社会的課題の解決やSDGsに繋がる事業を展開する企業を紹介する本企画。今回は、公平な医療福祉の実現を目指して医療機関などにICT(情報通信技術)ソリューションを提供する「株式会社アルム」を取材しました。同社は、医療や福祉の分野で最新技術を活用し、より多くの人々が質の高い医療サービスを受けられるよう取り組んでいます。
株式会社アルムの挑戦:ICTで実現する「公平な医療福祉」
株式会社アルムは「すべての医療を支える会社(All Medical)」として、情報通信技術(ICT)を活用して医療格差やミスマッチの解消に取り組み、公平な医療福祉の実現を目指しています。
主力プロダクトである「Join(ジョイン)」は、医師や看護師などの医療関係者同士が医用画像や検査結果などの患者情報を即時に共有できる医療関係者間コミュニケーションアプリです。2016年に日本で初めて保険診療の適用が認められた医療機器プログラムとしても注目されています。
さらに現在、集中治療室(ICU)の遠隔支援を推進しており、看護師などの医療従事者がネットワークを介して外部から患者のモニタリングに参加できるシステムの開発に取り組んでいます。
会社名 | 株式会社アルム |
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住所 | 東京都渋谷区道玄坂1-12-11 渋谷マークシティ ウエスト16階 |
事業内容 |
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設立 | 2001年4月 |
公式ページ | https://www.allm.net/ |
株式会社アルムには、医師や看護師など医療現場での実務経験を持つ社員が在籍しており、それぞれの専門知識と経験を活かしながら医療課題の解決に取り組んでいます。
今回は、遠隔ICU事業を推進するACU(※)事業部の泉田さんと花井さんにお話を伺いました。
※ACUはAdvanced Care Unitの略で、アルムの造語
医療格差解消への取り組み:アルムのICTソリューション
編集部
アルムさんは医療格差の解消に挑戦されており、その事業は「全ての人に健康と福祉を」というSDGs目標にも合致します。まず、このような事業に取り組まれる背景をお聞かせください。
泉田さん
現在、医療資源の格差は世界的に大きな問題となっています。東京のような都市部では体調不良時にすぐ医療にアクセスできますが、日本国内でも医師が少ない地域が増加しています。また、医療機関があっても専門性の高い医師がいないケースもあります。
これらの課題解決のために医療機関の新設や医療者の増員も考えられますが、少子高齢化の時代においては実現が困難です。そこで私たちは医療現場にアプリケーションを中心とするICTソリューションを提供することで医療資源の格差を解消したいと考えています。
医療コミュニケーションアプリ「Join」:迅速な診断を支援
編集部
そのような思いから生まれたアルムさんのプロダクトについてもご紹介いただけますか?
泉田さん
主力プロダクトは、医療関係者間のコミュニケーションを促すアプリ「Join」です。高セキュリティ環境下で、個人情報を保護しながら医療画像を含めた臨床データを共有できるのが大きな特徴です。
編集部
どのような医療シーンで「Join」が活用されているのでしょうか?
泉田さん
脳梗塞や脳出血、大動脈解離など、緊急性の高い疾患を診る脳外科や循環器内科、心臓外科などを中心に多くの医療者にご利用いただいています。
医療現場では自分の専門分野以外の疾患を診療することがよくあります。私自身も2023年3月まで慶應義塾大学病院の心臓血管外科に医師として勤めていましたが、専門外の患者さん、例えば脳梗塞の方の診察をすることがありました。検査の結果、診断はできても適切な対応に迷うことがあります。
そんな時に「Join」を使って専門性の高い医師に相談できれば、最善の治療方針を立てることができます。
遠隔ICUがもたらす医療革新:看護師の新たな活躍の場
▲泉田さんは元医師、花井さんは元看護師として株式会社アルムの事業に携わっている。
編集部
泉田さんと花井さんが所属するACU事業部では、どのようなことに取り組んでいるのでしょうか?
泉田さん
ACUは「Advanced Care Unit」の頭文字をとって名づけた部署名で、「Join」というコミュニケーションプラットフォームを活用し、さまざまな場面での医療提供を目指しています。
現在の日本では残念ながら、集中治療室(ICU)においても医療機関や地域によって医療資源に格差が存在します。例えばアメリカでは、ICUに設置された患者様の生体情報モニターやカルテ情報を外部の医療者と共有しながら医療提供を行っています。日本でも厚生労働省が遠隔ICUの推進に乗り出しており、私たちはその推進を支えるソリューションを提供していきたいと考えています。
大学病院など高度な専門性を有する医師を抱える医療機関と協力して、ICTソリューションの運用をサポートする業務も含めたサービス提供も視野に入れています。
医療界においてICTの活用が進化する中、私たちは患者さん中心の医療展開を実現する未来を描いています。専門家同士が情報を共有し連携することで、より効果的な治療が提供できると信じています。将来的には小規模な医療機関にも遠隔支援が届くような仕組みを構築することを考えています。
編集部
遠隔ICUは、医療従事者の働き方の選択肢が増えるというメリットもありそうですね。
泉田さん
その通りです。通常、看護師は病院で働くことが一般的ですが、遠隔ICUが普及すれば、看護師の働き方の選択肢が広がります。これにより、お子さんを育てる人などがキャリアを諦める必要はなくなり、柔軟な働き方が実現される可能性があると考えています。
また、高度なICUの専門性を持つ人が成果を上げ、それに見合った評価を受けられる世界を実現したいと考えています。
医療と企業をつなぐ「通訳者」:医療経験を活かす新たな役割
▲医師の資格を持つ泉田さんは、より良い医療を実現するために医療現場と企業をつなぐ「通訳者」になりたいと話す。
編集部
泉田さんは医師として働かれていましたが、アルムで新しい挑戦を始めようと考えた理由は何だったのでしょうか?
泉田さん
医療の現場で医師として働く中で、医療業界には解決が難しい課題が数多く存在することを実感してきました。一方で、医療業界はその特殊性から、ICTなど他の業界が参入するのが容易ではないという事情もあります。
だからこそ、医療の課題と企業側の事情の両方を理解する「通訳者」として、医療がもっと良くなるような後押しをしたいと考えました。医療とICTの橋渡しをすることで、より効率的で質の高い医療サービスの実現に貢献できると信じています。
アルムで活躍する元看護師:医療経験を活かした新たなキャリア
編集部
アルムさんの社員110名のうち、約3割が女性だと伺いました。(※2024年5月現在)花井さんは元看護師とのことですが、入社を決めた理由をお聞かせいただけますか?
花井さん
私は2023年6月にアルムに入社しました。自分が持つ看護師としての資格や経験を会社の中で自由に活かせそうだと感じたことや、挑戦したいことを積極的にサポートしてくれる雰囲気があることから、入社を決めました。
編集部
現在は泉田さんと同じACU事業部でICUの遠隔支援事業などに従事されていますが、どのような点にやりがいを感じますか?
花井さん
通常、看護師の業務は医師の指示に従うことが一般的ですが、遠隔ICUの普及により、看護師がより主体的に役割を果たす場が拡大する可能性があると考えています。
また、この事業を行うのが病院ではなく民間企業だという点にも大きな意義を感じています。看護師の資格や経験を持つ人が活躍できる場所は病院だけではないということを世の中に発信することで、看護師のキャリアの可能性が広がると思います。
柔軟な働き方と風通しの良さ:アルムの働きやすい職場環境
編集部
子育てしながらお仕事している方もいらっしゃると思いますが、両立を後押しするような制度はありますか?
泉田さん
弊社は自由な働き方ができる環境です。リモートワークも一人ひとりが必要に応じて選択しています。育児や介護などの事情に合わせて柔軟に対応できるようになっています。
▲ランチなど休憩に使えるリフレッシュルームでは、社員同士の交流が自然と生まれる。
泉田さん
また、オンラインでできることはオンラインでやろうという雰囲気があります。メンバーの誰かが家庭の用事などがある場合は会議の時間を調整するなど、フレキシブルに対応しています。
私はACU事業部の部長として、「私生活あっての仕事」という考えのもとマネジメントを行っています。自分自身も適度に休暇を取得し、メリハリをつけて働くよう心がけています。
編集部
部長である泉田さん自ら、ワークライフバランスを大切にする姿勢を示しているのですね。花井さんは、職場の働きやすさについてどう感じておられますか?
花井さん
アルムには、アイディアや意見を言いやすい環境があると感じます。泉田さんに相談すると、それを実現するためにどうすればいいのかを真剣に考えたり、経営陣にかけあったりしてくれます。
一緒になって取り組んでくれる上司がいることは心強いですね。社員の意見を尊重し、実現に向けて動いてくれる文化があります。
編集部
ここまでお話を伺い、アルムさんは制度面でも雰囲気づくりの面でも、働きやすい職場環境の実現に力を入れていることがよく分かりました。
多様性が強み:アルムの独自の社員構成と活躍の場
編集部
社内の雰囲気や、一緒に働く社員についてどのような印象をお持ちですか?
花井さん
開発部署を中心に海外出身のメンバーも多く、私の席の近くではスペイン語が飛び交っています。
最初は話しかけるのをためらっていましたが、チョコレートをきっかけに会話が生まれました。彼らは日本語を、私は英語を勉強しているので、「お互いに教えあえるね」と話しています。
ほかの部署の人たちとも気軽にコミュニケーションできて、そこから輪が広がるのがアルムの良いところだと感じます。
編集部
泉田さんや花井さんのように、医療機関出身の方も多いのでしょうか?
泉田さん
私たちの部署は事業の特性上、医療者を中心に構成していますが、社内全体では様々なバックグラウンドを持つ人が集まっています。
例えば、救急隊出身者や、異業種での営業・開発経験者もいます。それぞれの強みを出し合って新しいものを作り上げる面白さがあると感じます。
社内交流促進策:社員旅行とクラブ活動で深まる絆
編集部
イベントなど、社内交流を深める企画についてご紹介いただけますか?
泉田さん
年に1度、社員研修旅行を開催しています。2023年は徳島や愛媛を訪れ、1泊2日で和気あいあいと楽しみながら親交を深めました。海外出身のメンバーも参加し、お酒を飲みながら文化交流もできました。
▲四国方面を訪れた社員旅行での一コマ
花井さん
ゴルフや登山などの部活動もあるので、同じ趣味を持つ仲間を見つけて一緒に楽しむこともできます。これらの活動を通じて、部署の垣根を超えた交流が生まれています。
求める人材像:チャレンジ精神あふれる新規事業への挑戦者
編集部
公平な医療福祉の実現に取り組むアルムさんが、一緒に働く仲間に求めることは何ですか?
泉田さん
私たちが大切にしているのは「変革に向けた挑戦心(チャレンジ・スピリット)」です。新しいことに挑戦したいと思っている方とぜひ一緒にお仕事したいと思っています。
新規事業は、一歩進めば壁にぶつかり、別の方向に進めば暗闇という状況の中を前に進む必要があります。そのような環境を楽しみながら一緒に挑戦していただける方を求めています。
編集部
最後に、アルムさんのお仕事に興味を持つ方に向けてメッセージをお願いします。
泉田さん
医療は他人事ではなく、最終的には必ず自分に関わってくるものです。ここでの挑戦は、自分たちの未来を守ることにつながります。
これまで弊社はICTソリューションの提供を中心に行ってきましたが、今後は医療により深く根ざしたサービス展開を行う予定です。そのため、医療従事者の方も積極的に募集しています。医療の外から何かを変えたい方、新しい医療にチャレンジしたい方がいらっしゃいましたら、ぜひご応募ください。
編集部
医療課題の解決に取り組むアルムさん。その事業は社会的意義を感じられるだけでなく、自分や大切な人の健康を守るために「自分ごと」として真剣に向き合うことができるものだと感じました。
本日はありがとうございました。
■取材協力
株式会社アルム:https://www.allm.net/
採用ページ:https://recruit.allm.net/