「AIに仕事を奪われるのではないか」「自分のスキルは、これからも通用するのだろうか」──AI時代の働き方に、そんな不安を感じていませんか?
ネットで調べると「なくなる仕事リスト」や「身につけるべきスキル一覧」がずらりと並びます。ですが、そこで語られるのは"求職者から見た"一般論ばかり。本当に知りたいのは、「採用する企業は、いま実際にどんな人を採りたいのか」ではないでしょうか。
本記事では、リクルートやライフネット生命などで人事トップを務め、2万人以上の求職者と面接してきた株式会社人材研究所・代表取締役社長の曽和利光氏に取材。AI時代に、どんな仕事が残り、企業はどんな人を採りたいのか。採用のプロの視点から語ってもらいました。
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2026年7月7日
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AIに代替される仕事・されない仕事
消えるのは「職種」でなく「タスク」。判断・調整・ケアは残る
AIに代替されやすいのは、専門知識で価値を出してきた仕事です。ただし、なくなるのは職種まるごとではなく、その中の「タスク」。
人にしかできない判断・調整・ケアの仕事は残ります。
粕尾(編集部)
「AIに仕事を奪われる」という不安をよく聞きます。実際に、どんな仕事がAIに代替されやすいのでしょうか。
曽和氏
意外に思われるかもしれませんが、代替されやすいのは、実はある種の専門家です。弁護士、会計士、コンサルタント。知識の厚さや専門性で価値を出してきた人たちですね。
彼らは基本的に、クライアントの利益を最大化するために、言われたことに応えて動く人たちでした。強い意思があるわけではない。だから、法律や会計、あるいはコンサルの調査・分析といった仕事は、どんどんAIでできるようになってきています。
なくなるのは「職種」ではなく「タスク」

粕尾(編集部)
弁護士や会計士の仕事が、まるごとなくなるということでしょうか。
曽和氏
いえ、大事なのは、「職種」がなくなるのではなく、その職種の中の「タスク」がなくなる、という捉え方です。
たとえば弁護士がなくなるかというと、そんなことはありません。法廷で弁論する、裁判員に訴えかける、はっきりと白黒つかない事実の中で判断する。こうした仕事は残ります。一方で、関係する法律を探して整理するような作業は、AIがすぐに片づけてくれる。同じ職種でも、タスク単位で置き換わっていくんです。
粕尾(編集部)
どんなタスクが、特に置き換わりやすいのでしょう。
曽和氏
情報収集、情報整理、定型的な作業、それから集計してグラフにするような統計的な分析ですね。ただ、そこから出たデータを読み取り、意味を見いだして判断するところは、人間に残ります。「作業」がなくなり、「解釈と判断」が残る、という形です。

残る仕事の共通点は「人にしかできない判断・調整・ケア」
粕尾(編集部)
人に残る仕事には、何か共通点がありますか。
曽和氏
「人にしかできないこと」に集約されます。いくつか挙げてみます。
一つは、ヒューマンタッチのケアです。介護や看護、教師のように、人の気持ちに寄り添う仕事。勉強を教えるだけならアプリでもできますが、浮かない顔をした生徒に「大丈夫か」と声をかける部分は、人にしかできません。
二つ目は、営業です。車でも家でも、誰から買っても品物は同じなのに、「この人から買いたい」という気持ちは確かにありますよね。顧客との信頼関係づくりは、人の仕事として見直されています。
粕尾(編集部)
介護や営業のような対人の仕事のほかに、会社の内部の仕事でも残るものはありますか。
曽和氏
あります。たとえば人事制度の改革。現状分析や制度設計は、かなりの部分がAIでできてしまいます。ですが、制度を変えると必ず「得する人」と「損する人」が入れ替わり、反対意見が出ます。この反対意見を調整するのは、人間にしかできません。「AIが言っているから」では、誰も納得しませんからね。
こうした部門間の調整や意思決定の支援、そしてゼロから新しいものを生み出す仕事。さらにマネジメントの中でも、部下のモチベーションを引き出したり、仕事の意味づけをしたりする「ピープルマネジメント」の部分は残ります。突き詰めると、最後に残るのはマネジメントとリーダーシップだと思います。
AI時代の今、企業が欲しい人材とは?
求められるのは「AIを使いこなせる人」
AIは、優秀な部下にはなれても、リーダーにはなれません。だから企業が欲しいのは、AIを部下のように使いこなし、自分で問いを立て、判断し、責任を負える人です。
粕尾(編集部)
人にしかできない仕事が残るなかで、企業はいま、どんな人材を求めているのでしょうか。
曽和氏
ひと言でいえば、AIを部下のように使いこなせる人です。
AIは、優秀な部下にはなれても、リーダーやマネージャーにはなれません。なぜなら、AIには「これをやりたい」という意思(Will)がないからです。言われたことをものすごく優秀にこなす存在にはなれても、人を使う側にはなれない。だからこそ、AIを部下のように使って、自分で仕事を動かせる人が求められます。
「AIを使いこなす」とは、問いを立てて判断すること

粕尾(編集部)
「AIを使いこなす」というと、プロンプトを上手に書く技術を思い浮かべる人も多そうです。
曽和氏
そこは間違えないでほしいところです。プロンプト技術は、一過性のものだと思っています。どう指示すればいいかは、AI自身がどんどん吸収してくれるからです。人に頼むように普通に言えば、あとはうまくやってくれます。
本当に大事なのは、「何をやるか」を決めることです。「これをやりたい。どうやるかは考えてみて」と投げれば、やり方はAIが返してくれる。その答えを見て、「じゃあこれでいこう」と決める。この、問いを立てて、判断して、責任を持つという一連の流れこそ、AIにはできないことなんです。
粕尾(編集部)
情報が足りないときの判断も、人がするしかないですね。
曽和氏
そうです。AIが「五分五分でどちらとも言えません」としか答えられない場面はいくらでもあります。それでも現実には、どちらかに決めて進めなければいけない。この覚悟を持った「決断」は、人にしかできません。
粕尾(編集部)
一部のリーダーだけに必要な力、という感じもします。
曽和氏
いえ、これからは誰もが求められます。極端に言えば、優秀な部下であるAIが全員につく時代です。だとすると、問いを立てて指示を出し、返ってきたものを判断して、覚悟を持って決める。この管理職のような動き方を、誰もがすることになります。ところが今、管理職になりたいという若手は2割ほどしかいません。ここに、これからの働き方との大きなギャップがあるんです。

これから効いてくるのは「教養(土地勘)」
粕尾(編集部)
知識そのものは、もういらなくなるのでしょうか。
曽和氏
丸暗記のような知識の価値は、確かに下がります。ですが、"土地勘"のように、ざっくりと全体像を感覚的につかむ能力は、絶対に必要だと思います。
たとえば数学でいえば、難しい計算を全部自分でできる必要はありません。統計の分析を行うなら、「こういう場合は、こんな手法がある」という見当さえつけば、細かい処理はAIがやってくれます。
逆に、その見当がまったくつかないと、AIに何を頼めばいいのかも分かりません。指示をするにも、一度も触れたことのない分野は扱えないんです。だから、どこに何があるかを大づかみにつかむ"土地勘"は、これからむしろ大事になります。
粕尾(編集部)
細かい専門知識より、全体を見渡す力、ということですね。
曽和氏
そうです。「教養」に近いかもしれません。いろいろな分野の大枠と、そのつながりが頭に入っている。いわば"知の地図"を持っている、ということです。一つの領域を深く掘り下げた専門知識よりも、この地図を持っていることのほうが、これからは重要になる。リベラルアーツ(※)の復権、といってもいいかもしれませんね。
(※)古代ギリシャ・ローマ時代の「自由七科」を起源とする、複数領域を学び融合させる教育理念
AIは採用基準をどう変えたのか?
"表現のうまさ"が平準化。"中身"を正しく評価できる時代へ
これまで評価を左右してきた「表現のうまさ」は、AIで平準化しました。そのぶん企業は、話や文章のうまさではなく、本当の能力="中身"を正しく評価できるようになっています。
粕尾(編集部)
AIは、採用そのものにも変化をもたらしたのでしょうか。
曽和氏
ええ。特に大きく変わったのは、書類選考と面接のあり方です。
AI面接は「人の面接」ではなく「書類選考」の代わり
粕尾(編集部)
「AI面接」を導入する企業も増えました。あれは、人が行う面接の代わりなのでしょうか。
曽和氏
よく誤解されるところです。多くの方は「人の面接の代わり」と思っていますが、大企業の側から見ると、AI面接は基本的にエントリーシート(ES)の代わりなんです。
以前は、たとえば100人採るのに1万人分のESが集まり、手分けして読んで絞り込んでいました。ところが今は、みんなAIを使って立派な文章を書けてしまう。ESを読んでも、正直よく分からないんですね。だからESの代わりに、AIが候補者に質問して情報を集める。AIは、必要な情報を、足りなければ出てくるまで順を追って聞いてくれます。人間より漏れなく、正確に集められるんです。
私自身、AI面接の開発の裏側を手伝ったこともあるので分かるのですが、情報を集めて整理するところまではAIのほうがうまい。ただ、最後の「この人はどのレベルか」という評価だけは、まだ人間がやったほうが正確です。だから、集めるのはAI、評価するのは人間、という役割分担になってきています。

AIの発達により、"中身"を正しく評価できる時代になった

粕尾(編集部)
表現力で差がつかなくなったことで、企業の評価はどう変わったのでしょうか。
曽和氏
見たいもの自体は、実は昔から変わっていません。やりきる力や目標達成力といった"中身"です。ただ、これまでは面接でもESでも「話がうまい」「文章がうまい」という表現力に評価が引っ張られ、話の上手な人ほど能力が高く見えてしまっていました。
ところがAIのおかげで、その表現力がみんな同じレベルにそろいました。そうすると、残るのは中身での勝負です。もともと知りたかった「本当の能力」を、ようやく正しく見られるようになった。皮肉なようですが、AIの登場で採用がむしろ本質的になった、という面もあるんです。
粕尾(編集部)
では、その"中身"を、企業はどうやって見極めるのでしょうか。
曽和氏
聞き方を変えるんです。これまでは「どんな場面で、何をして、どんな結果を出したか」を聞いていました。ですが、行動と結果だけでは、本人の力なのかAIのおかげなのか分かりません。だから「なぜそれをやったのか」「どう判断したのか」を深掘りします。思考の裏側を聞けば、問いを立て、判断し、責任を負う力が見えてくるからです。
AI時代に最も影響を受けるのは「若手」
若手は「伸びしろ」と「自分で学ぶ力」で選ばれる
AIの影響を最も強く受けているのは若手です。かつて新人が任されていた雑務がAIに移り、「働きながら育つ場」そのものが失われつつあります。
これからの若手には、「伸びしろ」と「自分で学ぶ力」が求められます。
粕尾(編集部)
AIの影響は、世代によっても違うのでしょうか。
曽和氏
一番影響を受けているのは、若い世代です。
かつて新人に任せていた議事録づくりや資料まとめといった定型業務が、どんどんAIに移りました。そのぶん採用数も減らされていて、今までなら100人採る予定が、50人でいい、という話になっています。一方で、中高年は今のところ逃げ切れている面があります。AIに命令を出せるレベルの人は、むしろAIを使って自分の効率を上げられますからね。
若手が失うのは「仕事」だけではない

粕尾(編集部)
採用数が減るだけでなく、若手には別の影響もあるのでしょうか。
曽和氏
そこが本質的な問題です。若手が失いつつあるのは、仕事だけでなく「育つ場」です。
たとえば議事録を取る作業。あれは単なる雑務に見えて、実は会話の中で使われている用語を調べたり、話の中身を理解したりしながら、仕事を覚えていく場でもありました。その作業がなくなったことで、成長の機会そのものが奪われてしまったんです。
粕尾(編集部)
日本でも、アメリカのように失業がすぐに増えていく、という話なのでしょうか。
曽和氏
いえ、そこはまだ猶予があると思います。日本はもともと人が足りないので、AIが入ってもしばらくは踏みとどまるでしょう。ただ、採用数が維持されたとしても、若手が育つ場が細っていることは変わりません。
求められるのは「伸びしろ」と「自分で学ぶ力」
粕尾(編集部)
そうなると、若手はどう見られ、何が評価されるのでしょうか。
曽和氏
「伸びしろ」で選ばれるようになります。
企業からすると、本当はAIに任せたほうが効率はいい。それでもあえて人にやらせるのは、育成のための投資です。私はよく「戦略的不効率」と呼んでいますが、非効率を承知で人に経験を積ませる。だからこそ、「育てがいがあるか」がシビアに見られます。
粕尾(編集部)
今の能力そのものより、これからどれだけ伸びるか、ということですね。
曽和氏
そうです。短期間でぐっと学んで吸収できるか。いわゆるラーニングアジリティ(学習の敏捷性)ですね。AIをどんどん使いこなし、その進歩にもついていける学習能力が問われます。
もう一つ、大きな流れがあります。これまで中小企業は新卒より中途採用が中心でしたが、大手が中途採用を強めているため、中小で育った人材が大企業に引き抜かれる動きが強まっています。中小からすると、大手が新卒を減らしてくれるのはありがたい反面、育てた人を後から持っていかれる。そんな生態系に変わりつつあります。だからこそ、若手は「自分で学び、伸びていける人」であることが、これまで以上に武器になります。
まとめ|AI時代を生き抜くために、今日から意識したいこと

ここまで、AI時代にどんな仕事が残り、企業がどんな人材を求めているのかを、曽和氏にうかがってきました。要点を振り返っておきましょう。
- 消えるのは「職種」でなく「タスク」
情報収集や定型作業はAIへ。人にしかできない判断・調整・ケアの仕事は残ります。 - 企業が欲しいのは「AIを使いこなせる人」
AIを部下のように使い、自分で問いを立て・判断し・責任を負える人です。丸暗記の知識より、分野を横断して見渡す教養が効いてきます。 - 採用は"中身"を正しく評価できる時代へ
表現力はAIで平準化し、話や文章のうまさではなく、本当の能力で見られるようになりました。 - 最も影響を受けるのは若手
育つ場が減るなかで、「伸びしろ」と「自分で学ぶ力」で選ばれます。
これは、特別な職種の人だけの話ではありません。どんな仕事でも同じで、たとえばAIに作らせた資料をそのまま提出するのではなく、「なぜこの結論にするのか」を自分で決めて一言そえる。この一手間が、あなたの"中身"として見られます。
とはいえ、「自分の経験がこれからも通用するのか」「AI時代に、自分はどう見られているのか」は、一人で考えていても答えが出にくいものです。そんなときは、日々多くの企業の採用を見ている転職のプロに、一度相談してみるのも一つの手です。今の自分の市場価値や、経験の活かし方を客観的に確かめられます。まずは情報収集からで構いません。自分がどんな仕事で力を発揮できるのかを整理するところから、はじめてみてはいかがでしょうか。
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| 設立年月日 | 2024年3月15日 |


