地域に貢献しながら成長を続けている企業をインタビューする本企画。今回は、福島県郡山市を拠点に活動しているプロバスケットボールチーム「福島ファイヤーボンズ」にお話を伺いました。チームは地域密着型の活動を展開し、スポーツを通じて福島の魅力を発信しています。
福島ファイヤーボンズの概要:地域に根ざしたプロバスケチーム
▲福島ファイヤーボンズは2023年で結成10周年を迎えた(公式ページより)
福島ファイヤーボンズは、福島県郡山市を拠点に活動するプロバスケットボールチームです。現在、男子プロバスケットボールリーグ「B.LEAGUE(Bリーグ)」の2部リーグ「B2リーグ」に所属しています。2シーズン連続で1部昇格をかけたプレーオフに進出するなど、着実に実力を向上させています。
会社名 | 福島スポーツエンタテインメント株式会社 |
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住所 | 福島県郡山市堂前町1-2 石井ビル1F |
事業内容 | ・プロバスケットボールチーム"福島ファイヤーボンズ"の運営 ・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ(B.LEAGUE)の試合興行 ・グッズ・チケット販売 ・地域スポーツ振興普及ほか |
設立 | 2013年5月16日 |
公式ページ | https://firebonds.jp/ |
福島ファイヤーボンズが掲げるミッションは「組織とコミュニティの可能性を最大化し、先頭に立って『誇れる福島』をつくる」です。このミッション達成のため、「福島のシンボルになる」というビジョンを設定し、福島への貢献を目指して活動しています。
地域と密接に結びつきながら成長してきたチームの歩みについて、運営会社「福島スポーツエンタテインメント株式会社」の代表取締役社長である西田創さんにお話を伺いました。
福島ファイヤーボンズの地域密着戦略:プロスポーツと地域振興の融合
▲地域に根差した活動に力を入れている
編集部
初めに、福島ファイヤーボンズさんについてお教えください。
西田さん
福島ファイヤーボンズは福島県郡山市を拠点に活動しているプロバスケットボールチームです。男子プロバスケットボールリーグのBリーグに所属しており、現在は2部リーグのB2リーグ東地区に属しています。
設立は2013年で、東日本大震災を契機に立ち上がりました。チーム名のボンズ(BONDS)は福島の皆様との絆を高め、「誇れる福島」を一緒になって作り上げていくという思いが込められています。
編集部
運営会社である福島スポーツエンタテインメントさんの事業内容についても伺わせてください。
西田さん
福島スポーツエンタテインメントの主な業務は、試合に観客を集めることです。試合に多くの観客が集まれば賑わいが生まれ、メディアの注目を集め、スポンサー企業の獲得にもつながります。
また、将来プロバスケットボール選手として福島ファイヤーボンズを目指す子どもたちの育成事業も行っています。具体的には、中学校などに選手が出向き、「バスケットボールクリニック」と題してバスケの指導やボールの寄贈などを行っています。
さらに、地域に根差した事業も展開しています。例えば、郡山市と共同で「こおりやまスポーツイノベーション事業」を実施しています。この事業では市民参加型の健康プログラムやスポーツ指導者講習会などを行っています。また、地元企業とも連携して活動しています。先ほど述べたバスケットボールクリニックも、地元企業の協力があって初めて実現できているものです。
編集部
チーム運営というと一般的には試合の運営がイメージされますが、実際には幅広い事業を展開されているのですね。
福島の誇りを目指して:ファイヤーボンズが描く地域のシンボル像
▲福島ファイヤーボンズのマスコットキャラクターも参加した福島空港開港30周年記念イベント
編集部
地域に根差した活動を心掛けている福島ファイヤーボンズさんですが、チームとしても地域貢献を大切にされているのでしょうか?
西田さん
はい、そうです。福島ファイヤーボンズは「組織とコミュニティの可能性を最大化し、先頭に立って『誇れる福島』をつくる」というミッションを掲げています。
福島は東日本大震災以来、さまざまな風評被害に苦しんできました。地元の人々も、福島についてどう発信すべきか悩んでいます。そのため、福島として誇れるものを作り上げる必要があるのです。
ただし、福島ファイヤーボンズだけが目立てばよいわけではありません。チームの成長が福島というコミュニティの成長に結びついてこそ意味があります。そのため、地域との結びつきは非常に大切にしています。
編集部
西田さんは2020年から福島ファイヤーボンズの経営に参画されていますが、手応えはいかがでしょうか?
西田さん
街中での露出が増えたり、地元の方から声をかけていただいたりと、少しずつ変化を感じています。
しかし、認知度については伸びる余地がまだ多くあります。福島県のプロスポーツは全国的に知名度が高いとは言えません。そこで、福島ファイヤーボンズが福島のプロスポーツの代表的存在となり、福島のシンボルとして地域を牽引していく姿を目指しています。
急成長の実績:福島ファイヤーボンズの驚異的な業績向上
編集部
現在のチームの状態はいかがでしょうか?
西田さん
福島ファイヤーボンズが目指しているのは、もちろん1部リーグであるB1昇格です。現在、2シーズン連続でB2リーグのプレーオフ、つまり優勝決定戦に進出しています。このことから、勝利を期待できる段階まで成長できていると考えています。
チーム状態が順調なこともあり、観客動員数や売り上げもコロナ禍を乗り越えて回復傾向にあります。
編集部
観客動員数や売り上げの部分についてもう少し詳しく伺わせてください。
西田さん
売り上げについて具体的に説明しますと、2016~2017年のシーズンは約1億9千万円、2017~2018年のシーズンは約2億円、2018~2019年のシーズンは約2億1千万円と順調に伸びていました。しかし、コロナ禍によってシーズンが中断したこともあり、2019~2020年のシーズンは約1億5千万円と売り上げが減少しました。これは過去最悪の状況でした。
しかし、その後回復し、2020~2021年のシーズンは約2億6千万円、2021~2022年のシーズンは約3億8千万円まで売り上げが伸びています。2023~2024年シーズンは現時点で5億6000万円程度の売り上げが見込まれています。
編集部
すさまじい伸び方を見せていますね。
西田さん
数字はスポンサー企業数や入場者数にも表れています。2020~2021年シーズンのスポンサー企業数は178社でしたが、2022~2023年シーズンは257社、2023-24シーズンは416社に増加しました。スポンサー収入も合わせて2倍以上に増えています。多くの企業様からのご支援に心から感謝しています。
入場者数については2021~2022年シーズンが平均814名でしたが、2022~2023年シーズンでは1,567名に増加しています。1試合の最多入場者数では3,000名を超えた試合もありました。
まだ成長の余地はありますし、有料チケットの購入率も向上させる必要がありますが、事業面での成長を実感できる段階まで来たと考えています。
編集部
地域のプロスポーツでここまで順調に売り上げを伸ばせているケースはそれほど多くないと感じます。
成長戦略の核心:地域連携とふるさと納税活用による事業拡大
編集部
福島ファイヤーボンズさんがここまで成長できている要因としてはどんなことが挙げられるでしょうか?
西田さん
福島ファイヤーボンズの成長要因としては、主に二つのことが挙げられます。一つは地域を巻き込んでいること、もう一つはふるさと納税の取り組みを始めたことです。
先ほども申し上げた通り、福島ファイヤーボンズは地域との結びつきを重視しています。基本的には、ファイヤーボンズだけで活動するのではなく、地域の皆様と一緒に取り組んでいくというスタンスを大切にしています。
具体的な例として、福島の事業者さんとコラボしたオリジナルグッズの開発が挙げられます。ファイヤーボンズは福島のアパレルデザインチーム「福島アパレル」とコラボし、オリジナルアパレルブランド「FUUP」を立ち上げています。
選手のユニフォームなどの着用物についても、大手のスポーツブランドと組めば経済的な利点は大きいのですが、ファイヤーボンズとしては「福島製」という部分を大切にしたいのです。
「福島のシンボルになる」という視点から、経済的な利点よりも「地域の人たちと一緒に作り上げていく」という部分を重視しています。
編集部
地域に寄り添うという姿勢が一貫していますね。ふるさと納税の取り組みについてもお聞かせください。
西田さん
福島ファイヤーボンズでは、ふるさと納税の仕組みを活用して寄付金を募っています。企業が福島県の自治体に地方応援税制の仕組みを利用して寄付をすると、実質負担が1割程度で済む税額控除の仕組みがあります。
この仕組みを活用して、主に首都圏の企業にお声がけをしています。これにより、地方自治体、地方のプロスポーツチーム、寄付企業のそれぞれにメリットが生まれる、三者にとって有益な関係で事業を実施することができます。
現在、ふるさと納税の寄付総額は1億円規模まで拡大しています。この寄付金を元に、自治体と共に地域を活性化するための事業を企画・実施しています。
新たな挑戦:本拠地アリーナの指定管理者としての地域貢献ビジョン
▲2023年冬から本拠地である郡山総合体育館の指定管理運営者となる
編集部
今後の事業展開についてお教えください。
西田さん
福島ファイヤーボンズは、ホームゲームで利用している宝来屋郡山総合体育館の指定管理運営者の一員になります。一般的なプロスポーツクラブは施設を借りる立場ですが、私たちは地域企業の皆様と共に施設を管理運営していく立場を担うことになります。これは非常に重要な変化です。
編集部
自分たちの試合会場を自分たちで運営していくというのは大きなプロジェクトになりそうです。どのような施設にしていこうとお考えでしょうか?
西田さん
施設管理で重要となるのは、試合を行わない期間の施設運営です。年間約300日ある非試合日をいかに地域のために活用するかが大切になります。
現在の構想として、地域の課題解決に貢献する施設を目指しています。例えば、高齢者の健康寿命延伸や、部活動の維持が困難になっている子どもたちの受け皿となる施設を作りたいと考えています。
施設管理は福島ファイヤーボンズにとって大きなビジネスチャンスであり、地域と連携しながら様々な取り組みを行うことにやりがいを感じています。
編集部
福島ファイヤーボンズさんがどんな施設を作っていくのか、今後の展開が楽しみです。福島ファイヤーボンズファン、バスケットボールファンにメッセージをお願いいたします。
西田さん
東日本大震災で福島は甚大な被害を受けました。この地域の復興と成長は社会的に大きな意義があると考えています。福島ファイヤーボンズは、その成長過程において地域活性化の先頭に立ちたいと考えています。
福島ファイヤーボンズは単に自チームの名声のために勝利を目指すのではありません。私たちの勝利は地域の発展につながるものです。ファイヤーボンズの勝利が福島の成長を示すものとなるよう努めていきますので、皆様の応援をいただけると幸いです。
編集部
福島ファイヤーボンズさんの成長と福島の成長がリンクする。そんな未来が楽しみです。
西田社長のキャリア:ラグビー選手から学んだ組織運営の知恵
編集部
福島ファイヤーボンズさんの運営に携わるまでの西田さんの経歴について伺わせてください。
西田さん
私自身もスポーツを続けてきましたが、主に取り組んでいたのはラグビーでした。高校時代は全国大会で準優勝を果たし、その後立教大学に進学しました。大学でもレギュラーとして活躍できましたが、これはチーム状況などの運も重なった結果だと考えています。
大学時代はチームのリーダーを任され、早稲田大学や明治大学といった強豪チームに勝つための戦略を常に考えていました。大学卒業後は、強豪チームである「NECグリーンロケッツ」に所属していました。
編集部
組織運営という観点で言うと、大学時代の経験が大きそうですね。
西田さん
大学時代は組織運営に興味を持って勉強を始めた時期でしたね。社会人時代は強豪チームでプレーする喜びを感じながら過ごしていました。
本格的に組織運営の経験を積むことになったのは、社会人チーム引退後に母校である立教大学に指導者として戻ったときです。当時の立教大学は1部リーグから2部リーグに降格した時期でしたので、1部復帰を目指して組織について一生懸命勉強しました。これまでの指導法を見直すなどの努力を重ね、最終的に1部に復帰することができました。
編集部
ラグビー一筋だった西田さんが、なぜプロバスケットボールチームの運営に携わることとなったのでしょうか?
西田さん
組織運営について学ぶ過程で、組織コンサルティング会社の株式会社識学と出会いました。「この会社で学びたい」と思い入社し、講師兼営業として働いていたところ、識学が福島ファイヤーボンズのオーナー企業となったのです。「運営をやりたい」と手を挙げ、ファイヤーボンズに携わることとなりました。
経験を活かした経営手腕:プロアスリートの視点で組織を導く
編集部
バスケットについては未経験という状態でチーム運営に携わることとなりましたが、不安はなかったのでしょうか?
西田さん
バスケットは未経験でしたが、不安はありませんでした。「これから知っていけばいい」という気持ちでした。現場の指揮をとるわけでもありませんし、そこはプロにお任せするというスタンスです。
組織運営についても識学で2年ほど携わらせていただいたので、不安よりも「このチームを再建していく」という意気込みの方が強かったです。
編集部
再建という言葉がありましたが、具体的にどのような手法を取ってきたのでしょうか?
西田さん
少しお恥ずかしい話かもしれませんが、挨拶や事務所の環境整備といった基本的なところから手を入れてきました。今では社内でもルールが浸透してきて、社員の士気も上がってきたので、そういった当たり前の部分のレベルが上がってきたと感じています。
編集部
西田さんは実際にプロスポーツ選手だったので、「選手の気持ちが分かる社長」という声もあるのではないでしょうか?
西田さん
自分がプロスポーツ選手だったからこそ、選手の気持ちは一定理解できると思います。ただ、「プロとしてもっとやらなければいけないだろう」と思うこともありますね。
現場からいろいろな声は上がってきますが、理解できる部分と甘えが出ている部分をしっかり見極める必要があると考えています。そういう考え方ができるのは自分の強みだと感じています。
とはいえ、私がやってきたラグビーとバスケットボールは全く違う競技です。そのため、自分の意見を押し付けるのではなく、現場の意見については事実の情報をもとに聞いていき、判断していくことを心掛けています。
福島ファイヤーボンズの理念:スポーツの可能性を信じ、地域と共に成長する
▲福島ファイヤーボンズが掲げているミッション。スポーツの可能性を信じて福島のシンボルとなっていく(公式ページより)
編集部
福島スポーツエンタテインメントさんには現在何名の社員さんがいらっしゃるのでしょうか?
西田さん
福島スポーツエンタテインメントの社員は約30人です。郡山市を拠点に活動しており、試合の運営担当だけでなく、営業や広報など様々な部門があります。それぞれの部門で人材を求めています。
編集部
地域密着のイメージが強いのですが、福島県外の出身でも活躍できるでしょうか?
西田さん
私自身も元々は県外出身ですが、現在は福島に住んでいます。福島に強い愛着を持って働いているので、県内出身、県外出身に関わらず活躍できます。もちろん、移住して入社する方も大歓迎です。
編集部
最後に、福島ファイヤーボンズさん、そして福島スポーツエンタテインメントさんに興味を持っている方に向けてメッセージをお願いいたします。
西田さん
私は選手引退後、スポーツのコーチや営業、コンサルタントと転職を重ねてきました。転職を機に人生が変わった経験があります。自分の目的意識とやり抜く力が福島スポーツエンタテインメントとマッチすれば、キャリアアップが実現できると思います。転職を自分の成長の機会と捉えていただければと考えています。
スポーツビジネスは華やかなイメージがありますが、実際はかなり地道な作業も多いです。試合は華やかですが、その裏側には多くの努力があります。地域のために黒子役になれる気持ちがある方と一緒に頑張っていけると思います。
何よりも大切なのは、スポーツの可能性を信じていることです。スポーツには人を育て、引き付ける力があります。スポーツの可能性を本気で信じていないと、この業界では活躍できません。これはどのスポーツの運営に携わる場合でも共通しています。
スポーツの素晴らしさを信じている方には、福島スポーツエンタテインメントだけでなく、スポーツ業界全体に携わってほしいと思っています。
編集部
福島ファイヤーボンズさんはスポーツの力で福島を魅力的な地域にしようと活動されています。スポーツの可能性を信じている方が集まっている組織だからこそ、大きく成長しているのだと感じました。本日はありがとうございました。
■取材協力
福島ファイヤーボンズ:https://firebonds.jp/
採用ページ:https://en-gage.net/join_firebonds/