働く人たちのワークライフバランスを大切にし、若手が活躍できる職場づくりを進めている企業や自治体にインタビューする本企画。今回は静岡県にある「藤枝市」の藤枝市役所にお話を伺いました。
自然が溢れ、サッカーのまちとしても知られる「静岡県藤枝市」
藤枝市は静岡県の中央に位置し、北部には赤石山系の森林地帯が広がり、南部には大井川が流れるまちです。
緑と水が豊かで、自然あふれるまちでありながら、藤枝駅前は整備が進んでおり、静岡市や掛川市へのアクセスもよい都会的な利便性も持ち合わせています。
また「サッカーのまち」として知られるほど、サッカーが盛んなまちで、市内の藤枝東高等学校や藤枝順心高等学校はサッカーの強豪校として有名です。
自治体名 | 静岡県藤枝市 |
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本庁舎住所 | 静岡県藤枝市岡出山1-11-1 |
公式ページ | https://www.city.fujieda. shizuoka.jp/ |
藤枝市役所では、重要施策のひとつに「職員の育成」を掲げています。若手職員の活躍促進や女性が安心して活躍できる環境づくりなど、働きがいのある職場・働きやすい環境づくりを進めています。
今回は、藤枝市役所にお勤めの金田さん・北川さん・戸塚さんに、藤枝市役所で働く皆さんの働きやすさを支える取り組みや、やりがいを育む職場づくりについてお話を伺いました。
若手職員の提言を必ず予算化。やりがい獲得につなげる
編集部
藤枝市役所では、若手職員の方が活躍できる機会が用意されているとお伺いしたのですが、どういった取り組みをされているのでしょうか?
北川さん
藤枝市では、若手職員の柔軟な発想や視点を活かせる「新公共経営プロジェクトチーム(若手PT)」というのがあります。
この制度ではまず、10名程度の職員が手挙げ、もしくは推薦によって選出され、通常業務とは全く別の視点から市全体の課題をチームで設定します。勤務時間中の時間を使って、その課題の解決策を1年間考えて、市長に提言する制度になります。
提言した制度は、次年度以降に予算化されて、 必ず実現されるのが特徴です。自分たちの考案したものが実際に形になったり、取り組みが新聞に掲載されたりと、若い職員たちの成功体験にもなり、モチベーションアップにも繋がっているのではと思います。
編集部
必ず予算化されるというのはすごいですね。
北川さん
そうですね。提案されたものを実現するまでが大事だと思っています。プロジェクトによっては、提案はしたけど形にならないことも多々あります。
ちゃんと予算化されて、実現されるところまで約束されていて、実際に経験できると、若手職員もやりがいを持って取り組めるのでは、と考えた制度です。
編集部
手挙げ、もしくは推薦によって選出されるとのことですが、職員さんの所属や業務内容はバラバラなんですか?
北川さん
そうですね。基本的には各部局から各1名で、全員で10名程度という形にしています。
いろんな考え方やキャリアを持った方々が集まることで、多角的な意見を集約できればという目的から、様々な部署から選出するようにしています。
地元住民協力のもと、小中学生向けの動画を作成・配信
編集部
実際にあった取り組みをご紹介していただけますか?
北川さん
毎年実施しているのですが、例えば、DXに関連したもので2020年度の取り組みをご紹介できればと思います。
当時は、コロナが流行り始めて、小学生も学校に行けないような時期でした。また小中学生に1人1台端末を配布された時期でもあったんですね。そういった状況の中で、何かできないかを考えて、配布端末に動画配信をする提案が出されました。
動画は、静岡県が人口流出県ということもあって、幼い頃から愛郷心、ふるさとを愛する気持ちを育てられるような内容です。地元の方に協力していただき、地元の歴史文化を伝えるような動画を作成し、配信するという提案をしたところ、翌年度に実現することができました。
編集部
具体的に、動画の内容を教えていただけますか?
北川さん
藤枝市内には、明治トンネルなどの歴史的な建造物がたくさんあります。そうした名所や作られた経緯などを、地元のことを詳しく知っている方に説明をしてもらう動画を作成しました。
子供たちが、地元の名所に興味を持つ機会や足を運ぶ機会はなかなかないんですね。夏休みなど、学校に行かない時期に、地元の歴史文化を勉強することができたということで、好評もいただきました。
「やりがいを感じられる」という声も多数。学生からの関心も高い
編集部
他にも、印象に残っている取り組みなどあればご紹介いただけますか?
戸塚さん
藤枝市内の観光名所として蓮華寺池公園という大きな公園があります。その公園内の駐車場を有効活用しようと、スポーツと健康作りに特化した子育て支援施設の建設の提案がなされました。
実際に、「れんげじスマイルホール」という施設の建設が実現して、現在は親子連れなどをはじめ、年間約10万人の方が利用してくださっています。これまでになかった新しい提案が、若い人たちの中から出てきて、実際に実現しています。
編集部
プロジェクトチームに参加した方の感想など、ご紹介いただけるものがあれば教えていただきたいです。
北川さん
通常業務だけだと、自分が担当する業務を通しての視点しか、なかなか持てないと思います。でも、このプロジェクトチームでは市の全体の課題は何かという高い視点から考えたり、異なる視点での考え方を学んだりすることが可能です。
通常業務で忙しい中で、実現をするところまで考えると、非常に労力が必要になりますが、とても良い経験だったという意見が、たくさん寄せられています。
あとは、様々な場所に視察行ったり、苦労したりした上で提言をして実現したときには、非常にやりがいを感じられる、という声も多いですね。
採用説明会の学生さんからの質問コーナーなどの際には、このプロジェクトチームに対して触れられることが多かったり、志望理由として挙げられたりします。「大変だけどやりがいを感じられるプロジェクト」として、若い方からの関心は高いのかなと感じています。
編集部
自分たちの提言が実現されることはもちろん、若手同士で話をしたり、異なる視点から物事を見たりすることで得られる経験は、大きな成長ややりがいにつながりますよね。
女性が活躍できる職場づくりに取り組む、女性活躍推進会議「フジェンヌ」
編集部
女性職員さんの活躍に関するお話をお聞きしたいと思いますが、まず藤枝市役所における女性の割合を教えてください。
戸塚さん
藤枝市役所の女性職員の割合は、2021年の時点で35.3%です。静岡県には、23の市と12の町があります。女性職員の割合は、23の市の中で上から2番目に高いんです。
そうした状況もあり、市として女性が活躍できる場をつくり、女性が意欲的に働けるような取り組みを積極的に進めています。
編集部
女性が活躍できる機会として、女性活躍推進会議「フジェンヌ」があるのだと思います。こちらは、どういったことをされてるのかお聞かせいただけますか?
金田さん
女性活躍推進会議「フジェンヌ」は、女性の視点から、誰もが働きやすい職場とはどんなものかを調査研究し、実践できる取り組み事項を検討して、市長に提言する活動をしています。毎年メンバーを変えつつ、続けられている活動です。
編集部
女性活躍推進会議には、どんな職員さんが参加されているのでしょうか?
金田さん
各部局から選出された職員で構成されています。活動当初は女性職員のみでしたが、2021年度からは男性職員も参加していただいてます。
男性職員にも参加してもらうことにした背景には、男性の視点も取り入れることで、女性だけではなく男性も「フジェンヌ」の提言を自分ごとと捉えてもらえるのではないか、という思いがあります。
また、2021年には育児・介護休業法が改正され、国としても男性育休の取得を推進する動きがありました。当事者となる男性の視点も含めることで、女性だけでは見えなかった育休をはじめとした働き方改革の道筋が見えるのではないか、という狙いもあり男性職員の参加が決められました。
誰もが相談できる環境づくりのために生まれた「キャリアサポーター制度」
編集部
実際に提言して、実現したものがあれば教えてください。
金田さん
一つの例として「キャリアサポーター制度」が挙げられます。こちらは、キャリアに関する疑問や悩みを、人事課が指名した14名の「キャリア・サポーター」に相談できる制度です。
事務職に限らず、土木や保健師の職員もおり、幅広い世代、役職の方がサポーターとして登録してくれています。相談したいサポーターや、聞きたいことがあるサポーターがいれば、自由に相談の場を設けることができます。
元々は女性向けに考えていましたが、女性だけではなく男性にも必要だろうと、全職員対象の制度となりました。
編集部
キャリアサポーター制度ができた経緯や、込められた思いなどをお聞かせください。
金田さん
産休・育休から復帰した女性職員から「同じ年代には男性職員が多いこともあって、自分の悩みや今後のキャリアパスを相談できるところがない」という悩みが寄せられました。
産休・育休で一旦断絶したキャリアをどう継続していけばよいか、一人ではうまく考えられず、不安を抱えてしまい、なかなか昇進意欲を保ち続けられない状況があったんですね。
育休後のキャリアをサポートしてくれるような制度があれば、今後も働き続けていく上でモチベーションを保てるのではという考えから、作られたのがキャリアサポーター制度です。
周りに相談できるか否かは、「どんな人がいるか」「よその部局がどんなことをしているか」「どんな制度があるか」をどれだけ知っているかで左右されると思っています。それは、一人ひとりによって事情が異なるので、相談のしやすさのハードルも変わってきます。
相談した内容が人事異動に反映された例も
編集部
「キャリアサポーター制度」の利用方法を教えてください。
金田さん
人事課に「この人に相談したい」という申請をしてもらう形です。相談内容は言いにくいと思うので、申請時に明確にする必要はありません。申請を元に、人事課で一対一でサポーターの方とお話できるように、時間と場所を設定します。
ただ人事課を通すのはやりにくいのではないかという声もあります。実際、「サポーターにはこんな方がいます」とお知らせすると、人事課を通さずに直接サポーターに相談しに行く方もいるようです。
今後やり方を変えていく必要性を感じてはいますが、キャリアサポーター制度の利用自体はされてきていると感じています。
編集部
制度を開始されてから、職員さんからはどのような相談や反応がありましたか?
金田さん
キャリアサポーターと言っても、相談する内容はそれぞれで異なります。例えば、「違う部局に興味があって異動したいが、今後のキャリア形成に不安がある」という相談がありました。
藤枝市では職員一人ひとりのキャリアプランを尊重しています。キャリアに関する相談があれば可能な限り人事異動などに反映をさせようと動きます。実際に異動した方もいて、職員のモチベーションの向上に繋げられているようです。
あと「結婚して、今後の出産育児に不安を感じている」という女性からの相談もありました。その方は、出産育児を経た上でバリバリと働いてる女性サポーターに相談し、アドバイスをもらえたそうで、「働き続けるビジョンが見えてきた」と前向きな声をいただきました。
職員による講義などで、男性育休の必要性の周知を進める
編集部
男性職員の女性活躍推進会議参加の背景には、「男性育休」の取得促進もあるとのことでしたが、現在の男性の育休取得率はどれほどでしょうか?
金田さん
藤枝市役所の男性職員の育休取得率は、2023年10月時点で58.3%です。2019元年のときは0%だった数値が、徐々に上がっていき、ようやく6割近くまで増やすことができました。
編集部
男性の育休取得を推進する、特徴的な取り組みがあれば教えてください。
金田さん
藤枝市では、職員が講師となり職員に講義をする「職員寺子屋」を実施しており、2022年には、男性育休に関する講義を行いました。
フジェンヌで男性育休を促進していくために何をすべきか話し合っているときに、男性職員から「そもそも、男性が育休を取得する必要があるのか」という意見が出てきたんですね。
まず、男性育休の必要性を伝えたり、知ってもらう機会を提供したりしていかなければならない、ということで男性育休に関する講義を実施することにしました。
育休を取得した男性職員が講師となり、育休の対象となる男性職員を対象に実施しました。体験談を交えながら男性育休の実情や必要性を話すことで、育休を自分ごとと捉えていただけたと思います。
併せて、管理職の男性職員向けの取り組みを行っています。男性育休を取る人たちの上司は、男性育休を取ったことがない世代の方ばかりです。
若い世代のワークライフバランスを大切にする考え方や価値観、男性育休の必要性の周知を進めています。
編集部
管理職を対象にした取り組みを、具体的に教えてください。
金田さん
女性の健康課題について学ぶ「働く女性の心と体の応援ミーティング」を2023年から実施しています。
女性ホルモンは年代によって分泌量が変化し、それによって女性特有の健康課題があることを学ぶ内容です。
出産前後は女性ホルモンが起因で、心の浮き沈みがあって産後鬱などがあるからこそ男性のサポートが重要なのだと、遠回しながらも男性育休の必要性をお伝えしています。こうした理解を進めていくことで、誰もが働きやすい職場に向かうと思います。
編集部
育休の対象となる方だけでなく、周りの方々に対しても男性育休の必要性をお伝えすることで、取得を促す雰囲気が醸成されて、積極的に取得しようと思えるようになりそうですね。
働きやすい職場であるために「人間関係」を大切にしている
編集部
採用についてもお伺いしたいと思います。まず、藤枝市役所の良さについて、どういったところだとお考えですか?
北川さん
一番特徴的なのが、藤枝市役所では庁内で誰かとすれ違うときには、必ず挨拶をする文化があることです。
職員同士でも、廊下や階段ですれ違ったときには必ず会釈をしたり、気持ちの良い挨拶を交わしています。他の自治体さんや会社さんからも「特徴的ですね」と言っていただくこともあります。
藤枝市役所職員では人間関係を大事にしており、職員間の距離感が近く、コミュニケーションが活発です。それは働きやすい職場の要素として最も重要だと思いますし、個人的にも心地いい距離感の職場だと感じています。
編集部
職員さんの中には藤枝市内にお住まいの職員さんも多いと思います。藤枝市の暮らしやすさや魅力を教えてください。
北川さん
藤枝市では、市内にサッカーの強豪の藤枝東高校が、志太中学校時代の1924年にサッカーを「校技」として採用した経緯から、サッカーを中心としたまちづくりをしています。
2024年を「サッカーのまち100周年」に定めており、最近では女子サッカー元日本代表の澤穂希さんらをゲストに招いた祈念式典も開催しました。
サッカーが好きな方には魅力的だと思いますし、実際、私を含めてサッカーが好きな職員は多いですね。
あと、藤枝市は「ほどよく都会で、ほどよく田舎」と表現されることもあります。静岡市にも近かったり、駅周辺は再開発が進んでいたり、買い物などが非常に便利です。
一方で、中心街から15分ほど車を走らせれば、山間の町並みが広がっています。緑と水が豊かな地域でもありますので、子育て世帯にとっても住みやすいと思いますし、それが藤枝市の魅力なのかなとも思います。
求める人物像は「挨拶ができる・経営感覚がある・自己研鑽に励める」
編集部
それでは最後に、藤枝市の職員さんとして、フィットする人物像や一緒に働きたい人物像などをお聞かせください。
戸塚さん
藤枝市役所が求めている人物像として、市長や副市長がよく話していることとして3点あります。
まず一つ目は、明るい挨拶ができることです。先ほど北川から話があったように、藤枝市役所では明るくスムーズに挨拶することを推奨しています。
市役所はどこの課にも窓口があります。気持ちの良い挨拶は、住民の方にも好印象で親しみを覚えていただけますので、住民対応をする職員にとって大事なスキルです。
二つ目は、経営感覚を持って行動できる方です。市役所は住民の方の税金で事業を行っていますので、コストを意識しながらしっかりと計画して、職務を遂行できる方を求めています。
最後の三つ目として、常に自己研鑽に励む意欲がある方を求めています。藤枝市では3年〜5年のスパンで異動があります。どの職員も全く違う部署に異動して、新しい仕事を覚えなければなりません。
人事異動のたびに、業務内容や知識をまた1から勉強したり、新しい環境に慣れたりという必要が出てきますので、常に自己研鑽に励める方が向いているのではと思います。
編集部
藤枝市役所は男女問わず、誰もがやりがいを持ち、自分らしく働けるような環境作りに向けて、様々な施策に取り組まれています。
困難な課題や未知の分野にも積極的に挑戦したり、多様な価値観を受け入れて幅広い知識を身につけようとする姿勢を持った方がフィットするのではと思いました。
本当に貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。
■取材協力
静岡県藤枝市:https://www.city.fujieda.shizuoka.jp/
採用ページ:https://www.city.fujieda.shizuoka.jp/shisei/saiyou/index.html