若手が活躍できる職場環境をつくると同時に、SDGs達成への取り組みにも力を入れている企業や自治体にインタビューする本企画。今回は静岡県富士宮市にお話を伺いました。
世界遺産富士山の構成資産を有する静岡県富士宮市
世界遺産である富士山の南西部に位置する街が、静岡県富士宮市です。白糸ノ滝など富士山世界遺産の構成資産を6つ有しているため、自然豊かな景観が広がります。
水資源に恵まれた地でもあり、農業や水産業のほか製麺などの食品加工業も盛んです。なかでも名物の富士宮そばはB級グルメの祭典「B1グランプリ」で2度のゴールドグランプリを獲得しています。
自治体名 | 静岡県富士宮市 |
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住所 | 静岡県富士宮市弓沢町150番地 |
公式ページ | http://www.city.fujinomiya.lg.jp/ |
富士山の美しさを後世に残していこうと、同市ではさまざまな取り組みが進められています。同時に挑戦する姿勢も大切にし、若手が活躍できる環境を作っているのです。
同市の働き方やSDGs達成に向けた取り組みについて、採用担当の佐藤さんにお話を伺いました。
市制施行80周年記念事業で竜王戦招致、市民が主役のイベント
編集部
富士宮市は2022年6月に市制施行80周年を迎えられましたが、それに付随するイベントやプロジェクトはどのようなものが行われたのでしょうか?
佐藤さん
富士宮市では市制施行80周年記念事業として将棋の藤井聡太さんが対局する竜王戦を招致し、市民投票型の「おやつコンテスト」を開催しました。将棋では対局の合間におやつが提供されるのですが、このおやつに何を提供するのか市民に選んでもらうという取り組みです。
和菓子と洋菓子合わせて38品の中から7品を選んでもらうという形式で、9439票もの投票がありました。将棋連盟さんによると今までにないような取り組みだったそうです。
編集部
単に大きなイベントを招致するだけでなく、市民も巻き込んだ取り組みとされたのですね。
佐藤さん
自治体職員は常に市民目線で考えることを大切にしています。執務指針の中には「市民が主人公」という言葉もありますし、市民の立場に立って職務に取り組むことが求められているのです。
竜王戦にしても行政側だけで完結させるのではなく、市民と一緒に盛り上げていくことを念頭に置きながら新しいことに挑戦することを心掛けました。
竜王戦は10月末の開催でしたが、終了後も年内は一般の方がそのおやつを食べられることがコンテストの応募条件でしたので、藤井聡太さんと一緒のものが食べられるということで市民の方にも楽しんでいただけたと思います。
編集部
竜王戦の企画についてはどなたの発案だったのでしょうか?
佐藤さん
竜王戦の企画については当然担当の職員がいて、その職員の発案だったと思います。しかし最終的には担当部署、そして全庁的な動きになりますので、あくまで富士宮市役所がチームとなって動いたプロジェクトだといえるでしょう。
編集部
富士宮市役所が一体となって動いたことで市民を巻き込んだダイナミックなイベントとすることができたのですね。
静岡県初のカプセルトイ関連事業を開始、新しい取り組みで大切なのは市民目線
編集部
新しい挑戦を大切にされているということで、竜王戦以外にも力を入れている取り組みはございますでしょうか?
佐藤さん
富士宮市では2023年6月から「宮ガチャ」というカプセルトイ機を5カ所に設置しています。
景品はご当地キャラクター「さくやちゃん」の缶バッチや富士山のアクリルキーホルダー、市ゆかりの武将の家紋マグネットなどです。市に関するマニアックな情報が書かれた解説書も同封しています。
カプセルトイについては、何かしらのイベントで限定コラボ品を景品として臨時で設置するなどしています。また、2023年夏には富士山の山頂の山小屋に期間限定で設置しました。
静岡県内でカプセルトイを手掛けている自治体は富士宮市が初めてだったそうです。ここでも市民に楽しんでもらえるものをという視点が大切にされています。
編集部
県内で初の取り組みということで、そのような新しい挑戦を受け入れるカルチャーが富士宮市役所にはあるのでしょうか?
佐藤さん
繰り返しになりますが、一番大切にしているのは「市民目線で考える」ということです。ですので、市民のためになるアイデアであれば新しいことであっても受け入れる土壌はあると思います。
また、自治体だけでできることというのは限られている部分もありますので、市民でもある事業者の方と交流することで新しいジャンルにチャレンジできていると感じますね。
編集部
市民目線を持ちながら市民と協力することが大切になってくるのですね。
入庁後10年で3部門の異動、経験を次の部署で生かせる
編集部
若手の職員さんがご活躍されている事例について伺わせてください。
佐藤さん
富士宮市は鶏卵と牛乳の産出額が県内でトップ(※)なので、それにちなんだ「ふじのみやプリンまつり」というイベントを2月に開催します。そのイベントでは観光関連の部署などの若手職員が集まり、企画を進めていますね。
(※)広報ふじのみや(令和6年2月号)参照
富士宮市はこれまで焼きそばやニジマスというイメージが強かったのですが、そこにプリンを加えたいと考えています。プリンを愛する方が楽しめるイベントとするために、若手職員が意見を出し合っているのです。
編集部
若手の職員さんが軸となりながら、新しいことに取り組まれているのですね。若手の成長を促す仕組みとしては、どのようなものが挙げられるでしょうか?
佐藤さん
富士宮市役所では入庁後10年間を育成期と捉え、少なくとも3部門でジョブローテーションを実施しています。仕事内容のベースが似ている課レベルではなく、全く違う分野の部レベルで3カ所の異動があるのです。
ジョブローテーションのなかで、自分の得意不得意や関心のあるものを見つけてほしいと考えています。
編集部
佐藤さん自身もジョブローテーションを経て今の採用担当に就かれているということですね。
佐藤さん
私は2011年に入庁し、最初は市民税課という税金を扱う部署に所属していました。採用担当になる前の2つ目の部署は、デジタル推進課になります。今でいうと、DXを推進する業務を担当していました。
当時は手続きのオンライン申請についてまだまだ普及していなかったので、オンラインでできる手続きを増やしていきましたね。
人事課に異動後も、デジタル推進課の経験が生きています。従来は採用試験について紙でしか申し込みできなかったのですが、オンラインで申請できるよう動きましたね。
編集部
ジョブローテーションで得た経験を横に展開されていらっしゃるのですね。市役所以外の場所に出向することもあるのでしょうか?
佐藤さん
隣の自治体である静岡県富士市さんとは、人事交流という形で互いに職員を派遣し合っています。広域的な行政の運営と相互理解を深める効果を生んでいます。
編集部
経験を積むフィールドが広く用意されているのですね。
富士山を時代につなぐ「富士山SDGs」の取り組みを進める
▲富士山の環境を整備する「富士山SDGs」に取り組んでいる
編集部
富士宮市は世界遺産富士山の構成資産を6つ有していらっしゃいますが、富士山を守っていくための取り組みとしてはどのようなことを実施されていらっしゃるでしょうか?
佐藤さん
富士宮市では「富士山SDGs」と題し、さまざまな取り組みを実施しています。この取り組みによって、富士宮市は2021年に国から「SDGs未来都市」に選定されています。
富士山SDGsは、富士山を守るために地域資源の保全とSDGs達成を目指す人材を集め、富士山の自然、文化を産業と調和させながら次世代につないでいくことを目的とした取り組みです。
編集部
具体的にどのような取り組みを実施されていらっしゃるのでしょうか?
佐藤さん
まずは環境保全の施策については、観光課による富士山の一斉清掃や河川課による世界遺産にふさわしい河川づくり、生活環境課による環境パトロールなどを実施しています。また、農業政策課で森林の保全施策を行っていますね。
そのほか、静岡県と連携して火事で燃えてしまった5合目のレストハウス再建にも取り組んでいます。環境整備という観点でいえば世界遺産構成資産の一つである白糸ノ滝周辺にある売店の集約、芝生の広場の整備なども実行中です。
編集部
白糸の滝以外の構成資産についてはいかがでしょうか?
佐藤さん
富士宮市では「庭園の美」をコンセプトにした中心市街地周辺の整備を進めています。
世界遺産の構成資産の一つである富士山本宮浅間大社に続く市営の観光駐車場があるのですが、その導線部分に神田川という川があります。その測量や導線を整えるプロジェクトに取り組んでいますね。
また浅間大社の西側に市有地があるのですが、そこの整備も進めています。観光客がお休みできる、または買い物ができる場所というのを想定しています。
編集部
まさに富士宮市役所の総力を挙げて富士山SDGsに取り組まれているのですね。
佐藤さん
須藤(秀忠)市長がよくおっしゃることなのですが、富士宮市は富士山に恥じない品格のある街づくりを目指しています。世界遺産がある自治体というのは非常に限られていると思いますし、世界遺産に関われるということが職員の大きなモチベーションになっている部分はあるでしょう。
編集部
世界遺産を通じてSDGs達成の取り組みに携われるというのが富士宮市役所で働く魅力の一つなのですね。
公務員試験対策不要の学科試験を導入、ぜひ挑戦を
編集部
現在の富士宮市役所の採用状況について伺わせてください。
佐藤さん
富士宮市では採用試験を受けていただく方をより増やしていこうと、公務員試験対策不要の学科試験を導入しました。この取り組みによって、求職者が民間企業と並行して富士宮市役所の採用試験も受けられやすくなったのです。
試験は全国各地の340カ所以上の試験センターで実施していますので、場所のハードルも取り除いた形になります。
内容としては基礎能力や事務処理能力を測る内容となっており、従来の公務員試験とは違った形となっています。この取り組みのおかげで、受験者は従来と比べ2.5倍増えました。
富士宮市では移住定住にも力を入れていますので、全国からぜひ挑戦していただけるとうれしいですね。
編集部
公務員の経験を持たない民間出身の方も受験しやすそうですね。最後に、富士宮市役所に興味を持っている方に向けてメッセージをお願いいたします。
佐藤さん
これまで公務員試験がハードルとなって公務員を断念された方も多いのではないかと思います。今の富士宮市役所は「富士宮市っていいな」と思ってくれる方がチャレンジしやすくなったといえるでしょう。
これまでお話ししてきた通り新しいチャレンジを積極的に行っている街ですので、ぜひ求職者の方にも挑戦いただければと思います。
編集部
試験の実施内容が変わったことでこれまでにない人材も入庁し、さらに富士宮市の魅力が上がっていくのではないかと感じました。本日はありがとうございました。
■取材協力
静岡県富士宮市:http://www.city.fujinomiya.lg.jp/
採用ページ:http://www.city.fujinomiya.lg.jp/sp/municipal_government/llti2b000000dhvi.html