若手が活躍している、インターンを受け入れているなど、人を育て「これから」の社会をつくっていく企業を紹介するこの企画。今回は、ランドセルや大人向けの鞄(カバン)・革小物など、オリジナルブランド製品の企画、製造、販売、アフターフォローまでを一気通貫で行なっている株式会社土屋鞄製造所を取材させていただきました。
株式会社土屋鞄製造所とは
株式会社土屋鞄製造所は、丈夫で品格のあるランドセルをつくり続けてきた老舗鞄メーカーです。日本らしい丁寧なものづくりにこだわり、“工房系ランドセル”の人気を牽引してきました。創業者である土屋國男さんは、2022年に革ランドセル製造工として「現代の名工」に選ばれています。
2000年からは、ランドセルの機能美を進化させる形で大人向け商品にも着手し、商品購入後のアフターサポートの手厚さなどもあり「永く大切に使うことができる良品」として、着実にファンを増やしてきました。
高い技術力を有する熟練の職人を多く擁する一方で、企画・デザイン・店舗の責任者など若手もさまざまに活躍しています。例えば、倉庫に保管されていた過去良品モデルのランドセルを販売する「STOCK LUCK(ストック・ラック)」は、入社2年目の同期同士が企画立案をしました。
会社名 | 株式会社土屋鞄製造所 |
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住所 | 東京都足立区西新井7-15-5(本社) |
事業内容 | オリジナルブランドでの皮革製品を中心としたランドセル、鞄、小物の企画・製作および販売 |
設立 | 1965年 |
公式ページ | https://tsuchiya-kaban.jp/https://tsuchiya-randoseru.jp/ |
今回は株式会社土屋鞄製造所の人事本部人材開発課の課長である西島悠蔵さんに、若手の活躍、インターンシップ、採用に関するメッセージなどについてお話を聞かせていただきます。
「土屋鞄製造所のランドセル」を核に事業を拡大中
▲株式会社土屋鞄製造所のランドセルのなかでも人気の高い「RECOプレミアム 牛革ハイブリッド」シリーズ
編集部
まずは、土屋鞄製造所さんの事業内容について教えていただけますでしょうか。
西島さん
土屋鞄製造所は、東京の下町にあった小さな工房でのランドセルづくりから始まりました。ランドセル事業は今も弊社の主力事業です。
これまで一貫して、丈夫さ、1年生のときにも6年生のときにも似合う色とデザイン、背負い心地の良さなどにこだわってきました。小学校を卒業する日までしっかりお子さまに寄り添えるよう、取り扱い不良によるものも含めて6年間無料で修理を承っています。
また、小学校卒業後に、お子さまが使い込んだ風合いを生かしてミニチュアランドセルやペンケースなどに仕立て直す「ランドセルリメイク」も好評です。
編集部
ランドセル以外の事業につきましては、いかがでしょうか。
西島さん
大人の方向けの鞄や革小物などを取り扱っています。「時を超えて愛される価値をつくる」ことを貫いた日本らしい丁寧なものづくりと、ランドセルにおいても同様ですが、製品の企画から製造・販売・アフターフォローまでをすべて自社で行っているというのが特徴です。
また、ランドセルに関しても、SDGsの流れを受けて過去在庫を販売する「STOCK LUCK」シリーズを立ち上げたり、パリの街並みからデザインの着想を得た「grirose(グリローズ)」という従来の土屋鞄製造所の製品とは少し異なるブランドを展開したりと、新たな試みをいろいろと行っています。
編集部
なるほど、ランドセルという創業以来の核を大切にしつつ、少しずつ形を変えたり領域を広げたりしながら事業を拡大していらっしゃるわけですね。
入社2年目の店長も誕生。若手活躍を生む先輩後輩文化
編集部
特集のテーマの1つである若手活躍について伺いたいのですが、土屋鞄製造所さんでは入社何年目ぐらいから活躍される方が多いのでしょうか。
西島さん
人それぞれですが、新卒2年目で店長になった方や、3年目で先ほどお話したgriroseの期間限定ポップアップ店舗の責任者を務めた方など、入社2年目3年目でも目立った活躍をされている社員は多いですね。
編集部
熟練の職人さんがたくさんいらっしゃる老舗企業でありながら、入社2、3年目の若手の方が活躍できている背景について教えてください。
西島さん
いい意味での「先輩後輩文化」が根付いていることが、要因の1つではないでしょうか。既存の社員や上司などが、いろいろなことを教えたり、適切な目標設定をしてあげたり、チャンスや成長のきっかけをたくさんパスしてくれたりする社内の環境が、若手活躍の土台です。
先輩後輩という文化はわりと日本独自のものだと思うのですが、上司部下の関係ほど一方的ではなく、信頼や仲間意識に基づいた関係性となります。ですから、後輩側はアドバイスを真摯に受け止めますし、チャンスをもらったときにどうにか応えようと奮起するわけです。
先輩側も若手の発言や発想を無下にせず尊重して大事にするため、お互いに教えたり新たな気付きをもらったりという良い関係性を築くことができていますし、自分の意見を大事に受け止められることでますます後輩側は奮起します。そうした相乗効果が若手の成長を促して、比較的若いうちからいろいろなプロジェクトや責任あるポジションにアサインされることにつながっているのかもしれません。
店舗スタッフから、製品の企画や販促もこなす少数精鋭部門に抜擢
編集部
若手の方が活躍をされている具体例をいくつか教えてください。
西島さん
土屋鞄製造所のなかに「objcts.io(オブジェクツアイオー)」というブランドがあります。スマホショルダーなど現代のライフスタイルに合うレザープロダクトを展開する別事業で、かなり少数精鋭でやっている部門なんです。土屋鞄の店舗スタッフとして勤務していた新卒2年目の若手2人が、その部門に抜擢されました。
現在は入社3年目となり、製品の企画や販売促進など多岐にわたって活躍してくれています。直近では、渋谷スクランブルスクエアで「objcts.io」のポップアップストアを開催したのですが、その企画にも関わりました。
編集部
周囲の環境以外に、その2人の活躍の要因となったものはありますか。
西島さん
要因として思い当たることが2つあります。1つ目は、2人とも裏ですごく努力をしているという点です。
例えば、そのうちの1人がまだ店舗スタッフだった頃、業務時間後にカフェで偶然見かけて声を掛けたことがありました。何かを熱心に読んでいたので何をしていたのか聞いてみたところ、「革について勉強しています」「ある程度の知識やスキルがないと、お客様とコミュニケーションをとるときに会話にならないと思うので」と言うんです。
2人は店舗スタッフのときにも、この2人目当てで来店をされるお客様がいらっしゃったほど良い接客ができるスタッフでした。任された業務以上の成果を出すために自ら学んでいくという姿勢が、そうした良質な接客や仕事、ひいては早期の活躍につながっているのだと思います。
もう1つは、自分の「好き」や「強み」を理解して生かしているという点です。例えば、1人は書道師範資格を有しているため、販促物をつくるときなどに「私、書けますよ」「こういうことができるので、こういった企画をやりたいです」と手をあげてくれます。自分を活かすように動く積極性というのも、若くして活躍するためには重要です。
職人に寄り添いながら、入社2年目で製品デザインを担当
▲株式会社土屋鞄製造所のランドセル職人
編集部
土屋鞄製造所さんには年代の高い職人さんも多いと思うのですが、若手の方はそういった職人さんとのコミュニケーションは問題なくとれていらっしゃるのでしょうか。
西島さん
一般的に「職人は頑固で自分の意見を曲げなさそう」「話しかけにくそう」などのイメージがあるかと思います。職人といっても20代~70代までいるので、年齢差も大きい部門になりますから、年齢差ゆえのコミュニケーションスタイルの違いで、一見難しいところはあるかもしれません。
どの年齢・部門にも言えることですが、チャットのような気軽なコミュニケーションだけではなく、双方リスペクトをもって対面で向き合ってコミュニケーションをとることで、職人と他部署間であっても気持ちよく円滑なやり取りができていると感じています。
編集部
職人さんと上手くコミュニケーションをとって早期活躍している若手の方の例がありましたら、教えていただけますでしょうか。
西島さん
入社2年目で「Gusset code(ガゼットコード)」というウィメンズシリーズのデザインを担当したという方がいます。この社員は、職人の遊び心をテーマにした「『運ぶ』を楽しむ-THE FUN OF CARRYING-」のデザインも担当しました。だるまを運ぶ用の専用鞄、丸いスイカを丸ごと入れられるスイカ専用バッグなど、発表するたびにSNSを中心に大きなご反響をいただいているシリーズです。
このシリーズは「職人の遊び心」と謳うだけあって、かなり凝った難しい技法なども使っています。この方は「良いものを一緒につくっていきたい」ということを職人さんに伝えて、職人さんの側に立って考え寄り添うということを粘り強く続けていました。また、このシリーズをWEBサイトやTikTokで発信して販促・PRにつなげているのも、新卒の若手社員たちです。
株式会社土屋鞄製造所での早期活躍の鍵はやるべきことをやること
▲日本橋オフィスで談笑する株式会社土屋鞄製造所の社員さんたち
編集部
早期に活躍できる若手の方に共通している資質のようなものはあるのでしょうか。
西島さん
「やるべきことをやっている」ということですね。
早期活躍をしている若手というのは、上司や周囲の先輩からたくさん声掛けやチャンスをもらっています。先ほどお話しましたように土屋鞄製造所には先輩後輩文化が根付いていますので、そういった声掛けは多い環境です。ただ、仕事を任されるためには、やはり信頼をつくっておかないといけません。
編集部
やるべきことをやることが、信頼につながるということでしょうか。
西島さん
はい。任された仕事をやらずに「私はもっとこういう仕事がやりたいです」と主張する方には、なかなかチャンスを渡しにくいですよね。仕事の成果が仕事に返るといいますか、初年度から努力をしている、任された仕事できちんと成果を出しているというのがあると、信頼が醸成されてチャンスを渡してもらえる機会が増えるのだと思います。
編集部
先輩後輩文化という土台があるので、積極的に学びながら目の前の仕事にきちんと取り組んでいればチャンスはたくさん巡ってくるということですね。入社2年目で店長さんになったり、少数精鋭部門に抜擢されたり、製品デザインを任されたりと、多くの若手社員さんが活躍している現状がよくわかりました。
インターンシップで学生に出会いと機会を創出
編集部
今回の特集のもう1つのテーマである、インターンシップについてお話を聞かせてください。土屋鞄製造所さんがインターン生の受け入れを始めたきっかけというのは何だったのでしょうか。
西島さん
きっかけはコロナ禍です。行動制限が多いなかで、当時は対人コミュニケーションの機会というのが少なくなっていました。学生さんも横や縦のつながりがつくりづらくなっていたように感じていました。そこで、突発性や偶然性のある出会い、対人コミュニケーションの機会を意図的につくりだせないだろうかというところから、インターンシップが始まりました。
ただ、実際にやってみることで、インターンシップを行う意図や目的というのは「学生さんに対して、場や機会をつくる」というもともとのものから変わってきています。
編集部
どのように変わったのでしょうか。
西島さん
学生さんにいろいろな角度から土屋鞄製造所を知ってもらうことや、採用につながる導線の1つにすることが目的になりつつありますね。もちろん、最初から「採用につながるといいな」というのはあったのですが、よりそこに焦点が向きつつあるという感じです。
編集部
それは、インターン生を受け入れたことで変わったのでしょうか。
西島さん
そうですね。行動制限などがだいぶ緩和されたという社会状況の変化もあるのですが、実際にやってみて「インターンシップというのは、思いのほか学生さんの本来の姿が見える」「面接で見抜けないところまで明確になる」と感じたというのが大きいです。
株式会社土屋鞄製造所の採用にもつながるインターンシップ
編集部
土屋鞄製造所さんが実施されているインターンシップの種類について教えていただけますか。
西島さん
3日間で弊社の企画会議を疑似体験していただく「サマーインターンシップ」、2022年2月に募集をかけた「長期インターンシップ」、2022年卒の内定者から実施している「内定者インターンシップ」があります。
長期インターンシップは、学年不問で期間は最長4年間、職種は40種以上、仕事によってはオンラインでの参加も可という、学生さんにとってかなり自由度の高い募集でした。サマーインターンシップと内定者インターンシップは毎年実施していく予定です。
また、「何ヶ月間こういう部門でこういう仕事をしてもらいます」「こういうポジションがあります」という前提で応募していただく形の、中期のインターンシップも行っています。
編集部
インターンシップからそのまま採用されるということもあるのでしょうか。
西島さん
そうですね。直近では、選考中にobjcts.io事業室でインターンを始めて、そのまま内定が決まって配属されたというケースがあります。サマーインターンシップは期間が3日間ですのでそのまま採用ということはありませんが、2023年は結果的にサマーインターンシップ参加者のうち2名が入社しました。
インターンシップ経験者は土屋鞄製造所のことやそこで働く人たちのことをより深く理解していますので、面接での発言にもやはり説得力があります。また、入社となった場合は、業務理解や事業理解にアドバンテージがあるのを生かして、他の人よりもちょっとだけ早くスタートダッシュが切れているケースが多いです。
インターンを通じて株式会社土屋鞄製造所のファンができることも
編集部
インターンシップに参加することで、学生さん側に土屋鞄製造所さんへの愛着が湧いて「入社したい!」という感じになるのでしょうか。
西島さん
入りたいというケースもあれば、もちろん違う会社に行きますという判断をされるインターン生さんもいらっしゃいます。また、インターンシップの選考と就職の選考は別のものですので、インターン生で来て入社を望んでいただいても採用に至らない方もいらっしゃいます。ただ、採用につながるケースもつながらないケースも、総じて最後はお互い良い思いで終われるケースが多いです。
編集部
インターン生の学生さんとのエピソードがありましたら、教えていただけますでしょうか。
西島さん
嬉しかったのは、別の会社に入社した方が「初任給で土屋鞄の名刺入れを買いました」と言ってくださったことです。残念ながら採用を見送った方から「こういう会社に入社して、初期配属がここになりました」と連絡をいただいたこともありました。採用につながらなければそれで終わりということではなく、その後も個人的なSNSでつながっていたり、何かの折にご連絡いただいたりということも少なくありません。会社としてもいい出会い・財産になっています。
編集部
社員としてではなく、ユーザーとして応援してくださる方もいらっしゃるということですね。
西島さん
はい、今までも採用活動を通してファンになっていただけることがないわけではなかったのですが、インターンシップはそれをより顕著に感じます。新しい形でユーザー予備群の方と接点が持てたり、ファンづくりにつながったりというのも、インターンシップの大きな成果としてあるのかもしれません。
入社前から職場で人間関係を築けることもインターンシップの強み
▲株式会社土屋鞄製造所の日本橋オフィス
編集部
インターン生を受け入れている部署の方からは、どのような声があがっていらっしゃいますか。
西島さん
やはり大変だとは言われます。急に「授業で行けなくなりました」というようなことがあるなど、学生さんゆえに少し勤怠が安定しないこともありますので、まだ課題は多いです。
ただ、若い学生さんが入ってくることは良い刺激になりますし、何かを教えるというのは教える側にとっていちばん勉強になりますので「インターン生を受け入れたことで成長できた」という声もたくさんありました。
編集部
インターンシップで来た学生さんが入社されると、いろいろ教えた部門の方々としてもやはり嬉しいものなのでしょうか。
西島さん
そうですね、嬉しいと思います。インターンシップのときに受け入れをしていた部門の方たちは、入社後もやはり面倒をよく見てくれたり、入社式の際に声を掛けたりしているようです。早いうち、それこそ入社前から良好な人間関係がつくれているということは、元インターン生にとっても部門側にとっても素晴らしいことだと思います。
編集部
最初はコロナ禍で対人コミュニケーションの機会が減った学生さんに「場と機会をつくる」ことを目的に始められたインターンシップが、学生さんとお互いをよく知りあい、新たな縁や土屋鞄製造所さんのファンを生み、入社につながった学生さんにとっても受け入れ部門にとっても良い場になっているということですね。
職人の技や丁寧さなど日本の良さを伝える仕事をともに
編集部
この記事をご覧になって御社にご興味を持たれた方に向けて、最後に何かメッセージをいただけますでしょうか。
西島さん
少し青臭い話になるかもしれないのですが、「人とものと時間を大切にする、日本の『丁寧』を世界へ」ということに真摯に向き合っています。
私たちが考える日本の良さは、人とものと時間を大切にするということ、すべてに「丁寧」という思いを込めるということです。「永く使える丈夫さと永く愛せる品格と美しさ」を実現するために、職人さんたちは技と心配りを製品の隅々にまでいきわたらせながら丁寧に仕事をしています。
ITがめまぐるしく進化していくなか、最先端の仕事や面白い仕事もたくさんあるでしょう。しかし、不変の価値というものを大切にし、日本古来の良さを守る仕事に、私たちは誇りをもって取り組んでいます。日本の「丁寧」を世界に伝えて広げていくことにご興味がある、ともに挑みたいという方がいらっしゃったら嬉しいです。
編集部
日本のものづくりのなかで昔から育まれてきた「丁寧」を、とても大切に守っていらっしゃるということが伝わってきました。本日はどうもありがとうございました。
■取材協力
株式会社土屋鞄製造所:https://tsuchiya-kaban.jp/
土屋鞄のランドセル:https://tsuchiya-randoseru.jp/
採用ページ:https://tsuchiya-kaban.work/