女性や若手の積極的な登用、そしてキャリアアップをサポートするための施策などで注目される企業や組織を紹介する本企画。今回は「断らない医療」を実践する医療法人徳洲会 湘南鎌倉総合病院をインタビューしました。
女性管理職の登用や若手の積極的な活用策を伺うとともに、職員のキャリアアップを支援する制度や他の病院との一番の違いをお聞きしました。さらには採用におけるポイントをお伺いしています。
医療法人徳洲会 湘南鎌倉総合病院とは
医療法人徳洲会 湘南鎌倉総合病院は、「生命だけは平等だ」を理念とする徳洲会グループの、第24番目となる病院です。鎌倉市の市民からの要請により1988年11月に開設しました。
それ以来「断らない医療」を実践しており、救急搬送される患者の受入数は年間22,342件(2022年度実績)に上ります。これは全国でもトップクラスの実績です。また国内屈指の高度急性期病院として知られており、先端医療や質の高い医療を日夜追求し続けています。
病院名 | 医療法人徳洲会 湘南鎌倉総合病院 |
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住所 | 神奈川県鎌倉市岡本1370番1 |
病床数 | 669床 |
設立 | 1988年11月 |
公式ページ | https://www.skgh.jp/ |
医療法人徳洲会 湘南鎌倉総合病院と、他の病院との一番の違いはトップダウン型ではないこと。これによる風通しのよい院内の雰囲気について伺うとともに、女性の管理職や若手の活躍状況、職員のキャリアアップ支援策、そしてDX化やロボット導入の考え方をお聞きしました。また採用におけるポイントもお伺いしています。
「断らない医療」を実践する総合病院
▲湘南鎌倉総合病院の脳神経外科医である権藤学司・副院長。
編集部
まずは湘南鎌倉総合病院さんの概要からご説明をお願いします。
芦原さん
湘南鎌倉総合病院は、徳洲会グループとしては第24番目の病院です。病床数は669床で、比較的規模の大きな病院になります。急性期医療を中心として、時間軸の異なる先進医療やがん治療、そして予防医療にも力を入れています。
病院の基本的なコンセプトに「一つの建屋で全ての領域と、時間軸の異なるものを進める」を掲げています。そして設立以来、「断わらない医療」を実践しており、救急搬送の応需率は100%です。新型コロナウイルスの流行により、2023年1月には1日100件以上の救急搬送が続きましたが、これらの受入要請にもすべて対応しました。
編集部
貴院のオープンは1988年11月ですね。
芦原さん
そうです。当初は同じ鎌倉市でも、現在とは異なる場所でスタートしました。オープンのきっかけは、鎌倉市民の方々からの要請を受けたからでした。というのも、鎌倉市議会は1986年に市立病院を作らないということを決議したからです。
そこで地域の方々が「総合病院を設立する会」を結成し、約86,000人の署名を集めました。そして私ども徳洲会グループの創設者である徳田虎雄先生(現・医療法人徳洲会名誉理事長)に、病院建設を要請したんです。徳田先生は「地域の求めるところなら」ということで了承し、神奈川県に対して病院建設を申し入れました。ところが県は当初、この申し入れを受理しなかったんですね。
この話を聞いて調整役を買ってくださった方のおかげもあり、ようやく病院の建設に着手できました。
編集部
鎌倉市民にとってはそこまで苦労をされて、ようやく開設にこぎ着けた病院なのですね。
DX化やロボットを活用して質の高いサービスを追求する
▲病院の屋上にはヘリポートがあり、ドクターヘリの受け入れも可能。
編集部
湘南鎌倉総合病院さんは、業務のDX化やロボットの導入など、新たな試みにも積極的にチャレンジしていると伺いました。
芦原さん
おっしゃるとおりです。院内の各種業務の効率化を進めているからです。ただし私個人としては、DX化がすべてだとは思っていません。DX化やロボットの活用は、あくまでも人がやらなくてもいい部分に特化することで、価値が出てくるのだと思っています。結局、医療は人産業なんです。人が人に対して質の高いサービスを提供することに価値があるんです。
ロボットは人に代わるものではなく、あくまでも裏方を任せるツールです。そして効率化を実現し、そこで生まれた新たな時間を、質の高いサービスの追求に振り向けることが正しい方向性だと思っています。
編集部
新しいテクノロジーに置き換えるのではなく、あくまでも人をサポートして効率化を実現する。そこで生じた余力を使って、サービスをさらに拡充するのですね。
芦原さん
そういう方向を目指したいと思っています。
女性スタッフを管理職として積極的に登用
編集部
資料を拝見すると、湘南鎌倉総合病院さんは管理職の1/3を女性が占めているそうですね。病院は女性の多い職場だと思いますが、管理職としても積極的に登用しているのですね。
芦原さん
まず医療業界全体の採用における課題をお話しすると、事務職には男性が集まりにくいんです。その理由は多々ありますが、私が個人的に一番の要因だと思っていることは、社会が「医療事務=女性の職場」というイメージ付けをしてしまったことです。ですから男性が手を上げにくいんですね。
ただし、他の病院さんともよく話すんですよ。「なぜ、男性でなければいけないのか」と。私はこの意見に大賛成です。これは個人的な感想なのですが、女性のほうが気配りが利き、きめ細やかであり、しかも現実的な方が多い傾向があると思います。病院が提供する医療サービスは個々の患者さんによって異なりますから、女性の現実性は非常に大切だと思っています。
ですから女性の管理職が多くなることは、当院にとって自然なことなんです。そしてご本人が望むのであれば、さらなるキャリア形成を可能な限りバックアップさせていただきます。多くの女性に働いていただき、キャリアアップしていただきたいと思っています。
編集部
意欲的な女性にとっては、やりがいのある職場環境ですね。
芦原さん
そう思います。人口比を見ても、男女はほぼ五分五分です。ところが世の中では、管理職だけは男性が多い。別にそこも五分五分でいいんじゃないかと思っています。
女性の事務スタッフから聞かれる声
編集部
実際に働いている女性の事務スタッフからは、どんな声が多くあがっていますか?
石田さん
よくいわれるのは、「医療事務とは、もっとデスクで作業をするものだと思っていた。ところがフロントラインに立つことも多いし、事務ではないですね」ということです。
これは医療事務だけでなく、バックヤードの総務・経理なども同様です。事務らしくない事務という感じでしょうか。「アクティブに動く機会が多いですね」という声をよく聞きます。
編集部
やはり一般的な事務のイメージとは異なるのですね。
石田さん
そうです。あとは病院の中でもあまり知られていない職場に配属された方からは、「こんな裏の仕事があるとは知りませんでした」「今まで医療ドラマを何気なく見ていたけれど、さまざまな職場や役割があることを知って、ますます面白くなってきました」という声もよく聞きます。
これは「自分の想像とは違う、新たな世界を知ることができてよかった」というポジティブな意見だと思います。
組織として力を発揮することを理解している若手が活躍
編集部
湘南鎌倉総合病院さんでは、20代から30代の若手の方が多く働いているとお聞きしました。やはり意識して、若手を活用されているのでしょうか?
芦原さん
そうです。採用のメインターゲットを新卒に集中させていることもあって、若い人が多いんです。その理由の一つは、急性期医療や救急医療の現場は、体力仕事になることが避けられないからです。ですから若手の活躍の場は、とても多いですね。
編集部
若手スタッフの方は、どのような方が多いのでしょうか?
芦原さん
事務系の若手でいうと、最近は二極化が顕在化してきたと感じています。一つは個の可能性を高めたいといって退職するタイプですね。海外の大学に留学して研究を続けるとか、プロのサーファーになるといって退職した人もいました。
そして、もう一つのタイプが病院に残っている人材ですね。彼らに共通することは、病院という組織の中で自分の存在価値を、きちんと見出していることです。これは医療業界に従事するためには、とても重要な価値観だと考えています。
といいますのは、個では医療の限界値がすぐに見えてくるからです。医療は個人ではなく組織で取り組まなければならない。そして組織が大きければ大きいほど、高度な医療が可能になるのです。病院に残って存在価値を見出している人達は、そのことを理解しているのだと思います。
編集部
病院という職場で活躍するためには必要な資質なのでしょうね。
芦原さん
そう思います。しかし、これはあくまでも医療業界の話です。一般企業は、また違うと思っています。
例えば社員に企業内独立を推奨して、最終的にはスピンアウトさせる。そしてスピンアウトした会社と業務提携などを結びながら、新たなサービスを展開していく。そんな流れが、これからの企業経営なのだろうと思います。でもこれを医療の分野に当てはめることは、難しいだろうと感じています。
ジョブチェンジを実現する「ポストチャレンジ」制度
編集部
人材や組織を活性化するための取り組み状況はいかがでしょうか?
石田さん
2022年から「ポストチャレンジ」という制度がスタートしました。これは院内公募制のことです。もともとは外に向けて発信していた求人情報を、院内に向けて発信するんです。その結果、2名の異動が決まりました。この制度はあくまでも、本人がご自分の意思でジョブチェンジにチャレンジするものです。
それからもう一つの施策として、人事配置の見直しを年に1回実施しています。これは芦原事務長を中心に行っているもので、「どういった人にどういう異動をしてもらうことがベストなのか」などを話し合いながら実施しています。もちろん本人の希望も加味しており、なるべくかい離が大きくならないように配慮しています。
職員のキャリアアップを支援する「Will Can Mustシート」
▲湘南鎌倉総合病院さんでは、院内各所で先輩が後輩にアドバイスをする光景が見られます。
編集部
では続いて、職員の方のキャリアアップをサポートする仕組みについてお聞かせください。
石田さん
基本的には「Will Can Mustシート(※)」を使っています。年度の初めに、所属する部署の目標を基にして、自分自身が考えている「Will(やりたいこと)」「Can(できること)」「Must(やるべきこと)」を記入してもらっています。
(※)Will Can Mustシート:リクルート社が開発した従業員育成のためのツール。従業員はWill(やりたいこと)、Can(できること)、Must(やるべきこと)を定期的に記入する。
さらには3年後の自身のキャリア目標を立ててもらい、その実現のために「この1年は何をするのか」について所属長と面談してもらっています。その際には病院としても、その方にどう成長してもらいたいのかについて説明しています。
芦原さん
私は20年ほど医療業界に勤めていますが、Will Can Mustシートの導入は画期的だと思います。個人的には医療現場の事務職のキャリアアップ支援について、これまでは実態とかけ離れていると感じていました。かけ離れすぎていて、具体的に何をすればいいのかがわかりにくく、本人に向けたフィードバックもない。これはどこの病院でも同じだと思います。
ところが当院で使っているWill Can Mustシートは、医療事務の現場の実情をうまく再現できています。しかも、第三者が自分をどう見ているのかということもフィードバックされます。キャリアアップについて、当院は極めて客観的なサポートができていると思います。
自分と向き合うために「360度評価」を採用
▲湘南鎌倉総合病院さんが採用している「360度評価シート」
編集部
他には、キャリアアップのためにどのようなサポートを行っているのでしょうか。
石田さん
「360度評価」を採用しています。一般的な評価というと、上司から部下への一方通行のものだけですよね。しかし360度評価は上司だけでなく、先輩や後輩、同僚などの様々な関係者から評価されます。
これによって自分がどういう人間であるのかを客観的に知ることができます。気付きを与えることで、人間性を高めてもらうことを目的にしています。基本的には、年に1回、年度末に実施します。
編集部
360度評価も、医療業界ではあまり聞かない取り組みではないですか?
芦原さん
そう思います。私の知る限りでは、どこの病院も導入していません。どちらかといえば、数十人規模のベンチャー企業などが導入されていると聞きますね。
石田さん
「人は自分と向き合うことが大切だ」という思いが私にはありました。そこで360度評価を提案し、制度として採用いただきました。
入職1年目は3カ月ごとの「定期面談」を実施
編集部
1on1のような面談形式のサポートも行っているのでしょうか?
石田さん
はい。入職1年目は3カ月ごとに、人事課との面談を実施しています。その内容は、まず「体調」ですね。病院に入って環境が大きく変わるでしょうから、体調を真っ先に聞いています。
そして次に「仕事の満足度」ですね。たいていは入職して3カ月目くらいから、悩み始める方が多いんです。いろいろなギャップも感じるでしょうし、今現在はどんな気持ちでいるのかをお聞きしています。
あとは「人間関係に問題がないか」や「自分として半年後にはどうなっていたいのか」、そして叶えられるかどうかは別として「要望」ですね。入職1年目は、そういった面談を定期的に実施しています。
編集部
生の声を直接聞くことも大切にされているわけですね。
他院との一番の違いは「トップダウン型」ではないこと
編集部
芦原さんにお聞きします。ご自身がお感じになっている、湘南鎌倉総合病院さんと他の病院との、一番の違いはどんなことでしょうか?
芦原さん
我々はボトムアップ型であり、トップダウン型ではないということだと思います。私が事務長として常に心がけていることでもあります。私自身、トップダウン型が嫌いなんですね。
上司があまり細かいことをいったり、指示をしたりしても仕方がないだろうと思っているんです。それよりも個々のスタッフが持っている発想力や想像力を、伸び伸びと発揮してもらう方がいい結果に繋がるはずだと考えています。
例えば部下が、何かをやりたいといってきたとしましょう。それに1億円かかるといわれれば、さすがに考えますけれど、常識の範囲であればちゃんと聞きます。そして自分の本来の業務をきちんとこなしているのであれば、基本的には口を出さないようにしています。そして何よりも「結果は個人の成果である」ということを心がけています。
ここが多分、他の病院とは違う部分だと思います。他の病院の話を聞くと、トップダウン型で「余計なことはするな」というケースが多いように感じます。中にいるとわかりにくいかもしれませんが、湘南鎌倉総合病院とはそういう病院です。
編集部
芦原さんがそういったお考えであれば、若い方も発言しやすいでしょうね。
石田さん
その通りです。本当に働きやすい環境です。芦原事務長との距離が近いのですが、非常に相談しやすい上司なんです。他のスタッフも、私と同じように風通しのよさを感じていると思います。
社会貢献への手応えを強く感じることのできる職場
編集部
それでは最後に読者に向けて、メッセージをお願いいたします。
芦原さん
Z世代と呼ばれる、今の若い世代の方達と接すると、社会貢献をしたいという意識がものすごく強いように感じます。そして社会貢献をしつつ、自分としての個の存在価値を打ち出そうとしているように思えるんです。そういう生き方を実践するためには、医療業界は最適なんですね。
私自身、医療業界に入ってよかったと思っていることは、社会貢献していることを直接的にも間接的にも強く感じられることです。
医療業界は人産業であり、感動産業だと思っています。喜怒哀楽がこれほどあふれている業界は他にはないでしょう。医療業界には喜びも悲しみもあります。病気が全快したり、大切な人を失ったりと、プラスとマイナスの振れ幅が非常に大きい。そういう中で私たちは存在価値を発揮しているんです。
編集部
それはある意味で、医療業界の宿命といえるのでしょうね。
芦原さん
そうです。他人のマイナス部分を見たくないという人もいるでしょう。それは「傷つきたくない」ということなのだろうと思っています。
でも私は、傷つくことや失敗を多く経験した人の方が、相手にとってさらなる価値を提供できると思うんです。医療というのは、それを実体験できる場所なんですね。人生の早い段階でプラスもマイナスも経験することは、この先、人として大きく伸びることに繋がります。
私は何も、入職したら当院で一生働いてほしいとは思っていません。ご自分の夢や希望を叶えるためのプラス思考の転職であれば、応援させていただきたいぐらいの気持ちです。そしてまた、当院のファンとして外からサポートしていただけるのであれば、とてもありがたいことだとも思います。
当院に少しでも興味を持っていただけた方と、ぜひともお話をさせていただきたいと思っています。
編集部
「病院で働くとはどういうことなのか」という点は、非常に重みのあるメッセージだと感じました。本日はありがとうございました。
■取材協力
医療法人徳洲会 湘南鎌倉総合病院:https://www.skgh.jp/
採用ページ:https://www.skgh.jp/recruit/