社会課題への取り組みや、若手の人材育成に力を入れる企業を紹介する本企画。今回は、ゲームの魅力を高めるうえで欠かせない視覚効果(VFX)の制作を行う株式会社アグニ・フレアにお話を伺いました。
株式会社アグニ・フレアとは
株式会社アグニ・フレアは、ゲームのリアルタイムエフェクトを中心に、ゲーム用モデル、プリレンダー用モデル、3Dアニメーション、コンセプトアート、キャラクターデザイン等、さまざまなデザイン受託業務を手がける会社です。
「ゲームに華を添える」という使命のもと、「スプラトゥーン3」や「ドラゴンクエスト」といった数々の人気ゲームのVFX制作に携わっています。
会社名 | 株式会社アグニ・フレア |
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住所 | 神奈川県横浜市港北区新横浜2-17-19 AR新横浜ビルディング6階 |
事業内容 |
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設立 | 2010年12月 |
公式ページ | http://www.agni-flare.com/jp/ |
働き方 | リモートワーク |
株式会社アグニ・フレアは、VFX業界全体を盛り上げたいという思いからゲームのVFX技術を競う国際大会を主催したり、環境問題をはじめとする社会課題の解決を目指してSDGsの取り組みにも力を入れています。
今回は、一流のVFXアーティストに育てる制度や、フルリモートの環境における働き方などについて、クリエイティブ本部部長の篠原亜留吾さんと、アートディレクターの岩男信人さんにお話を伺いました。
ゲームに華を添える最高のVFXを制作するアグニ・フレア
▲株式会社アグニ・フレアは、ゲームに華を添えたいという思いのもとVFX制作を手がけている。(公式サイトから引用)
編集部
まず最初に、アグニ・フレアさんの事業内容についてお聞かせいただけますでしょうか。
篠原さん
私たちは、ゲームを中心に視覚効果のデザインと制作を行う会社で、特に「リアルタイムVFX(※)」に強みを持っています。
(※)ゲームのプレイヤーの操作に合わせてリアルタイムで発生させる視覚効果のこと
編集部
「スプラトゥーン3」や「ドラゴンクエスト」など、人気ゲームの制作にも協力されているということですが、事業で大切にしていることは何でしょうか?
篠原さん
例えば、攻撃が敵に当たった時に火花が散ることは、プレイヤーに臨場感を与えるだけでなく、攻撃が命中したことを理解するうえでも重要な演出です。私たちは、「ゲームに華を添える存在」であるリアルタイムVFXによって、ゲームの魅力を最大化し、プレイヤーの心を動かしたいと考えています。
編集部
ゲーム機の性能が向上するにつれて、リアルタイムVFXに求められる技術も高まっているように感じます。
篠原さん
はい。ハードの性能が高まるのに伴い、VFXにも難易度の高い技術が必要になっています。私たちは、優れたスキルを持つアーティストに十分な開発環境を提供することで、技術力を高め、最良の作品を生み出せる組織を作りたいと考えています。
SDGsに取り組み、ゲームを通じて環境問題への意識を高める
▲地球温暖化をテーマにしたゲーム「シカッQ」が評価され、株式会社アグニ・フレアは「かながわSDGsパートナー」に登録された。
編集部
アグニ・フレアさんは、ゲーム開発などを通じてSDGsの目標実現に取り組んでいると伺いました。
岩男さん
はい。弊社は、パズルアクションゲーム「シカッQ」の取り組みなどが評価され、2022年に「かながわSDGsパートナー(※)」に登録されました。
(※)SDGs推進につながる事業を行う企業を、神奈川県が審査のうえ登録する制度。登録された企業は、神奈川県の中小企業制度融資による支援や、SDGsパートナーのロゴの使用、パートナー間のマッチング支援などが受けられる。
このゲームは、地球を温暖化から救うことをミッションとしたスマートフォン向けパズルゲームです。オゾンの妖精「シカッQ」をタッチしてつなぎ合わせることで、温暖化や気候変動の原因となる温室効果ガスの元になるフロン君やハロン君を退治したり、オゾンホールをふさぐことでソラを修復したりしながら、ゲームクリアを目指します。
編集部
ゲーム制作に携わる企業が、SDGsの取り組みに力を入れることは珍しいと感じます。なぜこのようなゲームを作ろうと考えたのでしょうか?
岩男さん
弊社の代表(代表取締役の稲葉剛士さん)は、SDGsという考えが広がる以前の20年ほど前から、気候変動や環境問題に対する低年齢層の意識を高めたいと考えていました。この想いから生まれたのが、シンプルに遊べるゲームの「シカッQ」です。
「フロンくん」や「ハロンくん」など、オゾンホールや地球温暖化の原因となるキャラクターも敵として登場するので、小さな子どもでも楽しみながら専門用語にふれて、問題を学ぶきっかけにすることができます。
大学で「環境への配慮とゲーム」をテーマにしたワークショップを開催
▲立教大学の学生と開催したワークショップでは、「シカッQ」のグリーンマーケティングについて議論した。
編集部
気候変動による影響が深刻になるなか、アグニ・フレアさんが環境問題を身近に捉え行動するきっかけとなるゲームを作ることは、とても意味のあることですね。
岩男さん
ゲームを作るだけでなく、ほかにも「シカッQ」を環境に良いことに活用する方法はないかと考え、立教大学の学生さんたちとグリーンマーケティング(※)をテーマにした産学協同ワークショップを開催しました。
(※)商品やサービスのマーケティングに、環境に配慮した視点や方法を取り入れること
グローバル社会で活躍するために必要なリーダーシップを身につけることを目的とした「立教大学グローバル・リーダーシップ・プログラム」の一環として行われたもので、学生が「シカッQ」の開発スタッフへの質問を通じてゲームを理解するとともに課題を見つけ出し、グリーンマーケティングの取り組みとしてできることについて活発な議論を交わしました。
編集部
ワークショップでは、学生からどのようなアイデアが出されましたか?
篠原さん
ゲームに使用するスマートフォンを充電するために、ソーラーパネルを使って充電したモバイルバッテリーを貸し出す案などを提案してもらいました。
環境問題を通じてビジネス教育にも貢献できる、有意義な取り組みだったと感じています。
編集部
ゲームの開発から教育まで、様々な方法で環境問題にアプローチする様子から、アグニ・フレアさんのSDGsへの本気度が伝わってきました。
未経験から一流アーティストを目指せるサポート体制
編集部
ここからは、アグニ・フレアさんの職場での若手活躍についてお伺いします。VFXアーティストには高い技術力が求められると思いますが、入社後のサポートとしてどのようなことをされていますか?
篠原さん
まず、入社してしばらくはトレーニング期間として先輩社員がサポートに入り、クオリティを丁寧に確認しながら制作を行います。
トレーニング期間については、経験の有無やその時のプロジェクト内容に応じて柔軟に決めています。「Unreal Engine」などでVFX作成ツールを使用した経験がある人の場合は、入社してすぐに制作の実務に入ることもありますが、プロジェクトによってはオリジナルの作成ツールを使用することもあるので、その場合は1〜2ヶ月かけてツールの使い方を習得してから実務に参加することもあります。
編集部
ゲーム技術はどんどん進化しているので、VFXの技術に関してもキャッチアップが大変そうです。
篠原さん
常に技術力を磨くことが必要なので、弊社ではスキルの向上を目的に、少なくとも月に1度は勉強会を開催しています。プロジェクトを通じて得た様々なノウハウを社内のメンバー間で共有することで、表現の幅を広げ、一流のアーティストへと成長します。
美容師から転職し、人気ゲームのVFX担当に成長したメンバーも
編集部
アグニ・フレアさんで活躍する若手社員のエピソードがあれば教えてください。
篠原さん
20代後半で入社し、VFXアーティストとして活躍する社員に、元美容師の人がいます。ゲームのエフェクト制作に興味があったので、美容師をしながらCG関連のスクールに通い、スキルを身につけたということです。
実務として制作に関わるのは弊社が初めてだったので、スマートフォン向けゲームのVFXを制作するところからスタートし、入社3〜4年たった現在では「プレイステーション」などの家庭用ゲーム機向けの人気RPGを担当するまでに成長しました。
人間的にも頼りになる存在なので、ほかのメンバーの指導役としても活躍しています。
編集部
美容師とゲーム制作では世界が全く異なると思いますが、早い段階から活躍できた理由は何でしょうか?
篠原さん
トレーニングや勉強会といった弊社の教育制度はもちろんですが、ゲームへの興味や熱意も大きな理由だと思います。
ゲーム好きとして多くのゲームをプレーしてきた経験は、VFX制作においてゲームを魅力的にするための表現方法を考えたり、最終的な仕上がりを想像しながら業務を行う力につながっています。
編集部
技術的な面だけでなく、ゲームへの愛も重要なのですね。
篠原さん
そうですね。仕事として割り切って作業をするより、「こんなゲームに仕上げたい」という思いを持ちながら作ることができる人の方が、大きく成長できると思います。
また、弊社は人気のあるゲームの制作に携わる機会が多いので、誰もが知る有名作品のスタッフロールに自分の名前が載ることも、高いモチベーションにつながっていると感じます。
VFX業界全体のレベルアップを目指し、国際的なコンテストを主催
編集部
ゲームのVFXアーティストとして活動する人はそれほど多くないと思いますが、未来の人材育成の観点から取り組んでいることはありますか?
篠原さん
2021年から2022年にかけて、ゲームのVFXデザインを競う世界的なコンテスト「WWVFX CONTEST FOR GAMES」を主催しました。
国内のアーティストを対象としたコンテストは以前から開催していたのですが、近年は海外におけるゲーム関連技術の発展が著しく、VFX技術の底上げや新たなVFX表現への挑戦を後押しするためには、世界レベルのコンテストが必要だと感じました。大会を通じて「VFXアーティストのスター」を発掘し、業界全体を盛り上げたいという思いもありました。
また、先ほどお話しした「かながわSDGsパートナー」の認定の際、コンテストの取り組みも「働きがいも経済成長も」というSDGsの目標に資すると評価していただけたと考えております。
編集部
コンテストの反応や手応えはいかがでしたか?
篠原さん
国内外のゲーム・映像におけるリーディングカンパニー各社様をはじめ、学校様や海外の有名なVFXクリエイターコミュニティなどにスポンサーとしてご協力をいただき、SNSを活用してコンテストの情報を全世界に発信した結果、アメリカやフランス、韓国、中国など10の国と地域から応募がありました。
▲中国からの応募作品。コンテストには、日本だけでなく世界中の国から作品が集まった。
編集部
狙い通り、世界のアーティストから注目される大会となったのですね。どのような方が受賞されたのでしょうか?
篠原さん
VFXに精通する国内外のプロフェッショナルが審査員となり、VFX表現の技術力や美術力、発想力を評価したのですが、最優秀賞となる「GOLD AWARD」を受賞したのは日本の大学生の作品でした。
▲審査員も驚くようなクオリティで「爆発」のエフェクトを制作した大学生が、最優秀賞となる「GOLD AWARD」に輝いた。
篠原さん
受賞作品は学生とは思えないクオリティの高さで、このような若い才能に光が当たる場を提供できたことは、今後のVFX業界を盛り上げるうえで大きな意味があったと感じています。
編集部
審査発表の様子は、YouTubeでも配信されていますね。
篠原さん
はい。ゲームのVFXはニッチな世界でアーティストの数もそれほど多くないのですが、VFX制作の楽しさや魅力をもっと広めたいと考え、YouTubeで配信しました。世界中の人に見てもらいたかったので、発表会は英語で進行しました。
動画を見た方からは、「次回の開催があったら参加したい」といった声をいただきました。
▲コンテストの審査発表は英語で進行し、YouTubeを通じて世界に配信された。
編集部
世界レベルでVFX技術を底上げするために何ができるかを真剣に考えるアグニ・フレアさん、今後の取り組みも楽しみです。
※コンテストの審査結果発表会の様子は、以下の動画をご覧ください。
https://youtu.be/-yZGXt3eRzg
フルリモートでも活発に交流。オンライン花見も開催
▲リラックスした雰囲気でコミュニケーションを楽しむオンライン花見の様子。
編集部
ここからは、アグニ・フレアさんの働き方についてお伺いします。現在、フルリモートでお仕事されているということですが、運用ルールなどについて教えてください。
岩男さん
弊社では、特に出社日を設定しておらず、出社の必要がある時以外はリモート勤務を基本としています。お互いの状況が見えづらくなるのを防ぐため、各個人がどのような業務を行っているのかを共有する時間をチームごとに設けています。
編集部
フルリモートですと、コミュニケーションが課題となるケースもありますが、アグニ・フレアさんではいかがですか?
岩男さん
社内のコミュニケーションツールとしてSlackなどのチャットツールのほか、オンラインミーティングツールを使用し、適宜コミュニケーションをとっています。チャットに質問専用のチャンネルを作っているので、何か質問すれば誰かが必ず答えてくれる環境にあります。
またイベントとしては、離れていても社員同士が交流できるように、「オンライン花見」と題した企画を開催しました。それぞれがオンラインミーティングの背景を桜の景色にして花見気分を味わいながら、楽しくコミュニケーションしました。
編集部
リモート勤務は今後も続ける予定ですか?
篠原さん
新型コロナウイルスをきっかけにリモート勤務を導入しましたが、現在のところスムーズに業務ができているためこの方針を続けています。今後については、必要があれば見直しを行うなど柔軟に対応したいと考えています。
アグニ・フレアでは、育児と両立するメンバーも柔軟な働き方が可能
編集部
リモートワークによって、社員のワークライフバランスに変化はありましたか?
篠原さん
育児や介護をしながら働くメンバーからは、リモートになったことで時間を使いやすくなったという声が多く聞かれました。
コロナ禍で産休から復帰した社員がいたのですが、もし出社した場合は、子どもを保育園にお迎えに行く時間が来たら仕事を終了して会社を出なくてはなりません。リモート勤務だと、お迎えや食事の準備が終わって落ち着いた後に働くことができるので、効率的に業務ができるということでした。
もともと優秀なメンバーなのですが、リモートワークになってから今まで以上に力を発揮してもらえているので、会社としても導入して良かったと感じています。
編集部
勤務時間については、フレックス制を取り入れているのでしょうか?
篠原さん
勤務時間は午前10時から午後7時としていますが、子育てをする社員などは個別に相談のうえ、対応しています。
編集部
一人ひとりが能力を最大限に発揮できる環境のために、柔軟な働き方を取り入れているのですね。
まずは自分たちが全力で楽しむ。アグニ・フレアのカルチャーとは
▲株式会社アグニ・フレアではVRで納会を開催、社員はアバターになって参加する。
編集部
高い技術を持つプロフェッショナル集団であるアグニ・フレアさんですが、社内はどのような雰囲気なのでしょうか?
篠原さん
ひとことで言うと、いい意味で「ギャップがある集団」だと思います。勤務中は黙々と集中しているのですが、社内のイベントになると別人のように本気で楽しみます。
弊社の納会は、バーチャル空間に集まってリモートで開催しているのですが、社員はアバターで参加して、クイズ大会を開催したり、自分たちで作ったゲームで遊んだりします。準備段階から本気で取り組みますし、賞品も用意するので、毎年みんなが楽しみにしています。
編集部
先ほどのオンライン花見もそうですが、社員同士のコミュニケーションや理解促進につながる企画を大切にしているのですね。
篠原さん
VRチャットを使ってこのようなイベントを行っていることをクライアント様に話したところ、「そこまで本気でやっているのなら、こういう仕事をお任せしたい」ということで、新しいお仕事に繋がったこともあります。
クライアント様から信頼を得るためには、まずは自分たちが本気でゲームやエンタメを楽しむことが大事なのだと実感しています。
経験以上に求めるのは、ゲームに対する「熱い想い」
編集部
楽しむ時は思いきり楽しみ、メリハリをつけて働いていらっしゃる様子がよく分かりました。最後に、アグニ・フレアさんで働くことに興味がある読者の方にメッセージをお願いします。
篠原さん
私たちの強みであるVFXは、ゲームや映像作品のクリエイティブを高めるうえで非常に重要な役割を担っています。弊社は多くの人気ゲームにVFXの分野で参加しているので、ゲームに関心を持ちアーティストとして活躍したい方にとっては最適の環境だと思います。
若手の育成を大切にする文化や仕組みがあるので、未経験からのスタートでも一流のアーティストを目指せます。経験の有無や年齢に関わらず、人を感動させる作品を生み出したいという意欲がある方と、ぜひ一緒にお仕事をしたいです。
岩男さん
弊社にはVFX以外にもアニメーションやモデリング、2Dアート、インターフェースのデザイナーなど多くのアーティストが在籍しています。組織全体としてアグニ・フレアを強化していきたいと思っているので、興味のあるポジションがありましたらご応募いただきたいと思います。
編集部
今回のインタビューでは、SDGsの取り組みや世界的なコンテスト開催など、事業を通じてより良い社会に貢献しようとする姿が印象的でした。
VFX業界を盛り上げたいという使命感を持って活動するアグニ・フレアさんだからこそ、一流のアーティストとして活躍できるチャンスも大きいのではないかと感じました。
本日は、ありがとうございました。
■取材協力
株式会社アグニ・フレア:https://www.agni-flare.com/jp/