注目企業の躍進の秘密を探る本企画。今回は、「世界を一歩前に進める」というミッションのもと、排泄予測デバイス「DFree(ディー・フリー)」を開発・販売するトリプル・ダブリュー・ジャパン株式会社を取材しました。
人々のトイレの悩みを解決することは、介護従事者の労働環境改善だけでなく、SDGsにもつながるという意外なお話も伺いましたので、是非、ご覧ください。
トリプル・ダブリュー・ジャパン株式会社とは
トリプル・ダブリュー・ジャパン株式会社は、「排泄」にまつわる課題解決に挑むヘルステック系スタートアップ企業です。
事業の基軸となっているのが、排泄予測デバイス「DFree」です。超音波センサーがトイレのタイミングを教えてくれるという画期的なシステムは高く評価されています。現時点で国内約300施設で使われているほか、世界20か国に展開中です。
会社名 | トリプル・ダブリュー・ジャパン株式会社 |
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住所 | 東京都港区赤坂2丁目10番9号 ラウンドクロス赤坂9階 |
事業内容 | 排泄の悩みや負担を軽減するソリューション『DFree』の企画・開発・販売 |
設立 | 2015年2月18日 |
公式ページ | https://www-biz.co |
働き方 | ・リモート(ハイブリッド勤務含む) ・フレックス制度 |
今回は、代表取締役社長の中西敦士さんに、世界初のプロダクト「DFree」がもたらす価値や社員の働き方、将来の展望などを伺いました。
世界初の排泄予測デバイス「DFree」を開発
▲トリプル・ダブリュー・ジャパンが開発した排泄予測デバイス「DFree」
編集部
まずは、トリプル・ダブリュー・ジャパンさんの事業内容を教えていただけますか?
中西さん
弊社はテクノロジーの力で「世界を一歩前に進める」ことをミッションに、ヘルスケア領域で自立支援と生産性向上を実現するサービスを提供しています。
その事業の中心となっているのが、超音波センサーによって膀胱の尿のたまり具合をモニタリングする、排泄予測デバイス「DFree」です。
世界初で唯一の技術である「DFree」を主軸に、介護施設への「おむつ・パッド月額定額プラン」の提供や尿取りパッドのプライベートブランドの開発、自立排泄機能を維持できるよう膀胱機能を維持する“尿トレ”の考案、サプリメントの開発なども行っています。
編集部
トリプル・ダブリュー・ジャパンさんの事業の軸となる「DFree」についてもう少し詳しく教えてください。
中西さん
「DFree」は26グラムの小さな機器で、これをおなかにピタッと貼っていただくと、内蔵した超音波センサーが膀胱のふくらみぐあいをリアルタイムで計測します。
スマホなどのデバイスを通じて、尿のたまり具合が10段階で表示され、排尿のタイミングを通知してくれます。原理は人間ドックなどでエコーを使って体内の様子を調べるのと同じですね。
▲「DFree」は超音波センサーが膀胱のふくらみを感知し、トイレのタイミングを教えてくれる
編集部
「DFree」を利用される方というのは、どのような方なのでしょうか?
中西さん
弊社はBtoBとBtoC、両方の事業を行っています。個人でのご利用は、尿意を感じにくくてトイレに間に合わないという方や、尿もれや頻尿に悩んでいる方です。
「DFree」を使えば、事前に「そろそろトイレに行ったほうがいい」というタイミングがわかりますので排泄の失敗が減り、在宅介護でケアをされているご家族の負担も軽減できます。
一方で、法人事業の対象となるのは医療・介護施設です。利用者さんを適切なタイミングでトイレに誘導でき、トイレでの排泄率を上げることができます。
失禁はその方の尊厳を奪いますし、逆に自立排泄ができればQOLは高まります。「DFree」で排泄のサポートをすることによって、自分らしく生きられることにつながると考えています。
編集部
「DFree」を使っている方から、トリプル・ダブリュー・ジャパンへはどんな声が届いていますか?
中西さん
「おむつの必要がなくなりました」とか「トイレに行けるようになりました」といった声はよくいただいています。また、導入いただいた施設さんからは、「利用者さんの放尿がなくなった」というお話もいただいています。
適切な排泄ケアで介護する人の負担を大幅軽減
▲介護施設などでは複数の利用者さんの状況を一括管理できる
編集部
「DFree」による排泄支援サポートはトイレに悩むご本人だけでなく、ケアする人へのサポートにもなるのですね。
中西さん
一度、おむつになると自立排泄に戻ることはほぼ不可能ですから、本来、可能な限り自立排泄ができる期間を伸ばすことが重要です。
そのため、ヨーロッパではおむつを買うのに処方箋が必要な国もあるのですが、日本ではトイレの問題が生じるとすぐにおむつに頼ってしまう傾向があります。
おむつへの移行が早いのは、日本のおむつのクオリティが高いというのもありますが、介護する側の負担があまりに大きいからです。
在宅介護の方はもちろんですが、施設で働く介護職の方は介助や見回り、記録など、排泄に関する業務にたくさんの時間を取られています。業務の中でももっとも大変なのが排泄ケアなんです。
編集部
なるほど。その大変な排泄ケアをサポートすることで、介護従事者の負担を軽減できるのが「DFree」なんですね。
中西さん
「DFree」の導入で、排泄関連業務の22.5%を減少させることができたというデータもあります。また、介護施設でのおむつやパッドの費用は1利用者あたり月5,000円~7,000円かかっています。トイレでの排尿率が上がれば、このコストを下げることができます。
排泄にはさまざまな課題や悩みごとがあり、「DFree」によってこうした問題を解決していけると考えています。
2年間で売上10倍!介護保険の適用が成長を後押し
▲「Japan Venture Award 2019 中小機構理事長賞」など、国内外のさまざまな賞を受賞
編集部
トリプル・ダブリュー・ジャパンさんや「DFree」は国内外でさまざまな賞を受賞し、注目を集めてきました。売上の状況はいかがですか?
中西さん
ありがたいことに、2021年からの2年間で売上は10倍になりました。2021年のはじめに14人だった社員が24人になり、従業員数は150%増です。
編集部
それはすごいですね。その躍進の理由を中西さんご自身はどう分析されていますか?
中西さん
2022年4月から「DFree」が特定福祉用具及び特定介護予防福祉用具として販売できるようになったことが、強力な追い風となりました。
日本には、要支援と要介護の認定を受けている人が約700万人います。この方々のほとんどは介護保険を使って「DFree」を1~3割の自己負担で購入することができます。自己負担額が1万円を切ったのは、非常に大きいと思っています。
丁寧なサポートと素早い実行と検証を繰り返し、サービスを充実
編集部
「DFree」を多くの人に使っていただくために、トリプル・ダブリュー・ジャパンさんが力を入れていることはなんでしょう?
中西さん
ご利用いただいている方へのサポートの充実ですね。とくに、2022年はインサイドセールスからカスタマーサクセスまで、お客様に満足していただけるサポート体制の構築に注力しました。さらに快適に「DFree」を活用いただけるようになったのではないかと思います。
編集部
いま、おっしゃったサポート体制について、もう少し詳しく教えていただけますか?
中西さん
いろいろありますので、BtoBの一部を例にお話します。私たちは「DFree」の導入を検討している介護施設に対して、無料でトライアルを行っています。このトライアルの段階では「トイレのタイミングの成功体験を積んでいただく」ということを、最初のゴールに設定しています。
そのために、どういう利用者さんに使っていただくのがもっとも効果的かを一緒に考え、装着方法をアドバイスし「排泄ケアの記録がきちんと取れているか」「トイレへ誘導するタイミングはいつがいいか」などを確認していきます。
編集部
「DFree」を導入する前の段階から、効果が実感できるよう丁寧なサポートをしているのですね。
中西さん
成功体験を重ねていただけるよう、トライアル中はいつでもチャットや電話で対応し、看護師さんや介護士さんなど現場の方とコミュニケーションを取っています。
また、導入いただいたあとも、カスタマーサポートチームが常にオンラインでご相談を受け付けていますし、日常的な困りごとはLINE Worksで対応しています。
編集部
ご利用者さんからの声は、プロダクトの開発にどのように反映されるのでしょうか?
中西さん
たとえば、「DFree」を装着したときに、データがなかなか取れないといった問題が生じたら、しっかりとサポートし、システムがうまくいかないことがあれば、すぐに開発チームにフィードバックをして改善をします。
素早い実行と検証を繰り返すというこのサイクルを最速で回し続けることによって、求めていた答えにもっとも早くたどりつけると考えています。
排尿予測で紙おむつの使用を減らして地球環境にも貢献
編集部
トリプル・ダブリュー・ジャパンさんの事業は、環境問題の課題解決にもつながるとのことですが、どういうことでしょうか?
中西さん
紙おむつの主原料はポリマーなど石油化学物質です。使用済みの紙おむつはリサイクルできませんので、燃やすしかありません。しかし、水分を多く含んだ紙おむつは、焼却処分するときに焼却炉の温度を下げてしまいます。一度下がった温度を上げるためには助燃剤が必要で、この助燃剤によって焼却炉を傷つけてしまうという指摘もあります。
編集部
そうなんですね!知りませんでした。SDGsの観点では、目標12の「つかう責任、つくる責任」や、目標13の「気候変動に具体的な対策を」に関係してきますね。
中西さん
先ほども申し上げましたが、日本はおむつ大量消費国家なんです。大人1人あたりの平均の消費量で言うと、日本は世界平均の3倍使っているというデータがあります。2015年に日本で排出された使用済み大人用紙おむつの129.2万トン(年間)で、これは一般廃棄物排出量の4.3〜4.8%に上ります。
編集部
一般廃棄物の4%が使用済みの紙おむつというのは、すごい量ですね。
中西さん
この先、さらに紙おむつの使用は増えることが予想されていて、2030年には179.8万トン、一般廃棄物排出量に占める割合が6.6〜7.1%になるという推計もあります。
「DFree」を使って、自立して排泄できる人が増えれば、おむつの使用量を減らすことができます。使用済み紙おむつの環境負荷は、レジ袋どころではありません。我々としても、真剣にこの問題について取り組んでいきたいと考えています。
残業をするもしないも自由。裁量の大きさがもたらす働きやすさ
編集部
トリプル・ダブリュー・ジャパンさんの働き方について教えてください。現在、リモートワークの比率はどのくらいでしょうか?
中西さん
出社が54.2%で在宅が45.8%ですので、だいたい半分がリモートワークといったところです。働く時間についてはフレックス制を導入していて、11時から14時をコアタイムにしています。育児・介護の両立がある人はもちろん時短勤務が可能です。
編集部
半分がリモートという状況で、ミーティングや会議などはどのように実施されているのですか?
中西さん
月に1回、全体会議を行っていて、この会議には全員に出席してもらっています。これから3か月に1回は、リアルで全員が顔を会わせる機会をつくっていこうと考えています。
編集部
リアルで顔を合わせる機会をつくってコミュニケーションを密にしながら、自由を尊重するという感じなのですね。
中西さん
基本的にはすべて、社員一人ひとりの裁量に任せています。成果が出ていれば、定時に帰ろうが、何をしようがまったく構いません。「誰かが会社に残っているから、自分も帰れない」みたいなことは一切ありません。
編集部
福利厚生制度についてもお伺いします。「徒歩通勤・自転車通勤手当」「非喫煙手当」など、ユニークな手当がありますね。
中西さん
「徒歩通勤・自転車通勤手当」は、会社の近くに住んだほうが楽だし、僕自身、電車通勤が苦手、というのもあるのですが(笑)、人のからだや健康に関するヘルスケア事業を行っているわけですし、やっぱり、働く人も健やかであってほしいという思いは強くあります。健康経営の一環から、こうした手当を設けています。
課題解決に使命感をもったプロフェッショナルが集まる組織
編集部
トリプル・ダブリュー・ジャパンさんの会社の雰囲気はどのような感じでしょうか?
中西さん
年齢は20代から60代までと幅広く、平均年齢は39.8歳です。代表の私がちょうど平均の年齢ゾーンですね。ただ、組織の体系において年齢は関係ありません。年齢よりも、課題を解決していく力や意欲のある人の声が尊重されます。
とくにエンジニアは全員、専門をもつプロフェッショナルです。それぞれがもつスキルを生かしつつ、同時にそれに固執することなく、新しいものを取り入れようという意欲をもった人が集まっています。ほかの部署もみんな、より良いものを作って、より良く届けようという思いで動いています。
編集部
みなさん、使命感をもって働いていらっしゃるのですね。
中西さん
「課題を解決する」ということに、価値を見出している人が集まっているのだと思います。掲げた目標のためには一丸となって行動しますし、仕事を離れてもワイワイと仲良くやっていますよ。仕事が終わった後、社員同士飲みに行くこともあるようで、代表の私も誘ってもらい、一緒に飲むこともあります(笑)。
目指すのは家庭で簡単に健康管理ができるプラットフォームの構築
▲トリプル・ダブリュー・ジャパンのミッションとビジョンとバリュー(HP掲載「会社説明資料」より引用)
編集部
トリプル・ダブリュー・ジャパンさんの今後の展望をお聞かせいただけますか?
中西さん
「世界を一歩前に進める」というミッションのもと、「バイタルテクノロジーで “Live Your Life” を実現する」というビジョンの達成を目指していきます。
そのための一歩が、現在進めている排泄の課題への取り組みですが、この問題は介護施設さんにとって本当に深刻な問題です。排尿だけでなく、排便の負担もしっかり軽減させていくソリューションが必要であり、こちらの領域も進めていかなくてはなりません。じつは、排便予想機器の開発はすでに最終段階にまできているんです。
編集部
尿意を教えてくれる「DFree」に加え、新規事業として排便予想機器もトリプル・ダブリュー・ジャパンさんの事業に加わるのですね。
中西さん
我々が提供するソリューションの技術的な強みは、超音波を使ったウェアラブルデバイスであることです。これは体に害がなく、長時間、内臓の動きをモニタリングできる唯一の技術です。
現在は、膀胱と大腸だけですが、心臓や肺、胃など、さまざまな臓器のモニタリングもできるはずです。一家に1台、弊社が開発したデバイスがあり、日常の健康管理ができたらいいですよね。
編集部
トリプル・ダブリュー・ジャパンさんの機器が、体重計や血圧計のような存在になるわけですね。
中西さん
例えば、人間ドックで要注意の指摘を受けても次に検査をするのは1年後で、その間に悪化してしまうかもしれません。
日常的に体の中の状態がモニタリングでき、体に不調を感じたとき、病院に行くべきかどうかの緊急度合いを自宅である程度スクリーニングができる、そんな未来にしていきたいですね。
求めるのは「社会課題を自分ごととして捉えられる人」
▲トリプル・ダブリュー・ジャパン代表取締役の中西敦士さん
編集部
トリプル・ダブリュー・ジャパンさんが求める人材像を教えてください。
中西さん
「世界を一歩前に進める」というミッションを達成するのは容易ではありません。「DFree」を使っていただける方や施設は増えていますが、まだまだ何もやりきっていません。
諦めずに最後まで一緒にやりきれる人、社会課題を自分ごととして捉えて、解決したいといった使命感のある人と一緒に働きたいですね。
私たちはベンチャー企業ですから、縦割りの組織ではありません。営業なら営業、開発なら開発と決められたことだけをやるのではなく、当事者意識をもって積極的にボールを見つけ、自分のボールとして最後までやりきる人に来ていただけたらうれしいです。
編集部
最後に、この記事を見て、トリプル・ダブリュー・ジャパンさんに興味をもった方にメッセージをお願いします。
中西さん
現在、求職中の方の中には、「社会に目を向けて、その課題の解決に対してしっかり取り組みたい」「社会にコミットしている実感を得たい」と感じている方もいるでしょう。キャリアに対して悩んでしまうのは、その「実感を得たい」という思いがあるからこそだと思います。
我々はいま、排泄をテーマに事業を展開していますが、基本の理念は「社会課題の解決」です。気軽にお問い合わせいただいて、今、抱いている悩みや思いを是非、聞かせていただければと思います。
編集部
「DFree」に救われる人はもっとたくさんいるはずですし、高齢化まったなしの日本で、トリプル・ダブリュー・ジャパンさんの注目度はさらに上がっていくだろうと感じました。本日はどうもありがとうございました。
■取材協力
トリプル・ダブリュー・ジャパン株式会社:https://www-biz.co
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