女性をはじめ誰もが働きやすい職場を作ると同時に、SDGs達成への取り組みも進めている企業や自治体にインタビューする本企画。今回は、愛知県名古屋市にお話を伺いました。
日本三大都市の一つである愛知県名古屋市
愛知県の県庁所在地である名古屋市は人口約230万人を有し、日本三大都市のうちの一つです。織田信長をはじめとした歴代の戦国武将が活躍した地でもあり、古くから中部地方の中心地として栄えてきました。
2024年4月には栄に新たなランドマーク「中日ビル」が全面オープンするなど、日本の主要都市の一つとして成長を続けているまちです。
自治体名 | 愛知県名古屋市 |
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住所 | 愛知県名古屋市中区三の丸三丁目1番1号 |
公式ページ | https://www.city.nagoya.jp/ |
SDGs未来都市にも選定されている名古屋市では、SDGs達成を視野に入れたまちづくりが進められています。まちづくりは名古屋市役所が主導で進めているのではなく、あくまで市民の声や目線を取り入れる形で進められているのです。
現場で実務に当たる市役所職員はどのような思いで、またどんな働き方でまちづくりに取り組んでいるのでしょうか。住宅都市局リニア関連都心開発部都心まちづくり課主査の神田千加子さん、総務局企画部企画課主査の永坂和寛さん、人事委員会事務局任用課主査の田本貴昭さんにお話を伺いました。
出身も前職もさまざま。多様なバックグラウンドを持つ職員が在籍
編集部
名古屋市役所さんにはどれぐらい中途採用の職員の方がいらっしゃるのでしょうか?
田本さん
毎年、名古屋市役所に入庁する職員のうち、2割ほどが転職で入庁した職員です。ちなみにですが、今回お話しさせていただく3人は全員中途での入庁です。
編集部
やはり名古屋市出身の方が多いのでしょうか?
田本さん
職員みんなが名古屋市出身かというと、決してそんなことはありません。私は名古屋市出身ですが、神田さんは同じ愛知県の一宮市、永坂さんは愛知県半田市の出身です。私の同期には東京生まれ、東京育ちの職員もいます。
県外から出勤している職員も多く、岐阜県や三重県から通っているケースもありますね。
編集部
中途で入庁した方は、例えば以前はどのようなお仕事をされていたのでしょうか?
永坂さん
例えば、私は食品メーカーに研究職として勤めていました。そこでは3年働いていたのですが、閉ざされた場所で研究に没頭するよりも、さまざまな人とつながりながら仕事をしたいという思いがありましたね。
そんなことを考えているときに市民のために働きたいという思いが生まれ、名古屋市役所に入庁することになりました。公務員を選んだのは、利益を追求していくよりも、誰かのニーズにしっかり応えていくということのほうが自分に合っていると考えたためです。
ゼロからのスタートでしたが、例え事務職であっても市民と触れ合う機会が多いので良い職場に転職できたと思いますね。入庁してから9年目(2024年2月現在)で、今はSDGs関係の仕事を担当しています。
編集部
さまざまなバックグラウンドをお持ちの方が入庁されているのですね。
「SDGs未来都市」である名古屋市のまちづくりを支える職員の活躍
編集部
永坂さんは先ほどSDGs関連のお仕事に携わっているとお話しされていましたが、その点についてお聞かせください。
永坂さん
名古屋市は、SDGsの理念に沿って優れた取り組みを進めている都市である「SDGs未来都市」として内閣府から選定されています。SDGsの推進のために、経済、社会、環境の3側面で調和を取りながら取り組みを進めていかなければならないというのが私たちの基本姿勢です。
そんななかで、名古屋市役所としては全庁的なSDGsの推進のほか、地域の企業や大学、団体を巻き込んだ「名古屋市SDGs推進プラットフォーム」の運営に取り組んでいます。
また、市としての方向性を示す最も重要な計画である総合計画を策定していますが、それぞれの施策とSDGsの関係性を整理し、総合計画がSDGsを推進する計画だと位置づけています。
編集部
地域の企業や団体とは、実際にどのように協働しているのでしょうか?
永坂さん
名古屋市役所では、先進的な取り組みを推進するため、関係する企業等と連携して事業を進めています。例えば、水素など新しいエネルギーに関する先進的な取り組みをしている企業や、リニア開業を見据えた地域の開発など、連携の幅は広いです。
編集部
企業以外だとどのような取り組みの事例がございますでしょうか?
永坂さん
名古屋市の中心街である「栄の錦」や熱田神宮のある「熱田」という地域があるのですが、その地域のSDGsの視点を取り入れたまちづくりに関して積極的にフォローしていますね。SDGsに関連した取り組みを進めたいものの何をすればいいか分からないといったケースにも対応できるよう、まずは枠組みを作り、ワークショップを実施するなどして実際にアクションを取ってもらうまでサポートしてきました。防災のことであったり文化を継承していくであったりといった部分はまちの持続可能性につながります。
あくまで役所主導ではなく、地域の方の意思を尊重した形でSDGsのまちづくりを推進しています。
編集部
市全体のSDGs目標の達成に向けて、縁の下の力持ちのような役割を担われているのですね。
新しいアイデアが生まれる場「名古屋市SDGs推進プラットフォーム」
編集部
「名古屋市SDGs推進プラットフォーム」について、もう少し詳しく伺わせてください。
永坂さん
名古屋市SDGs推進プラットフォームには、現在約600の団体が会員として所属しています。定期的に交流会等のイベントを開催し、それぞれの取り組みについて共有するなどしていますね。
役所の仕事は内向きの閉ざされたイメージだったのですが、このプラットフォームの活動を通じてさまざまな企業や団体さんと触れ合う機会が多くなりました。みなさんSDGs達成に向けて本気で、いろいろな方と協力しながら地域を盛り上げたいという思いを持っていらっしゃいます。
私自身も、交流会の度に勉強させていただいていますね。
編集部
交流会は何かしらのテーマを設けて開いているのでしょうか?
永坂さん
交流会は何かテーマを設けるというよりも、偶然の出会いによる化学反応を狙っています。
やはりSDGsへの思いを持っていてもどう動けば良いかわからないという方も多いので、交流会で誰かがモデルケースを示すと「そのノウハウを私たちにも教えてほしい」となるのです。すると事業レベルで連携が生まれることもあります。
プラットフォームには中小企業の社長さんから学生までさまざまな属性の方が参加しています。企業からすれば学生さんに触れる機会は少ないので良い機会になりますし、交流から新しい商品のコンセプトが生まれることもあります。
名古屋市役所としては、なにかこちらが主体となって動くというよりも、出会いの場を提供しているというスタンスでいるのです。
編集部
SDGs達成に向けた新しいアイデアが生まれる場となっているのですね。
育児を考え民間から転職。名古屋市役所はチームで支えあい働ける
▲子育てのことを考えて民間からの転職を決めたという神田さん
編集部
神田さんも中途で入社されているとのことですが、以前お勤めになっていたお仕事のことと転職理由についてお聞かせください。
神田さん
名古屋市役所に入庁する前は、建設コンサルタント会社に勤めており、住宅団地や公園の基本計画・設計に携わっていました。当時勤めていた会社に在籍していたときに結婚しましたが、子どもを産んで働き続けるのが難しいと考え、転職を決めました。
公務員への転職を考えた理由は、建設コンサルタント会社にいたときに市役所から仕事を受注していたのですが、発注する側になればもっとおもしろいかもしれないと思ったからです。入庁して、現在14年目になります(2024年2月現在)。
編集部
子育てのことを考えて転職されたとのことですが、実際に入庁されていかがでしょうか?
神田さん
入庁するときは子どもがまだ小さく不安だったのですが、子ども看病のための職免制度(※)があることは知っていましたので心強い気持ちになりましたね。実際に子どもを病院に連れていくときに制度を利用しました。
(※)職免制度:「職務に専念する義務の免除制度」の略称。育児や介護等に関する場面で、状況に応じて定められた期間休むことができる
職免制度は男性職員も使えるので、多くの職員が活用しています。そして何よりも、職場の理解があるからこそ制度が利用できることを転職直後は実感しました。
公務員はチームという意識を強く持って仕事を進めます。最終的には部署として判断することになるので、民間にいたときとの最大の違いは全て一人で抱え込むことがないということですね。ですので、子どもの急病などで仕事を抜けざるを得ないときでも、サポートし合える環境ができていると思います。
編集部
チーム全体で進めているからこそ業務が属人化することがないのですね。
まちづくりに関する市民の思いを聞く場がモチベーションにつながっている
編集部
神田さんは現在どのようなお仕事をご担当されていらっしゃるのでしょうか?
神田さん
私は住宅都市局リニア関連都心開発部都心まちづくり課に在籍しており、名古屋市中心部の栄エリアで民間事業者が実施する再開発の協議調整役を担っています。民間による再開発が計画されている場合、自治体としては地域の安全性向上やまちの魅力創出にも取り組んでいただきたいという思いを持っています。
ですので、再開発の計画検討段階から協議調整をさせていただいています。
編集部
具体的にはどのような協議調整がなされているのでしょうか?
神田さん
民間事業者から再開発の計画が示された段階で、それを進めるための事業手法や都市計画の手続、事業のスケジュールなどのお話をさせていただき、プロジェクトによっては建物完成に至るまでの長期間にわたり様々な協議調整を行っています。
協議では、公共貢献を伴う計画となるよう検討をお願いしています。民間の敷地ではあるのですが、公園や道路に対して敷地が開かれた空間がつくられ、まちにとっても魅力的な計画としていただくために、公民連携で計画を進めていただけるよう調整しています。
また、再開発を進めるには道路の管理部署や都市計画の手続を担う部署など、さまざまな部署との協議が必要となります。私が所属している部署が窓口となり、関係部署と民間事業者をつなぐ役割も担っています。
編集部
今のお仕事のどこにやりがいを感じていらっしゃるでしょうか?
神田さん
名古屋市には「市政出前トーク」という制度があります。これは市民から依頼をいただき、市の施策について私たちが伺って直接お話しするというものです。
先日、都心部のまちづくりや再開発のプロジェクトについて市民にご説明する機会がありました。
2024年4月に名古屋の新たなランドマークとして中日ビルという施設が全面オープンすること等、最近の状況も含めてご説明しました。参加いただいた方は学生から社会人までさまざまで、「自分たちもまちづくりに関わりたい」という熱い思いが伝わってきました。実際に市民の名古屋についての思いを直接聞けることは仕事のやりがいにつながります。みなさんのお話を聞くことで、「がんばらなければならない」という思いになりますね。
編集部
SDGsに関するお話でも感じましたが、名古屋市役所さんは市民のみなさんとまちをつくっていくという思いを大切にされているのですね。
男性の育休取得率が増加中、取得を進める周りの環境
編集部
子育てを応援する環境について神田さんからもお話がありましたが、職免制度以外で子育てを応援するような仕組みはございますでしょうか?
永坂さん
名古屋市役所では男性の育休取得も進んでいます。私も2023年に2カ月ほど育休を取得しました。係長級に昇進したばかりでしたので悩んだ部分ではあったのですが、周りが理解して取得を勧めてくれましたね。
所属の局長からも直接「子育てをがんばってほしい」という旨のメッセージをいただきました。
転職前に所属していた企業は時代もあったと思いますが、男性育休なんて考えられない環境でした。女性社員も出産したら退職してしまうケースも多かったです。今は民間も変わりつつあると思いますが、男性育休取得については市役所のほうが力を入れていると感じます。
編集部
今のところ、男性の育休取得率はどれぐらいでしょうか?
田本さん
名古屋市役所の男性職員の育休取得率は2022年度の実績で48.3%です。年々取得率は増加しています。
私が所属している人事委員会でも先日男性職員が育休を取得しましたし、組織として「男性も育休を取得したほうが良い」という空気になっていてサポート体制も充実しています。
早出遅出出勤にフレックスタイム、テレワークなど、柔軟な働き方が可能
編集部
名古屋市役所さんの働き方についてもお教えください。
田本さん
名古屋市役所は早出遅出出勤やフレックスタイムも導入していて、職員それぞれのライフスタイルに合わせて柔軟に勤務の時間が選べます。早出遅出出勤に関しては、活用している職員も多いですね。
テレワークも可能ですので、ご家庭の事情に合わせて働く場所を選ぶこともできます。私も以前所属していた部署ではテレワークを活用していました。
また、フリーアドレスを導入している部署もあり、積極的に働きやすい環境づくりに取り組んでいます。
編集部
ほかに特徴的な福利厚生制度はございますでしょうか?
田本さん
名古屋市役所には独身職員が入れる職員寮があります。県外出身の方で自宅から通えない職員が入寮しており、満室になることもあります。市役所から30分程の距離にあり、市内の区役所や出先機関等のどの勤務先にも行きやすい場所に立地していますね。
編集部
職員さんが働きやすい環境を作るため、ハードとソフトの両面で支援されていらっしゃるのですね。
部署異動がまるで転職。自分の可能性を試せる場が豊富にある
編集部
名古屋市役所で仕事をされるなかでおもしろいと感じたポイントは何でしょうか?
永坂さん
市役所はさまざまな部署がありますので、部署異動によって環境が大きく変わるというのはおもしろいと思います。私は今の部署の前は上下水道局に所属していましたが、上下水道料金の収入で事業を運営するため、民間企業に近い感覚の部署でしたね。
編集部
さまざまな部署があると思うのですが、部署間の交流はあるのでしょうか?
神田さん
私は先ほどもお話しした通り各部署の調整役を担っていますので、他部署と関わることも多いです。お仕事でお世話になった方がたくさんいらっしゃいますし、それが自分にとっての財産になっていると感じています。
編集部
部署異動に関しては希望を出せるのでしょうか?
田本さん
名古屋市役所では直属の上司に異動希望を伝えたり、自分の今後のキャリアイメージについて相談できる機会があります。また、庁内公募制度や職員自らが希望先にやりたい業務や自らの能力をアピールすることで異動成立を目指すことができる制度もあります。全ての希望が叶うわけではありませんが、ポストの空き状況等によっては希望通りの部署に行けることもあります。
永坂さん
本当に部署の数が多いですので、自分のやりたいことがはまる可能性は高い職場だと思います。自分のやりがいを見つけられる機会が、名古屋市役所には豊富にあります。
編集部
さまざまな業務に携わる機会があるからこそ自分の可能性を試せる機会が多くあるのですね。
大都市圏の「名古屋」でやりがいのある仕事をしたい人を歓迎
編集部
最後に、名古屋市役所さんに興味を持っている方に向けてメッセージをお願いいたします。
永坂さん
名古屋市は規模が大きい自治体ですので、その分仕事にも大きなやりがいを感じられると思います。自治体という特性上、予算というのは考えなければなりませんが、まちづくりという大きな仕事に携わることができるというのが魅力の一つです。
市民の反応が大きな刺激になりますし、楽しさをいろいろなポイントで見出せる職場ですので、ぜひ興味を持たれた方はご応募いただければと思います。
神田さん
まちづくりは開発後に住む市民、働く人、訪れる人が主体となります。ですので、開発段階からいろんな方の意見を聞いて進めていくので調整はとても大変ですが、少しずつ形になっていく過程は、大変やりがいを感じるポイントだと思います。
私は民間企業で長く勤めた後に入庁することになりましたので不安な部分もあったのですが、民間の経験を持っていることは自分の中で糧になっていると思うことがあります。市民や企業の側に立って考えることが大切だと感じるためです。
民間の経験を生かせる良い職場ですので、一緒にまちづくりをする新しい仲間を歓迎したいです。
田本さん
名古屋市役所の仕事は市民のみなさんの生活に密接に関係しています。ですので、誰かの役に立ちたいという想いを持った方にとってはやりがいのある職場だと思います。
また、異動の範囲が原則市内で、ライフプランが立てやすいというのも働くうえでの魅力の一つです。私自身、前職は全国転勤のある金融機関でしたが、結婚、子育てなどのライフイベントを考えたときに転職を考えるようになりました。自分の理想のライフプランがある方、そして自分の経験を市政に還元したいという思いを持った方は、ぜひ採用試験の受験を検討していただきたいと思います。
編集部
三大都市である名古屋市だからこそ、ダイナミックな仕事ができる。かつ自分のライフプランを描きやすくなるというのが魅力的だと感じました。本日はありがとうございました。
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愛知県名古屋市:https://www.city.nagoya.jp/
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