独自の企業文化を持ち、新時代の事業に挑戦する会社を紹介するこの企画。今回は、プロサッカークラブやサッカースクールを運営するスポーツX株式会社を取材しました。
スポーツX株式会社:おこしやす京都ACを運営する地域密着型企業
スポーツX株式会社は、関西サッカーリーグの1部に参加する「おこしやす京都AC」などのプロサッカークラブを運営する子会社を傘下に持ちます。各地の子会社同士は連携を図りながら、地域のハブやインフラのような存在を目指し、積極的に地域貢献活動を行っています。
会社名 | スポーツX株式会社 |
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所在地 | 京都府京都市 |
事業内容 | ・Jリーグクラブのインキュベーション ・プロクラブ経営のプラットフォーム |
設立 | 2017年10月 |
公式ページ | https://sportsx.jp/ |
今回は、スポーツX株式会社経営企画部の中田彩仁さんに、スポーツを通して地域に密着しながら成長してきた経緯や、個人の活躍を後押しする社内文化についてお話を伺いました。
全国各地でサッカークラブを運営:地域に根ざしたスポーツインフラを目指して
▲プロサッカークラブ経営などを通して、日本、そして世界を豊かにしていくことを目指している(採用資料から引用)
編集部
まず最初に、スポーツXさんの事業内容についてお聞かせいただけますでしょうか?
中田さん
スポーツXは、日本中・世界中に数多くのプロスポーツクラブを作り、スポーツの力を通して地域に貢献する"社会インフラ企業"を目指しています。現在、京都、仙台、広島の福山、岡山の倉敷、長崎の5つの拠点があります。
京都の拠点にある子会社は「おこしやす京都AC」といい、同名のサッカークラブを運営しています。私はそこで、人材開発や地域連携事業を担う事業部部長を務めています。
元々は、スポーツX代表取締役の小山淳が、地元の藤枝市で「藤枝MYFC」を設立し(現在J2)、創業会社としては史上最速となる立ち上げから5年でのJリーグ昇格を達成しました。そこで、プロサッカークラブの一つの経営モデルを確立しました。
その後、小山と中心メンバーが京都市で立ち上げたのがスポーツXです。藤枝MYFCのように地域に必要とされ、地域を豊かにしていくクラブを日本中、世界中につくっていきたいという思いを持っています。
編集部
世界中ということですが、スポーツXさんはグローバルな展開もされているのでしょうか?
中田さん
はい、グローバルにも展開しています。スポーツXのグループ会社に、「スクールパートナー」というキッズスポーツスクールを展開している会社があり、日本と世界を合わせて約1.9万人の生徒さんがいます。
ベトナムでは現在約4千人の子どもたちに通っていただいており、ベトナム国内No.1のスクールにまで成長しています。また、シンガポールでも600人程の子どもたちに通っていただいており、将来的にはプロサッカークラブ事業とシナジーを利かせながら展開していきたいと考えています。
過去には、スポーツXおよびスクールパートナーで培ったノウハウをミャンマー国内の選手育成・強化に浸透させていくことを目指し、ミャンマーナショナルリーグとの合弁会社を設立しました(現在は、政変の影響もあり中断中)。
▲スポーツXとミャンマーナショナルリーグとの合弁会社設立合意の様子
編集部
近年はテクノロジーを活用するスポーツクラブもあるようですが、そのような取り組みもしているのでしょうか?
中田さん
はい、テクノロジーの活用も積極的に進めています。例えば、仙台拠点では、中心街から車で45分ほどの大郷町にて、約55haの敷地を活用した「農業×スポーツ」一体型教育施設の開発を検討しています。
この施設では、サッカー場12面と宿泊施設を整備し、スポーツ合宿大会・企業研修・修学旅行を中心に全国や世界中から人を集める計画です。また、アカデミーを中心とした教育事業も実施します。テクノロジーを駆使して選手達の成長を最大化できる環境を実現したいと考えており、ピッチ上の映像をすぐに確認し、選手同士でプレーについてディスカッションしたり、個人のパフォーマンスや健康データを活用して科学的に成長プランを検討するなどの取り組みを計画しています。
さらに、大郷町は農業が基幹産業のため、地域の方々と連携しながら農業にも携わり、人手不足・後継者不足といった農業界の課題解決にも取り組む予定です。若い選手たちが農作業を協力するだけでなく、敷地内にはAI・IoTの力を活用したスマート農業を展開する企業を誘致したいと考えています。
ビジョンへの共感が生んだ異例の資金調達:11億円でクラブ創設へ
▲スポーツXの福山拠点にあるツネイシフィールド
編集部
スポーツXさんは、資本金として11億円以上を調達しています。それほどまでの金額を準備できた背景についてお聞かせくださいますか?
中田さん
スポーツXの事業やビジョン、未来に期待をいただいた結果だと思っています。ありがたいことに、純粋なスポーツクラブ経営を主軸とする企業としては、他に類を見ない額だと認識しています。
株主の中には、将来的に「自分のサッカークラブを持ちたい」という方もいますが、Jリーグ元チェアマンの村井満さんが「通常の企業経営とクラブ経営では、クラブ経営の方が難しい」と指摘しているように、その難しさゆえに、私たちに思いを託していただいているのではないかと考えています。
プロサッカークラブ経営が難しい理由としては、ステークホルダーが行政や地域に根ざした企業など多岐にわたる中、そういった方々と良好な関係を築くには専門的な知見が必要になるからです。このような状況で、藤枝MYFCなどでのスポーツXの実績を信頼し、自らの思いを託してくださった方も多かったのではないかと思います。
編集部
ノウハウや実績が認められたからこそ、それだけ多くの資本金が集まったのですね。冒頭にもおっしゃっていた経営モデルとは、どのようなものでしょうか?
中田さん
我々のクラブ経営の基盤には、トップチーム、スクールアカデミーの運営と、キャンプ事業と呼んでいる合宿・大会事業があります。この3つの事業がそれぞれ連動しています。
例えば福山の拠点では、そのベースとなる事業を進めています。創業120年の歴史を持つ地元のツネイシグループ様が地域の子どもたちのためにサッカースクールアカデミーを開設し、サッカーフィールド3面と600人程が収容可能な宿泊施設を運営されていました。
そのような中で「スポーツ事業の専門家に任せたい」とスポーツXにお声がけいただき、一緒に合弁事業を行うことになりました。
スクールアカデミーを事業として育てつつ、他地域からチームを招いた大会も開催し、宿泊施設の利用を促進しています。将来的にトップチームを設立できれば、トップチームの練習でフィールドの稼働率を上げ、選手たちにスクールアカデミーのコーチや宿泊施設の仕事をしてもらうことも可能です。これにより、人材的な好循環が生まれます。
また、選手のような若い世代が地域に集まれば、地域活性化の面でもプラスになります。単一拠点ではなく、そういったノウハウを国内外に横断的に広げていくことが、単一のクラブではできない、我々だからこそできる取り組みだと考えています。
編集部
スポーツXさんとしての事業が広がれば広がるほど、その拠点同士で相乗効果が期待できそうですね。
多様なバックグラウンドを持つ若手転職者:前職の知識を活かしてスポーツ業界で活躍
編集部
スポーツXにお勤めの社員の方は、どのような経歴をお持ちですか?
中田さん
現在の中心メンバーには、藤枝時代からの社員もいますし、中途採用では比較的大きな企業出身者が多いです。20代中盤から後半にかけてスポーツXに転職し、前職で培った専門知識を活かして業務に取り組んでいます。
スポーツ業界では、元選手や現場経験者がそのままフロントスタッフになるケースが多いです。その良さもありますが、ビジネス的な知識にギャップがある場合もあると聞きます。私自身、以前はコンサルティング会社に4年半勤め、2年前にスポーツXに転職しました。スポーツの現場では、個人の経験や能力に依存する業務が多いと感じました。
編集部
個人依存の業務を改善するため、具体的にどのような取り組みをされましたか?
中田さん
例えば、前職では各イベントや業務に対して「誰が、いつ、何をする」という役割分担や業務定義を明確にして進めることが基本でした。一方、スポーツの現場では口頭での確認のみで進めることが多かったです。
そうすると、作業中に認識のずれが生じたり、作業に時間がかかったりします。また、担当者が変わる際に、業務が可視化されていないため引継ぎに多大な時間を要してしまいます。チーム内のコミュニケーションを大切にしつつ、できるだけ業務を可視化・標準化し、より価値の高い業務に時間を使えるよう心がけてきました。
事業のダイナミズムと拠点間連携:スポーツXならではの魅力
▲社員プレーヤーを交えたミーティングの様子
編集部
スポーツXさんに集まる人材は、どのような業界から来ているのでしょうか?
中田さん
福山の事業責任者を務めている社員の前職は、私と同じコンサルティングです。仙台の事業責任者は伊藤忠商事から転職してきています。スポーツXの魅力を強く感じ、給与が下がることを覚悟して入社する人もいます。
個々の熱意は資金調達や成長につながっていると感じますが、スポーツビジネスがまだ十分に産業化されていない中で、事業を早急に成長させ、給与水準も含めてより魅力的な業界にしていきたいと考えています。
編集部
有望な若い方が、スポーツXさんに入社したいと思えるのは何故でしょうか?
中田さん
スポーツXだからこそできることがあるからだと思います。いろいろな拠点が連携してダイナミックな事業に取り組みつつ、地域に必要とされる存在になるための挑戦ができる会社は、他にはなかなかないと思います。
編集部
スポーツXさんの各拠点では、社員として働きながらプレーする現役選手もいるそうですね。
中田さん
「社員プレーヤー」と呼んでいるのですが、午前中にサッカーの練習をして、午後はクラブの業務をこなしています。サッカーと仕事の両方にしっかり取り組むことで、人間的な成長を遂げ、両方で高いパフォーマンスを実現できると考えています。その結果、サッカー引退後も、社会の様々な領域で活躍できる人材になると期待しています。
藤枝MYFC時代に、そのロールモデルのような選手がいました。サッカーの強豪大学を卒業後、社員プレーヤーとして「藤枝MYFCでJリーグ昇格を目指す」と決意し、サッカーも仕事も全力で取り組みました。
仕事にしっかりと取り組むことで、サッカー面でもメンタリティが安定し、結果的にはチームとともにJリーグへ昇格しました。7年間の現役時代を通して、キャプテン・レギュラーのサイドバックとして通算148試合出場・11得点という実績も残しました。現在は引退後、シンガポールのスクール事業の拠点リーダーを務めています。
編集部
さまざまなバックグラウンドを持った方と、多様なキャリアパスが存在しているのですね。
「原因自分論」を基盤とした企業文化:外部環境より自己改善にフォーカス
▲おこしやす京都ACでガーナ人監督の通訳を務める中田さん(左)
編集部
新型コロナウイルスの流行により、プロスポーツの観客数が低迷するなど大変な時期があったと思います。その苦境を、スポーツXさんはどのように乗り越えたのでしょうか?
中田さん
スポーツXが大事にしている「原因自分論」という考え方があります。問題が起きた時に周りの人や環境のせいにするのではなく、「自分にできることはなかったか」「自分に原因がなかったか」と振り返り、次のアクションを検討します。外部の変化に対して、自分たちのできることにフォーカスする文化は、組織に根付いています。
例えば、高橋というスポーツXの執行役員は、1日3人以上の経営者に会うことを12年間続けて、現在では1万4000人程の経営者ネットワークを構築しています。コロナ禍では対面での商談ができなくなりましたが、「ならばオンラインで」と1日に10件近い商談をこなしていました。
編集部
すごい行動力ですね。中田さんの入社時はコロナ禍の真っ只中だったと思いますが、先行きが見通せない中、なぜ入社を決めたのでしょうか?
中田さん
私は大学院でスポーツ社会学を専攻し、その後、コンサルティング会社に入社しました。スポーツビジネスには将来的に関わりたかったのですが、大学院を卒業した時点で自分の武器がないと感じていました。そこで、まずはビジネスについてしっかり学び、経験を積んだ上で、スポーツビジネス業界に入りたいと考えたのです。
実際にスポーツXの社員5名と面接を重ねる中で、人柄や雰囲気から「この人たちと一緒に働きたい」と純粋に感じたことも決断の要因です。最後に代表の小山とも面談しましたが、その強烈なビジョンと想いに共感したので、迷いはありませんでした。
個々の特性に合わせたミッション:成長を促す独自のマネジメント手法
▲おこしやす京都ACでガーナ人監督の通訳を務める中田さん(右)
編集部
スポーツXの社員の中には、スポーツクラブの運営について専門性がない状態で入社した方もいると思いますが、どのように成長してきたのでしょうか?
中田さん
代表の小山がよく口にするのは「山にはいろんな登り方がある」という言葉です。例えば、現在おこしやす京都ACの代表を務めている添田隆司は、東大卒業後、藤枝MYFCでJリーガーとしてプレーしていましたが、25歳でクラブ経営に転身しました。
添田は営業未経験でスタートし、最初は苦戦しましたが、多くの経験を積み重ね、自身の強みである分析力と探求力を活かして成果を検証し続けました。その結果、4年間で約1億円の営業成果を上げるまでに成長したそうです。
編集部
中田さんの場合はいかがでしたでしょうか?
中田さん
私の場合、多様な人材をマネジメントすることをミッションとして様々な経験をさせてもらっています。2022シーズンは、おこしやす京都ACでガーナ人監督の通訳と同時に、選手全体をマネジメントする現場責任者も務め、選手の心理を把握しながらのマネジメント方法を学びました。
代表の小山は、個人の強みや特性を活かしながら、中長期的なキャリアを見据えて人材を配置しています。個人の能力以上に難しいミッションを与えられるため、200%、300%増しで成長できる環境だと感じます。
同時に失敗した時のフォローアップもあるため、安心して挑戦できます。私の場合、週1回、2〜3時間ほど小山との1対1の面談がありました。
編集部
じっくりと時間をかけた面談ですね。小山さんからは具体的に、どのようなアドバイスがあったのでしょうか?
中田さん
ガーナ人監督の通訳として尽力していたにもかかわらず、その熱意が監督に伝わらず、チームをうまくまとめられていないと感じた時期がありました。そのことについて小山とディスカッションしました。
小山は、監督自身も想像以上の不安や苦悩を抱えているかもしれないと指摘してくれました。また、「もし自分がガーナで日本人1人でガーナ人選手たちを相手に監督を務めていたら」という視点を持つことの重要性を教えてくれました。これにより、異文化・異言語環境でのマネジメントの難しさや、相手の立場を想像することの大切さに気づかされました。
編集部
代表による丁寧で手厚いサポート体制があるのですね。また、コーチングの内容に「原因自分論」の考え方も反映されていると感じます。
求める人材像:物事に打ち込んだ経験を持つ情熱的な人材
▲おこしやす京都ACの地域訪問でのパートナーシップ契約締結の様子
編集部
スポーツXさんには、どのような気質の社員さんが多いのですか?
中田さん
スポーツをはじめ、何かに必死で打ち込んできた経験がある社員が多い印象です。そういった経験から、仕事でも貪欲に努力する姿勢が自然と身についていると思います。成長意欲が高く、自分が日々アップデートされていく感覚を楽しんでいるように見えます。
編集部
社内はどのような雰囲気なのでしょうか?
中田さん
社員プレーヤーは、オフィスに活気や賑やかさをもたらしてくれています。地域訪問活動では、選手ならではの親しみやすさや人懐っこさを発揮しています。
マネジメント層は、集中して仕事に取り組む時もあれば、盛り上がるべき場面では積極的に参加するなど、メリハリのある人たちが多いです。全体的にバランスの取れた職場環境だと言えるでしょう。
素直で前向きな姿勢:地域・社会貢献を目指す人材育成
編集部
最後になりますが、スポーツXさんに貢献できる人材は、どのような方になりますか?
中田さん
私の場合は、スポーツを通じて社会を少しでも豊かにしたいという思いを持っています。同じように、社会に貢献したい思いのある方であれば、壁に直面しても乗り越えられるのではないかと思います。
スポーツビジネス業界では即戦力を求める傾向がありますが、私はそれよりも、何かに打ち込んだ経験が大事だと感じます。その経験を応用すれば、新しい環境でも貪欲にキャッチアップして頑張れると思うからです。
編集部
選手のように、競技に注力してきた方も活躍できるのでしょうか?
中田さん
はい、活躍できます。例えば、元社員プレーヤーで、高校卒業後Jリーガーになり、キャリアの終盤でおこしやす京都ACに入団した選手がいました。ビジネス経験がなかったにもかかわらず、愚直に仕事に取り組む姿勢が印象的でした。
その選手は地域訪問で毎日20件、30件ものお店や企業を回り、クラブの紹介やポスター掲載をお願いしました。その結果、実際にパートナー企業としてクラブを応援していただけるご縁をいただくこともできました。訪問先との親しい関係性を築き、地域の方々から惜しまれながら引退しました。
彼の場合、その時自分にできることを愚直にやっていったことが、仕事での成果につながったのだと思います。これは社員プレーヤーに限った話ではありません。未経験の領域でも、目の前のことを素直に、前向きに取り組めるかというのは、組織全体としても非常に大切にしている価値観です。
編集部
その社員プレーヤーだった方は今、どうしているのでしょうか?
中田さん
地域訪問での働きぶりが評価され、ありがたいことに地域のパートナー企業様に就職が決まりました。セカンドキャリアにスムーズに移行できた良い例だと思います。
会社としては、選手引退後、クラブ経営者やトレーナー、指導者など、様々なセカンドキャリアを実現できる環境を整えたいと考えています。スポーツXの拠点を含め、自分の持ち味を発揮し、社会に貢献できるフィールドを選べるようなエコシステムを整えることが理想ですね。
編集部
自社の損得だけでなく、社員の人生に配慮した思いが根底にあるのですね。スポーツを通じて社会を良くしていきたいという思いが強く伝わってきました。本日はありがとうございました。
■取材協力
スポーツX株式会社:https://sportsx.jp/
採用ページ:https://sportsx.jp/recruit/