SDGsの目標実現に向けた事業や取り組みを行う企業を紹介するこの企画。今回は、インドの貧困地域で現地の方々の雇用を創出しながら、アクセサリーや雑貨の生産・販売を行う株式会社スプリングにインタビューを行いました。同社は、持続可能な開発目標の達成に向けて、地域社会の経済的自立と文化の保護に貢献しています。
株式会社スプリング:ビジネスを通じたインドの女性支援
▲ビジネスを通じて、作る人・売る人・使う人みんなが幸せになれることを目指している(公式サイトから引用)
株式会社スプリングは、インターネットで女性向けのアクセサリーや雑貨を販売する会社です。インドの高度な職人技を活かした繊細で美しいハンドメイドの商品を主に取り扱っています。
「作る人・売る人・使う人、みんなを幸せに。」というのが、株式会社スプリングの目指す姿です。途上国を低コスト生産の場としてではなく、現地の人々と共に成長する機会として捉えています。
同社は、ビジネスを通じてインドの貧しい村の女性たちに労働の機会を提供し、労働環境を整え、自立を支援する取り組みを続けています。
会社名 | 株式会社スプリング |
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住所 | 大阪市北区大淀南1丁目3-14中島ビル旧館3階 |
事業内容 | アクセサリー及びアクセサリー資材の企画・生産・販売 |
設立 | 2003年12月 ※創業は1999年4月 |
公式ページ | https://www.spring-j.jp/index.html |
今回は、株式会社スプリングのインドでの事業に対する想いやSDGsへの取り組みに焦点を当て、代表取締役の立花さんにお話を伺いました。
インド伝統技術を活かした独自のアクセサリー制作
▲インドの伝統的なハンドワークによって作られる個性派アクセサリーブランド「MAYGLOBE by Tribaluxe」の商品(公式サイトから引用)
編集部
まず最初に、スプリングさんの会社の概要や事業内容について教えていただけますか?
立花さん
弊社は、主に女性向けのアクセサリーや雑貨を販売している会社です。海外で生産された商品の卸売りや、ECサイトでのオリジナル製品の販売を行っており、企業向け(BtoB)と一般消費者向け(BtoC)の両方の領域をカバーしています。
会社設立は2003年ですが、それ以前も個人として活動をしていたので、事業を始めてからは約25年ほど経ちます。現在はスタッフ7名ほどで運営しています。
編集部
スプリングさんの商品にはどのような特徴があるのでしょうか?
立花さん
弊社の売り上げの約半分は、インドで作られた商品が占めています。
インドでは、何百年も前のオスマン帝国の時代から、手作業による細かい刺繍やビーズワークが産業として根付いていました。私たちの商品は、こうした伝統技術を持つインドの女性たちが、現地の自社工場においてハンドメイドで作成しています。このため、一つ一つに職人の温もりが感じられる個性豊かな製品となっています。
インドの女性たちへの雇用創出と自立支援
▲幼くして子どもを産み育てることが当たり前のインドの女性たちにとって、働くことは生きる希望となっている(公式サイトより引用)
編集部
インドでは何年ほど前から、どのような経緯で生産を行っているのでしょうか?
立花さん
インドでの生産に着手したのは18年ほど前になります。インドの伝統文化を活かして、日本のお客様が楽しめる商品を作りたいという想いから始めました。
従来、インドの女性は「子どもを産み続けて育てるのが女性の幸せだ」という固定観念の中で生きており、宗教的・慣習的な背景から、女性が仕事を持つことがタブー視されてきました。
私たちはインドの村に生産ラインを整え、現地の女性たちに働く機会を提供してきました。長年の努力の結果、インフラも少しずつ整い、彼女たちが自分でお金を稼ぎ、未来に希望が持てるような状況になってきたのです。
弊社のビジネスを通じて、インドの女性たちが希望を持てていることに大きな喜びを感じ、事業を続けています。
編集部
ビジネスを通じて、インドの女性たちの自立支援や生活水準の向上に貢献されているということですね。
立花さん
そうですね。「SDGs」という言葉が広まる以前から、このような活動を続けてきました。
編集部
実際にインドで働く方々からはどのような声が聞こえてくるのでしょうか?
立花さん
皆さん、自分で稼ぐことで都会に出られたり、家計の足しにできたりと、希望を持って仕事をしています。「できるだけ続けてください」「希望の星なのでやめないでください」という声をよくいただきます。
弊社もコロナ禍の影響で厳しい時期がありましたが、彼女たちのためにも、何としても事業を続けなければならないという強い決意で取り組んでいます。
編集部
女性も働いてお金を稼ぐことができるという新しい価値観を広め、彼女たちの可能性を広げる活動をされてきたのですね。とても感銘を受けました。
SDGsへの具体的な取り組み:トイレ設置と医療支援
▲トイレが普及していないインドにて、工場内にはトイレを設置し、安心できる環境を整えている(公式サイトより引用)
編集部
スプリングさんは、お仕事の機会の提供だけでなく、生活水準向上のための支援も行われているそうですね。
立花さん
はい。18年前に比べると少しずつ良くなってきていますが、インドではまだ電気、ガス、水道などのインフラが十分に整っていません。また、学校に通えていない子どもも多いのが現状です。そういった課題に対して、私たちにできることから支援活動を始めています。
編集部
具体的にはどのような支援を行っているのでしょうか?
立花さん
一つの例として、トイレの設置があります。インドではまだトイレのない家庭が多く、新築でもトイレを作らない家もあるほどです。トイレが不浄なものとして扱われているためです。
その結果、女性が夜明け前に外で用を足そうとして、危険な目に遭うこともあるのです。
下水管理は国レベルの課題ですが、私たちにできることとして、工場にはトイレを設置しました。
また、衛生教育が不十分なため、清潔にしないと病気になるという認識が低いのです。そのため、目の病気になる人が多いことがわかり、無料の眼科検診も始めました。
工場で働く方々だけでなく、その村に住むお年寄りなども対象に、無料で医師を招き、目薬の配布も行っています。
コロナ禍の影響で一時中断していましたが、今後再開していく予定です。
立花さん
社会貢献をしたいというよりは、自分がこのような現状を見てきた中でやりたいと思ったことをやってきただけです。
完璧を目指すと国レベルの課題となり、一歩も踏み出せなくなってしまいます。そのため、できることから順番にやっていこうという気持ちで、SDGsにも取り組んでいます。
学生向けSDGs教育:アクセサリー制作体験を通じた啓発活動
▲アクセサリー作り体験をとおして、学生にインドの現状やSDGsの取り組みを伝える活動も実施(公式サイトから引用)
編集部
スプリングさんでは、学生向けにSDGsについて伝える活動も実施されているとお聞きしました。具体的にどのようなことを行っているのですか?
立花さん
スタッフ2名で学校を訪問し、イベントを開催しています。体験を通じて途上国の現状やSDGsへの関心を高めてもらうため、弊社で販売しているアクセサリー制作キットを使って、アクセサリー作り体験を実施しています。
その後、商品の生産背景やSDGsの取り組みについて、画像を用いて説明しています。
立花さん
学生たちは非常に興味を持ち、真剣に話を聞いてくれたそうです。
現在は社員が関係する学校から始めていますが、将来的には他の学校にも対象を広げていきたいと考えています。日本全国というわけにはいきませんが、できるところから少しずつ活動を広げていければと思っています。
文化の壁を越えた共創:スプリングの事業における喜びと課題
編集部
これまで事業を続けてこられた中で、大変だったことややりがいに感じていることを教えていただけますか?
立花さん
育った環境も文化も価値観も違う国で、同じ目標を持って商品を作り上げるというのはやはり大変です。日本人なら当然理解できることが、なかなか伝わらない時はジレンマを感じます。
一方で、最初は大きな相違があったところから、想いが伝わり、1つずつ課題を解決していけることにはとてもやりがいを感じます。
インドでの生産開始当初は、品質の基準が厳しい日本向けの商品レベルには達していませんでした。しかし、多くの時間と労力をかけて、百貨店とも取引できるレベルまで品質を向上させ、お客様にお届けできるようになりました。お客様から「素晴らしい商品ですね」と言われると、大きな喜びを感じます。
立花さん
また、商品を購入してくださった方から「美しいものが買えてとても幸せです。それがインドの女性たちの支援にもなっていると知り、二重の幸せを感じます」というような声をいただくこともあります。
そういう時は本当にこの事業を始めてよかったと思いますし、このように感じてくださる方がもっと増えればいいなとも思います。
スプリングが求める人材像:広い視野と社会貢献への意識
編集部
採用についてお伺いします。スプリングさんでは、インドの支援活動をはじめとした社会貢献活動に興味を持っていることを重視されているのでしょうか?
立花さん
社会貢献活動への興味がきっかけで入社した社員もいますが、それが採用の決め手というわけではありません。弊社はインドでの支援を単なるボランティアや慈善事業としてではなく、ビジネスの一環として行っているからです。
ビジネスが基盤にあるため、「ボランティアに興味がある」という理由だけでは、弊社との適性にミスマッチが生じる可能性があります。
ビジネスを最優先としつつ、「世界はつながっている」「海外に目を向けたい」「SDGsに関心がある」といった意識を持っている方が弊社に適していると考えています。
編集部
スプリングさんは営利企業として、ビジネスを基盤としているということですね。立花さんは、どのような人材と一緒に働きたいとお考えですか?
立花さん
一言で表現するのは難しいですが、「視野の広い人」と言えるでしょう。新入社員であっても、何かを与えてもらうことを当然と考えるのではなく、自分が会社や世界のために何ができるかを広い視野で考えられる人と一緒に働きたいですね。
消費者への呼びかけ:途上国支援を意識した企業・商品選択の重要性
編集部
最後に、読者の方に向けてメッセージをお願いします。
立花さん
私は、先進国である日本は、もう少し途上国の現状を知るべきだと思っています。安くていいものを作るために、人件費の安い途上国において、劣悪な環境下で現地の方々に無理をさせている現状があることを知って欲しいです。
「安いものを作ればみんなが幸せになる」という考え方はなかなか変えられないと思いますが、今の若い世代が大人になったときに、途上国の人々を犠牲にして安くていいものを作るという考えをあらため、途上国のために貢献できる世の中になっていくことを願っています。
そのためには、企業を選ぶときや商品を選ぶときに、裏側にどんな現状があるのか、企業がどんな姿勢で取り組んでいるのかを、しっかりと情報収集して選択してほしいと思います。
編集部
今は、そのような企業の姿勢を調べることもできますから、しっかりと情報を集めて判断してほしいということですね。
立花さん
そうですね。今はインターネットなどで情報を収集するツールも充実しているので、調べて、考えて、さらに自分の意見を発信していってほしいですね。
編集部
ありがとうございます。自社やお客様のことだけでなく、製品を作っている途上国の方々を大切にし、幸せにしたいというスプリングさんの想いが大変よく伝わりました。
本日はたくさんの貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。
■取材協力
株式会社スプリング:https://www.spring-j.jp/index.html