さまざまな企業の新しい働き方についてお伝えしていくこの企画。今回は、遠隔医療のテクノロジーによって人々の健康と幸せの実現をめざす株式会社リモハブに取材しました。
株式会社リモハブの概要:遠隔心臓リハビリを実現するメドテックスタートアップ
株式会社リモハブとは、在宅でのオンライン管理型の遠隔心臓リハビリシステムの開発を進めるメドテック系スタートアップ企業です。心疾患患者の在宅での心臓リハビリを遠隔でサポートするこのシステムは、社会課題の解決に向けてまさに待ち望まれているものです。
会社名 | 株式会社リモハブ |
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住所 | 大阪府吹田市江坂町1-23-19 米澤ビル第5江坂4F |
事業内容 | 遠隔心臓リハビリテーションシステム開発及び販売 |
設立 | 2017年(平成29年)3月 |
公式ページ | https://www.remohab.com/ |
今回お話を伺ったのは、株式会社リモハブの創業者である谷口逹典さんです。循環器専門医として感じた課題や起業に至った経緯、リモハブのシステムがめざすもの、そしてさまざまなプロフェッショナルが集まる社内風土、リモハブが求める人材についてお話を伺いました。
リモハブ創業の原点:高齢者の在宅生活を支える遠隔医療への挑戦
▲「世界のヒトに健幸を。」がリモハブさんの掲げるビジョン(公式サイトから引用)
編集部
谷口さんは元々医師をされていたそうですが、リモハブを起業されることになった経緯を教えていただけますか。
谷口さん
循環器疾患の医師として心不全を専門にしており、現在も定期的に患者さんの診察を行っています。同時に、心不全に関する臨床研究にも携わってきました。
心不全の患者さんは高齢の方が多く、一度症状が改善しても再入院することが非常に多いのが大きな医療課題です。この課題を改善したいと思い、研究を重ねていました。
しかし、研究は時間がかかるため、すぐに成果を患者さんに還元できないことに課題を感じていました。そんなとき、「ジャパン・バイオデザインプログラム」に参加する機会を得ました。
このプログラムは医療機器のイノベーションリーダーを育成するためのものです。医療機器に興味があったことと、研究では時間がかかると感じていたことから、「医療機器を開発して世の中に提供することで、より短期間で直接的に再入院率を下げられるのではないか」と考えました。
当初は医療機器について学べればいいと思い参加していたため、起業する意図はありませんでした。しかし、そこでの学びがきっかけとなり、遠隔心臓リハビリの分野で起業するに至りました。
リモハブが目指す「健幸」社会:革新的な遠隔心臓リハビリシステムの仕組みと意義
▲自宅にいながら医療リハビリを受けられるリモハブ独自のシステム
編集部
その思いが、リモハブさんが開発されている「遠隔医療の心臓リハビリシステム」につながったのですね。このシステムについて詳しく教えていただけますか?
谷口さん
高齢になると、「フレイル」や「サルコペニア」と呼ばれる身体機能の低下に加え、心肺機能の低下、認知症などの認知機能の低下など、さまざまな症状が現れます。これらの症状に対して科学的に効果が検証されているのが「運動療法」です。
リモハブが開発している心臓リハビリシステムの中核も運動療法で、心臓に疾患を持つ患者さんに心臓リハビリを提供することを目的としています。ここで重要なのは、自宅でも安全に運動ができる仕組みであるということです。
このシステムは、アプリを搭載したタブレット、スマートバイク、ウェアラブル心電計の生体センサーから構成されています。具体的には、「生体センサーを装着した患者さんが自宅でスマートバイクを使って運動し、そのデータを医療者がリアルタイムでモニタリングする」という流れになります。
医療者はモニタリングしながら、リアルタイムでバイクの運動負荷量を調整したり、利用者に直接指導したりすることができます。つまり、自宅にいながらにして医療レベルのリハビリを受けることができるのです。
心臓リハビリの普及課題:99%の患者が直面する現状とリモハブの解決策
編集部
通常、リハビリは「病院や施設に通って受ける」というイメージがあります。それが自宅で受けられるというのは大きな利点ですね。特に高齢の方にとって、通院の往復時間を考えると、運動のために病院に通うのは大変だと思います。
谷口さん
おっしゃる通りです。日本の医療上のガイドラインによると、心臓リハビリは週3回の運動が望ましいとされています。ただし、これは最低限の回数で、実際は週3~5回くらい運動することが理想的です。
現在、心不全の患者さんで心臓リハビリを受けている方は全体の7%しかいません。さらにその内の9割程度が週1回しか受けられていないのが現状です。つまり、適切な頻度で心臓リハビリを受けている患者さんは1%にも満たないのです。
編集部
そんなに少ないんですね!受けている方と受けていない方の違いはどのようなものなのでしょうか。
谷口さん
心臓リハビリの認知不足が一因ですが、地理的な要因も大きいです。都心部で、特に駅から近い場所に住んでいる方が比較的通いやすい傾向があります。
編集部
なるほど。このサービスが広まれば、様々な事情で外出が難しい人でもリハビリを受けやすくなりそうですね。
リモハブさんのシステムによって通院の負担が減り、リハビリを受けやすくなれば、健康寿命の延伸にも繋がります。SDGsの目標である「すべての人に健康と福祉を」の達成に向けても貢献されているんですね。
在宅リハビリがもたらすQOL向上:患者と家族の生活を豊かにする遠隔医療の可能性
編集部
このシステムは、現在治験中ということですが、今後実用化して普及させていく上での課題などはありますか。
谷口さん
各自宅にバイクの設置や回収が必要なので、そこはビジネス上のハードルではありますね。しかし、それはリモハブがグループ参画しているエア・ウォーター株式会社の販売営業体制を利用して、克服できるのではないかと考えています。
もう一つの課題は価格面です。現在は治験中のため医療機器として承認されていない状態ですが、治験が終わって医療機器として薬事承認・保険収載をしてもらうことができたら、利用料も抑えられると思います。市場への導入は2024年度内を予定しています。
編集部
保険対象となれば、より多くの人が利用しやすくなりますね。この心臓リハビリを受けることで、具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。
谷口さん
一つは「再入院を減らせる」ということです。入退院を繰り返すのではなく自宅で過ごせることはQOL(生活の質)の向上にもつながります。
例えば実際に、散歩中に倒れてしまったことで、外での運動に自信がなくなった方がいましたが、このシステムを使って運動をすることで徐々に体力も自信もつけていき、「今日はスーパーまで行ってきた」と報告してくださいました。自分の体を動かせることで笑顔が増えてくることにもつながります。
もう1つ、通院は高齢の方ご自身にとって大変なだけでなく、家族の付き添いも同じくらい負担が大きいものです。寝たきりになると、介護する若い世代にも負担がかかってきます。自宅で心臓リハビリを受けられることで、ご家族の負担を軽減できるという間接的な好影響もあると考えています。
高齢者の方にとっても、その家族にとっても、QOLの向上につながると信じて、我々は事業を進めています。
リモハブの強み:医療とIT、多様なプロフェッショナルの融合がもたらすイノベーション
▲現在も診察を行っているからこそ、医療現場のリアルな声がわかる
編集部
リモハブさんには医師や看護師といった医療関係者以外にも、テクニカルサポートやエンジニアなど多様な職種の方がいらっしゃいますね。いろいろな知識を持つメンバーがいるリモハブならではの特徴などはありますか。
谷口さん
医師である私や看護師が把握している医療現場の声を、エンジニアが拾い上げてシステムを改善していく。そのサイクルをすごく短期間で回すことができるのがリモハブの一番の特徴だと思います。
具体的な例を挙げると、医療現場の声を直接聞いたエンジニアの提案が製品に反映された事例があります。これは多職種が集まるリモハブならではのメリットですね。
編集部
スタートアップ企業の働き方について、どのような特徴がありますか。
谷口さん
つい最近、男性社員で育児休業を取得したメンバーもいます。まだ完全に基盤が整っているわけではありませんが、それぞれに裁量を持って自律的に働ける環境があります。社員一人ひとりの状況に応じた柔軟な働き方を支援しています。
リモハブの企業文化:相互尊重と心理的安全性が育む創造的な職場環境
▲リモハブさんの会議中の様子
編集部
「愛情を持った物作りをされていて、みんなでアイデアを出しながらリモハブの製品がどんどん進化していく」という社内からの声もお聞きしました。どのようなところで、製品への愛情を感じますか。
谷口さん
「自分の親にもこのシステムを使ってほしい」という意見を聞くことはありますね。そういう愛情があるからこそどんどんアイデアが出て、製品が進化しているのだと感じます。
編集部
社内の雰囲気としては、どのような方が多いのでしょうか。
谷口さん
どちらかというと奥ゆかしい人が多いです(笑)。ただその中に秘めた熱い思いを持っている人たちが集まっているということが、社内の人と話しているとよくわかります。それぞれ経験してきた仕事の内容や持っているスキルは違いますが、根底にある情熱は共通しています。
アイデアが出やすいのは、人の意見に耳を傾けてくれる風土があることも大きいと思います。最初から自分の結論ありきで話さず、相手を尊重することができる。それはポジションや職種に関わらずみんながそのような姿勢で人に接しています。
私自身も意識しているのが「質問から始める」という姿勢です。そうでないと、こちらが勝手に思っていることが実は違っていてコミュニケーションのロスをしてしまうことがありますよね。それはとても非効率的だと考えています。
また「心理的安全性」もとても意識しているポイントです。つまり、「自分の意見や考えを自由に表現しても大丈夫だ」と感じてもらえる環境づくりです。それがあるからこそ、良いアイデアが生まれていると思っています。
編集部
なるほど。医療関係者を含め、さまざまな経歴を持つメンバーが情熱を持って尊重し合いながらアイデアを出しているから、良い製品が生まれるということがよく分かりました。
リモハブが求める人材像:ビジョンへの共感と専門性、学ぶ姿勢を兼ね備えた人材
編集部
最後に、リモハブさんで働く際にフィットするのはどのような方なのか、お教えいただければと思います。
谷口さん
前提として、まずは我々のビジョンである「世界のヒトに健幸を。」に共感していただける方です。そのビジョンを持って、リモハブの製品を世の中に広めたいと強く思ってくれる人がいいですね。
社内のメンバーが情熱を持っている人ばかりという話もしましたが、やはり「スタートアップ」というのはなかなかハードな世界で、大変なことも多いんです。だからこそ、「自分たちがやっていることが本当に世の中の役に立つ大切なことだ」と思える情熱を持った人が、リモハブで活躍していただけるのではないかと思います。
あとは、学ぶ姿勢や、一緒に働くメンバーに対するリスペクトという面で「謙虚な心」を持っていることも大切ですね。そして物事を「自分事」として考えて進めていける人、プロフェッショナルであることも求められます。
何かの分野で専門性を持ちながら、学ぶ姿勢や人へのリスペクトを忘れずに、物事を率先して進められる人が、リモハブで活躍していただけるのではないかと思っています。興味を持った求職者の方は、ぜひお問い合わせください。
編集部
リモハブさんは、高齢化社会の中で非常に先進的な取り組みをされている企業だということがよくわかりました。ありがとうございました。
■取材協力
株式会社リモハブ:https://www.remohab.com/
採用情報:https://www.remohab.com/recruit