「自治体のイメージを覆す働き方」を実践する、奈良県奈良市のディスカバリーとは

働く人たちのワークライフバランスを大切にし、男女問わず活躍できる職場づくりを進めている企業や自治体にインタビューする本企画。今回は、奈良県奈良市にお話を伺いました。

歴史ある建造物を数多く有する奈良県奈良市

奈良県奈良市の奈良公園にいる鹿たち

東大寺のある奈良公園や春日大社など、歴史ある神社仏閣を数多く持つ奈良県奈良市。同市役所は、これまでのいわゆる「公務員」の枠にとらわれず、柔軟に働ける環境整備を進めています。リモートワークや時短勤務を取り入れ、それぞれの事情に合わせたワークスタイルを選びやすいようになっているのです。

自治体名 奈良県奈良市
住所 奈良県奈良市二条大路南1丁目1−1
公式ページ https://www.city.nara.lg.jp/

同市には、活躍する女性職員が数多く存在しています。女性の管理職比率は35%にものぼり、ライフステージの変化を経ながらも、女性が活躍できる環境が整えられています。

人口の減少や公共の施設・設備の老朽化など自治体に共通する課題の解決に向けて奮闘する職員を、どのように支えていけるか。そんな奈良市の働き方改革やエピソードなどについて、総合政策部人事課人材育成室長の新開絵理子さんにお話を伺いました。

本日お話を伺った方
奈良市役所総合政策部人事課人材育成室長の新開さん

奈良市役所
総合政策部人事課人材育成室長

新開 絵理子さん

市役所の仕事は「職種のデパート」、多様な経験を積める

奈良市役所の新開さんと職員
▲民間企業を経て奈良市役所に入職した新開さん(右)

編集部

新開さんが奈良市役所に入職される以前と、入職後のご経歴を伺わせてください。

新開さん

私は大学卒業後、医療系の情報システムを扱っている会社に就職し、システムエンジニアを務めた後、営業職も経験しました。やりがいのある仕事ではありましたが、出張や残業も多く、かなり忙しい日々でしたね。

結婚を機に将来の出産や子育てといったライフステージを考え始めたのですが、今の働き方のままでは厳しいかもしれないという思いがあり転職活動を始めた結果、奈良市役所に入職することとなりました。

入職後は秘書広報課に配属されましたが、慣れない仕事ということで最初は戸惑いの毎日でしたね。しかし勉強していくうちに広報の仕事におもしろさを感じ、大きなやりがいを持って仕事に取り組むことができました。

2023年に今の人事課人事育成室に異動となり、管理職を務めさせていただいております。

編集部

仕事のやりがいという部分についてお話しいただきましたが、民間企業から転職された新開さんにとって市役所の仕事のおもしろさはどこにあると感じられていらっしゃるでしょうか?

新開さん

民間企業だとある程度業種が決まっていて、同じような分野の仕事をするというケースが多いでしょう。その点、市役所だと部署が異動するだけでまるで転職したかのようなインパクトがあります。

畑違いの分野の仕事にいきなり取り組むことになり、大変ではありますが多くの経験ができます。そこにおもしろさを感じる方にとっては良い環境なのではないでしょうか。

編集部

新開さん自身もさまざまな仕事に取り組める市役所の環境に刺激を受けられているのでしょうか?

新開さん

私は人事の部署に配属されてまだ1年も経っていないので、目まぐるしい日々ではあるものの人事の仕組みや制度など学ばなければならないことが山ほどあり、知識欲をかき立てられる毎日を送っています。

また、以前いた秘書広報課のなかでも、市民に直接配布する広報誌を作る部門もあれば広く市内外に発信するホームページやSNSを担当する部門もあるなど、同じ部署のなかで担当する仕事も多岐にわたります。

柳生や月ヶ瀬など、市内の東部地域の観光振興の業務に取り組んだこともあります。日々勉強で、仕事に飽きることはありません。

編集部

異動で業務内容が大きく変わることはもちろん、同じ部署にいてもさまざまな仕事ができるため多様な経験を積むことができるということですね。

これからの公務員に求められる、地域住民を巻き込む力

会議中の奈良市役所の職員の皆さん

編集部

市役所の職員というと決められた仕事を淡々とこなしていくような固いイメージがありましたが、奈良市役所のケースを伺うと、すごく刺激的な環境にあるのだと感じました。

新開さん

公務員に抱きがちな固いイメージを変えていかなければ、社会に取り残されていく時代になっているのだと感じています。奈良市役所としても、時代の流れを汲みながら評価の仕組みなど人事制度をバージョンアップしていかなければならないと考えています。

現代は、自治体の職員も活動の幅が広がっています。

活躍している地方公務員を表彰する「地方公務員アワード」という全国的なイベントが毎年開催されていますが、表彰されている方を見てみると、地域や世界にまで飛び出して素晴らしい成果をあげておられる方がたくさんいます。

奈良市役所にも、ラジオDJの活動をされていたり山でサウナをオープンしたりと、従来の公務員の枠組みに捉われない活躍をされている方もたくさんいらっしゃいます。

市民のみなさんを巻き込んで何か一緒にやっていくという姿勢が公務員に求められているのです。私が在籍している人材育成室のミッションは、そういった民間を巻き込めるような力を持っている職員を育てていくことだと考えています。

編集部

これからは自治体単独で政策を立てるのではなく、市民や企業を巻き込んだ取り組みが必要になってくるということですね。

新開さん

官民共創という言葉もあるように、これからの公務員はより地元の人に関わりながら地域を盛り上げていく必要があるでしょう。コロナ禍も落ち着き、街に活気が戻っている今のタイミングだからこそ市民を巻き込んでいく動きが加速するのではないかと思います。

編集部

地域住民が街づくりにより関わることで、地域愛もより醸成されそうですね。

時差勤務や時短勤務、時間単位の有休取得。柔軟な働き方を可能にする諸制度

会議中の奈良市役所の職員の皆さん

編集部

ここまで働きがいについて伺ってきましたが、ワークライフバランスの部分についても伺っていきたいと思います。新開さんがありがたいと感じている働き方の制度はございますでしょうか?

新開さん

奈良市役所には時差勤務制度があり、子育て中の私としてはとても助かっています。

通常は午前8時半始業、午後5時15分終業なのですが、小学生の子どもがいることもあり午前8時半に間に合わないことも多いのです。そのため、午前8時45分始業、午後5時半終業というように設定させていただいております。

また、奈良市役所では部署や担当業務によってリモートワークも可能です。私も状況によりリモートワークをさせてもらうこともあります。

編集部

柔軟に働ける環境にあるのですね。

新開さん

柔軟に働くことができる制度でいうと、有休を時間単位で取得できるという点も挙げられるでしょう。ちょっとした用事を済ませるために、朝の1時間だけ、または夕方に2時間早く帰るといったことも可能です。

編集部

すでに働きやすい職場を作るための取り組みがなされている奈良市役所ですが、今後取り組んでいきたいことはございますでしょうか?

新開さん

コロナ禍をきっかけに奈良市役所でもリモートワークの体制が一気に進みましたし、働き方の多様性というのにもある程度対応できていると思います。今後もフレックスタイム制の導入など、より環境整備に取り組んでいきたいですね。

女性管理職比率は35%、職員の成長促すルーキーサポーター制度

会議中にホワイトボードを背に話す奈良市役所の新開さん

編集部

奈良市役所の職員の男女比はどれぐらいでしょうか?

新開さん

奈良市役所の男性職員と女性職員の比率は半々ぐらいです。女性管理職の比率でいうと35パーセント程度で、一般的な民間企業や自治体と比べても、高い方ではないかと思います。ただ、この比率はまだまだ上げていかなければならないと考えています。

奈良市役所は、自身が望むのであれば男性であれ女性であれ重要なポジションに就くことができる環境にあるといえるでしょう。「女性は雑用をすれば良い」といった昔ながらの雰囲気は全くなく、職員それぞれがミッションを抱えて働いている職場ですね。

編集部

男女関係なく成長していける環境があるということですね。成長を促すためのフォロー体制はどのようになっているのでしょうか?

新開さん

奈良市役所には新人職員をサポートするルーキーサポーター制度というものがあります。この制度は1年目の職員に2年目以降の職員が必ず1人メンターとして付いて、年に数回の研修を受ける制度です。

研修は一緒に受けるものもありますし、新人職員、サポート職員単独で受けるものもありますね。

ルーキーサポーター制度の特徴は、コーチングの手法を取り入れている点です。サポート職員がコーチングの手法を学び、それを新人職員に実践するのです。新人職員が抱えている課題を面談しながら見つけ、一緒に伴走しながら課題を解決していくという建付けになっています。

編集部

新人職員だけでなく、先輩職員も一緒になって成長していく制度といえそうですね。

男性の育休取得率100%をめざし、子育て世代を応援する機運が高まっている

会議中にプロジェクターで映し出された資料を見る奈良市役所の職員の皆さん

編集部

女性の活躍のためには子育てに関するサポートを充実していくことが重要になってくると思うのですが、その点奈良市役所はいかがでしょうか?

新開さん

奈良市役所には子育てをしながら働いている職員もたくさんいますし、子育てについて相談しやすい環境があります。もちろん育休について気兼ねなく取れますし、さまざまな便利な制度を先輩職員が教えてくれますね。

私自身もこれまで3回育休を取得しましたが、復帰してからもさまざまな制度をフル活用することで何とか働き続けられています。制度の例としては、子どもが2歳になるまでは1日1時間時短勤務できるというものが挙げられるでしょう。

これは朝か夕方どちらかで1時間という形でも良いですし、朝に30分、夕方に30分という取得の仕方でも良いです。

1時間という時間でも、とても心にゆとりが持てますのでありがたい制度ですね。

編集部

女性が働きやすさを感じるような雰囲気と制度があるのですね。

新開さん

働きやすさという点では、男性も同じだと思います。奈良市役所は男性の育休取得率について過去2年で4割を超えています。2023年に至っては8割を超えそうな状況です(取材は2023年11月実施)。

育休を取得する男性職員が増えてきたことで男性でも育休を取得しやすい雰囲気が作られてきましたし、職場全体で子育て世代を応援していこうという機運が高まっていると感じますね。

編集部

男性の育休取得率が8割に迫っているとは驚きです。男性の育休取得促進など社会が変化しつつありますが、奈良市役所は民間のお手本になるような事例を率先して作られているといえそうですね。

さまざまなことに興味を持っている人が刺激を受けられる職場

奈良県奈良市の「ならまち」の街並み
▲世界遺産としても認定されている元興寺の旧境内近辺エリア「ならまち」の風景

編集部

奈良市役所で働くとなると市内で生活をすることになると思うのですが、奈良市の魅力について伺わせて下さい。

新開さん

奈良市は2022年、共働き子育てしやすい街ランキングで関西1位となりました。それだけ子育て施策に力を入れていますし、子育て支援の拠点となる場所も新しくできています。

また、奈良市では世界遺産学習という取り組みも子どもたちに実施しています。世界遺産が数多くある奈良の地の利を生かした教育にも力を入れているのです。

ICT教育にも力を入れており、小学生1人にタブレット端末を1台支給するという取り組みも全国に先駆けて行ってきました。学びに力を入れている街というのが、奈良市の魅力の一つなのではないかなと思います。

奈良市はご存知の通り、歴史的な建造物が当たり前のようにある街です。ですから、そんな魅力を改めて地元の人や観光客に知ってもらおうと取り組みを進めています。

スローガンとして「Old History, New Discovery.」というものを掲げています。奥深い奈良の魅力を再発見して伝えていきたいですね。

編集部

最後に、奈良市役所に興味を持っている方に向けてメッセージをお願いいたします。

新開さん

奈良市役所に限らずさまざまな地方自治体にいえることですが、いろいろな部署があるので自分のさまざまな可能性を試せる場があります。なので、興味のあることが多すぎて何が自分にマッチするのかわからないという方は、働く場所の選択肢の一つに入れてほしいと思っています。

今やオンライン窓口やデジタル市役所などデジタルを使った行政サービスが進んでいることもあり、従来からあるお役所のイメージというのはなくなりつつあると感じます。

変わりつつある市役所のなかで、民間の知識を持った方にはその知識をどんどん生かしてもらいながら活躍してほしいですね。

編集部

市役所の形が変わりつつあるなかで、その変化をさらに進めたいという思いを持った方が活躍できるのではないかと感じました。本日はありがとうございました。

奈良市役所の新開さんが笑顔で話しているようす
▲「従来からあるお役所のイメージというのはなくなりつつある」と話す新開さん

■取材協力
奈良県奈良市:https://www.city.nara.lg.jp/
採用ページ:https://www.city.nara.lg.jp/site/saiyo/