企業のSDGsへの取り組みや、成長を支える新しい働き方などについて紹介するこの企画。今回は農業資材の研究開発・製造販売を手掛けるココカラ合同会社を取材しました。
ココカラ合同会社とは
ココカラ合同会社は、“農業をもっとラクに”を ミッションに掲げ、農業・施設園芸分野の研究開発・製造販売を手掛けているグローバルベンチャーです。2016年に⼤原秀基氏とインドの物理学者、アルール・ムルガン氏によって創設されました。
会社名 | ココカラ合同会社 |
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住所 | 東京都中央区京橋2-2-1京橋エドグラン サウス3F |
事業内容 | 農業資材の研究開発・企画・製造販売 ほか |
設立 | 2016年11月 |
公式ページ | https://cococara.jp/ |
働き方 | 月1回出社 他、フルリモートワーク |
日本とイギリスに販売拠点、南インドに自社生産工場と研究拠点を有するココカラ合同会社は、持続可能な農業の実現に向け、ヤシガラ(※1)を使った有機培土・ココピート(※2)の研究開発に取り組み、自社ブランド「ココカラピート」を農業生産法人や農家に提供しています。
(※1)ヤシの実の殻の内皮にある繊維や粒
(※2)ヤシの実の繊維を砕いた土壌改良材
今回は、SDGsへの取り組みや企業の成長を支えるカルチャー、働き方などについて、ココカラ合同会社代表の大原秀基さんにお話を伺いました。
天然有機質100%の有機培土「ココカラピート」で“世界の食糧を確保”
▲天然有機質100%の有機培土「ココカラピート」は高い保水能力を持ち、排水性、通気性にも優れ、作物の根の発育を促進することで、安定収量を実現
編集部
最初に、ココカラさんの事業内容についてお聞かせいただけますでしょうか。
大原さん
当社は“世界の食料を確保する”ことを目標に掲げ、ヤシガラを原料とした施設園芸用有機培土「ココカラピート」を主力に事業を展開しています。
天然のヤシガラが持つ高い保水能力や優れた排水性、通気性、作物の根の発育促進などの機能に着目し、2016年にナノ粒子物理学者のアルール・ムルガンと共に天然有機質100%の有機培土「ココカラピート」を開発し、ココカラ合同会社を設立しました。
編集部
ココカラさんが開発された「ココカラピート」は、土に代わる“人工の土”という位置づけになるかと思われます。製品の強みについてお聞かせいただけますか?
大原さん
日本では、土に代わる培土と言えばロックウール(※1)やピートモス(※2)が主流でしたが、使用済み培地の廃棄コストや採掘資源に限りがあるなどの理由から、地球環境に与える影響が課題となっていました。
(※1)玄武岩、鉄炉スラグなどに石灰などを混合し、高温で溶解して生成される人造鉱物繊維
(※2)苔などの植物が腐植物質となって蓄積した泥炭を乾燥させたもの
「ココカラピート」は天然のヤシガラが原料であることから、循環型農業(※)に適しており、さらに成型が容易なため、土壌改良用や隔離栽培用など、用途に合わせた形状変更がしやすいといったメリットがあります。
(※)化学肥料や農薬を適切に使用すると同時に、廃棄物などを有機資源として活用したうえで環境の負荷軽減を目指す農業体系
▲ココピートが持つ機能に着目し、ココカラでは独自の配合で「ココカラピート」を開発。作物に最適な土壌バランスを実現している(公式サイトから引用)
大原さん
作物の品質を左右する土壌づくりは、非常に難しい農業技術の1つです。また、土に含まれる栄養分や微生物を化学的に検証するには膨大な費用と時間がかかります。
「ココカラピート」は自社工場と厳選したOEM先のみで製造し、徹底した管理のもとで製造をしているため、品質が安定しており、製品のバラツキがないことが特徴です。
“日本の農業をもっとラクに”。生産現場に寄り添った商品開発
▲ココカラ合同会社はサステナブルなアグリテックカンパニーとして事業基盤を創造し、社会価値・顧客価値を提供することを目指している(公式サイトから引用)
編集部
生産者側が「ココカラピート」から得られるメリットについても教えていただけますか?
大原さん
土を使用した場合、肥料や微生物などの含有量が異なることがあるため、区画によって品質にバラつきが生じることがあります。それに対し、「ココカラピート」は全ロットの品質が安定しているため、ハウス内の全区画に使用しても同じ条件で作物が育ち、安定収量につながります。
加えて、水やりの頻度や追肥の回数などのコントロールを包括的に行えるので、作業者の負担が大きく軽減されると期待できます。
また、イチゴなどの施設栽培では高所にベンチを設置するため、重い土を敷くと作業者の負担が大きくなります。乾燥・圧縮したブロック状態で納品される「ココカラピート」は、土の約10分の1の重さになっており、高齢化や女性の進出が進む農業の現場においても取り扱いが容易で、作業がしやすいといったメリットがあります。
編集部
なるほど。農業は本来、自然の土を使って農作物を栽培しますが、露地栽培から施設栽培、土から培土と、新たな農法が次々と確立されたことには、どのような理由があるのでしょう。
大原さん
もともと日本は、農業に適した気候風土を持っていました。しかし近年、集中豪雨をはじめとした天候条件の変化が見られ、安定した農業経営の継承が難しくなっているのが実情です。加えて、農業の担い手不足も深刻化しています。
“日本の農業をもっとラクに”をミッションに掲げる当社は、日本初のココピートメーカーとして、国内トップシェアを目指しています。
編集部
環境に配慮していることに加え、機能性や利便性においてもココカラさんが開発した「ココカラピート」が優れていることがよくわかりました。
弛みない探究心と品質追求から生まれた「ココカラピート」
▲ココカラ合同会社の大原代表は、インドの現地スタッフと密に連携を図りながら研究開発を進めている
編集部
ヤシガラ培土・ココピートは主にヨーロッパで流通していると伺っております。「ココカラピート」を日本で販売するにあたり、ココカラさんが工夫されたことはありますか?
大原さん
ココピートがヨーロッパほど日本で普及しなかった原因は、ヤシガラを潰した時に生じる粉やカスなどのダストが混入した粗悪品が多かったことが考えられます。
ダストが入ったままのココピートに水を注ぐと、粉やカスと一緒に水が全て流れ、保水できないといった現象が起こります。すると、根に水が入らず、作物の生育に大きな影響を及ぼすことになります。
ダストが多く混入する理由は、インドやスリランカなど原産国における生産管理の乏しさにあると考えた当社は、インドの生産者から継続的なフィードバックを受けながら、地道に製品改良に取り組んできました。
その結果、当社では0.5ミリ以下のダストを全て排除して、高い保水性と優れた排水性を兼ね備えた、粒子が均一な最高品質の有機培土「ココカラピート」の開発に成功しました。現在は南インドに生産工場と研究開発「ココカラインディアR&Dセンター」を有し、安定供給が可能となっています。
エシカルな取り引きで、南インドの就労環境の改善に尽力
▲ココカラ合同会社では、現地のヤシガラ農家に対するエシカルな商取り引き、就労環境の改善にも取り組んでいる
編集部
大原さんと共にココカラ合同会社を設立し、現在はインド工場の最高責任者であるアルール・ムルガンさんは、もともとはナノ粒子物理学者で、磁性流体研究の第一人者と伺っております。ジョインするきっかけについてお話しいただけますか?
大原さん
南インド出身のムルガンとは、私が大手人材派遣会社に勤務していた時に知り合いました。さまざまな話をする中、南インドではココピートが多く生産され、ヨーロッパに輸出している実績があるにもかかわらず、中間業者によるマージン搾取が多いため、生産者に入るお金はわずかという実情を知りました。
ムルガンの願いは「日本でもっとココピートが普及すれば、南インドの雇用促進にもつながる」ということでした。これを受けて、品質の高いココピートを南インドで生産して日本で販売することで、南インドの雇用問題と日本が抱える農業の担い手不足や気候変動による土壌問題を同時に解決できると考えたことが、起業のきっかけです。
ココカラを設立するにあたり、エシカル調達(※)を実現させるため、JETROのプログラムなどに参加し、現地の農家さんと一緒に商取り引きの意識改革を行いました。ムルガンは日本で長く仕事をしていたこともあり、「この工程を丁寧にすることでもっと高く売れるよ」といった品質管理に関する啓蒙を、現地の農家さんにしっかり行っています。
(※)倫理的な仕入れを行うことで、持続可能な生産と消費の実現に近づくことができるという考え
編集部
現地のヤシガラ農家に対するエシカルな取り引きは、南インドの就労環境の改善にもつながっているのですね。
“次世代に残す豊かな土壌を作る”ココカラ流SDGsへの取り組み
編集部
廃棄されるヤシガラを原料とした「ココカラピート」の製造販売をはじめ、南インドの就労環境の改善など、SDGsが掲げる努力目標に積極的に取り組まれているココカラさんですが、新たに取り組まれていることはありますか?
大原さん
インドのココカラインディアR&Dセンターでは、ムルガンが中心となって使用済みココピートのリサイクル方法、微生物や細菌による土壌改良など「次世代に残す豊かな土壌を作る」ための研究開発を続けています。
天然素材100%の「ココカラピート」は使用後、バラして土にすき込むことで土壌改良剤になります。これをさらに進めるため、インドでは使用済みの「ココカラピート」を収集し、微生物や細菌と共に専用のコンポストに入れて発酵することで、より性能が高い土壌改良剤の開発に取り組んでいます。
当社は、インドの農村で「ココカラピート」を生産して雇用を創出し、日本の生産者に「ココカラピート」を提供することでサステナブルな農業の実現を目指した研究開発を進めています。 1つの事業で日本とインド、2つの国の問題解決に貢献することが、当社のバリューです。
農作物の安定収量を求める生産者が、前年比売上200%を後押し
編集部
2021年に南インドにココカラピートの製造工場、2022年にはココカラインドを設立・子会社化されたココカラさんは、目覚ましい企業成長を遂げられています。国内での実績についてもお聞かせいただけますか?
大原さん
国内ではおかげさまで、200を超える農業生産法人様に「ココカラピート」をご利用いただいております。売上実績は前年比の200〜300%です。
成長の背景には、先ほどお話しした「ココカラピート」の循環型農業に適した性質や高い保水率、重量の軽さなどが高く評価されたことがあると分析します。また、日本の農業の構造が少しずつ変化していることも大きく関係していると思われます。
たとえば近年、小売店や販売業者が農家さんと直接契約をしたり、農家さん自らがインターネットを介して消費者に直接販売したりと、従来とは異なる流通・販売形態も一般的になりつつあります。
販路が増えることは農業従事者の所得向上につながる喜ばしい流れであると同時に、生産者には農作物の安定供給が求められます。ニーズに応えるためには継続的な安定収量が必須です。そのため、収量が安定しにくい露地栽培から、気候に左右されにくい施設栽培に切り替える農家さんが近年、増加傾向にあります。
この流れから、ハウス内で使用する有機培土を検討する際、当社の「ココカラピート」の機能性とリーズナブルな価格が支持されるようになったことも、成長要因の1つと考えます。
編集部
販路が拡大されることで、農家さんは確実に収量を確保する必要があり、そのニーズに「ココカラピート」がマッチしたというわけですね。
テレワークにおけるスムーズな業務遂行をバックアップ
▲ココカラでは京橋駅直結のオフィスに月に1回、全社員が集まる以外はテレワークで業務をおこなっている
編集部
続いて、ココカラさんの働き方についてお聞きします。現在の勤務形態についてご紹介いただけますか?
大原さん
現在、当社では月1回の出社以外は基本的にテレワークとなっています。月に1回、全社員がオフィスに集まる以外は、オンライン上での勤務や全国への出張、ワーケーションをしています。
社会情勢の変化により、お客様である生産者の方との商談や打ち合わせ、「ココカラピート」の使用に関するフォローも、電話やメール、LINEでのやり取りが増えています。
「ココカラピート」の使用に関するお客様からのお問い合わせについては、FAQサイトを充実させたり、具体的な使用方法を動画サイトで共有することでリモート対応が可能となっています。
とはいえ、農作物の生育状況などは現地に足を運んで確認することが重要な面もあります。対面を希望されるお客様には、営業担当者が直接訪問をしています。
編集部
テレワーク中心の働き方となると、社員間のコミュニケーションはどのようにされているのでしょう。また、出社からテレワークに移行したことで見えてきた課題などはありますか?
大原さん
コミュニケーションはSlack、業務フローやマニュアルはNotion、営業支援ツールはZoho、会議はZoomとGoogle Meet、ウェビナーはZoomと、用途に応じて複数のツールを活用しています。
全体ミーティングに加え、プロジェクトやタスクごとのミーティングも増えてきているため、使用するツールの検討や共有ドライブの整理などを含め、日々改善を進めています。それでも、人によるツールの習熟度の差などもあり、まだまだ改善すべき点は多いと感じています。
また出社の場合は、チームに声をかけてすぐにミーティングを始めることができますが、テレワークは対面と比較すると、どうしてもコミュニケーションが図りにくく、ミーティングのための事前打ち合わせなどで、ミーティングの回数が増えがちなことも課題となっています。
ミーティングに時間が割かれ、業務に支障が出るようでは本末転倒なので、トライアルを含め、改善に取り組んでいます。
編集部
ココカラさんではさまざまなツールを活用しながら、テレワークという新しい働き方をしっかりサポートされているのですね。
意思決定ができる、多彩なバックグラウンドのスタッフが活躍中
編集部
ココカラさんのスタッフの男女比、年齢層はどのようになっていますか?
大原さん
女性がやや多く、30代が最も多く活躍しています。
編集部
若い世代が多く活躍されているココカラさんですが、どのような方が活躍されているのでしょう。
大原さん
意思決定ができる者が活躍しています。相談をするにしても「こうしたいのですが意見をもらえますか?」というように、指示待ちではなく、自ら行動に起こすカルチャーがあります。
それによって仕事が増えることはありますが、1人の負担を大きくするのではなく、役割分担を整理したり、人員を増やしたりすることで業務遂行に向けたバックアップ体制をしっかりとっています。
「新しいことをやりたいけれど、今の仕事に支障が出てしまう」という理由で挑戦を諦めるのではなく、「それ、いいね」で始まったことを実現するためにはどうするべきかといったマインドを持って業務にあたっています。
編集部
社員間で情報共有をし、新しい挑戦をバックアップしてくれる風土があるからこそ、臆することなくチャレンジができるというわけですね。農業資材を取り扱うココカラさんですが、社員のみなさんは業界出身者が多いのでしょうか?
大原さん
農業系の業界からの転職者は少なく、海外経験がある者や、経済誌の記者、物流業界出身の者、シンガポールで輸出入を手がけていた者、バーテンダーなど、さまざまなバックグラウンドの社員が活躍しています。今後設立予定のインサイドセールス部門には、SaaS(※)の営業経験がある者が入社予定です。
(※)Software as a Serviceの略。インターネット上でサービスとして利用できるソフトウェア
編集部
まさにダイバシティですね!さまざまな経験を持った方がジョインしているココカラさんからは、今後も新しいアイデアが続々と生まれそうです。
無限の可能性を秘めた「ココカラピート」が日本の農業を変える
編集部
サステナブルな農業に取り組むココカラさんですが、改めて、日本の農業が抱える課題、解決策についてお聞かせいただけますか?
大原さん
日本の土壌は化学肥料の長年の多用などによって、私たちが想像する以上に疲弊しており、元の状態に戻るには30〜40年以上かかるとされています。また、人口が増加したことで都市化が進み、急速に耕作地が減少しています。
世界的に広がる土壌汚染や食糧不足など、農業を取り巻く課題を解決するには、施設栽培や培土を使った農作物の生産が必須です。工業製品のように農作物を機械的に作るのではなく、有機培土を含めた豊かな農業の構造を作り、土壌再生にも取り組みながら農業に貢献していくことが当社の使命です。
編集部
「ココカラピート」の農業分野以外での活用や、ココカラさんが目指す今後の展望なども読者が気になるポイントだと思われます。現在進行中のプロジェクトをご紹介いただくと共に、就職や転職を検討している読者に向けたメッセージをお願いします。
大原さん
現在の主力事業は有機培土としての「ココカラピート」の開発・販売ですが、それ以外の取り組みもいくつか並行して行っています。
たとえば農業においては「ココカラピート」と相性のよい各種センサーやカメラと連携して、圃場(※)全体の環境制御を行う、いわゆる「農業IoT」を国際的なエレクトロニクス企業やソフトウェア企業をパートナーとして推進する取り組みを進めています。
(※)ほじょう:田や畑などの農地のこと
農業以外の分野では、たとえば人工芝用充填材の新たな原料として「ココカラピート」が使用されています。従来のゴムチップに比べてコスト面や埃が出ないことなどのメリットに加え、ケガのリスクを軽減できる可能性についても検証中です。
この他にも河川の氾濫を抑える土嚢として「ココカラピート」を活用するアイデアも生まれるなど、さまざまな分野での活用が期待されています。
このように、無限の可能性を秘めた「ココカラピート」は、今後さらなる発展が期待される製品となっています。サステナブルな社会の構築や農業の活性化などを通し、地球環境の改善に貢献できる価値ある仕事がココカラにはあります。
当社の理念やミッションに共感し、少しでも興味を持った方はぜひ一度、お話をしましょう。まずは気軽に問い合わせいただければ幸いです。
編集部
「ココカラピート」を軸に、サステナブルな横展開に尽力するココカラさんにジョインすることで、アイデアを活かしたさまざまな挑戦ができると感じました。その挑戦は社会貢献という誇りある仕事につながっていくのですね。
本日はありがとうございました。
■取材協力
ココカラ合同会社:https://cococara.jp/
採用ページ:https://www.wantedly.com/companies/company_9878299/about