ユニークな事業で成長を続ける企業を紹介する本企画。今回は、マンガ家を目指す人向けのシェアハウス事業や、マンガの制作事業などを手がける「NPO法人LEGIKA」をインタビューしました。
NPO法人LEGIKAとは
NPO法人LEGIKA(レジカ)は、マンガ家を目指す人を支援する事業などを展開する団体です。
マンガ家を目指す人がシェアハウスで共同生活しながら、プロのマンガ家による指導などを受けられる「トキワ荘プロジェクト」や、企業・自治体向けに、伝えたいメッセージをマンガ表現によって実現させるマンガ制作事業を実施しています。
また2023年8月には、出版社やマンガアプリ運営会社、映画・アニメ制作会社向けに、マンガを原作とする作品の企画・制作やプロデュースを行うIP(知的財産)プロダクション事業にも参入しました。
法人名 | 特定非営利活動法人LEGIKA |
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住所 | 東京都品川区北品川5-5-15大崎ブライトコア4階SHIP |
事業内容 | ・マンガ制作事業 ・マンガ家育成事業 ・シェア型学生寮事業 ・地域と連携した学生寮の企画プロデュース事業 |
設立 | 2009年10月30日 |
公式ページ | https://www.legika.jp/ https://www.legika.com/ (マンガ制作サービス) |
働き方 | ・原則リモート勤務 ・フレックス・タイム制(コアタイム11:00〜16:00) |
LEGIKAでは、リモート勤務やフレックス・タイム制を取り入れており、自由度の高い環境で一人ひとりがプロ意識を持ち、自律した働き方をしています。
今回は、事業の成長やその背景、リモートワークなどを取り入れた柔軟な働き方などについて、理事長の小崎文恵さんにお話を伺いました。
シェアハウス事業を通じてマンガ人材を育成
編集部
まずはじめに、LEGIKAさんの事業内容について教えてください。
小崎さん
私たちは、コミュニティづくりとメッセージづくりを核として、大きく2つの事業を展開しています。
ひとつ目は、入居者のターゲットを絞ったシェアハウスの企画・運営です。2006年にスタートした「トキワ荘プロジェクト」では、中長期的にプロとして活躍することを目指すマンガ家が入居するシェアハウスを東京・多摩地区などで運営しており、入居者に対してプロのマンガ家などによる指導や、マンガの仕事の紹介を行っています。
編集部
同じ志を持った人たちが集まることで、切磋琢磨しながらプロとして活躍ができそうですね。
小崎さん
そうですね。仲間同士で健全に競い合える環境づくりを重視しています。そこで優れた実績を上げた入居者を大きく表彰するイベント「LEGIKA UP」を毎年開催しています。
こうした取り組みを通じて、トキワ荘プロジェクトではこれまでに130名以上のプロマンガ家を輩出してきました。
▲2022年の「LEGIKA UP」では、表彰式だけでなく、講談社「週刊少年マガジン」などの編集者によるフィードバックなどが行われた。
編集部
ほかにも運営しているシェアハウスはありますか?
小崎さん
東京・小平市で、学生向けの教育寮「チェルシーハウス国分寺」を運営しています。この住まいには管理人や寮母さんがおらず、門限等のルールもありません。入居する学生は、高い自由度の中で共同生活を行うだけでなく、地域住民との交流会や大学教授などを招いた勉強会を自発的に企画・運営しています。こうした経験によって、主体性やコミュニケーションスキルを身につけています。
小崎さん
また、トキワ荘プロジェクトやチェルシーハウスの運営経験を生かし、自治体様や大手企業様に対して住まいのコミュニティづくりのアドバイスを行うこともあります。
編集部
マンガ人材や、未来を担う若者の育成に、シェアハウスというコミュニティを取り入れる試みは、とてもユニークだと感じました。
企業・団体向けにマンガ制作事業を展開
編集部
ふたつ目の事業についても教えてください。
小崎さん
マンガ表現を使って、メッセージ伝達をサポートするマンガ制作事業を展開しています。企業様や自治体様をクライアントとしており、商品・サービスメッセージや社内報、採用コンテンツ、営業資料のマンガ化や、テレビ番組内で使われるイラスト等の制作を手がけています。
編集部
マンガ制作事業では、どのような方がマンガ制作に参加しているのでしょうか?
小崎さん
トキワ荘プロジェクトの在籍者と出身者が半数以上を占めています。そのほかにも、以前手がけていたマンガスクールの卒業生などがおり、LEGIKAがマンガに関わる事業を通じて築いたネットワークを生かして、高品質な作品を制作しています。
編集部
シェアハウス事業とマンガ制作事業で、LEGIKAのスタッフのみなさんはどのようなお仕事をされているのでしょうか?
小崎さん
シェアハウス事業では、直営しているハウスや運営委託を受けているハウスの管理のほか、居住者のコミュニティを活性化するためのイベント企画などを行っています。
マンガ制作事業では、ご依頼いただいた企業様へのマンガ企画の提案や、クリエイターの選定、納品までの進行管理が主な業務です。
LEGIKAはIPプロダクション事業などの新規事業に積極的
編集部
ここからは、事業や組織の成長をテーマにお伺いします。LEGIKAさんは近年、新しい事業を積極的に展開していますね。
小崎さん
はい。2022年9月に縦スクロールマンガのWebtoon制作事業に参入したほか、2023年8月にはIP(知的財産)プロダクション事業をスタートしました。
一般的に「編集プロダクション」と呼ばれる出版社向けのマンガ編集業務に近いのですが、LEGIKAでは出版社向けだけでなく、アニメ・ゲーム・アプリ・映画制作会社などのIPビジネスを手がける事業者様ともお仕事を行っています。現在、将来のアニメ化・ゲーム化・映画化を視野に、マンガを原作とした作品づくりを企画提案し、共同でコンテンツ化する取り組みを進めています。
さらに作品づくりの実働部隊として「レジカスタジオ編集部」を設置しました。
編集部
レジカスタジオ編集部では、どのような取り組みを行っているのでしょうか?
小崎さん
前述の取り組みを行うため、能力ある作家と編集者が一丸となって高品質なマンガ作品づくりを進めています。初代編集長には「うしおととら」や「海猿」などの数多くの有名作品の編集を担当し、小学館の「月刊flowers」や「Cheese!」で編集長を務めた武者正昭が就任しました。
今後は、有望な人材の発掘や専属化、教育・指導の強化、IP事業者への売り込みといった活動なども積極的に行いたいと考えています。
▲編集者としての経験が豊富な武者正昭さん自ら、トキワ荘プロジェクトの参加者に指導を行っている。
編集部
これからは、トキワ荘プロジェクトの入居者をプロに育てるだけでなく、プロデビューした後も伴走しながら活動を広げていけるのですね。
小崎さん
そうです。映画化に当たって原作者が作品のプロデュースに関わり、ヒットに応じた報酬を得るケースは、海外では珍しくありません。レジカスタジオ編集部の取り組みを通じて、職業機会を増やすだけに留まらず、一緒に知恵を絞ることで大ヒットの礎となることを狙いたいと考えています。
大手出版社と連携した事業も生まれている
編集部
IPプロダクションなどの新事業によって、LEGIKAさんの経営にはどのような効果が出ていますか?
小崎さん
新事業の発表以降、大手出版社やアニメ制作会社、ゲーム会社等との間で、コミカライズの制作推進、共同でのオリジナル作品制作の話が進んでいます。
これまで、大手出版社はすべての作品を自社人材によって内製化するのが一般的でした。しかし、近年は大手でも外部の編集プロダクションや編集エージェントを活用するケースが増えています。これら外部環境の大きな変化は、私たちにとってビジネスチャンスだと感じています。
編集部
大手出版社の制作環境が変わってきていることが、LEGIKAさんの事業の追い風になっているのですね。
小崎さん
はい。これまでは、マンガ雑誌の編集者とマンガ家が密接な関係にあったため、マンガ家が他社のマンガ雑誌に移ったり、作品企画を持ち込んだりすることに高いハードルがありました。
しかし、作家が私たちのようなIPプロダクションに所属するスタイルが主流になれば、中立的な立場で異なる出版社に売り込むことが容易になり、マンガ家の活動の自由度が高まります。
また近年、電子出版業界を中心に出版事業者の数が急増していることも、プロダクション事業の重要性が増す要因になっています。媒体によって求める作品の企画や作風は異なるため、私たちが各媒体の特徴などを分析したうえで、それぞれの作家に合った展開先を紹介する必要があるのです。
編集部
IPプロダクション事業などを通じて、今後ますます多くのマンガ家がLEGIKAさんで活躍することになりそうですね。
企業でのマンガ活用が広がるなか、NHKや大手企業からの依頼も
▲LEGIKAのマンガ制作事業では、テレビ番組のセットで使われるマンガを制作することも。
編集部
最近、企業のウェブサイトなどでマンガ化したコンテンツを見ることが多くなりました。LEGIKAさんの企業向けのマンガ制作事業の近年の動向についてもお伺いできますか?
小崎さん
理念の発信などを重視する企業が増えていることなどを背景に、企業でのマンガ活用シーンが増えつつあると感じます。実際、LEGIKAでも企業様からご依頼いただく件数が着実に増えています。
大手の企業・団体にご利用いただくことも多く、斬新な映像とマンガを使ったNHKのエンタメ教養番組「漫画家イエナガの複雑社会を超定義」でも、LEGIKAが制作したマンガを作品内のマンガ・アニメーションシーンや番組セットとして使用していただいています。
ほかにも、デロイト トーマツ コンサルティングさん、博報堂さんや電通東日本さん、日野市さん、東京歯科医師会さん、エイチ・アイ・エスさんなどの多くの企業・団体にサービスを提供しています。
編集部
企業がマンガコンテンツを取り入れるケースが増えると、マンガ家の活躍の場も広がりますね。
小崎さん
はい。このような事業は、マンガ家の安定収入にもつながると感じています。
書店で買ったりウェブで読んだりする商業マンガの場合、ヒットするかどうかによって作家の運命が大きく変わります。残念ながらヒットするかどうかは誰にもわかりません。ヒットするまでの長い間収入がなくても、ひたすら描き続けている作家もたくさんいます。
企業向けのマンガ制作なら、プロジェクト期間が短く、作家の安定的な収入につながりますし、異なる企業のさまざまなマンガ制作を経験することで、スキル向上やノウハウの蓄積も期待できます。
編集部
マンガ家の活躍に貢献する事業を積極的に展開するLEGIKAさんの今後の取り組みが楽しみです。
LEGIKAはリモートとフレックスで柔軟な働き方を実現
編集部
LEGIKAさんは、リモートワークを導入するなど、柔軟な働き方への取り組みを行っていると伺いました。
小崎さん
LEGIKAでは、新型コロナウイルスが流行する前の2019年から、出社とリモートのハイブリッド勤務を導入していました。オンライン会議や電子稟議の仕組みも整っていたので、コロナ禍によって社会全体がリモートへの移行を迫られた際もスムーズに対応することができました。
編集部
フレックスタイム制も導入していますか?
小崎さん
はい。11時から16時をコアタイムとしたフレックス制を導入しており、それ以外の時間帯は深夜などを除いて各自の状況や都合に応じて勤務しています。
非対面だからこそ「伝える力」が向上する
編集部
コロナ禍の前からリモートワークを取り入れているということですが、導入の狙いは何だったのでしょうか?
小崎さん
業務効率を上げることと、働きやすさを実現するためです。通勤にかかる労力をなくすことで、効率的にスタッフ一人一人が望む自由なスタイルで働くことができます。また自宅で勤務できることで、子育て世代のスタッフにより活躍してもらえると考えました。
編集部
実際に導入してみて、気づきなどはありましたか?
小崎さん
対面でコミュニケーションする場合は、主語や述語を明確に述べなくても、何となくの雰囲気で伝わることもあります。しかし、テキストコミュニケーションになると5W1Hが明確でないと、意図がうまく伝わりません。
そのため、テキストコミュニケーションが中心になってからは、箇条書きにして伝えるなど、各自が「どうすれば相手に伝わるか」を意識して工夫するようになりました。
編集部
分かりやすく伝えるスキルが高まったのですね。リモート環境におけるコミュニケーション促進の取り組みもありましたら教えてください。
小崎さん
リモート中心の業務スタイルとしたことで、専用オフィスが不要となり、シェアオフィスへ拠点を移すことになりました。賃料を抑えることで浮いた費用を使い、普段足を運ばないような場所でのワークショップなどを企画し、対面ならではの有益なコミュニケーションを取っています。
目標設定やフィードバックも。LEGIKAのインターン制度とは
▲LEGIKAのインターンは、シェアハウスのイベント企画などに携わっている。
編集部
LEGIKAさんのインターン制度についても教えてください。
小崎さん
3ヶ月以上の長期インターンを実施しており、常に4〜5名の学生が働いています。
編集部
インターンとして、どのような業務を経験できますか?
小崎さん
トキワ荘プロジェクトの入居希望者との面談や、シェアハウスで開催するイベントのお手伝い、入居者向けのメディア「月刊トキワ荘プロジェクト」での記事のライティング、マンガ制作作業のサポートなど、インターン生のステップに応じてさまざまな業務を経験できます。
編集部
段階を経て成長できるような仕組みがあるのでしょうか?
小崎さん
はい。ステップ制を導入しています。経験や評価に応じて1、2、3とステップが上がるにつれて、より責任ある仕事をお任せしています。
インターン生にも職員と同じように成長してほしいと思っており、育成の取り組みにも力を入れています。例えば、次のステップに上がるために達成すべき目標を設定してもらったり、業務を振り返って自己評価をしてもらっているほか、直属の上司にあたるスーパーバイザーによる定期的なフィードバックを行っています。
また、仕事上はあまり関わらない職員をメンターに指名して、仕事だけでなく就活の話など、さまざまな相談に乗っています。
編集部
LEGIKAさんでインターンを経験した学生は、どのような企業に就職していますか?
小崎さん
出版社に就職する人が多く、卒業生からは「LEGIKAでの業務を通じて出版業界の現実と課題への理解が深まった」という感想をいただきました。
また、シェアハウス事業に携わったことで不動産の面白さに気づき、不動産業界への就職を決めた人もいます。
編集部
LEGIKAさんのインターンには丁寧な評価制度や育成制度があるので、就職後に必要になる社会人としての能力まで身につけることができそうですね。
LEGIKAはプロ意識のあるチームプレーヤーを歓迎
▲理事長の小崎さんは、自由な働き方を取り入れるLEGIKAでは、自律して働けるプロフェッショナルを求めていると話す。
編集部
LEGIKAさんが、一緒に働くメンバーに求めることは何ですか?
小崎さん
私たちは、とても自由な組織です。リモートワーク中の業務態度などは全くチェックしていませんし、働く時間も各自に任せています。このような環境でも、緩急をつけて「やるときはやる」という姿勢で、自律したプロフェッショナルとして仕事に臨める人であることを求めています。実際、LEGIKAのメンバーは自由な環境でもしっかりとアウトプットをしています。
また、リモート環境ということもあり、テキストでちゃんと伝えることや、マニュアル化することを意識しています。そのため、伝えたいことを言語化できる能力を重視しています。
編集部
最後に、LEGIKAさんのお仕事に興味を持った読者の方にメッセージをお願いします。
小崎さん
チームワークを大切にしながら、ひとりのプロフェッショナルとして意見をどんどん出していただけるような方に、ぜひご応募いただきたいと思っています。
メンバーの得意な部分を伸ばすことを大切に考えているので、LEGIKAの事業に生かしたいスキルや経験がある方も歓迎します。
編集部
世界に誇る日本のカルチャー「マンガ」を、人材育成から支えるLEGIKAさん。シェアハウス運営から編集プロダクションまで、さまざまな形でマンガ事業に携われる点も魅力的だと感じました。
本日は、ありがとうございました。
■取材協力
NPO法人LEGIKA:https://www.legika.jp/
レジカスタジオ:https://www.legika.com/
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