新潟市役所が求める「フロンティア精神」を持った人材とは

働く人の成長を促し、ワークライフバランスの向上にも取り組む職場を取り上げるこの企画。今回は、フロンティア精神を持った人材が活躍できる本州日本海側唯一の政令指定都市・新潟市を紹介します。

職員の成長やワークライフバランス向上に力を入れる新潟市役所

日本海に面する新潟市は人口約77万人(2023年11月1日現在)の自治体です。新幹線をはじめとした高速交通網が整備され、国内外の都市とつながる国際空港を備えるなど、日本海側最大の拠点都市となっています。

また、米や野菜、果物の生産が盛んで、信濃川や阿賀野川などの大河も流れる自然豊かな土地でもあります。

自治体名 新潟市
住所 新潟市中央区学校町通1番町602番地1
人口 771,965人(2023年11月1日現在)
公式ページ https://www.city.niigata.lg.jp/

そんな新潟市では、職員の成長やワークライフバランスを支える取り組みに力を入れています。今回は、新潟市の総務部人事課人材育成室・末宗翔吾さんと、人事委員会事務局・小泉仁美さんのお二人に、新潟市役所の働き方についてお話を聞かせていただきました。

本日お話を伺った方
新潟市総務部人事課人材育成室の末宗さん

新潟市
総務部人事課人材育成室

末宗翔吾さん

人事委員会事務局の小泉さん

新潟市
人事委員会事務局

小泉仁美さん

新潟市役所が求める人材像は「今までにない考え方ができる人」

インタビューに応える末宗さん

編集部

まずは、新潟市の人材育成方針についてお聞かせください。新潟市は求める人材像として、「コンプライアンス」「フロンティア精神」「パートナーシップ」の三つの素養を挙げています。この中のフロンティア精神とは、どのような意味を表しているのでしょうか。

末宗さん

根拠を基にした政策立案を前提に、新潟市の課題解決や目標達成のために、今までにない新しい考え方をしていくということです。

現代は市町村や国、県を取り巻く状況が大きく変わってきています。自治体はその変化に対応し、さまざまなニーズを踏まえつつ、地域独自の課題を解決していく必要があります。そのためには、より創造的な思考が求められます。

小泉さん

公務員は、法律や条例、規則に則って、正確に業務を進めていかなければいけません。しかし、前例踏襲では、複雑・多様化する社会で行き詰まってしまいます。だからこそ、従来の公務員の枠に収まらない斬新な発想がより大切になってくると感じています。

編集部

深刻化する人口減少などの社会課題に向き合うには、これまでの市政運営のやり方のほか、新たなアイデアが不可欠なのですね。

挑戦を後押し、人に寄り添うカルチャーがある

インタビューに応える末宗さんと小泉さん

編集部

「フロンティア精神」を後押しする制度またはカルチャーはありますか?

末宗さん

私は転職者なのですが、入庁時から感じているのは、新潟市役所の人たちは新しいことに取り組むことがとても好きで、中途入庁や県外から来た人の異なる考え方を尊重してくれ、すごく親切だということです。

私は人事課人材育成室の職員として、人事評価や研修、職員アンケート、インターンシップなどを担当してきましたが、それらの仕事全てで既存のやり方と違う目線・ゴール目標を設定して取り組みました。

その過程で上司に「これはどうですか」と提案してきたのですが、いつも好意的に受け止めてくれました。「いいんじゃない?」「正式にやってみようよ」とか「もっと深掘りしてみよう」といった意見をもらえ、建設的な話し合いができたんです。

入庁前は、自治体の職員はお硬い印象がありましたが、いい意味でイメージが裏切られましたね。

小泉さん

私は約20年前に新卒で入庁したころから、先輩方にとにかく丁寧に仕事を教えてもらい、親身なサポートを受けながら、徐々に仕事を任せてもらえるようになりました。そのおかげで今の私がありますし、そういった経験は職員みんながしているんじゃないかと思います。

編集部

提案をポジティブに受け止めてもらえる、しっかりしたサポートを受けながら様々な大小の挑戦の場が与えられる、そういったカルチャーがあるからこそ、新しい取り組みにもチャレンジしやすいのですね。

政令指定都市として、企業誘致などさまざまな独自施策に取り組む

インタビューに応える末宗さん

編集部

新潟市のフロンティア精神が反映されたような施策がございましたら、教えていただけますか。

末宗さん

新潟市は全国で20しかない政令指定都市の一つであり、他の自治体と比べて権限が大きく、さまざまな独自の施策に取り組んでいます。

代表的な取り組みとして、新潟駅から古町という繁華街までの道のりを「にいがた2km(キロ)」とし、市中心部一帯の活性化を目的とした政策があります。このエリアに対して、新規雇用などを条件に賃料を補助する制度を設けており、県外企業の誘致などに取り組んでいます。

また、「NIIGATA XR プロジェクト」では、XRを活用した新たなビジネスを創出するため、デジタルコンテンツを制作し、企業のXR分野への参入やXRを活用した施策の導入などを促すほか、企業がサービスを実装する際の経費を支援しています。

「NIIGATA XR プロジェクト」の一環として企画された「フルマチXR水族館」などのチラシ
▲「NIIGATA XR プロジェクト」の一環として企画された「フルマチXR水族館」などのチラシ

末宗さん

ほかにも新潟市では、事業の創出を目指す企業への支援として、ドローンの活用を推進しています。新潟駅前の市街地では、国内の人口集中地区では初となるドローンによる物資配送の実証実験を関係各所との調整をするなど行政の立場から支援しました。

「先進的な事業を、ぜひ新潟市で実験してみませんか」というスタンスですね。

編集部

雇用の創出やまちの活性化につながっていきそうな取り組みですね。

小泉さん

新潟市は都市と田園の二つの要素を持ち合わせています。同じ市内で都市部と豊富な田園資源のそれぞれの特性を活用した新規事業や実証実験ができることは、企業にとって魅力的に映るのではないでしょうか。

編集部

新潟市で新たな事業に挑戦したいという企業も増えていきそうです。ちなみに、職員さん個人がフロンティア精神を体現した事例などはありますか?

小泉さん

若手職員の「こういう事業がやりたいです」「既存の事業をこう変えたいです」といった思いから実現したボトムアップの事業は少なくないと感じています。

それこそ、先ほどご紹介した「にいがた2km」では、若手職員が中心となり、エリア内の企業と市内の特産品などを結び付けて魅力を発信する企画に取り組んでいます。

市民のほか、さまざまな企業や地域団体と協働して市政運営を進める

編集部

求める人材像において、フロンティア精神以外のコンプライアンスやパートナーシップは、どのような意味を指しているのでしょうか。

末宗さん

コンプライアンスは、市民から信頼される職員であるために必要な高い倫理観と責任感を持ち、向上させる人材です。パートナーシップは、多様な主体との連携・協働に取り組む人材です。以前は「市民との協働」とうたっていました。ですが、2023年度にスタートした「新潟市総合計画2030」では、市民のほか、さまざまな企業や地域団体との協働の意味合いも込めているため、人材像を見直しました。

パートナーシップの実例として、次の2つをご紹介します。

1つ目は、公民連携のまちづくりを推進するために、都心部である新潟駅・万代地区周辺エリアの新たな魅力と価値を創出することを目的として、地元事業者や交通事業者等のエリア関係者と『新潟駅・万代地区周辺エリアプラットフォーム』を設立したことです。そこでセミナーや勉強会等も開催しています。

2つ目は、西蒲区(にしかんく)に誕生した「にしかん未来BASE」です。ここでは、地域をありたい未来に近づけるために具体的な取り組みを行う人や事業者が集まり、取り組みたい人をみんなで応援して、新たな取り組みが生まれていく、地域づくりのしくみを作ったりしています。

編集部

市政運営において、より幅広い連携が求められているのですね。

仕事の目標を書き込むプランニング&チェックシートを用い、職員の成長を支援

パソコンの画面を見つめながら話し合う新潟市職員

編集部

職員の成長を後押しするような取り組みがあれば教えてください。

末宗さん

2023年度からは入庁1年目から3年目までの職員向けに、自律型人材を養成するためのプランニング&チェックシートを導入しました。

具体的には、一人一人が新潟市職員として1年後に目指す姿という「ゴール」を決めてもらい、そのために庁内外で何をし、周囲にどう働きかけるべきかを記入してもらいます。また、自分の弱み・課題については個別目標として設定し、まずは前期に何をすべきか細分化して、前期の取組事項を具体的に記入します。それらは育成担当者と所属長のチェック・アドバイスを記入してもらったのち、職員は研修中、同期に「ゴール」とそこへ至る過程をコミットします。

編集部

かなり事細かに記入していくのですね。

末宗さん

そうですね。書き込む内容がかなり多く、作成にそれなりの時間がかかる分、自分のやるべきことを見える化できます。このシートはプランを立てる年始と、1年の前期と後期に分けて計3回提出してもらうようにしています。

提出されたあとは人材育成室が全員分のシートに目を通し、一人一人にフィードバックをします。2023年度だと120人分ですね。かなりの労力を使いますが、フィードバックのある組織とない組織では、職員のエンゲージメントや仕事への意欲・達成感が変わってくるので、非常に大事にしています。

編集部

新採用職員全員にフィードバックをするとは、とても手厚い対応をしているのですね。一人一人の成長に着実につながっていきそうです。

グループワークを通し若手同士で目標を共有。成功体験も失敗談も分かち合う

資料を見つめながら話し合う新潟市職員

編集部

プランニング&チェックシートについて、他にも活用方法があればお聞かせいただけますか。

末宗さん

職員研修でシートを使ったグループワークを行っています。グループは、庁内のさまざまな職種のメンバーで固定化し、そこで定期的にシートを見せ合います。お互いフィードバックをし合うのですが、いろいろな職種の職員が集まっているので、多様な意見がもらえるんです。

また、他人に自分のシートを見せることで、有言実行しなければいけないという気持ちになると思います。さらに、他人のうまくいった話を聞くことで「自分も頑張ろう」と刺激を受けるでしょうし、逆に失敗談を聞けば「悩んでいるのは自分だけじゃない」と安心感を持つことにもつながります。

編集部

民間企業のような、職員の成長を後押しする取り組みですね。

末宗さん

おっしゃる通り、この取り組みはPDCAの考え方を取り入れた、民間色の強いものだと思います。ただ、私は公務員だから、民間だから、と区別する必要はあまりないと思っています。公務員もこの先の時代に適応するためには民間の考え方を学ばなくてはいけないと思います。

そして、公務員である以上さまざまな分野を経験することになるので、どの分野の仕事もそつなくこなさなければいけません。そのためには苦手をどんどん無くしていく必要があります。

私は民間企業に勤めていたころ、このプランニング&チェックシートと同じように自身を顧みる取り組みを体験しました。その取り組みのおかげで、もともとは苦手な分野だった人を巻き込む力などについて、今では上司・同僚から「得意だよね」と言ってもらっています。

私は新卒3、4年目のころに苦手だったことを書いたシートを写真に撮っていて、時折眺めては初心に返っています。そういった振り返りができるように、プランニングシートは一部を小さく切り取って、机の上に貼れるようにしています。

編集部

これらのシートは、末宗さんが自身の体験を踏まえて作られていたのですね。ちなみに、プランニング&チェックシートを書く側の労力も少なくはないとは感じますが、そこをフォローする仕組みはあるのでしょうか。

末宗さん

職員の労働時間を増やさないように、今まで書いてもらっていた「10年後の自分」というテーマの作文を廃止しました。そういった取捨選択で、業務の生産性も担保しています。

専門分野や希望のエリアへの異動が考慮される人事制度を導入

インタビューに応える末宗さんと小泉さん

編集部

人事制度についても伺えればと思うのですが、何か特徴的な制度はありますか。

末宗さん

「フランチャイズ制」という制度があり、職員が希望のエリアや専門分野を登録することで、それを人事異動に反映できる仕組みです。

エリア登録をすると、新潟市内の全8区の中で、希望した区役所への異動が考慮されます。「中央区出身者として地元に尽くしたい」「南区の名産品、ルレクチェ(西洋梨)をPRしたい」といった理由で登録する職員がいますね。専門分野登録では、福祉や農林水産、税務といった各職員の希望分野が人事異動で考慮されます。

もちろん管理者側の意向もあるので希望が全て叶うとは限りませんが、職員がキャリアデザインを描きやすい仕組みとなっています。

編集部

極めたい分野や働きたい地域がある職員にとっては嬉しい制度ですね。

末宗さん

ほかにも、「公募制人事」という制度があります。ICTなど庁内で必要な特定の分野で公募があり、そこに職員が応募できるといったものです。

あとは、公務員というと年功序列で昇進していくイメージが強いと思うのですが、優秀な人材を登用するため、若手向けの係長昇任選考試験なども設けていますね。

念入りなストレス対策で職員のワークライフバランスを整える

研修制度を紹介するスライドを移したパソコン画面

編集部

そのほか、新潟市さんが重視している取り組みがあればお伺いできますか。

末宗さん

職員のワークライフバランスを充実させるために、ストレスへの対処法を学ぶ職員研修も行なっています。それは「職員は心身の健康状態を保つことで能力を発揮でき、それが市民のためになる」という考えからです。

2023年度に入庁1年目の職員に向け、ストレスの受け止め方や一時的な逃れ方を学んでもらうカリキュラムを新設しました。その前年には、仕事が増えてくる2年目の職員にレジリエンス(※1)を高めてもらうアプローチも取り入れています。さらに、5年目の職員には臨床心理士がストレスのほぐし方を教えるようにしています。そして、本人だけでなく管理職(係長・課長補佐・課長)にもラインケア(※2)を学んでもらうことで、組織としてストレス対策をとれるようにしています。
(※1)困難を乗り越える力や精神的な回復力
(※2)ラインケアとは、管理監督者が主体となり、従業員の健康管理に取り組むメンタルヘルス対策

また、特に気持ちが不安定になりやすい1年目の職員には、中途入庁の職員も含め、一人につき一人、所属課の先輩を育成担当者として配置しています。

編集部

段階ごとに、そのキャリアにあったストレス対策を講じ、職員が安心して働ける環境を整えているのですね。

男性育休取得率が4年で35.6ポイント上昇。秘訣は「休まない理由」を提出させる仕組み

談笑する新潟市職員

編集部

ワークライフバランスを保つには、子育てをしながら働く方を支える取り組みも大切だと思いますが、新潟市さんの育休の取得状況はどのようになっていますか。

末宗さん

2022年度現在で、女性はもちろん100%ですが、男性も59.2%と半数以上の職員が取得しています。この男性の数値は、2018年度の23.6%から35.6ポイント上昇しました。
※数値は市長部局の集計

要因は、育休を取らない職員に「休まない理由」を書いて所属長に提出してもらう仕組みを導入したことだと思います。それにより「育休を取るのは当たり前」という意識が庁内に根付いてきていると感じます。

編集部

育休を取らないことが難しくなるような仕組みですね。職員の方はどのくらいの期間、育休を取られるのですか。

末宗さん

数日、数週間の人もいれば、年単位で取る人もいますね。さらに、新潟市では1時間単位で有休を取ることができるので、それを活用して、子どもの面倒を見ているお父さん、お母さんも多いですね。

子育てや介護を理由に休むことについては周囲の理解も深く、「代わりに何をやっておけばいい?」と、休みやすい雰囲気をつくってくれています。

編集部

お父さん、お母さんに優しい職場なのですね。

末宗さん

そうだと思います。また、有休取得日数は、平均13.9日となっていますが、看護休暇や介護休暇を合わせると休んでいる日は意外と多いです。私は休日や祝日以外にも、年間20日間以上は休んでいます。

公務員という仕事の性質上、どうしても残業時間がかさんでしまう時期はありますが、休めるときは休み、メリハリをつけて働いている職員が多い印象ですね。

民間企業で経験を積んだ人材は、新潟市役所の大きな戦力に

笑顔で写真に収まる新潟市職員

編集部

最後に、新潟市役所の仕事に興味を持った読者に向けて、メッセージをいただけますか。

小泉さん

私は新卒から職員一筋なので行政職場しか分かりませんし、そういった職員も多いです。そんな中、フロンティア精神を持つ民間企業の職務経験者は大きな戦力になります。

例えば仕事のスピード感や、コスト意識、マーケティング知識は行政の職場でも生かせるはずですし、そういった経験、強みを新潟市役所は発揮できる環境だと思います。もし興味がある方がいれば、新潟市役所の仕事を紹介している専用サイトもあるので、ぜひそちらも見てもらえればと思います。

末宗さん

私は転職してすごく良かったと思っています。職員もいい人ばかりだし、市民の方に「ありがとうね」と感謝された時など、日々やりがいを感じています。

市役所の仕事は、定年まで3〜5年に一度ずつ部署の異動を繰り返していくので、さまざまな分野を学び続けられます。いろいろな業界の人たちと会うことで、視野も広がるし、ずっと楽しくワクワクできることは、この仕事の専売特許だと感じます。

編集部

お二方のお話を通し、新潟市さんが職員の力を引き出そうと、さまざまな試みを行なっていることが分かりました。新規事業を続々と打ち出している政令指定都市で働くことも、大きなやりがいになりそうです。本日はありがとうございました。

■取材協力
新潟市:https://www.city.niigata.lg.jp/
採用情報ページ:https://www.city.niigata.lg.jp/saiyou/