれば、教えてください。
大橋さん
情報技術の専門家としての知識・スキルや今までのプロジェクト推進の経験を踏まえて、技術検証のサポート依頼や、技術・ビジネス提案のレビュー会への参加などには、部署やプロジェクトを問わずよくお声がけを頂くので、そういった場で自分のノウハウや考えの共有をしています。
また、時には部内外のメンバー、特に若手社員から「この業務でやり辛い部分がある。時間がかかってしまっている」などの相談を頂くこともありました。自分自身も話を聞いて、組織やプロジェクトのためにもこれは改善すべきである、特定の部署だけの課題ではなく関連部署も一緒になって解決していくべきである、と感じたため、経営基幹職という立場を活かして、関連部署のキーマンに直接相談をしに行ったり、経営基幹職同士で相対して課題認識を共有したりと、スピード感を持って対応を進めました。
その結果、部署間の連携フローが改善されたり、部署をまたいで定期的に困っていることを共有するような話し合いの場を持てるようになり、自分が目指すZEXとしての役割の一部を果たせたのではないかと感じています。
編集部
まさに、技術的な専門性だけでなく、ご自身が目指すネゴシエーターやアドバイザーとしての働きをしているのですね。
中途入社したメンバーがKDDIで発揮できる強みとは
編集部
KDDIさんは、社員の約25%がキャリア採用だと伺いました。お二人の周りでキャリア入社したメンバーは、どのような活躍をされていますか?
前田さん
キャリア採用のメンバーは年々増えており、グループによっては半数がキャリア採用というところもあります。
当社は大企業なので、若手のうちからいわゆる開発の上流工程を担当することが多いです。キャリア採用の場合は下流工程を深く経験をした上で上流工程の業務に携わるようになった方やKDDIでは経験できない業務経験を経て入社される方が多くいます。自分で手を動かしてきた経験や前職での経験は新しいビジネスを生み出すときや、トラブルが起きた時の対応力などに強みを発揮していただけます。
編集部
大橋さんの周りではいかがですか?
大橋さん
私の部署のメンバーも半数近くがキャリア採用です。同業他社だけでなく、全く違う業界から転職してきた人もたくさんいます。みんな自分の得意なことをアピールしてくれるので、異なる強みを掛け合わせて新しい価値を生み出すことができていると感じます。
編集部
様々な業界から転職してきたメンバーが、それぞれの強みを発揮して活躍しているのですね。
KDDIにはエンジニアが広い領域に関わりながら学べる環境がある
編集部
KDDIのエンジニアとして働くことの魅力や醍醐味は、どのような点にあると感じますか?
前田さん
中途入社したメンバーがよく言うのは、「KDDIが関わる領域は広くて楽しい」ということです。
多くの企業の場合、エンジニアは特定の分野に深く関わるケースが一般的ですが、当社では様々な領域に関わりながら経験や知識の幅を広げることができると思います。
大橋さん
KDDIには、エンジニアが学びやすい環境があると感じます。前田の話にあったように、広い領域で事業を行っている会社なので、自分に足りない技術や興味を持つ技術があれば学ぶことができるんです。
さらに、そのようにして習得したスキルを、パズルのように組み合わせて新たなソリューションを生み出す醍醐味もあります。
また、当社が担当するプロジェクトは大きなものが多く、あらゆる技術を集結させてソリューション開発を行う必要があります。そのため、例えば「アプリを作ることが誰よりも得意」など、何かひとつでも強みを持っている方なら、必ず活躍の機会があると思います。
編集部
「人財ファースト企業」としてジョブ型の新しい人事制度をスタートさせたKDDI株式会社。自律的にキャリアを形成し、誰もがプロとして活躍できるチャンスがあると感じました。
本日は、ありがとうございました。
■取材協力
KDDI株式会社:https://www.kddi.com/
採用ページ:https://www.kddi.com/corporate/recruit/