ものづくりの技術力を活かし、より良い社会づくりに挑戦する企業を紹介する本企画。今回は、明治時代に創業し、工具箱のパイオニアとして知られる株式会社リングスターを取材しました。同社は、職人や一般家庭で使用される収納ボックスなどを製造しています。
リングスターの歴史:130年続く工具箱のパイオニア
株式会社リングスターは、明治に創業し130年を超える歴史を持つ工具箱メーカーです。耐久性と機能性に優れた国産の工具箱「SUPER BOX」をはじめ、釣具箱やアウトドア用の収納ボックスなど、さまざまな用途に適した「箱」を開発・製造してきました。
近年では、SNSを活用した情報発信も積極的に行い、BEAMSなどの人気アパレルブランドとのコラボ製品も展開しています。これにより、従来の工具箱の枠を超えた新しい市場の開拓に成功しています。
会社名 | 株式会社リングスター |
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住所 | 大阪府大阪市城東区東中浜3-19-16 |
事業内容 | 工具収納用プラスチックケース、工具収納用スチールケース、工具収納用バッグ、アウトドア収納ボックス、釣具用タックルケースの製造及び販売 |
設立 | 1887年 |
公式ページ | http://www.ringstar.co.jp/ |
株式会社リングスターは、環境問題への取り組みにも注力しており、海洋プラスチックを10%配合しても耐久性が保たれた収納製品の開発に成功しました。さらに、プラスチック製品の消費に対する意識改革を推進し、持続可能な社会の実現に向けて積極的に取り組んでいます。
今回は、マーケティング室の唐金祐太さんと篠田玲羅さんに、創業130年を超えてなお企業成長を続ける秘訣や、環境問題への取り組みに込める思いについてお話しいただきました。
リングスターの強み:耐久性と機能性を追求した「箱」づくり
編集部
まずはじめに、リングスターさんの事業内容について教えてください。
唐金さん
明治時代の1887年に創業して以来、弊社は工具箱のパイオニアとして国内製造にこだわった「箱」づくりを行ってきました。主な製品には、工事現場や建設現場で使用する工具箱、釣具箱、そしてアウトドアやキャンプでの利用を想定したマルチボックスがあります。
編集部
130年を超える歴史をお持ちということですが、時とともに製品はどのように変化してきたのでしょうか?
唐金さん
私たちは、ユーザーニーズの変化に合わせて素材や製品ラインナップを進化させてきました。創業当初は木製の工具箱を製造していましたが、約50年前に熱に強く耐久性のあるスチール製の工具箱へと移行し、約30年前には当時アメリカで主流だったプラスチック製の工具箱の販売を開始しました。
プラスチック工具箱の販売当初は、アメリカからの輸入品を扱っていましたが、工具を投げ入れたり落としたりすると破損することがあり、工事現場の職人さんを満足させる品質ではありませんでした。そこで、社運をかけて自社開発したのが「SUPER BOX」という国産の工具箱です。
▲「SUPER BOX」は、超高耐衝撃性ポリプロピレンを使用した業界初の国産工具箱として、1991年に発売された。
唐金さん
超高耐衝撃性ポリプロピレンを使用した「SUPER BOX」は、スチール製に劣らない耐久性を持ちながら、スチール製特有の重さや錆の問題がないことから大ヒット商品となり、弊社の代名詞と呼べる製品になりました。
編集部
リングスターさんが製品を作るうえで特に意識しているのはどのような点でしょうか?
唐金さん
創業以来、私たちは安心と信頼を常に最優先に考えながら製品づくりをしてきました。特に意識しているのは、耐久性を確保しながら、職人さんが求めているような機能性を実現することです。
機能性や見た目の良さだけを追求すれば際限がありませんが、それに固執すると強度が低下してしまいます。そのため、私たちの製品はシンプルな造形を基本に、強度と機能の両立を大切にした製品づくりを心がけています。
製品ラインナップの拡大:釣具入れからアウトドア用ボックスまで
▲株式会社リングスターはアウトドアブランド「Starke-R」を展開する。(プレスリリースから引用)
編集部
釣りやアウトドア用のボックスなど、一般ユーザー向けの収納ボックスに進出した背景についても教えてください。
唐金さん
収納ボックスは、それを使うことによってスムーズな作業を可能にし、幸福感や豊かな時間を提供するものです。そして、この価値を求めているのは職人さんだけではないと考えています。
例えば、工事に必要なビスやネジを入れる職人さん向けの工具箱は、箱の中で異なるパーツが混ざらないように設計されています。これにより、安心して効率的に作業することができます。釣りの場合も同様で、ルアーが箱の中で混ざることなく分類されていることで、準備時間の短縮につながります。特に、トーナメントで戦うプロの釣り師にとっては、1秒の遅れが勝敗を左右するため、釣具箱の機能性が釣果に大きな影響を与えます。
このように、公私にわたる「豊かな時間」の演出をお手伝いしたいという思いで、工具箱からアウトドア用まで、さまざまな収納ボックスを開発しています。
リングスターの成長戦略:ヒット商品とコラボレーションで広がる可能性
編集部
リングスターさんは、近年、有名アパレルブランドとのコラボ製品を発売するなど、新たな試みを積極的に行っていますね。
唐金さん
はい。「SUPER BASKET」というバスケット型の収納は、BEAMS JAPAN様とのコラボ製品を販売しているほか、2019年にはスターバックス リザーブ ロースタリー 東京でアウトドアをテーマにした限定商品が販売されました。
編集部
その「SUPER BASKET」は、年間30万個以上売れるヒット商品だと伺いました。
唐金さん
はい。5代目にあたる私の父が開発し、2009年から販売している製品です。
▲「SUPER BASKET」は年間30万個以上が売れる人気商品。(公式サイトから引用)
編集部
開発の経緯を教えていただけますか?
唐金さん
職人さんが作業現場に向かうときにどのように工具を運んでいるのかリサーチしたところ、スーパーマーケットのカゴにどさっと入れて運ぶ人が多いことが分かりました。理由を聞くと、工具をいっぺんに運ぶのにちょうど良い形やサイズだからということでした。しかし、多くの職人さんはスーパーのカゴを無断で持ち出して、店名を粘着テープなどで隠して使っている状態だったのです。
そこで、リングスターらしく、職人さん専用の頑丈なバスケットを作ろうということで「SUPER BASKET」の開発に乗り出しました。
ハンドルを左右非対称の形にすることによって内側に畳んでカゴを縦に積めるようにしたり、強度を持たせるためにハンドルを太くしたりして、培ってきたノウハウを活かして職人さんが満足してくれそうな試作品ができ上がりました。
しかし、営業担当やバイヤーさんから商品化に否定的な声が上がったんです。
編集部
なぜ慎重な意見が出たのでしょうか?
唐金さん
射出成形(※)の産業は、成形機と金型の用意が必要になるので、イニシャルコストが数千万円にのぼります。そのため、カゴのような単価の低い製品の場合は、大量に売れないと赤字になってしまいます。しかも、職人さんはこれまでスーパーのカゴを無断で使ってきたので、「たとえ1,000円でもお金を出して買う人はいない」と考える人が多かったのです。
(※)金型に熱して溶けたプラスチックを高圧で射出して成形する工法
唐金さん
しかし、イニシャルコストがかかるということは、その分、他社の参入障壁が高いということでもあります。また、弊社には、「すでに世の中にある製品を作ったら、その時点で負けてしまっている」という考えがあり、一番初めに作る会社でありたいという思いがあります。
このような理由から販売を決断し、信頼関係のあるお店にまず販売してもらったところ、ありがたいことに想像以上の売れ行きを記録しました。
編集部
「先駆者でありたい」という強い気持ちがあったことで、職人用のカゴという新しい市場を作り出すことができたのですね。
マーケティング戦略:ユーザー重視の誠実なアプローチ
編集部
唐金さんはリングスターさんの6代目としてマーケティング戦略をリードしているということですが、どのような手応えを感じていますか?
唐金さん
私たちは近年、SNSを活用した製品情報の発信に力を入れています。製品の魅力をこれまで以上に多くの方にお伝えできるようになったことで、一般の方から大きな反響をいただいたり、企業様からコラボレーションのお話をいただくことが増えています。
例えば、「SUPER BASKET」というカゴ製品について、積み重ねられるスタッキング機能があることを投稿したところ、「いつも使っている製品にこんな便利な機能があることを初めて知った」「使ってみたい」といったお声をいただきました。
編集部
マーケティングの効果は売上にも表れているのでしょうか?
唐金さん
商品に対する信頼性が高まったことで、売上にプラスの影響が出ています。また、弊社の製品はDIYやキャンプ、釣りといったアウトドアで使われることが多いことから、新型コロナウイルスが流行した2020年以降も右肩上がりの成長を続けることができました。
ただ、私たちは、いいものを作って、しっかりユーザーさんと向き合うことが一番のマーケティングだと考えています。そのため、売上だけを狙ったSNS発信や、品薄を強調して売上を伸ばす「欠品商法」のような手法は一切取りませんし、広告を出すこともしていません。
場当たり的なマーケティングより、実際に使って良さを感じた職人さんからの口コミで広がる方が、製品を長く愛してもらえると思っています。
コラボレーションについても、さまざまなアパレルブランドさんからお話をいただいていますが、弊社は生産能力も限られているので、品質を担保できないのに何でもお受けするようなことはしていません。これからもお客様と誠実に向き合い、品質に胸を張れるメーカーであり続けたいと思っています。
未来への展望:多業界向け収納ボックスの開発構想
編集部
製品や事業の今後の目標がありましたら、教えてください。
唐金さん
「収納ボックスといえばこれ」という形が定まっていない市場は、まだたくさんあります。例えば、キャンプ市場では、「キャンプで使う収納といえばこれ」というものが定まっていない中、弊社が工具箱の技術を活用したキャンプ用ボックスを販売したところ、キャンプの効率が良くなったという評価をいただきました。
同じように、化粧品や医療、おもちゃ業界など、使用シーンに合わせて設計された収納ボックスがまだない市場がたくさんあります。私たちは、100年以上のノウハウを活かして、さまざまな業界で「収納ボックスといえばリングスター」と言ってもらえるような製品を作りたいと考えています。
編集部
アウトドアブームもあって、キャンプ用収納などは競合製品も増えていると思います。どのように存在感を示していこうとお考えですか?
唐金さん
「非効率だけれどおしゃれ」という製品にも、一定の市場はあると思います。しかし、「重たくて使い勝手が悪いけれど、インスタ映えはする」という製品では、ユーザーとしての体験を心から楽しめているとは言えません。使い手が「楽しい」と思えるような使いやすい製品が、最終的には支持されると考えているので、機能性や品質を追求した製品づくりを一貫して推進していくつもりです。
編集部
各業界の「収納のパイオニア」として、リングスターさんが今後どのような新製品を開発するのか、楽しみです。
環境への取り組み:リングスターが挑む海洋プラスチック問題
編集部
リングスターさんは、環境問題への取り組みとして、海洋プラスチックごみを再利用した製品を製造していると伺いました。
唐金さん
はい、その通りです。長崎県対馬市の海岸に年間2,000〜3,000個漂着すると言われるポリエチレン製の青いタンクを10%使用した「対馬オーシャンプラスチックバスケット」と「対馬オーシャンプラスチックボックス」を製品化し、2023年2月に販売を開始しました。
対馬の海岸に流れ着いたごみは、海外や他の地域から長期間にわたって波に揉まれた結果、紫外線による劣化や汚れ、破損がひどく、通常のリサイクルが困難とされています。しかし、弊社には安全で頑丈な工具箱を作る技術があるため、強度面に不安がある海洋プラスチックを原料に使っても従来の製品と変わらない耐荷重数値を実現することができました。
編集部
どのくらいの海洋プラスチックの再利用につながるのでしょうか?
唐金さん
自社で販売する製品で150キログラム、ルアーメーカーの「BlueBlue」さんとのコラボ製品で200キログラム以上、年間で合わせて350キログラム以上のプラスチックを再利用する計画です。
さらに、このプロジェクトでは、100グラム再利用するごとに100円を対馬市に寄付することになっています。これにより、環境保護活動への貢献も行っています。
製品開発の舞台裏:対馬の現状から生まれた環境配慮型製品
▲島の形状や潮流の影響で大量の漂着物が打ち寄せられる対馬は、「海ごみの防波堤」とも呼ばれている。
編集部
リングスターさんが海洋プラスチックの問題に取り組む背景を教えてください。
唐金さん
きっかけは、パタゴニアの日本統括マネージャーの方から、対馬の海洋プラスチック問題を一緒に解決するパートナーを探しているというお話をいただいたことです。元々、企業として環境への取り組みを行う必要性は感じていましたが、以前、再生材100%の工具箱を作ったところ、すぐ割れてしまうなどの品質の問題が起き、結局ごみを増やす結果になってしまいました。
それ以来、なかなか具体的な行動を起こせないでいたのですが、お声かけいただいたことをきっかけに対馬市などが主催するスタディツアーに参加しました。想像以上にひどい海洋プラスチックごみの現状を目の当たりにし、次世代の子どもたちのためにも弊社の技術を注ぎ込んで解決に取り組もうと決意しました。
編集部
製品開発で難しかった点や、工具箱づくりの技術が活かされた点について教えてください。
唐金さん
海洋プラスチックごみには、さまざまな異物が混ざっていますが、射出成形では成形機の故障や金型が傷つく恐れがあることから、異なる材料を混ぜることはタブーとされています。そのため、はじめは技術者が製造に難色を示し、説得に苦労しました。
しかし、世の中を変えるために挑戦したいという思いをしっかり伝えたことで最終的には理解を得ることができ、力を合わせて試作品づくりに取り組むことができました。
また、海洋ごみの配合比率を10%まで高め、同時に強度を保つことはとても難しいのですが、ここで役に立ったのが「強度を出す構造」へのノウハウでした。私たちは、どのような構造の製品を作れば、高い強度を発揮するのかを知っています。これにより、素材の弱点を構造でカバーし、通常の製品と変わらない耐久性を実現しました。
環境問題への長期ビジョン:消費意識の変革を目指して
▲青いポリタンクのごみがなくなった後は、別の種類のごみを使用した製品開発を予定している。(プレスリリースから引用)
編集部
海洋プラスチック問題について、今後はどのような取り組みを考えていますか?
唐金さん
対馬の問題への取り組みは、ひとつの通過点だと考えています。海洋プラスチックの再利用や、脱プラスチック化によって環境への負荷を減らすことは重要な手段ですが、プラスチックの代替素材によって新たな利権が生まれるような事態を繰り返すのでは意味がないと考えています。
私たちとしては、現存するプラスチックを適切に選択し、正しく使用し、適切に廃棄すること、つまり一人ひとりに消費の在り方をしっかりと考えてもらえるような活動を行いたいと考えています。
時間はかかるかもしれませんが、自分ができなくても次の世代がそれを実践してくれるという思いで、地道に継続しながら意識を変えていくことが、私たちの企業の責任であり、この事業の最終目標だと考えています。
編集部
ビジネスとして形だけの取り組みをするのではなく、未来を見据えた長期的な視点で意識改革に取り組もうとされている様子から、問題に対する真剣な姿勢が伝わってきました。
リングスターの企業文化:先駆者としての誇りと挑戦
▲篠田さんは、リングスターに転職し、主体的に仕事に取り組む楽しさを知ったと話す。
編集部
リングスターさんの社内の雰囲気についてもお伺いしたいと思います。篠田さんは中途採用で入社し、マーケティングを担当されているということですが、どのような環境でお仕事をしていますか?
篠田さん
私は2021年に入社したのですが、自分で企画を立てたり、商品づくりに関わったりできる環境で楽しく働いています。
実は、転職する前までは自分の仕事に対して前向きとは言えなかったのですが、リングスターで主体的に仕事をすることの楽しさを知り、キャリア観が変わりました。ここで頑張っていきたいという気持ちが湧き出てくることも多く、自分が成長できる会社と出会えたことを嬉しく思っています。
編集部
唐金さんを含む周りのメンバーの姿勢から刺激を受けることもありますか?
篠田さん
そうですね。唐金さんのやっていることにも感銘を受けますし、道具箱のパイオニアとして市場に新しい価値を提供しようとする会社の姿勢もモチベーションにつながっていると思います。
ほかの会社と同じような商品を作って安価で売り出す企業が多いなか、弊社は工具箱も釣具入れも一番初めに開発しました。開発に対する強い思いを持つこの会社に、深く共感していると言えるかもしれません。
編集部
奈良や大阪に拠点をお持ちということで、関西ならではのカルチャーも感じますか?
篠田さん
真面目に地道にものづくりと向き合う様子には、関西らしさを感じますね。私も関西出身なので、地元の人にももっとリングスターの魅力や取り組みを知ってほしいと思っています。特に、独自の技術や品質へのこだわりなど、地域に根ざした企業の強みを伝えていきたいですね。
求める人材像:熱意ある人材の強みを活かす職場環境
編集部
最後に、記事を読んでリングスターさんのお仕事に興味を持った方へメッセージをお願いします。
唐金さん
収納ボックスには、まだまだ大きな可能性があると考えています。
弊社で働くメンバーには、一人ひとりの強みや興味を活かしながら楽しく収納ボックスの可能性を追求してほしいと思っています。例えば、化粧品が好きな方にはコスメ業界向けの収納ボックスのプロジェクトリーダーを任せるなど、個々の特性を生かした仕事を提供しています。
編集部
採用の条件や、求める人物像はありますか?
唐金さん
学歴やスキルは問いません。「熱意のある人」だけが条件です。周りを思いやる気持ちや感謝の気持ちを持てる方、しっかりと努力ができる方なら、弊社で活躍していただけると確信しています。
編集部
創業130年を超えるリングスターさんですが、とても未来志向で、次の世代のために良い社会を作りたいという思いを強く感じました。
本日は、ありがとうございました。
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株式会社リングスター:http://www.ringstar.co.jp/
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