社員のキャリア形成のためのユニークな制度を取り入れる企業を紹介する本企画。今回は、「黒ラベル」や「ヱビス」などで知られるサッポロビール株式会社にインタビューしました。
「サッポロ生ビール黒ラベル」「ヱビスビール」などのロングセラーブランドを生み出してきたサッポロビール
1876年に北海道札幌で誕生したサッポロビール株式会社は、「新しい楽しさ・豊かさをお客様に発見していただけるモノ造りを」という経営理念のもと、国内外で酒類事業を展開しています。
1977年誕生のロングセラーブランド「サッポロ生ビール黒ラベル」や、プレミアムビールの先駆けと言われる「ヱビスビール」など誰もが知る人気のビールを手がけるほか、近年需要が高まっているRTD(※)カテゴリでは2023年に過去最高の売り上げを達成するなど、好調な売れ行きを記録しています。
(※)Ready To Drinkの略で、栓を開けてそのまま飲める低アルコール飲料のこと
会社名 | サッポロビール株式会社 |
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住所 | 東京都渋谷区恵比寿4-20-1(恵比寿ガーデンプレイス内) |
事業内容 | ビール・発泡酒・新ジャンル・ワイン・焼酎などの製造販売、洋酒の販売、他 |
創業 | 1876年 |
公式ページ | https://www.sapporobeer.jp/ |
「自分のキャリアは自分で切り拓く」という人財育成ビジョンを掲げるサッポロビール株式会社は、通常の人事異動に加えた新たなキャリア形成の仕組みとして、社員が自部署に在籍をしながらほかの部署の業務を経験できる「社内インターン」や「社内副業」の制度をスタートさせました。
今回は、人事部の坪井沙紀さんと直江伸夫さん、新規事業開拓部の鈴木陽子さんに、キャリア形成を支える新しい制度についてお話ししてもらいました。
「キャリアは自分で切り拓く」サッポロビールの新しい人財育成制度
▲人事部の直江さんは、サッポロビール株式会社は「主体的なキャリア」を育む制度づくりに積極的に取り組んでいると話す。
編集部
サッポロビールさんは、事業のみならず人事制度でも新しい取り組みを続けていると伺っています。その詳細を教えていただけますか?
直江さん
社員のキャリアを支援するために多くの制度を設けていますが、まずは「社内インターン制度」と「社内副業制度」をご紹介できればと思います。
社内インターンは、社員が興味を持つ他部署の業務を最大5日間経験できる制度で、2019年の試験導入を経て2021年に正式にスタートしました。
社内副業は勤務時間の最大20%を所属部署以外の業務に充てることができる制度で、こちらも2021年に導入しました。副業メンバーに求める経験や知識、取り組んでほしい業務内容を明記したうえで各部署が社内公募し、条件を満たす応募者がいればマッチング成立となります。
編集部
どちらもほかの部署の業務を経験できる点は同じですが、異なる2つの制度を設けた理由はなんでしょうか。
直江さん
社内インターンは、目の前の仕事に慣れてキャリアについて考え始める3年目以降から中堅社員までを念頭に置いて作られた制度です。
成長段階にある社員は社内のことについて「知りたい」、「学びたい」という強い思いを持つと同時に、自分の強みやできることがわからないと悩むこともよくあります。インターン制度でほかの業務を経験することで社内と自分自身の両方への理解を深め、今後のキャリア形成に役立ててほしいと考えています。
社内副業制度は、中堅以降の社員を想定しています。ある程度経験を積み、社内でやりたいことが明確になってくると「もっと成長したい、新しいことに挑戦したい」という思いが強くなりますし、もっとベテランになると「会社を変革したい」と考える人もいます。このようなニーズに応える制度が社内副業です。
編集部
2つの制度があることで、それぞれの成長段階に合ったキャリア形成が可能になるのですね。
直江さん
その通りです。サッポロビールは、「自分のキャリアは自分で切り拓く」という人財育成ビジョンを掲げています。失敗を恐れず、限界を定めずにチャレンジする「自燃型」の社員を応援するために、主体的なキャリアを育む制度づくりに積極的に取り組んでいます。
「社内インターン」で最大5日間ほかの部署の業務を体験
▲坪井さんは、人事部で社内インターンを中心としたキャリア形成支援を担当している。
編集部
ここからは、「社内インターン制度」について詳しく伺いたいと思います。まず、どのくらいの社員がこの制度を利用しているのでしょうか?
坪井さん
2021年に本格始動してからは、年間30名〜40名が参加しています。
社内インターンの募集は毎年1回で、インターンの実施期間は4ヶ月ほどあります。その期間内で参加者と受け入れ部署がスケジュール調整しながら最大5日間、業務体験をしています。
編集部
希望すれば必ず参加できるのでしょうか?
坪井さん
参加希望者には、これまでの経歴やインターンに応募した動機、キャリアビジョンなどを書いた応募書類を提出してもらいます。受け入れの想定人数を上回った場合は選考を行う場合もありますが、部署の状況によっては定員を増やして希望者全員を受け入れることもあります。
また、参加回数に上限はないので、2回、3回と繰り返し参加する人もいます。
若手だけでなくベテラン層のリスキリングにも活用
編集部
入社3年目以降を対象としているというお話がありましたが、参加できる年齢や年次の上限はあるのでしょうか?
坪井さん
上限は設けていません。この制度が始まった当初は若手社員のキャリア形成やモチベーション向上にフォーカスしていたのですが、2022年に年齢制限をなくしました。
近年、リスキリングやセカンドキャリアに備える必要性が高まっていることもあり、ベテラン社員にも新しいスキルを身につける機会として活用してほしいと思っています。
編集部
ベテラン社員が制度を利用することは、スキルの習得だけでなく、積み上げてきた知識をどのように応用できるのかを知るきっかけにもなりそうですね。
マーケティング担当者がワイナリー体験で知識を深める
編集部
社内インターンに参加した社員の方のエピソードがあれば、お話しいただけますでしょうか。
坪井さん
外食企画部で業務用ワインのエリアマーケティングを担当している社員が、ワインについてさらに学ぶために、弊社が運営するワイナリーで業務体験した例があります。
その社員は、ブドウの収穫やワインの生産を現場で体験しながら知識を深め、自分の言葉でワインについて語れるようになって戻ってきました。その後はインターンを通じて学んだことを部署内で共有し、飲食店向けワインの営業担当者には「お店にはワインの魅力をこう伝えるといい」といったアドバイスを積極的に行っています。
編集部
インターンを通じて自身が成長するだけでなく、学んだことを周囲にも還元しているのですね。ほかの方は、どのような理由でインターン制度を活用していますか?
坪井さん
業務上関わることが多い部署にインターンとして行く人も多いです。その部署の全体像を理解したり、人間関係を構築したりすることで、これまで以上に円滑に業務が進んだり交渉がしやすくなったりするからです。
例えば、新商品の開発に携わる社員が法務など品質保証に関わる部署にインターンに行った例があります。
編集部
インターン参加者が、経験したことを社内に共有する場はあるのでしょうか?
坪井さん
まず、インターンの実施期間が終わる2月末頃に報告会を行っています。そこでは、5日間で何を学び、それをどう活かしていきたいかをインターンに参加したメンバー内で共有しています。
また、社内報などを活用して体験談を報告してもらっています。始まって間もない制度なので、今後も口コミを含めて積極的に社内周知をしたいと考えています。
編集部
興味がある部署の雰囲気や業務を気軽に体験できることは、今後のキャリアを考える際の不安や不透明感の解消に役立ちそうですね。
やりたいことを「社内副業」で実現。本来の部署での評価にもつながる
編集部
続けて、サッポロビールさんの「社内副業制度」について伺います。この制度は、毎年どのくらいの方が活用しているのでしょうか。
直江さん
多くの社員の「サッポロビールでもっとチャレンジしたい」という想いを実現させていく社内副業制度については、2022年は26案件の募集がありました。そのうち、選考を通じてマッチングが成立したのは18件です。
参加期間は半年以下を基本としていますが、社員と副業先の部署で話し合って期間を短縮したり延長したりすることができます。
編集部
社内副業に充てられるのは勤務時間の20%までということですが、人事評価に社内副業の成果は反映されるのでしょうか?
直江さん
現在のところ、副業部署であげた「成果」は評価対象となりませんが、行動面では評価を行っています。本来所属する部署の上長が副業の所属長から努力したポイントなどをヒアリングし、それを加味した行動評価を行っています。
社内副業の評価方法については今後も検討を重ね、最適な形を探りたいと考えています。
人事にいながら社内副業で「新規事業の創出」に携わる
編集部
鈴木さんも社内副業制度を利用したと伺いましたが、経緯などをお話しいただけますか?
鈴木さん
私が社内副業に応募したのは社会人12年目を迎えた2022年のことで、サッポロビールの中に新規事業を生み出す仕組みを考えるプロジェクトのメンバーとして参加しました。
編集部
社内副業に応募したきっかけは何だったのでしょうか?
鈴木さん
当時私は育休明けで、人事部で社会保険や給与計算といったオペレーティング業務を担当していたのですが、実家が商売をしていることもあり、将来的には新規事業に関わりたいという思いを持っていました。
また、私はサッポロビールに中途で入社した後、営業やITに関わるキャリアを歩んでいたので、全く違うことにチャレンジしてみたいと思ったことも社内副業に応募した理由です。
編集部
参加してみていかがでしたか?
鈴木さん
社内インターンとは異なり、社内副業ではミッションに対して、自ら考えて動くことが求められます。課題定義からアクションプランの作成、経営への提案まで、同じように社内副業として他部署から集まった8人のチームで取り組みました。
新規事業開発に関連したイベント企画や、新規事業開発を促進するためのプログラムづくりについて、ゼロからフラットに関われたことは、大きな経験でした。
編集部
全員が違う部署から集まったメンバーだったのですね。
鈴木さん
はい。営業もいれば工場勤務の人もいましたし、知財に関わる部署のメンバーもいて、同じ会社でも初めて顔を合わせる人ばかりでした。
年齢もバラバラで、一番上が59歳、一番下は入社4年目の社員でしたが、社外に人脈をたくさん持っているメンバーがいたり、議論を整理することが得意な人がいたり、面白いアイディアを思いつくのが得意な人がいたりして、それぞれの強みを持ち寄ってプロジェクトを進めることができたと感じています。
「社内のマインドを変える」ことも社内副業の大きなミッション
編集部
社内副業を通じて、どのような時にやりがいや成長を感じましたか?
鈴木さん
このプロジェクトでは、アイディアを社員から吸い上げて事業化するための仕組みづくりはもちろんですが、社内のマインドを変えることも重要なミッションでした。
サッポロビールは創業から長く存在する企業なので、ともすれば「新しいことを始めるより、今の仕事を全力でやることこそが大事だ」という考え方にもなってしまいがちです。そのような中で、新規事業が生まれやすい雰囲気を作り出すことが大切だったんです。
そこで、社外で活躍されているイノベーターをお招きしての講演や、起業家の方々と一緒にワークショップを企画して、新しい挑戦をするイメージを持ってもらうきっかけづくりを行いました。
マインドを変えることは簡単ではありませんが、参加者から「仕事に対してのモチベーションアップに繋がった」という感想も聞かれたので、社内に変革が生まれていることを実感でき、やりがいにもつながりました。
また、人事部で働いている時は、仕事の性質上もあり、あまり社外の人と関わったり情報交換する機会がありませんでしたが、社内副業を始めてからは情報収集を兼ねて社外の方たちとお話しさせていただくことも多く、視野が広がったと感じています。
編集部
現在は、副業部署だった新規事業開拓部に異動してお仕事をされているということですね。
鈴木さん
はい。副業で携わってみて新規事業に関わりたいという思いが明確になったので、異動を希望しました。まだ、この取り組み自体は道半ば、始まったばかりです。今度は私が副業メンバーを募集する側になったので、新しいメンバーと一緒に新規事業創出に向けて挑戦を続けていきたいと考えています。
営業社員が副業で人事部に。男性育休の取得促進に貢献
編集部
ほかにも、社内副業のメンバーが活躍した事例があればご紹介いただけますか?
直江さん
私が所属するダイバーシティ&インクルージョン(D&I)を推進するグループでは、営業から副業メンバーが参加し、男性育休の取得推進に貢献してくれました。
編集部
どのような取り組みを行ったのでしょうか?
直江さん
弊社は男性の育休取得100%を目指した取り組みを行っており、その一環でアンケート調査をしたところ、「育休を取得することで給料がどのくらい減少するのか分からず不安だ」という声が多く寄せられました。
そこで、副業社員が中心となって育休を取得した場合の給料がどのくらいになるのかシミュレーションできるシステムを作りました。育休取得者が会社から受け取れる補助も踏まえて可視化されるので、「これなら育休を取っても大丈夫だ」と思ってもらえるきっかけになりました。
また、男性の育休を推進するための漫画をオリジナルで作り、出生届を提出した社員に配布する取り組みも行いました。こうした取り組みが功を奏し、弊社の男性社員の育休取得率は2022年には約81%まで上昇しました。また、2023年の11月時点では100%を継続中です。
編集部
社内副業メンバーが、さまざまな場所でサッポロビールさんに変革をもたらしているのですね。
副業をきっかけに人気部署への異動が実現することも
編集部
社内副業制度を導入してから、サッポロビールさんの社内の意識や働き方に変化はありましたか?
直江さん
まず、本業の人材だけでは多彩なアイデアを集めることが難しいため、社内副業として新しい視点を持つメンバーを迎えることに大きな意義があると実感しました。
今では本業の片手間でやってもらうというより、副業メンバーを含めた業務体制を考える部署も出てきています。制度の導入をきっかけに、社内の働き方が進化したと感じます。
編集部
興味がある部署にいきなり異動希望を出すより、副業として経験してから異動することでミスマッチの防止にもつながりそうですね。
直江さん
そうですね。人事部としても、副業人材としてあらかじめその部署で人間関係を築いたり実績を積んでいる人であれば、異動配置も検討しやすいと言えます。
また、社内副業で実績をあげた人が狭き門を突破して異動を実現したケースもあります。これはまさに、制度を利用することで「自分のキャリアを自分で切り拓く」という弊社の育成ビジョンを体現したと言えます。
編集部
今やっている仕事と違うことにチャレンジしたいと思った時、転職してそれを叶える人が多いですが、社内副業があれば慣れ親しんだ会社にいながら新しい挑戦をすることができますね。その後の正式な異動につながるチャンスもあるということで、キャリア形成するうえで大きな意味を持つ制度だと感じました。
「人」が魅力のサッポロビールは社員のキャリア支援にも全力!
編集部
サッポロビールさんのカルチャーについてもお伺いできますか?
直江さん
サッポロビールは昔から「人のサッポロ」と言われています。話しやすい人や気さくな人が多く、人に魅力がある会社という意味です。
それに加えて、自分の仕事に誇りを持っている人が多いと感じます。愛社精神が強く、自分の会社を本当にいい会社だと心の底から思っている人も多いです。私も弊社の社員のそんな姿に魅力を感じて入社しましたし、このカルチャーは脈々と今も続いています。
編集部
愛社精神が生まれやすい理由はどこにあるとお考えですか?
直江さん
チャンスを与えてくれる会社であることが大きな理由だと思います。まさに、今日ご紹介した2つのキャリア制度も、会社が私たちの思いを受け止めて挑戦の場を与えてくれたから実現しました。やりたいと本気で思えば背中を思いっきり押してくれる会社なので、社員の満足度が非常に高いと感じます。
編集部
中途で入社した鈴木さんから見たサッポロビールさんの魅力は何ですか?
鈴木さん
私は中途入社ですが、サッポロビールの良さは直江が言ったように「人」にあると思います。特に、対話を重視する人が多いことに魅力を感じます。
例えば1on1の時には、どの上司も私の話を丁寧に聞いてくれます。1on1に限らず、常に対話を重視するカルチャーがあることは、ものづくりを行う会社としてとても重要なことだと思います。
編集部
坪井さんは、いかがですか?
坪井さん
ほかの大手ビールメーカーさんと比べたとき、サッポロビールの良さは「輪の広がりやすさ」にあると思います。
いい意味で少数精鋭の会社なので、社員同士の繋がりがとても強く、部署の垣根を超えて力を合わせることができます。社内副業などの新しい制度ができたことで、これからさらに新たな出会いや繋がりが生まれやすくなっていくと思います。
編集部
最後に、サッポロビールさんのお仕事に興味を持つ読者の方に向けて、メッセージをお願いします。
坪井さん
サッポロビールは、「自分のキャリアは自分で切り拓く」という考えのもと、社員がやりたいことを応援しています。キャリアに正解はなく、色々なことに挑戦してみてはじめて自分のできることや好奇心がどこにあるのか分かると思います。私たちはそれを手助けするための仕組みを積極的に推進したいと考えています。
社内インターンも社内副業も、まだまだ完成形とは言えません。世の中の変化に合わせて制度を変えたり拡大していく必要があると思っています。弊社の働き方やキャリア形成の考え方に共感いただけた方、ぜひサッポロビールと自身の成長に向けて一緒に挑戦しましょう。
編集部
長い歴史を持ちながら、いまでも進化を続けるサッポロビールさん。人事異動だけに頼らない新たな制度が生まれたことで、より満足度の高いキャリア形成ができそうだと感じました。
本日はありがとうございました。
■取材協力
サッポロビール株式会社:https://www.sapporobeer.jp/
採用ページ:https://www.sapporobeer.jp/employment/