企業の新しい働き方やワークライフバランスなどについて紹介するこの企画。今回はWebシステム開発・自社開発サービス事業を展開する、メンバー全員がテレワーカーのしくみ製作所株式会社にインタビューしました。
2014年の創業時からフルリモートを貫く「しくみ製作所」
しくみ製作所株式会社は、“少し未来の「日常」をつくる”をミッションに掲げ、Webシステム開発・自社開発サービス事業を展開する企業です。
2014年の創業当初より完全なリモートワークで組織を運営しており、エンジニアを中心に全国にメンバーがいます。その取り組みは2015年に総務省「テレワーク先駆者百選」に認定されています。
会社名 | しくみ製作所株式会社 |
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住所 | 札幌市中央区南一条西十六丁目1番323号 |
事業内容 | ITソリューションサービス |
設立 | 2014年8月 |
公式ページ | https://sikmi.com/ |
働き方 | テレワーク |
2014年の創業時からテレワークをいち早く導入した同社には、どのような狙いがあったのでしょうか。テレワークにおけるメンバー間のコミュニケーションや組織運用など、同社が取り組んできた組織づくりを中心に、広報の穂積俊平さんにお話を伺いました。
受託サービスと自社サービスの2軸で事業を展開
▲しくみ製作所株式会社のミッション(公式サイトより引用)
編集部
はじめに、しくみ製作所さんの事業内容についてお聞かせください。
穂積さん
“少し未来の日常をつくる”をミッションに掲げる当社は、受託サービスと自社サービスの2つの事業を展開する、社名の通り“しくみを作り出す”会社です。
システム開発ではなく、あえて“プロダクト”としているのは、ビジネス、デザイン、エンジニアリングの3つの視点から、“何をつくるか”を一緒に考え、実際に構築まで行うことに重きをおいているからです。
開発内容がすでにしっかり決まっていて、仕様書通りに作る業務だけではなく、クライアントの事業視点と、わたしたちのモノづくりの視点を合わせ、ひとつのチームとして価値の高いプロダクトの実現を目指しています。
豊かな日常を創造する、プロダクト志向の受託開発が強み
編集部
しくみ製作所の受託開発の強みを教えていただけますか?
穂積さん
受託開発ではアイデアの構想段階からデザイン、開発などクライアントと伴走をするようなかたちで全ての工程に当社のメンバーが関わり、新規事業の全工程を内製的に行っています。
当社では本当に価値があるものに投資するため、仮説検証を繰り返します。その上でシステム開発をしてリリース、その後改善サイクルを回す一気通貫で行っているのが強みです。
編集部
しくみ製作所さんの受託サービスでは、ユーザー価値を大切にされているとのことですが、具体的に取り組まれていること、考えをお聞かせいただけますでしょうか。
穂積さん
受託サービスでも自社サービスでも、その先には我々が作ったものを使うエンドユーザーがいます。ユーザー価値とは、それを使うことで生活が豊かになったり便利になったりすることだと考えます。
それを実現するため、当社ではいきなり開発に着手するのではなく、開発プロセスにおいて試作モデルやデザイン資料を作るなど、価値検索のフェーズを明確に設けています。
つまり、本格的な開発に入る前に簡易的な試作モデルでユーザーにヒアリングをし、生活がどのようにブラッシュアップされるかを観察・検証してから開発に着手しています。
編集部
そのようなプロセスを踏むのには、どのような理由があるのでしょう。
穂積さん
受託して仕様書通りに開発をし、納品するのではなく、“本来つくるべきもの”を追求し続けることをモットーとしているのがその理由です。
作ったのはいいけれど、結局使われなかった、思うように売れなかったというような製品になってしまうと、当社に発注されたクライアントはもちろん、開発に携わったメンバー、誰一人として幸せにはなれません。エンドユーザーも含め、製品に携わる全ての人が幸せになれるものづくりを目指しています。
編集部
なるほど。技術を提供するだけではなく、その製品がどのような方に、どう使われていくかまでを考え、開発に着手されているのですね。
自社開発の「BONDO」と「reBako」
▲オンラインイベントサービス「reBako」のイメージ(サービスサイトより引用)
編集部
しくみ製作所さんの自社サービス事業は、どのようなサービスを展開されているのでしょう。
穂積さん
自社サービスにおいては、当社のメンバーが得意とする技術を軸に展開しています。1つは「BONDO」というX(旧Twitter)を活用したゲームコミュニティのサービスです。
ゲームの攻略テクニックの情報共有や、一緒に遊ぶ仲間が集うコミュニティを作成することで、プレイヤーの継続率アップを狙うことを目的としています。
もう1つの「reBako(リバコ)」は、100名以上が参加する大規模イベントをオンライン上で開催することを可能にするサービスです。主催者はオンラインのバーチャル空間上に会場を作り、椅子やテーブル、ステージ、ブースなどを自由に設置することができます。
外部の会話が入らないセキュリティ空間で、双方向コミュニケーションを図ることができ、就職・転職活動の合同説明会やハッカソン(※1)、Go Conference(※2)などで活用いただいております。
(※1)ハッカソン:特定技術に興味をもつプログラマーが集まり,短時間(1日ないし数日以内)で集中的にソフトウェアの共同開発などを楽しむイベント
(※2)Go Conference:半年に1回行われるプログラミング言語「Go」に関するカンファレンス
編集部
一気通貫による自社サービスで培った技術や知見を、受託サービスにおけるものづくりの支援に活かされているのですね。
2014年の創業時からメンバー全員が完全テレワーカー
編集部
しくみ製作所さんでは、メンバー全員がリモートによる完全テレワーカーと伺っております。創業からテレワークの導入に至った背景をお聞かせください。
穂積さん
高校の同級生である創業メンバーの2人が同窓会で再会し、起業をしようと意気投合したことで、しくみ製作所は誕生しました。
会社にとって、参加してくれるメンバーが一番大事だとは思っているものの、名も無い小さな会社がどうやってよい人を集められるだろうかと考えた時に、「中途半端なことをやらずに思い切って完全テレワークにしよう」と思い立ったようです。
また、創業間もない不安定な状態で、狭く古いオフィスを借りて詰め込まれても辛いだけだと思い、オフィス代もメンバーに極力還元できたらと、そういう想いもあり、完全テレワークでの運営に踏み切ったと聞いています。
思い返せば、当社はコロナ禍前からテレワークに取り組んでいたことになりますね。今でこそ多くなりましたが、2014年の創業当時からオフィスも構えずテレワークのみという会社は、なかなかないのではないでしょうか。
編集部
現在に至るまで、一貫してテレワークを導入されているのはどのような理由があるのでしょう。
穂積さん
第一に、費用面でのメリット面が挙げられます。オフィスがないので家賃はもちろん、光熱費などの固定費がかかりません。
もう1つの理由としてはシンプルに、リモートでも仕事ができるからです。完全テレワークによる運営に踏み切ったものの、お客様との打ち合わせなど、仕事としてきちんと回せるかといった不安は少なからずありました。
その不安を払拭したのがビデオチャットツールです。創業時はGoogle Meetがちょうど出始めた頃でした。試行錯誤を繰り返しながら活用することで、お客様としっかりお話ができることがわかりました。
完全テレワークの会社であることが前提としてあるため、お客様がオフラインで業務を依頼することはほとんどなく、結果、フルリモートでも会社は成り立つことがわかり、一貫してこのスタイルを維持しています。
主体性を持った働き方でテレワークの壁、組織運用の課題を解決
編集部
完全テレワークにするにあたって、どのような課題がありましたか?
穂積さん
お客様とのやりとりで課題に感じたことはほとんどありませんが、組織運用では何度か壁に当たったように感じます。
1つはマネジメントです。主体性を重視するカルチャーが根付く当社ですが、テレワークの場合、姿が見えない分、どうしても怠ける者がいるのでは?という話になってしまいがちです。だからといって数時間おきに業務の進捗報告を義務付けるとなると、メンバーのモチベーションも下がり、コストも無駄にかかってしまいます。
これでは生産性に大きな影響があると考え、「主体性を持って働き方をデザインしてください」という方針に舵を切りました。
編集部
役割を全うすれば、働き方はある程度自由というわけですね。
「ホラクラシー」をスリム化し、独自のガバナンスを確立
編集部
他に、しくみ製作所さんが課題として感じたことはありますか?解決策も含め、お聞かせください。
穂積さん
これはリモートワークに限った話ではありませんが、組織として“30人の壁”がありました。現在、約50名のメンバーがジョインしているのですが、30人になった時に、情報伝達や意思決定、フローの確認などが思うように行かず、組織運用の難しさを痛感しました。
課題解決のために導入したのが、従来の階層的な組織構造ではなく、役職や階級が存在しないフラットな「ホラクラシー(※)」という組織体制です。主体性を重視する当社のカルチャーにフィットすると考え導入したのですが、現在はコンパクトガバナンス宣言というものに変更し、運営しています。
(※)ホラクラシー:2007年に米国のソフトウェア会社の創業者が提供した組織経営の考え方
従来のホラクラシーがフィットしなかった理由は3つあります。
1つ目は、「ルールが重たい」という点です。改善が難しく、具体的すぎる部分があり、現実をそれに寄せていく行為が高コストになってきました。
2つ目は「縦割り感・情報の不透明性」です。ホラクラシーは権限を委譲する設計思想なので、委譲後は意外と不透明になりがちでした。全体として透明・検査・適用のような改善ループを回したいというのが根底にあったため、そのことと委譲の構造の噛み合わせがあまり良くないと感じてきました。
3つ目は、「会議が規定されすぎている」ことです。規定されているものだけを実行していく傾向になってしまい、会議やコミュニケーションについて考えて改善する機会自体が減っていく感覚が大きくなってきました。
これらを踏まえ、スリム化したものを制定したというわけです。
編集部
具体的にはどのようにスリム化されたのでしょう。
穂積さん
基本的なホラクラシーの考えは踏襲しつつ、「憲法」から「宣言」へと重たいイメージだったものを軽いフレームワークにし、階層性は廃止しました。会議は各自が考える方式に変更することで、どの役割とどのような会話をすると良いのかを考え、必要なコミュニケーションを自由に取ってもらえるようになったと思います。
編集部
ホラクラシーをしくみ製作所さんが重視する主体性にフィットさせるため、システムをカスタマイズし、コンパクト化されたということですね。
働く場所を自由に選べるフルリモートで、海外在住者もジョイン
▲メンバーがタイでブログ記事を書いているようす。
編集部
テレワークを導入したことで、しくみ製作所さんのメンバーは、どのようなことにメリットを感じているのでしょう。
穂積さん
まず、好きなところに住めることを最大のメリットと感じているメンバーが多いように思われます。私の場合、入社当時は東京に住んでいたのですが、完全テレワークということで、故郷の福島に帰って来ることができました。
メンバーの中には食べ物が美味しいという理由で札幌に移住した者、インドネシアに住んでいる者、過去には世界1周旅行をしながら働いていた者もいます。海外の場合は時差の問題もありますが、そこは各々の工夫で頑張っています。
私の場合はペットのオカメインコである"ぴーなっつ"とずっと一緒にいることで、癒しを得られることにテレワークの良さを感じます。コロナ禍によって企業が働き方を模索する中、当社の場合はもともと完全リモートワークなので、急な対策や変更を強いられることなく、普段と変わりない運営ができたこともメリットとして挙げられます。
編集部
生活に重きを置きながら、仕事も頑張ることができる理想の働き方ができるのですね。
テレワーカーの働く環境を整える「リモートワーク補助金」
▲リモートワーク補助金を使い、自宅にトレーニング環境を整えたメンバーも。
編集部
フルリモートの場合、どのような福利厚生があるのか、読者も気になるところだと思われます。しくみ製作所さんではどのような福利厚生制度を設けていらっしゃいますか?
穂積さん
福利厚生に関しては、年15万円のリモートワーク補助金があります。
制定当初は「リモートワーク環境を整える」ことを目的とし、デスクや椅子を始め、周辺機器、また自宅にこもりがちなリモートワークの解消として、外出機会の創出のための使用や、健康維持等にも活用してもらえるような運用としていました。
ただ、どこからどこまでという線引きも難しかったことから、現在では「公序良俗に反するもの」以外には使用できるというルールに変更しました。
自宅に作ったジムのアイテム購入、運動不足解消のためのルームランナーの導入、勉強会の参加費用・書籍代に使うケースや、仕事部屋に空気清浄機を設置したり、家族と外食したり、バーベキューのようなイベントや英会話教室の費用に用いたりと、汎用性の高い使用が可能となっています。
上限を設けない“思いやり休暇”と就業時間の柔軟な対応で働き方を選択
編集部
しくみ製作所さんの休暇制度についてもお聞かせください。
穂積さん
しくみ製作所では、目的に向かってチームで協力しながら進んでいくことを重要視しており、目的を達成するために必要な役割分担を設計し、各役割を果たせるように各々が主体的に動いています。
このような中、目的に向かって頑張っていて、関係者内で調整・合意ができているのであれば、年次有給休暇とは別に休みが取れる制度があります。それが”思いやり休暇”です。
例えば持病があって、毎週特定の曜日と時間帯は有給を取る必要がある場合、年次有給休暇を使い切った後は欠勤扱いとなるのが一般的ですが、当社ではこのような場合も前述の条件を満たしていれば、思いやり休暇を申請することが可能です。また、子育て世代も多いのでお子さんの送迎等での出入りにも柔軟に対応しています。
リモートワークによる生活での選択肢も増えていますし、各自が生活の設計を自由にできるような制度を設けています。
編集部
もちろんルールはあった上で、各自が裁量を持って働くことで、自主性を持ち、働き方を自由にデザインできるのですね。
エンジニアが知見を共有する“研究発表会”と、ポテンシャル枠のための“寺子屋”
▲オンラインで開催される研究発表会のようす。参加者はコメントやリアクションで発表を盛り上げる。
編集部
リモートワークの場合、メンバー同士が顔を合わせる機会が少ないため、コミュニケーションが課題となりがちです。しくみ製作所さんではメンバー同士のコミュニケーションはどのように図られていますか?
穂積さん
エンジニアがプロジェクトで培った知見を共有する「研究発表会」というカルチャーがあります。先日の開催時には、開発に使用しているWebアプリケーションフレームワーク「Ruby on Rails(※)」のアップデートに関する知見共有がありました。
(※)Ruby on Rails:プログラミング言語RubyのWebアプリケーションフレームワークの1つ
もう1つが“寺子屋”という制度です。当社はもともと、実務未経験の主にスクール卒業生を受け入れる採用を設けており、これを“ポテンシャル枠”と呼んでいました。
現在は一定数を雇用できたことで、ポテンシャルという採用枠自体は廃止し、通常の中途採用に統合した形にはなりましたが、中長期的に目指していきたい組織を時間をかけて作っていくための制度として、2020年の後半からポテンシャル枠採用が始まったことに伴い「寺子屋」が立ち上がりました。
基本的には成長の手助けをする、いわゆるメンターがつき、週1回の振り返り会やSlackでの質問などがあります。また、ポテンシャル枠のメンバーにも実際にプロジェクトに入ってもらい、実践的な学びを提供してきました。
組織づくりに大きく貢献するポテンシャル枠の仕事力
編集部
ポテンシャル枠の方の採用では、どのようなことを採用基準にされていたのでしょうか。
穂積さん
他社で社会経験を積んできたという点を評価し、仕事力に関して一定以上のスキルがあることを基準としていました。エンジニアリング力としては、スキルが乏しくても問題ないと考えており、スクール卒業をしていることを一応のラインにしています。バックグラウンドは様々で、農業や銀行員を経験してきた者もいます。
当社はものづくり集団なので、どうしても技術屋気質が強くなりがちです。そのため、仕事力に長けた他業種の方がジョインすることで、会社の制度や取り組みなど組織にプラスになることを期待して採用しました。
その成果としてあるのが先ほどお話しした寺子屋です。これは、実はポテンシャル枠の人たちと一緒に作った制度なんです。ポテンシャル枠には、20代後半ぐらいの若い世代を積極的に採用していました。会社の年齢バランスが良くなり、アクティブな方が増えたことで、活気が生まれたと思います。
年2回のオフ会とSlackを活用したメンバーの交流
編集部
ここまで業務上におけるコミュニケーションの取り方をお聞きしましたが、メンバー同士の交流などで工夫されていることがあればお聞かせください。
穂積さん
業務を離れたコミュニケーションとしては大きく分けて3つあります。1つは年に2回の“オフ会”です。普段の業務はオンラインですが、実際に顔を見て話すことで、業務が円滑に進むことを目的としています。
1回目は東京や大阪など、メンバーがアクセスしやすい場所、2回目は地方での開催としています。直近では愛媛の松山で開催しました。
2つ目はSlackの分報チャンネルの活用です。疑問に思うことや考えていること、取り組もうとしていることをX(旧Twitter)のように自由に書いていきます。それをきっかけに自然にコミュニケーションが発生しています。
テーマが自由な分報チャンネルに対し、テーマを設けているのがSlackに作成した部活動チャンネルです。例えばガーデニングや筋トレ、プログラミングなどテーマごとにチャンネルがあり、興味がある者や共通の趣味を持つメンバーが交流しています。
家庭菜園チャンネルには先ほどお話しした前職が農業というメンバーが栽培方法などかなり本格的にアドバイスをしていて、かなり盛り上がっています。
編集部
フランクに話せる場を設けることで、プロジェクト外のメンバー同士の交流の場が自然に発生しているのですね。
ユーザー価値を考えたプロダクト開発に共感する方を歓迎
編集部
しくみ製作所さんのリモートによる完全テレワークという働き方や、充実した福利厚生などに興味を持った読者は多いと思われます。最後に、転職を考えている読者に向け、メッセージをお願いします。
穂積さん
当社の“ユーザー価値”という、プロダクト開発の理念に共感いただける方を歓迎します。“ものづくり”のプロ集団の一員であることを常に意識し、「何を作るべきなのか」「何がユーザーにとって価値なのか」を主体性を持って考えられる方が当社にフィットしていると言えるでしょう。
2014年の創業時からテレワークを導入してきた当社は、リモートによる円滑な業務やコミュニケーション作りに対し、早い段階から取り組んでいます。働く場所は全国、もちろん海外でもOKです。
編集部
価値のあるプロダクト開発に重きを置くしくみ製作所さんは、まさにものづくりのプロ集団と感じました。また、完全テレワークでありながら、メンバー同士の交流が盛んで、組織の仕組みもしっかりしていることに、働きやすさを感じた読者も多いと思われます。
本日はありがとうございました。
■取材協力
しくみ製作所株式会社:https://sikmi.com/
採用ページ:https://sikmi.com/recruit#open_positions