企業が取り組む女性の働きやすさへの取り組みや、若手活躍のカルチャーを紹介するこの企画。今回は280年にも渡って愛され続けている老舗酒造メーカー、白鶴酒造株式会社を取材しました。
業界No.1酒造メーカー「白鶴酒造株式会社」
▲記念ロゴは白鶴のシンボルマークとそのシルエットを写し取った円が対をなし「乾杯」を想起させるようなデザイン(公式サイトから引用)
白鶴酒造株式会社は、江戸時代中期の寛保3年(1743年)から続く、日本を代表する老舗の日本酒メーカーです。業界トップクラスの売上と製造量を誇り、日本屈指の酒処として知られる銘醸地・灘五郷のなかでも、ひときわ大きな存在感を放っています。
2023年10月に創業280周年を迎える同社は、「時をこえ 親しみの心をおくる」をスローガンに掲げ、社員1人ひとりが酒造文化の継承者としての心を持ち、食文化の未来のために日々、研鑽と努力を重ねています。
会社名 | 白鶴酒造株式会社 |
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住所 | 兵庫県神戸市東灘区住吉南町4丁目5-5 |
事業内容 | ・清酒の製造、販売および媒介 ・焼酎・リキュール・味醂・その他酒類の製造、販売および媒介 ・ビール・醤油・清涼飲料水・その他食料品の販売 ・輸入ワインの販売 ・不動産の賃貸 ・化粧品の販売 |
設立 | 1927年8月 |
公式ページ | https://www.hakutsuru.co.jp/ |
働き方 | ハイブリッド勤務(出社+リモートワーク) |
伝統的な酒造りの手法に現代の技術を取り入れ、新たなことにチャレンジしている白鶴酒造株式会社では、育児休暇の取得推奨や復職後のサポート体制の整備など、女性の働きやすい環境づくりや、テレワーク、在宅勤務、時短勤務といった新しい働き方を積極的に導入しています。
また、若手社員の、“これまでにない別格のお酒をつくる”という熱意から誕生した商品開発プロジェクトは大きな話題となり、日本酒業界はもとより、多方面からも注目されています。そこで今回は、総務人事部の林さんと新原さんに、女性活躍や若手活躍の背景にあるカルチャーについてお話を伺いました。
創業280周年を迎える白鶴酒造のこだわりの酒造り
編集部
白鶴酒造さんは2023年10月に創業280周年を迎えられると伺っております。日本を代表する酒造メーカーとして知られる御社のこれまでの歴史について、まずはお聞かせいただけますでしょうか。
林さん
当社の歴史は江戸時代中期の寛保3年(1743年)に、現在も日本屈指の酒処として知られる灘五郷のひとつ、御影郷(みかげごう)に材木屋治兵衛が酒蔵を構えたことから始まります。
酒造りに最適な風土のもと、高い酒造りの技術を持つ丹波杜氏によって醸される灘の酒は、上方から江戸に送られる「下り酒」として人気を博しました。社名を冠した「白鶴」は延享4年(1747年)に誕生し、以来、下り酒を代表する銘柄のひとつとして、今日に至るまで多くの方に愛されています。
編集部
「白鶴」が280年もの長きに渡って愛されているのには、どんな理由があるのでしょう。
林さん
強固な信念を持って酒造りに向き合う当社が大切にしているのが、酒の原料である米へのこだわりです。例えば、酒造好適米の王様と呼ばれる山田錦においては、最高品質とされる地元・兵庫県産のものだけを使用しています。
また、山田錦を超える酒造好適米の開発にも取り組んでおり、山田錦の種子親である「山田穂」を現代に蘇らせ、2003年に独自の酒造好適米「白鶴錦(はくつるにしき)」の開発に成功しました。白鶴錦は2007年2月に農林水産省にて品種登録されました。
当社では白鶴錦のおいしさを最大限に引き出すために、栽培技術の向上や遺伝的特性の研究など、さまざまな取り組みを行っています。また、2012年からは他社への白鶴錦の供給を開始し、白鶴錦を通じた酒造業界全体を盛り上げる活動にも尽力しています。
編集部
江戸時代から続く酒造りへのあくなき探究心と情熱があるからこそ、白鶴酒造さんのお酒は長きに渡って絶大な信頼を集め、愛されているのですね。
伝統的な酒造技法と新たな技術を組み合わせた酒造り
▲機械造りと、受け継がれてきた伝統的な手造りそれぞれの技術を磨き続けることで、多様なお酒を醸している(公式サイトから引用)
編集部
日本酒がどのように作られているのか興味がある読者も多いと思われます。白鶴酒造さんの酒造りの手法を教えていただけますか?
林さん
当社では手作業が中心の酒造りと、機械が中心となる酒造りをそれぞれの商品に合わせて行っています。3つの工場のうち、2つの工場では秋から冬の期間だけ、社員と住み込みの期間従業員が酒を仕込む、創業から受け継がれてきた伝統的な「寒造り」を続けています。
期間従業員さんは10月から住み込みで酒造りをし、4月に仕事を終えると地元に帰って行くといった、いわゆる出稼ぎと呼ばれる非正規雇用となっています。
伝統的な手作りの手法に加え、当社では最新の設備・技術を駆使した機械造りも行っています。当社最大となるこの工場では女性社員も多く活躍しており、会社全体で見ると正社員の約25%が女性となっています。
編集部
社員のみなさんが白鶴酒造さんに入社するきっかけは、日本酒が好きなことを挙げられる方が多いのでしょうか。
林さん
お酒に強い弱いはありますが、当社に入社をすると製品そのものに愛着がわき、日本酒をより好きになる人が多いように思われます。
産休・育休は取得することが当たり前。女性活躍を支援するカルチャー
編集部
さまざまなセクションで女性が活躍されている白鶴酒造さんでは、出産や育児など、ライフステージの変化に応じたサポートをされていると伺っております。具体的な事例をご紹介いただけますか?
新原さん
当社では20年以上前から産休・育休制度を取る方が多く、この期間を経て制度を利用しやすい社風が根付くようになりました。今では男性の育休取得者も急増しています。私自身は2017年に第1子を、2020年に第2子を出産し、2回の産休と育休を経て仕事に復帰しました。
産休・育休を取得するにあたり、人事の担当者から取得の流れや保育所の探し方などが記された冊子が渡されます。冊子の内容に沿った丁寧な説明を受けたことで、復職まで不安を感じることなく、育児に専念することができました。
2回目の産休と育休を取得するときは、業務に支障をきたさないよう早めに伝えたのですが、本音をいうと「また?」と思われるのでは、という不安が少なからずありました。しかしそれは杞憂でしかなく、「おめでとう」と上司や同僚に言ってもらえたことがとても嬉しかったです。
編集部
白鶴酒造さんが伝統を守りつつ、時代のニーズに柔軟に対応し、社員の働きやすい環境づくりに尽力されていることがわかりました。
復職に向けた充実のサポート制度。先輩ママからの生きたアドバイスが自信に
編集部
育休中に、業務に関することや会社の出来事など、共有されることはあったのでしょうか。
新原さん
産休・育休中の社員向けに、「白鶴ニュース」が月に1回発行され、郵送で受け取っていました。現在はメールでの配信となっているこの社内報は、会社内での出来事や人事異動などがまとめられた内容となっており、休暇中でも会社の様子を知ることができます。
「白鶴ニュース」のおかげで復職後も孤独を感じることなく業務にあたることができ、仕事にもすぐに慣れることができました。
このように、育休明けに不安なく仕事に向き合うことができたのは、白鶴ニュースをはじめとした育休中の社員をサポートする企業としての協力体制がしっかりしていたおかげです。
編集部
同僚や先輩からのサポートなどはありましたか?
新原さん
先輩ママさんたちが子育てのアドバイスをしてくれたことが心強かったです。第1子のときは出産への不安に加え、復職のタイミングや保育所探しや申請方法など、全てが初めての経験ということもあり、さまざまな不安を抱えていました。
自身の経験に基づいたアドバイスをしてくれる先輩ママの存在は、復職や育児と仕事の両立への不安をやわらげてくれました。
編集部
今でこそ育児休暇制度を導入する企業が増えましたが、20年以上前から取り組まれてきた白鶴酒造さんならではの素敵なエピソードですね。
時短勤務や在宅勤務を、ライフスタイルに合わせて選択できる
編集部
新原さんの現在のワークライフバランスについて伺います。まずは勤務時間から教えていただけますか?
新原さん
現在は時短勤務となっており、9時30分から16時30分までの勤務になっています。下の子がまだ3歳とやんちゃ盛りなこともあり、気持ちの余裕と育児や上の子のお弁当作りなど、家事に充てる時間を考慮し、時短勤務を選択しました。
また、保育所からの呼び出しや、子供の学校行事には時間有休を使うことに加え、週に1〜2回の割合で在宅勤務を選択しています。在宅勤務のおかげで保育園の送迎も余裕をもって向かうことができ、子供と過ごす時間も増えました。
編集部
白鶴酒造さんでは在宅勤務はいつから導入されているのでしょうか。
林さん
2019年から準備を始め、2020年の1月に本格導入しました。同時期に新型コロナウィルスの感染拡大が広がり、対策に追われる企業が多い中、準備を進めていた当社は比較的スムーズに在宅勤務に移行することができたように思います。
現在のルールでは生産現場以外の部署を対象に、月10回を限度として在宅勤務を選択できるようになっていますが、仕事のパフォーマンスが落ちると感じる社員もいるようで、平均すると週に1〜2回の利用になっています。
編集部
育児と仕事の両立で新原さんご自身も体調を崩されることもあると思われます。突然のお休みに備え、日頃の業務で新原さんが工夫されていることはありますか?
新原さん
子供の体調は予測ができないので、急に休むことになっても迷惑をかけないよう、日頃から情報共有を心がけています。優先順位の高い仕事があればお願いができるといったように、良い関係性が築かれているのも当社の特徴の1つです。
若手メンバーによる商品開発プロジェクト「別鶴」誕生秘話
編集部
女性が活躍できる風土が根付いている白鶴酒造さんには、若手の挑戦を後押しするフィールドがあると伺っております。具体的な取り組みをご紹介いただけますか?
林さん
新しいチャレンジをして日本酒業界を盛り上げたいという情熱をもった若手社員が経営層に提案し、2016年にスタートした商品開発プロジェクト「別鶴(べっかく)」を紹介します。
別鶴は、研究・醸造・営業など複数の部署メンバーからなる横断型のプロジェクトで、“白鶴とは異なるタイプの商品をつくる”、“これまでにない別格のお酒をつくる”という想いが込められています。
プロジェクトは、1人の若手商品開発担当者が当時の上司に、「生産部門や営業部門、研究職の社員を含めた商品開発をしてみたい」という熱い思いを訴え続けたことをきっかけに発足した経緯があります。
商品開発には専門的な知識を要するため、他部署の社員では難しい面もあるのですが、最終的には若手社員の熱意に打たれ、部署の垣根を越えた商品開発がスタートしました。
編集部
別鶴プロジェクトではどのようなお酒が誕生したのでしょう。
林さん
メンバーのほとんどが商品開発未経験というなか、2年半の開発期間を経て誕生したのが「木漏れ日のムシメガネ」、「陽だまりのシュノーケル」、「黄昏のテレスコープ」という3種類の日本酒です。
▲商品を広く手にとってもらうため、ネーミングやラベルにもこだわっている(公式サイトから引用)
ネーミング同様、日本酒では出会ったことのないような不思議な香りと味わいを持つ、ワインも彷彿とさせる、まさに“別格”の日本酒となったこれらの商品は、2018年12月から2019年3月までクラウドファンディングで20~30代を中心に661名の方にご支援いただき、2019年6月6日に一般発売しました。
若手社員が部署の垣根を超え、自分たちのアイディアで商品開発をし、どのように発信していくかを考え、商品化された別鶴プロジェクトは話題となり、業界に新風を吹き込む嬉しい結果となりました。
編集部
別鶴プロジェクトからは、若手社員の強い決意と覚悟が感じられます。若い世代はもちろん、往年の白鶴ファンにとっても日本酒のイメージを刷新するきっかけになるかもしれませんね。
若手活躍のロールモデル「別鶴」プロジェクトが新たな歴史を刻む
編集部
別鶴プロジェクトは老舗の日本酒メーカー白鶴酒造さんにとって、前代未聞の取り組みだったと思われます。社内の反応はいかがでしたか?
林さん
若手活躍の先行事例の1つとして、好意的に受け止めている社員が多いように思います。10名でスタートした別鶴プロジェクトは、中心となったメンバーが1人ひとりに声をかけて集めたそうなので、メンバーではなかった若手社員の中には、「こんな活動があるなら、自分も参加したかった!」という声も多かったようです。
編集部
別鶴プロジェクトはクラウドファンディングを利用されたとのことですが、その後の売れ行きはいかがですか?
林さん
別鶴シリーズは1本720mlで2,750円と、日本酒としては決してお手頃価格とは言えない価格です。売場も直営店やECが中心のため、爆発的に売れているということではないようですが、当社の若手活躍のシンボル的な商品として、今も根強いファンがいらっしゃいます。
上層部はプロジェクト発足当時、若手だけで、商品開発の経験もない社員がほとんどのチームでできるのかという不安の方も大きかったと思います。別鶴プロジェクトが若手社員の情熱が伝わったロールモデルとなり、新たなことにチャレンジする人が手を挙げるきっかけになれば嬉しいですね。
編集部
280年もの歴史を持つ白鶴酒造さんが、画期的なプロジェクトに取り組まれていることは業界はもちろん、日本の若者たちを活気づけるきっかけにもなると感じました。
円滑なコミュニケーションのカギは「日本酒」と「スポーツ」
編集部
女性が働きやすい環境づくりや、別鶴プロジェクトのように若手が活躍できる風土が根付く白鶴酒造さんは、役職や社歴を越えた仲の良さが伺えます。コミュニケーションはどのように図られているのでしょう。
林さん
当社は日本酒メーカーということもあり、市場調査も兼ねて、就業後に飲食しに行く機会は多いですね。研究室ではお酒との相性を研究することもあり、その際に調理室で料理を作り、作った料理をつまみにして、就業後に集まって飲み会を開くこともあるようです。
また、有志が集まって部を作り、野球やフットサル、テニス、ボーリング、釣りなどを楽しんでいる社員もいます。変わったところでは、当社の資料館に設置された大画面のスクリーンを使って映画の上映会を開くことも可能です。
編集部
白鶴酒造さんならではの福利厚生などはありますか?
林さん
年3回、祭り酒、正月酒、盆酒という名目で自社の日本酒が支給されますし、年末には日本酒の副産物である「酒粕」も支給されます。酒粕は一般的な家庭では使い切れないほどの量のため、親戚やご近所にお配りする「ご挨拶品」にしている社員も多くいます。また、残念ながら在庫になってしまう商品は格安で購入できる機会もあります。
さらなる300年、400年に向け、日本酒文化の継承と育成に共感できる方を歓迎
編集部
江戸時代から続く老舗日本酒メーカーである白鶴酒造さんのカルチャーや女性活躍をサポートする制度、若手メンバーによる別鶴プロジェクトに興味を持った読者は多いと思われます。最後に、読者や転職を検討している方にメッセージをお願いします。
林さん
当社は280年間もの長きにわたって存続してきた造り酒屋です。そのため、古いイメージを持つ方も多いことでしょう。
しかし、これまでお伝えしたように、若手も女性も活躍できる場をしっかりと提供しながら、これから先の300年、さらにその先の400年に向け、日本酒の文化を継承し育てることに、社員一同尽力しています。白鶴酒造ではその思いに共感できる方を歓迎します。
日本酒が好きな方はもちろん、酒造りや日本の伝統文化に興味がある方は、募集のタイミングの際にご応募いただければ幸いです。
編集部
女性や若手の活躍の背景にあるサポート体制や、伝統を守りつつ、新たな文化の創出に果敢にチャレンジされている白鶴酒造さんのカルチャーを、今回の取材を通して感じることができました。
本日はありがとうございました。
■取材協力
白鶴酒造株式会社:https://www.hakutsuru.co.jp/
採用ページ:https://www.hakutsuru.co.jp/recruit/