地方で存在感を高める注目企業にインタビューし、その躍進の秘訣などについて紹介する本企画。今回は、デザイン事業を通じて地域活性化に貢献する長野県白馬村の株式会社covsを取材しました。
株式会社covsとは
株式会社covsは、Webサイトやロゴ、名刺などの制作を手がけるデザイン会社で、北アルプスの麓に位置する長野県白馬村に事務所を構えています。
2021年5月の創業以来、白馬をより良い場所にしたいという思いのもと、クライアントに寄り添い、「デザインの力」で課題解決や目標実現をサポートしてきました。
会社名 | 株式会社covs |
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住所 | 長野県北安曇郡白馬村北城7227 |
事業内容 | ・WEBサイト制作 ・各種印刷物制作 ・写真撮影 ・動画撮影・編集 |
設立 | 2021年5月 |
公式ページ | https://covs.jp |
株式会社covsは、デザイン事業だけでなく、地元の個人事業主などが活用できる印刷所を運営するほか、スタジオを完備した撮影サービスも新たにスタートする予定です。
今回は、代表取締役でアートディレクターやフォトグラファーとしても活動する太田祐一さんに、地方で活動する企業ならではの強みや、社員が成長できる環境づくりについて伺いました。
デザインを通じて白馬村内のビジネスをサポート
▲株式会社covsは、白馬村に多い個人事業主が利用できるようなデザイン関連サービスを展開している。(公式サイトより引用)
編集部
まず初めに、covsさんの事業内容についてお聞かせいただけますでしょうか。
太田さん
弊社はデザインをメイン事業としており、企業をはじめとするクライアント様のWebサイトやロゴ、名刺などを制作しています。
また、一般の方や個人事業主様向けの事業として、店舗型印刷所を手がけています。弊社に併設されたスペースにオンデマンドプリンターを設置しており、お持ちいただいたデータを出力してチラシや名刺、ハガキなどを制作することができます。
このほか、自社スタジオを完備した総合撮影サービスも近く始める予定です。「fotosta!」(フォトスタ)というブランド名で、動画の収録などにご利用いただけるスタジオ提供のほか、出張撮影やドローンを使った空撮などにも対応します。
▲covsの事務所に併設された印刷所には、プリンターや作業スペースが設置されている。(公式サイトより引用)
編集部
一般の方が利用できる印刷所を運営するデザイン会社さんは珍しいと思いますが、どのような狙いがあるのでしょうか?
太田さん
白馬村は人口8,000人あまりの村ですが、事業者の数、つまり社長と呼ばれる人が約900人いるそうです。そして、このうち大部分が飲食店や宿泊施設などを経営する個人事業主さんです。そのため、プリントサービスや撮影サービスを提供することで、白馬の経済を支える多くのビジネスをサポートできると考えました。
編集部
地域経済の活性化に貢献するサービスを、積極的に展開されているのですね。
依頼の大部分が口コミ経由。地域密着のcovsが意識する「信用第一」
▲2023年5月に創業2周年を迎えた株式会社covs。新入社員の歓迎会も兼ねてパーティーを開催した。(公式Instagramより引用)
編集部
covsさんが創業の場所に長野県白馬村を選んだ理由を教えていただけますか?
太田さん
私自身が白馬で生まれ育ったことが大きな理由です。私はデザインを学んだあと、東京のデザイン事務所や広告制作会社に勤務していたのですが、子どもが生まれたことをきっかけに2017年に白馬に戻り、フリーランスデザイナーとしての活動を経て、2021年5月にcovsを設立しました。
編集部
地方で活動する企業として、covsさんが意識されていることはありますか?
太田さん
弊社を信用していただけるような仕事をすることを、何よりも大切にしています。
白馬は東京のように大きなコミュニティではありませんし、先ほどお話ししたようにビジネスをしている人がとても多いので、事業者同士のつながりが強いという特徴があります。そのため、口コミが非常に重要になります。
名刺1枚の制作、プロフィール写真の撮影1回に丁寧に取り組み、評価いただけるものをご提供することで、口コミが広がり、ほかの事業者様からもお仕事をご依頼いただけます。
信用していただくことを第一に考えてきた結果、弊社では営業活動をせずに口コミや紹介を通じてご依頼いただくケースがほとんどです。
編集部
どのような依頼に対しても最高のアウトプットで応えようとする姿勢が、covsさんの信頼につながっているのですね。
クライアントの課題に寄り添い、制作物を納品した先も見据える
編集部
東京でもデザインの仕事をしていた太田さんですが、横のつながりが強い地域密着の企業だからこその特徴はありますか?
太田さん
ここでは、私たちのデザインがクライアント様の命運を担っているという責任を強く感じます。
東京でデザインの仕事をしていたときは、納品したらそこで終わりということが多く、自分の仕事が商品の売り上げなどにどの程度貢献できたのか把握できないことがほとんどでした。結果に関わらずクライアント様からお金をいただき、お仕事をいただき続けることができるような環境でずっと働いていました。
一方で、地域に根差して活動していくと、デザインがどのように成果に結びつくかまでが見えるので、気合いが入ります。クライアント様から「赤い丸」を作るように依頼されたとしても、その通りに制作するのではなく、事業形態や規模、ターゲットなどを考えたときに「黒い四角」の方が効果的だと思えば、しっかりと提案をするような姿勢も必要になります。
編集部
本音でクライアントさんに向き合っているのですね。
太田さん
そうですね。このような関係性を築くことで、クライアント様からも率直なフィードバックをいただけます。
ロゴの制作をご依頼いただいたクライアントさんから、「若い女性の反応があまり良くない」というフィードバックをいただいたこともあります。良いフィードバックも嬉しいですが、今後の改善や弊社の成長につながるようなフィードバックこそ貴重だと感じます。
子どもたちがこの先も幸せに暮らせるように。「デザインの力」で白馬を良くする
編集部
太田さんご自身も白馬村の出身ということですが、ご自身が育った地域にビジネスで貢献したいという思いもあるのでしょうか?
太田さん
はい。自分が育った地元として、この村を良くしていきたいですし、私の子どもたちが50年後も幸せに暮らせるような場所であってほしいと心から思っています。そして、そのために「デザインの力」が果たせる役割は大きいと信じています。
編集部
どのような部分に「デザインの力」を活かすことができるとお考えですか?
太田さん
例えば、白馬にはスキー旅行で訪れる外国人観光客が多く、冬場だけ外国人向けに営業する飲食店があります。営業期間が短いですし、外国人客をターゲットにしているので、しっかりと認知してもらわないと5年、10年と安定的に集客し続けることが難しいという課題があります。
このような課題を解決するためには、「冬季限定の営業」「外国人向けのお店」といったターゲットやコンセプトをしっかりとビジュアル化して、利用者まで届ける施策が必要です。そんな時に、私たちのデザインの力が役に立つと考えています。
編集部
広告クリエイティブを作るなどの単一の施策ではなく、上流のブランディングから関わるということでしょうか?
太田さん
はい。ブランディングだけにとどまらず、例えば飲食店の経営者が「お客様におすすめしたいメニューを開発したのに、なかなか注文してもらえない」という課題を持っている場合には、料理の写真を撮り直したり、メニュー表のデザインを変更するといった提案もします。
地元でビジネスをする方々の力になりたいという思いで活動しているので、クリエイティブを通じてあらゆる方法で課題解決に挑みたいと思っています。
名刺1枚の制作でもコンサルティングのようなことから始めるので、大変だと感じることもあります。しかし、ここでは自分たちが関わったプロジェクトがどのような結果につながったのかを自らの目で見て実感できる機会も多いので、東京では得られないようなやりがいや、ノウハウの蓄積につながっています。
編集部
白馬村の出身者として、デザインを通じて地元を良くしたいという太田さんの強い思いが伝わってきました。
社員の「ヒアリング力」を伸ばし、課題解決に強いデザイナーを育成
▲株式会社covsはヒアリング力を伸ばすことで活躍できるデザイナーを育成している。(公式Instagramより引用)
編集部
現在、太田さんを含めて6名のメンバーでお仕事をされているということですが、社員の成長や活躍をどのようにサポートしていますか?
太田さん
私がよくメンバーに伝えるのは、「私たちはこの地域のコミュニケーションツールとして機能しなくてはならない」ということです。私たちが提供するものを「見た目だけの制作物」ではなく、クライアントとお客さんを繋げるための「コミュニケーションツール」と捉えることで、課題解決という最終ゴールを見据えた仕事ができ、結果的に地域の活性化につながります。
編集部
どのようなアウトプットをすればクライアントのメッセージがお客さんに伝わるのかを考えることが大事ということですね。
太田さん
はい。このような思考を伸ばすため、弊社のメンバーにはまず、デザインソフトなどの技術力よりも「ヒアリングの力」を高めてもらうようにしています。
先ほどお話ししたように、地元密着の企業なので結果に対する責任を意識する必要があります。そのためには、「かっこいいデザイン」を依頼されたとしたら、クライアント様の特色やターゲットはもちろん、格好良くなった先の最終的な目的まで理解しなくてはいけません。
ヒアリングをし、時には相手の言葉を疑い、話の内容を分解したり組み立てる作業を経て、クライアント様が届けたいメッセージがしっかりお客さんに届くコミュニケーションの方法を提案する。これも重要な「デザイン力」だと思います。
編集部
デザインに関する知識だけでなく、ビジネス思考も求められそうです。
太田さん
これからのデザイナーは、ビジネス思考を含む幅広いスキルがないと生き残れないと思っています。だからこそ、弊社で働くメンバーには特定の業務に専念するのではなく、ヒアリング力から課題発見力、提案力までトータルで身につけ、活躍できる人に成長してもらいたいと願っています。
編集部
そのような思いを持つcovsさんでは、独立しても活躍できるくらいの能力を短期間で身につけることができそうだと感じました。
白馬の自然を楽しみながらデザインで地域を盛り上げたい方を歓迎
▲株式会社covsでは、関東から移住したメンバーも働いている。(Wantedlyより引用)
編集部
最後に、covsさんで働くことに興味を持つ読者の方に、メッセージをお願いします。
太田さん
まず、白馬村と聞いて、すぐにどこか分からない方も多いと思いますが、ここで暮らす私が言えるのは「とても楽しい場所」ということです。北アルプスの麓にある村なので、冬はスキーやスノーボード、夏は登山やマウンテンバイクなど、自然に触れるアクティビティが充実しています。私もアウトドアを楽しんだ結果、真っ黒に日焼けしてしまいました。
また、クライアント様やビジネス仲間との距離がとても近く、コミュニケーションを取りやすい環境です。コンビニでたまたまお会いして「今後飲みにいきましょう」という話になるようなことも日常茶飯事なので、飲み友達はすぐにできると思います。
編集部
白馬には太田さんのようにUターンや移住してきた方も多いのでしょうか?
太田さん
はい。弊社にも神奈川県から移住した人や、海外留学などを経て白馬村に戻ってきたメンバーが働いています。白馬にはそのような方がたくさんいますし、同じ価値観を持つ仲間にも出会えると思います。
編集部
地方で活動するcovsさんで働くからこそ得られる経験や価値は何だと思いますか?
太田さん
アウトプットされたデザインだけを見れば、東京の有名な事務所が作ったものには敵わないと思うこともあります。しかし、地域密着のデザイン会社として結果にこだわるデザインを手がけている弊社は、クライアント様を満足させる力では負けない自信があります。
白馬村をより良い場所にしたいという思いを持ち、デザイン起点で課題解決にチャレンジしたい方と、ぜひ一緒に働きたいと思っています。
編集部
クライアントへのヒアリングや戦略づくりを重視するcovsさんだからこそ、クリエイティブの制作だけではない様々なスキルを身につけ、活躍できるデザイナーへと成長できそうだと感じました。
観光地としての白馬村の人気も国内外で高まっているので、covsさんのデザイン力を必要とする事業者は今後いっそう増えるのではないでしょうか。
本日は、ありがとうございました。
■取材協力
株式会社covs:https://covs.jp/
採用ページ:https://covs.jp/recruit/