感動産業特区プロジェクトを進める沖縄県うるま市の若手の成長を後押しする環境とは

感動産業特区プロジェクトを進める沖縄県うるま市の若手の成長を後押しする環境とは

若手の成長を促す組織づくりとSDGs達成のための取り組みに力を入れる企業や自治体にインタビューする本企画。今回は、沖縄県うるま市にお話を伺いました。

歴史と自然あふれる「サンゴの島」である沖縄県うるま市

「勝連城跡」「安慶名城跡」など複数の国指定文化財がある歴史あふれる街が、沖縄県うるま市です。市名は沖縄の方言で「サンゴの島」という意味で、その名の通り美しい海の景色が広がっています。市内にある海中道路はドライブコースとしても有名です。

自治体名 沖縄県うるま市
住所 沖縄県うるま市みどり町一丁目1番1号
公式ページ https://www.city.uruma.lg.jp/

同市では豊かな自然を生かして人々に感動を届けることを「感動産業」と置き、感動産業特区という取り組みを進めています。取り組みの原動力となる職員を育てようと、新人の育成にも力を入れているのです。

同市の若手の成長を促す環境や感動産業特区の取り組みについて、総務部職員課人材育成係特命主査の野原温美さんにお話を伺いました。

本日お話を伺った方
沖縄県うるま市の野原さん

沖縄県うるま市役所
総務部職員課人材育成係特命主査

野原温美さん

「見る、知る、楽しむ」を主軸に置いた新規採用職員研修

勝連城跡にフィールドワークに出かける沖縄県うるま市の職員の皆さん
▲うるま市役所の新規採用職員研修ではフィールドワークも実施されている

編集部

うるま市役所では新人の育成に力を入れられているとのことですが、どのような取り組みをされているか伺わせてください。

野原さん

うるま市役所では1年目の職員のフォロー体制の強化に力を入れています。具体的には、新規採用職員の研修とメンター制度を充実させていること、月に一度同期で交流する「情報交換会」を開催していることが挙げられますね。

まず新規採用職員研修については「見る、知る、楽しむ」を軸に置き、座学だけではないプログラムを実施しています。具体的には市内の世界遺産にみんなで一緒に行くフィールドワークであったり、ゲーム形式、ワーク形式のプログラムを実施したりといったことを行っています。

横のつながりを同期同士で意識づけさせることを目指しており、研修を通して自然に仲が深まっていきますね。

編集部

研修では、どなたが講師役を務められるのでしょうか?

野原さん

うるま市役所の研修は職員が内部講師として講師役を担っています。若手も例外ではなく、2年目になった職員が新規採用職員研修の講師を務めることもあります。

また、研修は新規採用職員向けだけではありません。職員が講師役を務める研修は「職員寺子屋」という名称で実施しており、受講希望者を募り、自己啓発や実務に関する内容でカリキュラムを構成しています。実務について研修を実施することで、講師役にとっても学びになり、職員相互が成長する機会にも繋がっています。

自己啓発に関してはそれぞれの職員の体験をもとに話してもらっています。例えば、女性管理職が管理職のやりがいについてお話ししたり、子育てをしながら働いている職員同士で座談会を開いたりなど、テーマは多岐に渡っていますね。

編集部

職員さん同士が学び合い、悩みや体験談を共有されているのですね。

新規採用職員をサポートするメンターたち、学級担任のようなトータルメンターも

研修に参加する沖縄県うるま市の職員の皆さん

編集部

メンター制度についてもお教えください。

野原さん

うるま市役所ではメンター制度を導入しており、新規採用職員一人に先輩職員が1年間ついて、OJTをしてフォローしています。そのほか、メンターは上司に話すレベルではない日常の悩みを聞く役回りもあります。

それぞれのメンターのほかにも、職員研修担当者がトータルメンターという役割を担っています。トータルメンターは、新規採用職員の学級担任のようなイメージです。個人のメンターとは別に、職場での悩みを相談したり、日頃から声を掛けていたりなど、人事サイドを近くに感じてもらえるよう、意識しながら関わりを持っています。

新人との面談を定期的に実施したり、一緒に食事をするなどして新人に安心感を持ってもらっていますね。

編集部

メンター制度はいつごろから始められているのでしょうか?

野原さん

私が新人のころはマンツーマン研修という形でメンター制度もありました。特にメンター制度に力を入れだしたのは、人材育成係を立ち上げてから、ここ5年ぐらいのことです。

私はうるま市役所に勤めて20年ほどになりますが、メンター職員は自分の中でずっとメンターだと感じています。メンターは程良い距離感で新人に接するのです。新人に、憧れの先輩は誰か聞いてみると、ほとんどが自分のメンターを挙げますね。

メンターに教えられたことを、また次の世代の職員に伝えていくというのを組織として大切にしているのです。

TikTokアカウント創設に人材育成の仕組み構築、若手職員が主役となって活躍

うるま市役所の職員のみなさんが研修中に談笑している写真

編集部

研修やメンター制度など、若手職員を育てるための環境が充実していると感じました。これらの体制のもと、実際にどのような職員さんが育ち、活躍しているのか伺わせてください。

野原さん

2020年度に採用したある女性職員を例に挙げさせていただきます。彼女は新規採用職員研修から3年の実務経験を得て、現在私の所属する人材育成係に異動してきました。やはり1年目と比べると、かなり成長していると感じましたね。

彼女はこれまで窓口業務を担当していたのですが、職員課に配属されてからはクリエイティブな仕事を担うようになったのです。

具体的には、SNSの採用アカウントの運用を担当しています。これからは採用にもSNSが重要になるということで、彼女自身が提案してTikTokのアカウントを立ち上げました。

自治体という性質上、炎上を恐れてSNS運用は及び腰になりがちです。しかし、彼女は炎上せずにどうすれば正しい情報を発信できるかを分析し、これまでお世話になった先輩の人脈も活用しながらTikTokアカウントを立ち上げたのです。

編集部

新しいことにチャレンジする意欲とそれを実現するスキルを備えていらっしゃるのですね。なぜこの職員さんはここまで成長できたのでしょうか?

野原さん

彼女に聞いた話ですが、業務を通して先輩の姿を見て学んだことが大きかったそうです。先輩の姿から人を巻き込んでいく力や、説得力のあるプレゼンの方法などを学んだといいます。学んだ内容を見よう見まねで実践した結果、今回のTikTokアカウントの運用につながったのでしょう。また、チャレンジを否定せず、サポートする上司の存在も大きかったようです。

彼女の頑張りは周囲にも伝わっており、「すごく良いね」と声をかけられたそうです。周囲の声が、さらなる成長の意欲につながっていると話していました。

編集部

この職員さんの場合はうるま市役所内で成長した事例でしたが、自治体の職員さんのなかには他組織に出向される方も多いと思います。出向によって成長した職員さんのお話もお聞きしたいです。

野原さん

採用から5年ほどで沖縄県庁に出向し、財政や企画を担当する組織に所属した職員がいます。この職員に話を聞いてみると、出向によって俯瞰的に物事を見る力や根拠を捉える力が培われたそうです。

この職員は私の前任なのですが、この職員がうるま市役所に戻ってから人材育成の仕組みが大きく変革しました。沖縄県に出向した際に人事に携わったわけではないのですが、人材育成の本質を考えて制度を磨いていったのです。

また、この職員は、先ほどのメンター制度や新規採用職員をより大切にしていく姿勢を充実させた発起人でもあります。出向によって得た経験をフルに活用している事例だといえるのではないのでしょうか。

編集部

出向によって培ったスキルをフルで発揮できる環境にあるといえるのですね。

うるま市の資源をフル活用した「感動産業特区」プロジェクト

沖縄県うるま市の現代版組踊「肝高の阿麻和利」の写真

編集部

うるま市は8つの島を持ち、自然豊かな街並みが広がっています。これらの資源を守るためにどのような取り組みをされていらっしゃるのでしょうか?

野原さん

うるま市役所では「感動産業特区」というプロジェクトを実施しています。これはうるま市にある資源を通していろいろな体験をしていただき、気持ちが揺さぶられるような感動体験を味わってほしい、そしてこの感動体験を産業にしていこうというプロジェクトになります。

うるま市は沖縄県の旅行者のうち、2回目以降の方からの人気が高いと言われています。自然が豊かなことはもちろん、世界遺産もありますし闘牛という文化もあります。一方で、こういった観光資源のほかにも、地元の人々との関わりや、何気ない歩道もそのまま魅力になり得る、ひと味違った沖縄県観光を楽しめると思います。

うるま市全体で、5感で楽しめる感動体験を届けていくことによって、うるま市のことを多くの人に知ってもらえると考えています。

編集部

実際にどのような取り組みがなされているのでしょうか?

野原さん

令和5年8月に東京都文京区にてシティプロモーションを行いました。その中でも、総勢100名で構成する勝連城10代目城主「阿麻和利」の半生を描いている現代版組踊「肝高の阿麻和利」を目玉とし、4,000名ものお客様に来場していただきました。この現代版組踊「肝高の阿麻和利」は、いわば沖縄版ミュージカルといえるもので東京でも公演実績があり、感動産業特区の公式アンバサダーでもあります。

この情報だけ見るとプロの劇団と思われるかもしれませんが、演じているのは地元の中高生で構成している団体になります。もともとは子どもの居場所づくりとして発足した団体で、やがてうるま市の大きな魅力の一つに発展していきました。

編集部

地元の中高生が演じているということで、自分たちの住んでいる地域に愛着を持つきっかけにもなりそうですね。

野原さん

実際に演じている中高生は、地元に誇りを持ちながら演じています。やはり学生ではあるので数多く公演を実施できるわけではないのですが、いざ公演となると一生懸命に演じている子どもたちを見て大人は感動し、その大人たちの涙を見て、また子どもたちも涙するというような、会場が一体となって感動のサイクルを生んでいることを毎度目の当たりにします。

まさに感動体験を、その都度出会う人々へ届けられていると実感しています。

仕事を進める上で、やはり大切なのは「人間関係」

写真撮影でポーズを取る沖縄県うるま市の消防署職員

編集部

うるま市役所の雰囲気について伺わせてください。

野原さん

うるま市役所では職員同士が下の名前に敬称をつけて呼び合うことが多いです。それだけ職員間の距離が近いですね。特に同期同士の関係性については職場以上友達未満という言葉がぴったりかなと思います。もちろん、上司に対しても気軽に話しかけられます。

個々の会食なども活発ですし、厚生会のイベント参加率も高く、部署間の交流も盛んです。

編集部

世代間でも壁がないのですね。

野原さん

そうですね。実は今後、定年退職をしたシニア層の方に先ほどお話ししたメンターを担ってもらおうかと検討しているところです。うるま市役所は意欲のある方に長く活躍してもらえるような仕組みを作っています。

研修については管理職や経営層にもそれぞれの段階に合わせたものを実施していますし、シニア層職員向けのものにも力を入れています。

市長や副市長が活躍しているシニア層の職員を退職を控えた職員に紹介し、自分の活躍イメージを膨らませてもらってこれからの自分の役割を見出してもらうという機会もありますね。

編集部

幅広い年齢層の職員さんが活躍できる環境にあるのですね。

職員同士のつながりは深い、うるま市役所で挑戦を

沖縄県うるま市の野原さんと研修中の職員の皆さん
▲「うるま市役所は若手のチャレンジしたい気持ちを尊重する文化がある」と話す野原さん

編集部

うるま市役所では毎年何人ぐらいの職員さんを採用しているのでしょうか?

野原さん

うるま市役所は2022年度、2023年度で約60名の職員を採用しました。例年だと20~30人ぐらいの規模だったのですが、市長の意向もあり多めに採用したという状況です。

人数は多めに採用しましたが、それを受け入れられるだけの体制が作れていましたので、しっかりと新規採用職員それぞれに関われたと思います。

編集部

最後に、うるま市役所に興味を持っている方に向けてメッセージをお願いいたします。

野原さん

うるま市役所は職員同士のつながりが強く、市長自ら「私たちは仲間です」ということを職員に対して発信していますので、つながりの強さを実感しながら働ける環境だと考えています。

多種多様な住民ニーズに寄り添っていくのは、やはり大変なことも多いです。しかし、大変であっても仲間がいるのは心強いものです。

うるま市役所は若手のチャレンジしたい気持ちを尊重する文化がありますし、実際に働いている職員の満足度も年々向上しています。挑戦したいという気持ちを持った方と、互いに成長しながら働きたいですね。また、近年は、魅力あるまちづくりに向けた様々なイベントや取り組みに力を入れていますので、一緒にうるま市を盛り上げてくれる仲間を待っています。

編集部

若手が安心して、働きながら成長できる環境がうるま市役所にあると思いました。本日はありがとうございました。

■取材協力
沖縄県うるま市:https://www.city.uruma.lg.jp/
採用ページ:https://www.city.uruma.lg.jp/shiseijouhou/jinjisaiyou/saiyoujouhou/index.html