新しい働き方の制度や独自の企業文化を持つ企業を紹介するこの企画。今回は「自産自消できる社会」を目指し、さまざまな形で農業のある暮らしの実現を手伝う、株式会社マイファームをご紹介します。マイファームは、都市部での家庭菜園や貸し農園の運営、農業体験プログラムの提供など、多角的なアプローチで人々と農業をつなぐ取り組みを行っています。
株式会社マイファームの理念:「自産自消できる社会」を目指して
▲「自産自消」が当たり前の社会を目指すマイファームさんのビジョン(同社ホームページより)
株式会社マイファームは、「自分たちで作り自分たちで食べること」を意味する「自産自消できる社会」を目指し、様々な農業関連事業を展開しています。
農作物を育てる楽しさを体験してもらうための農業体験や、農業への理解を深めるための学びの場の提供、さらには生産者・農業従事者のサポートなど、幅広い活動を行っています。
2007年に創業した同社は、代表取締役の西辻一真さんが農業を取り巻く現状を見直し、その矛盾を正したいという思いから起業しました。
西辻さんは幼少期から野菜作りと植物採集に没頭する少年でした。成長するにつれ、後継者不足による農家の減少や耕作放棄地の増加、社会における農業や野菜の軽視といった現実を目の当たりにし、強い問題意識を持ち続けていました。
また、農作物を作りたい人がいても、農地や技術の不足により新規就農が難しいという課題に対し、その障壁を少しでも低くしたいという思いから、現在の事業を立ち上げました。
会社名 | 株式会社マイファーム |
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住所 | 京都府京都市下京区東塩小路町607番地辰巳ビル1階 |
事業内容 | ・耕作放棄地の再生及び収益化事業 ・体験農園事業(貸し農園、情報誌の発行) ・農業教育事業(社会人向け新規就農学校、農業経営塾) ・農産物生産事業および企業参入サポート ・流通販売事業(農産物の中間流通・通信販売) |
設立 | 2007年9月26日 |
公式ページ | https://myfarm.co.jp/ |
働き方 | フレックスタイム制 リモートワーク可能(「働きかた選べる制度」で働く時間や場所を自分で選択) |
株式会社マイファームには、農業経験の有無を問わず、「自産自消できる社会」というビジョンに共感したメンバーが集まっています。会社は働きやすい環境づくりに注力しており、メンバーはリモートワークを中心に、自分の希望する働き方で活躍しているそうです。
今回は、広報担当の松嶺さんと、2度の育児休業を経て復職した経験を持つ岩本さんに、事業の成長や働き方について詳しくお話を伺いました。
マイファームの多角的事業展開:農業と人々を結ぶ多様なアプローチ
▲マイファームの体験農園における講習会の様子
編集部
はじめに、マイファームさんの事業について、ご紹介いただけますか?
松嶺さん
弊社は「自産自消できる社会」を作ることをビジョンに掲げ、創業以来一貫して「人と自然」「人と農の距離」を近づける活動を行っております。
社会を変革することを目指しているため、人々の行動変容を促すことが重要です。そのため、食事、趣味、仕事など、人々の日常生活のさまざまな場面に接点を設けた事業を展開しています。
まず体験農園事業からスタートし、農業を趣味として楽しんでいただくことを目指しました。そこから「農業を仕事にしたい」と考える方々のために、農業を学ぶ学校を設立しました。これが発展し、現在では農業教育事業を行っています。大人向け、農家向け、大学生や高校生向けなど、幅広い層を対象とし、今後は子ども向けの教育の場も創設する予定です。
次に、食事の場面です。既存の農家や、先ほどの学校を卒業して就農された方々の支援に加え、通販事業と流通事業を展開しております。これは生活者の皆さんに単に「お腹を満たす」だけでなく、「心も満たされる」食事を提供したいという思いからです。
さらに、法人や自治体と連携した事業も行っています。これらの事業部門が相互に連携することで、生活者のさまざまな場面に関わりながら、社会づくりを進めているのがマイファームの特徴です。
編集部
マイファームさんでは、「農」に対してさまざまな面から事業を展開されていることがよくわかりました。法人や自治体との連携ではどのような取り組みがあるのでしょうか?
松嶺さん
例えば、株式会社ツムラとの取り組みがあります。ツムラは漢方薬などに含まれる生薬の原料を海外から輸入していますが、マイファームと共に国産化のプロジェクトも進めています。国内で生産するための技術開発や、生産農家の開拓などを行っています。
また、ソーラーシェアリングにも取り組んでいます。これは太陽光パネルを畑に設置し、その下で農業を行うものです。同じ畑で使用する電気も「自産自消」を目指します。このような新しい農業の形態は、まずマイファームが法人とプロジェクト形式で実施し、ある程度確立したら農家の方々に展開できるよう考えています。
さらに、行政との連携では、農林水産省から委託を受け、農業界で女性が働きやすい環境づくりを推進する取り組みも行っています。
組織構造:植物の世話になぞらえた独創的な部署名
編集部
松嶺さんの所属は「かぜユニット」と、組織名がユニークですね!マイファームさんの部署名の意味や込められた思いについて、教えていただけますか?
松嶺さん
弊社は現場の最前線である部署を、ヒトユニット、モノユニット、コトユニットと呼んでいます。これらの部署は、植物でいうところの花や実みたいな存在です。これに対し、我々の広報PRやIRといった部門は「風を送る役割」という意味で、かぜユニットと呼んでいます。
私たちかぜユニットは、社内に風を送ることで情報を共有し、組織の健全性を保つ役割を担っています。また、外部に向けて情報を発信することで、会社の理念や活動を広く伝える役割も果たしています。同じように植物になぞらえて、人事・総務部門は社員の成長をサポートする意味で水やりユニットと呼んでいます。
編集部
「人と農、人と自然の関係をもっと身近に」というマイファームさんの思いが部署名にも反映されているのですね。
■理念や事業内容が動画でわかる会社紹介はこちら
株式会社マイファーム会社紹介動画
マイファームの持続的成長:創業以来の120~140%成長率の秘訣
▲マイファームでは農業を志す人たちに向けて「農業学校」を開講している
編集部
続いて、マイファームさんの事業成長について伺います。創業からの成長率などについて教えていただけますか?
松嶺さん
ここ3年間での平均成長率は、140%を超える数字になっております。2007年の創業以来、おおむね120~140%くらいの成長率で一貫して上昇してきています。いわゆるベンチャー企業の急激な成長というカーブではなく、着実に成長してきているのがマイファームの特徴です。
編集部
創業から16年目に入られますが、年々着実に事業成長されているのですね。事業の今後の展望はどうお考えでしょうか?
松嶺さん
成長のスピードは、あくまで自然の成長のスピードと人の成長のスピードに合わせていきます。事業を急成長させて、上場したり、資金調達をしたり、会社を他の大きな会社に売ったりということは考えていません。私たちは、社員やメンバー、全国にいる仲間とともに、新しい社会づくりにチャレンジしていきます。
編集部
マイファームさんでは「早く行きたいなら一人で行きなさい、遠くに行きたいならみんなで行きなさい」というアフリカのことわざを大切にしていると、ホームページで拝見しました。こうした考えに基づいて事業を展開されているのですね。
強み:多様な事業による生活者との複数接点
▲「農業学校」の卒業式の様子
編集部
マイファームさんが15年以上事業成長を続けられた要因はどこにあるのでしょうか?
松嶺さん
1つは、時代が求めているものを少し早めに始めている、という点だと思っています。例えば、創業時に始めた体験農園の事業です。当時、体験農業という事業はほとんど世の中に浸透していませんでした。あったとしても、市民農園という形で、費用は年間5,000円~1万円程度のものでした。
そんな中、私たちの体験農業はアドバイザーがついたり、必要な道具も揃っていたりするので、月5,000円、年間では6万円くらいする事業でした。「法外な価格だ」「あり得ないビジネスモデルだ」と、農家さんたちから言われたこともありました。
しかし、都市圏に住んでいる方のニーズを掘り起こし、認知度が上がっていきました。現在、全国に120カ所以上ある農園は市街地からアクセスしやすく、道具などの準備も不要なので、気軽に、無理なく通い続けられると好評です。
編集部
体験農園は時代のニーズを先取りしたものだったのですね。マイファームさんでは、体験農園以外に複数の事業を行っています。これらの効果もあったのでしょうか?
松嶺さん
はい。時代の変化に合わせ、さまざまな接点を作ってきたことも、成長要因だと思っています。
例えば、東日本大震災があった時には、皆さん、放射能汚染に危機意識を持たれたりして、体験農園の事業は落ち込みました。その時に頑張ってくれたのが、教育事業や流通事業です。
一方、最近の社会情勢により外出自粛が続いたタイミングでは、通販事業がとても伸びました。1年くらい経って少し状況が落ち着いてくると、通販事業は下がる傾向も見られましたが、その分、体験農園が大変伸びました。人気農園では今もキャンセル待ちが出るほどです。このように事業のバランスが取れているところは弊社の強みです。
編集部
体験農業でマイファームさんを知った方が、その後、通販事業を利用するということもありそうですね。
松嶺さん
その通りです。生活者が農や自然と触れ合うといったキーワードで行動する中で、マイファームはずっと接点を持ち続けています。そのため、ライフタイムバリュー(顧客生涯価値)(※)を上げられるのです。
(※)顧客1人がその会社に対して、生涯どのくらい利用するのかを算出する指標。成熟市場においては、既存顧客に継続してサービスを利用してもらうことが重要視されるようになった
編集部
マイファームさんは多面的な事業を循環させることで成長可能なビジネスモデルを作りながら、「自産自消」のできる社会を目指していることがわかりました。
▲マイファームさんの「体験農園」は時代のニーズを先取りして開始した
マイファームの「働きかた選べる制度」:社員主導の柔軟な勤務体系
▲働き方の柔軟性について話す岩本さん。自身も2人の子どもの育児と両立中
編集部
ここからは、働く皆さんの働き方やワークライフバランスについてお聞きします。マイファームさんでは柔軟で働きやすい環境づくりに力を入れているそうですが、具体的に教えていただけますか?
岩本さん
社員は「働きかた選べる制度」により、働く時間や場所を自分で選択できます。フレックスタイム制の勤務をベースに、「リモートワークが中心」「週4日勤務」「時短勤務」など、1人ひとりがライフスタイルやライフステージに合わせて選んでいます。
編集部
とても柔軟な制度ですね。こうした働き方を取り入れた背景を教えていただけますか?
岩本さん
農業系のベンチャー企業ですので、メンバーの仕事場所はさまざまです。現場仕事の場合、天候によって作業内容や時間が変わることがあります。例えば、雨天時は作業ができず、晴天時は草刈りが必要になるなど、時間帯も一定ではありませんでした。
そのため、全員が固定の時間や場所で仕事するというスタイルが元々難しかったんです。そこで、マイファームでは社会に在宅勤務が普及する前から、テレワークを取り入れていました。
編集部
先進的にテレワークを取り入れていたのですね。週4日勤務などの働き方は、育児中の方のために作られたのでしょうか?
岩本さん
それももちろんありますね。代表の西辻自身も幼い子どもがいて、育児をしながら社長業をしています。また、社員の男女比はほぼ半々ですので、育児中のスタッフも含め、個人個人のライフスタイルに合わせて仕事ができる環境づくりを目指してきました。
その中で、育休を3年間取得できる制度や時短勤務、週3日・週4日の勤務などを取り入れ、それぞれの希望に柔軟に対応しています。ライフステージが変わればまた希望を聞いて調整するという体制が整えられました。
最近では3ヵ月の男性育休の取得例もあります。性別や育児の有無にかかわらず、その人が希望する働き方を実現できるような環境の整備を続けています。
個人の目標実現を支援するマイファームのワークライフバランス
▲松嶺さんはマイファームと地元の地域おこし活動のダブルワークスタイルで働いている
編集部
現在、週3日や週4日勤務をしている社員はどのくらいいらっしゃるのでしょうか?
松嶺さん
私自身も週3~4日勤務ですし、岩本も週4日勤務です。全体では週4日勤務の社員が5~10人ほどいると思います。
編集部
岩本さんは2人のお子さんの子育て中だからかと思いますが、松嶺さんが週3~4日勤務とされている理由を教えていただけますか?
松嶺さん
私は九州の出身で、地元の地域おこし活動に関わりたいという想いを持ち続けていました。30歳前にそれを実現し、今はダブルワークのような形で働いています。マイファームの仕事を週3日しながら、それ以外の時間はプロボノ(※)として地元の企業を手伝っています。
(※)職業上のスキルや経験を活かして取り組む社会貢献活動
また、私は兼業農家の出身で、実家には田んぼも畑も山もあります。実家の田植えの手伝いにも帰っています。
編集部
そうなんですね。マイファームさんでは、育児のためだけでなく、社員一人ひとりのやりたいことを実現するためのワークライフバランスも大切にされているのですね。
松嶺さん
はい、その特徴は大きいと思います。子どもがいる人だけでなく、誰でも時短勤務を選択できます。社内には子育てのためにワークライフバランスを図る人ももちろんいますが、自分のやりたいことをするためにワークライフバランスを取る人が本当に多いですね。
例えば、広島のリンゴ農家の長男が、収穫シーズンに2週間ほど実家に帰っていたこともあります。日中はリンゴの収穫に専念し、夕方からマイファームの仕事を始めるといった働き方をしていました。
編集部
マイファームさんの自由度の高い働き方により、社員一人ひとりの多様な希望が実現できていることがよくわかりました。
「水やり休暇」:農業体験を通じた社員の成長支援
▲「水やり休暇」を利用して農家の手伝いに行ったメンバー
編集部
福利厚生制度で「水やり休暇」というユニークな制度も拝見しましたが、これはどのような制度なのでしょうか?
岩本さん
「水やり休暇」は、社会に飛び出して新たな気づきを得てもらうための休暇制度です。年間の有給休暇とは別に、年間10日間まで有給で取得できます。
編集部
マイファームさんらしい独自の休暇制度ですね。実際に皆さん、どのようなところに行かれるのでしょう?
岩本さん
例えば、仕事で関係を持った親しい農家さんの繁忙期にお手伝いに行くときに「水やり休暇」を使っています。また、関連会社や取引先が経営するレストランに、繁忙期の応援としてお手伝いに行くこともあります。農業や自然に触れる場であれば、基本的にどこに行ってもOKです。これにより、従業員は実際の農業現場やフードビジネスの現場を体験し、新たな視点や知識を得ることができます。
マイファームの全社プレゼン:半期ごとの成果共有と目標設定の場
▲半期に一度、2日がかりで行う全社員プレゼンの様子。社員のモチベーション源にもなっている
編集部
自由度の高い働き方をするマイファームさんでは、評価はどのようにされていますか?
岩本さん
半年に1度、自己評価を行い、上長との面談をします。さらに、社員全員が参加するプレゼン会で、半期の成果や次の目標を一人ひとりが発表します。これらの個人評価と事業部の評価、会社業績等を総合的に判断して、昇給や賞与が決定されます。
編集部
プレゼンでは全員が発表されるのですか?
岩本さん
はい。全社プレゼンは半期に一度オンラインで行っており、1人10分の持ち時間で、そのうち7分はスライドを使って発表し、3分は質問タイムです。正社員メンバーは約70人いますので、丸2日間かかります。
編集部
濃い2日間なのですね。皆さんの反応はいかがですか?
岩本さん
普段はリモートワークなので、同僚の仕事の様子を見る機会がありません。だからこそ、丸2日かけてでもこうしたプレゼン会を開催することは、互いの業務を理解し合う貴重な機会となっています。
松嶺さん
準備も当日もとても大変なのですが、全員がプレゼン後に感じるモチベーションアップの度合いがとても高いです。プレゼン後には、サンクスカードという感想や激励のメッセージを互いに送り合います。これを読むと、「また半期、頑張ろう」という気持ちになりますし、自分が言葉に出してプレゼンをすることで次の目標の意識づけにもなっています。
編集部
半年に1回、自分を振り返り、同僚からの刺激や感謝を受ける場は、社員の成長とチームワークの強化に大きな効果があるのですね。
逆ピラミッド組織:現場重視の風通しの良い職場環境
▲学校事業の実習農場に集まったメンバーたち
編集部
最後に採用についてお伺いします。マイファームさんで働くことに興味を持った方に向けて、働く場としての魅力を伝えていただけますか?
松嶺さん
弊社は海外も含め、北海道から沖縄まで日本全国に拠点があり、自社の農場も持っています。土に触れたい人たちにとっては、好きな場所で働ける環境があります。
また、この規模にしては、社長との距離がとても近いことも魅力です。マイファームの組織図は、逆ピラミッド形式になっています。「現場」が一番上にあり、次に広報などの「バックオフィス」、そして根っこに「役員」がいます。一番下が「社長」です。
普通の会社だと、社長に話をするには組織の階層を上がっていく必要がありますが、うちの場合はそのようなことはなく、社長と直接話すことができます。風通しの良さがあると思います。
また、先ほど説明したプレゼンでは、社員が次のチャレンジを発表します。その後、チームで各メンバーのチャレンジを集約し、部署の目標や戦略を作ります。会社はそれらを全部まとめて、3年計画や戦略にしていきます。
つまり、現場社員のやりたいことが集約されて、会社の戦略や事業計画となっていくのです。社員本人がやりたいと言ったことに対してきちんとコミットしてもらわないと、全体が崩れていくという面も持ち合わせています。本当にやりたいことがあり、その責務を果たせるのであれば、マイファームは自由で働きやすい会社だと思います。
マイファームの採用基準:「素直・元気・勤勉」を重視した人材選考
編集部
マイファームさんの採用で重視していることを教えてください。
松嶺さん
採用基準は「素直・元気・勤勉」の3つです。
具体的には、自分の本気でやりたいことに向き合い、相手に対しても率直に意見を述べられる素直さ。変化を恐れず、常に改善を続けるエネルギーや元気さ。そして、職務に対して自発的かつ習慣的に取り組む勤勉さ。これらの3つが、働く上での基本的な資質だと考えています。
中でも最も重視するのは、本人の「やりたい!」という熱意です。この熱意がある方には、当社では多くのチャンスが巡ってきます。
編集部
松嶺さん、岩本さん、本日はありがとうございました。
マイファームさんでは、メンバーの多様性を重視し、働き方や仕事に対する姿勢において、一人ひとりの意見や気持ちが尊重されていることが伝わりました。マイファームさんのビジョンや組織・事業に興味を持たれた方は、以下のリンクもご覧ください。
■取材協力
株式会社マイファーム:https://myfarm.co.jp/
採用ページ:https://myfarm.co.jp/recruit.html