ワークライフバランスを実現しながら成長を続ける企業を紹介する本企画。今回は、人気スイーツ「ハニトー」で知られる「カラオケパセラ」などを運営する株式会社NSグループにインタビューしました。同社の取り組みや従業員の働き方について詳しく伺います。
NSグループの企業概要:多彩な事業展開と「日常のハレの日」の創造
株式会社NSグループは、「カラオケパセラ」や、バリ風の都市ホテル「バリアンリゾート」、カプセルホテル「安心お宿」など、サービス業を中心に50種類以上のブランドを展開しています。
「現状維持は衰退」という考えのもと、失敗を恐れずチャレンジする社風があり、コロナ禍でもカラオケルームをワークスペースとして提供するなど、急速な変化への対応力で顧客から選ばれ続けています。
会社名 | 株式会社NSグループ(ニュートン・サンザグループ) |
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住所 | 東京都新宿区歌舞伎町2-4-10 KDX東新宿ビル7階 |
事業内容 | ホテル・ブライダル・テーマレストラン・自主企画イベント&ツアーの開催等各種レジャー産業の企画運営 |
設立 | 1986年9月 |
公式ページ | https://www.nsgrp.co.jp/ |
株式会社NSグループは、ワークライフバランスの向上にも注力しており、2023年度には女性に加えて男性の育児休業取得率も100%を達成しました。
今回は、社長兼CHO(最高人事責任者)の荻野佳奈子さんに、成長の秘訣や男性の育児休業取得推進の取り組みなどについてお話を伺いました。
「日常のハレの日」を演出する50種類以上のブランドを展開
編集部
まずはじめに、NSグループさんの事業内容について教えてください。
荻野さん
私たちは、サービス業を軸にビジネスを展開するホールディングカンパニーです。ブライダル、ホテル、レストラン、カラオケ、カフェ、スタジオなど20業態・50種類以上のブランドを手がけています。
具体的には、「ハニトー」で有名な「カラオケパセラ」、バリ風の都市ホテル「バリアンリゾート」、カプセルホテルの「安心お宿」などを運営しています。
▲カラオケパセラのハニトーは、1992年の誕生以来、大人気のメニュー。
編集部
サービス業における広い領域でビジネスを展開されていますが、すべての事業に共通する理念などはありますか?
荻野さん
お客様の「日常のハレの日」を創造する企業でありたいと考えています。
「ハレ(非日常)」と「ケ(日常)」という言葉がありますが、「ハレ」は結婚式など一生に一度の特別な日だけではありません。特別な人と特別な時間を過ごす「日常のハレの日」もあるはずです。私たちは、どの事業領域においてもお客様への付加価値を高めることを意識し、「日常のハレの日」を過ごす場所を提供したいと考えています。
NSグループの成長戦略:変化への迅速な対応と逆境を乗り越える挑戦
編集部
NSグループさんの、近年の企業成長について教えてください。
荻野さん
ホテル事業の成長や、関西エリアでの事業拡大、愛犬事業への参入などによって、2019年までは右肩上がりの成長が続いていました。2020年は新型コロナウイルスの影響で赤字に転落しましたが、変化に「爆速」で対応することで影響を最小限にとどめ、早期に成長軌道へと戻すことができました。
編集部
サービス業に大きな打撃を与えた新型コロナウイルスに、どのように立ち向かったのでしょうか。
荻野さん
従業員の雇用継続と事業の継続を基本としたうえで、大きな影響を受けていたカラオケやビジネスホテルなどの事業については、コロナ禍でもお客様に利用してもらえるようなサービスへと転換させました。
例えば「カラオケパセラ」では、カラオケ用個室をワークスペースとして提供する「おしごとパセラ」を2020年3月から始めました。カプセルホテル「安心お宿」では一部フロアをコワーキングスペースにリノベーションしたり、長期滞在できるプランを始めたりしました。
▲コロナ禍においては、「カラオケパセラ」のテレワークサービス(左)や、「安心お宿」でのコワーキングスペース利用(右)も実施
編集部
まさに、「爆速」で次々と新しいサービスを開発したのですね。
荻野さん
私たちは、「現状維持は衰退」と捉え、成長するためには失敗しても良いからチャレンジするべきだと考えています。
大コケした企画もありましたが、コロナ禍の後も継続するような新しいビジネスもたくさん生まれました。「おしごとパセラ」は、カラオケ店の課題であった平日日中の遊休時間をオフィスワーカーの方に利用してもらうことで解決し、新しいビジネスチャンスを生み出しました。
編集部
大きな社会の変化をきっかけに多くの挑戦をしたことが、その後の成長につながったのですね。
荻野さん
もうひとつ、広い領域で複数の事業を展開する弊社のポートフォリオも、コロナ禍における強みだったと言えます。
多くの事業部を持っているからこそ、コロナ禍で不採算事業部となってしまった事業部の収支を他の事業部で補填することができ、会社の安定性を確保することができました。また、稼働が落ちていた事業部のスタッフを稼働が伸びている事業部に異動することで雇用の維持ができました。
サービス業の未来を描く:NSグループが掲げる「サービス業の世直し」
編集部
サービス業として今後も成長を続けるために、NSグループさんが意識していることは何ですか?
荻野さん
弊社は、「サービス業の世直し」を通じて、業界全体に良い循環を生み出したいと考えています。
「おもてなし」という言葉に象徴されるように、日本のサービス業は世界的に見ても高いレベルにあります。しかし弊社は、高品質のサービスが低価格で提供されていることに課題を感じています。
安くて良いサービスはお客様にとっては満足度の高いものですが、サービスを提供する企業や従業員としてはどうでしょうか。薄利多売で利益が上がらなければ、働く人たちの過重労働や低賃金につながり、結果として「自分は搾取されているんじゃないか」とか「こんな環境では長く働けない」という考えになります。
だからこそ、弊社は「サービス業の世直し」をビジョンに掲げ、このような現状を変えようとしています。
編集部
そのような悪循環を断ち切るためには、どのようなことが必要でしょうか。
荻野さん
「少し高くても選ばれるブランド」として安さ競争に巻き込まれないビジネスをし、企業の収益性を高め、新規事業や従業員に再投資することです。このようにして良い連鎖を生み出せば、サービス業全体の活性化や市場拡大にもつながるはずです。
編集部
「カラオケパセラ」などは、まさに「少し高いけれど選ばれる店」となっていますね。
荻野さん
はい。カラオケに対して「床がベトベト」とか「ご飯が美味しくない」というイメージを持つ人も多いと思いますが、特別な人との「日常のハレの日」に利用するときは後悔したくありませんよね。そんな時に、清潔で料理が美味しい「カラオケパセラ」を選んでもらい、他店さんよりも少し高いかもしれないけど、それでも選びたくなる、満足度が高いと感じていただきたいです。
荻野さん
このような付加価値を高める取り組みを通じて、お客様にも価格以外の価値を受け入れていただけるような環境をつくり、サービス業の負の連鎖を解消したいと思っています。
そうすればサービス業のイメージも変わり、「一生モノの格好いい仕事」と思ってくれる人も増えるのではないでしょうか。
編集部
NSグループさんは、自社だけでなく、業界全体の未来を考えて「サービス業の世直し」に取り組んでいるのですね。
新規事業への挑戦:産後ケアホテル参入に見るNSグループの経営姿勢
▲荻野さんは、失敗しやすい環境を作ることで、今後も積極的に新規事業を生み出したいと話す。
編集部
NSグループさんの事業の今後の展望についてもお聞かせいただけますか?
荻野さん
非上場のオーナー企業としての利点を最大限に生かした経営を今後も続けていきたいと考えています。
弊社は新型コロナウイルスの流行時に、複数領域で事業を展開することの重要性を実感しました。今後も積極的に事業を生み出していくためには、非上場企業だからできる「効率化や急成長を追いすぎない経営」が必要です。
また、企業成長のためには「チャレンジしやすい環境」や「失敗しやすい環境」を作ることが重要だと考えており、ステークホルダーが少ない非上場企業として、必要な遠回りができる環境を大切にしたいと思っています。
編集部
チャレンジできる環境だからこそ生まれた新しい事業はありますか?
荻野さん
はい。2021年12月、神奈川県の葉山エリアに日本最大の産後ケアホテル「マームガーデン葉山」を開業しました。
▲「マームガーデン葉山」では、24時間預けられるベビールームを併設するなどして産後の回復をサポートしている。
荻野さん
産後ケアホテルは日本にまだ少ないので、「失敗するかも」「収益が出ないかも」という不安もありましたが、「日常のハレの日」という弊社の理念にも合いますし、失敗を恐れずにチャレンジしました。
結果的には、オープン直後からキャンセル待ちが発生するくらい多くの方に興味をお持ちいただき、産後ケアに対する意識を高めることにも貢献できたのではないかと感じています。
編集部
非上場企業として失敗を恐れず挑戦できる環境があるからこそ、顧客の立場に立ち、世の中に必要だと感じる事業にしっかりと投資することができるのですね。
荻野さん
そうですね。今後も、「日常のハレの日をつくる」という文脈に重なるような事業で、必要だと感じるものがあればどんどん挑戦していきたいと思います。
人材育成戦略:「ナナメのキャリア」で市場価値の高い人材を創出
編集部
企業の成長には従業員の活躍も欠かせない要素ですが、NSグループさんの人事評価制度やキャリアサポートの取り組みについて教えてください。
荻野さん
弊社では、上司が部下を評価する個人考課だけでなく、関わるすべての上司、同僚、部下とお互いを評価し合う「360度パノラマチェック」を実施しています。これにより、上司による評価だけでは把握しにくい実務の実績などもしっかりと評価することが可能になります。
また、360度パノラマチェックでは応援コメントを送ることもできるため、コメントを受け取った従業員のモチベーション向上にもつながっています。
編集部
カラオケからホテルまで、複数の事業を展開するNSグループさんですが、希望すれば異なる事業を経験することはできるのでしょうか?
荻野さん
はい、可能です。弊社では、グループ内の複数の業種・職種を経験する「ナナメのキャリア」を歩むことで、社員が「個」としての能力を高め、市場価値の高い人材に成長できると考えています。
ただし、希望するすべての事業や職種を経験できるわけではありません。その代わりに、興味がある事業部に最短1週間〜1ヶ月間、一時的に異動して今後のキャリアデザインの参考にする「レンタル移籍制度」などを設けています。
編集部
さまざまな事業を経験することは自分の適性を見極めることにも役立ちそうですし、環境の変化に強い人材へと成長できそうですね。
従業員満足度向上への取り組み:NSグループが実現した男性育休100%
編集部
NSグループさんでは、ワークライフバランスを実現するための取り組みとして、どのようなことを行っていますか?
荻野さん
弊社はCIS(顧客感動満足)はもちろんですが、EIS(従業員感動満足)を高めることも重視しています。
サービス業には、土日に休めないとか、そもそも休みが取れないというイメージがありますが、これからは仕事と家庭の両立ができる環境でなければ人の採用も難しくなっていきます。今すぐ年間の休日を130日にしたり、週休3日にしたりすることはできませんが、できることから始めており、年に1度必ず5連休以上を取得する制度などを設けています。
編集部
育休の取得についてはいかがですか?
荻野さん
女性従業員の育休取得率はすでに100%を実現しているので、2019年からは男性の育休取得に力を入れています。
弊社の制度では、パートナーの産後8週間以内に5連休以上を取得することを促しており、条件を満たした人には出産祝い金を上乗せしたり、自社で運営する「マームガーデン葉山」での3泊4日無料宿泊をプレゼントしています。
このような取り組みによって、2019年度に0%だった男性の育休取得率は、2023年度に100%を達成しました。
編集部
日本では男性の育休取得がまだまだ進んでいない現状があるので、NSグループさんの取り組みは、ほかの企業の参考にもなりそうですね。
荻野さん
弊社の制度にもまだ課題はあります。例えば、出産した女性従業員のパートナーがほかの企業で働いている場合の男性育休取得率は、30%程度にとどまっています。今後は、出産した従業員のパートナーが自社グループの従業員ではない場合でも育休を取得してもらえるように、他社を巻き込んだ取り組みを推進したいと考えています。
育休取得促進策:POPと地道な呼びかけで実現した男性育休100%
編集部
育休の取得には、制度に加えて「取得しやすい雰囲気」も欠かせないと思います。NSグループさんでは、どのようにして男性が育休を取りやすい環境を作ったのでしょうか?
荻野さん
まず、弊社が展開するお店は小さなところでも従業員が10人程度いるので、1人が休みを取っても店舗運営に支障が出ないことが育休の取りやすさにつながっています。
心理的なハードルについては、とにかく育休取得の前例を作って社内で積極的に広報するしかないと考えました。
編集部
1人目の「前例」を作るまでに、どのような取り組みをしましたか?
荻野さん
男性育休を促すPOPを制作して各店舗に掲示したほか、初めのうちは「育休をとってください」と直接声かけをしたり、対象者なのに育休を取らない人には「なぜ取らないのですか」と積極的に声をかけたりしていました。
また、管理職に対しては、部下の育休を推進してもらうために「あなたの評価に関わります」と率直に伝えることもありました。
▲株式会社NSグループは、このようなPOPを各店舗に掲示することで育休取得を促進した。
荻野さん
このような取り組みを続けた結果、「ロールモデルになれるなら」と1人目の取得者が現れ、次第に役職者クラスにも取得する人が出てきました。同僚が育休を取ったという話を耳にする機会も増え、男性育休に対する心理的なハードルはどんどん下がっていきました。
実践的インターンシップ:NSグループが提供する店舗ビジネス体験
▲株式会社NSグループの短期インターンでは、伊豆エリアにあるホテルなどで実務を体験できる。
編集部
NSグループさんは、学生のインターンを受け入れているそうですね。
荻野さん
はい。学生の個性や能力を伸ばしたいという思いを込めて、「デルクイ」という有給のインターンプログラムを実施しています。1週間の短期インターンと2ヶ月以上の長期インターンがあり、どちらも当社の店舗ビジネスを体験してもらう内容です。
編集部
それぞれどのような業務を体験できるのでしょうか?
荻野さん
1週間のプログラムでは、静岡県の伊豆エリアで運営するリゾートホテルで、コンシェルジュやホテルスタッフの仕事を体験してもらっています。お客様への接客や施設の管理など、ホテル運営の実務を学べます。
長期インターンは、実際の仕事体験を通じて企画力や提案力を養成する、課題解決型のプログラムです。カラオケパセラやバリアンなどの店舗業務を体験しながら、「お店の認知度を上げる方法」や「新店舗のアイデア」といった実践的な課題に取り組んでもらいます。これにより、ビジネスの現場で必要とされる思考力や創造力を磨くことができます。
編集部
実際の店舗で就業体験することで、企業説明会だけでは分からない仕事の魅力を感じることができそうですね。また、課題解決型プログラムでは、社会人になってから役立つ実践的なスキルも身につきそうです。
NSグループの企業文化:800人規模のオンライン全社会議が象徴する一体感
編集部
NSグループさんには、社内のコミュニケーションや連携を促すような取り組みはありますか?
荻野さん
オフラインの取り組みの一例として、永年勤続の対象者をお祝いするパーティーがあります。5年、10年、15年といった節目で開催し、グループの高級フレンチレストランを貸し切り、フルコース料理とワインやシャンパンを楽しんでいます。
オンラインでは、月に1度YouTube Liveで全社員会議を行っています。90分程度の生配信で、各事業部の情報共有をするほか、育児休業を取得した男性従業員や新規事業を立ち上げた社員など、毎回異なるトピックで社員に話をしてもらっています。さらに、その月の誕生日の社員のお祝いも行っています。
編集部
オンラインの全社員会議を始めたきっかけは何ですか?
荻野さん
会社の情報をよりオープンにし、社員が愛着を持てる会社にするためには、全員が参加できる情報共有や賞賛の場が必要だと考えました。
弊社は社員数が800人を超え、シフト制で働く店舗ビジネスが主体なので、全員が対面で集まることは困難です。そのため、オンライン会議を活用して全社員が参加できる場を設けています。
NSグループの社員像:多趣味でフットワークの軽い人材が活躍
編集部
NSグループの社員の皆さんに共通する特徴はありますか?
荻野さん
フットワークが軽い人が多いと感じます。社交的なメンバーが多く、初対面の社員同士でも短時間で打ち解けられるような雰囲気があります。
また、マニュアル通りに仕事をこなすタイプよりも、「どうしたらお客さまにもっと喜んでもらえるか」を自ら考えて行動できる人が多いです。
弊社はサービス業の中でもマニュアルが比較的少ない方だと思います。細かい業務手順を定めるのではなく、従業員が自主的により良いサービスを考え、付加価値を提供することで、単価を上げていく経営方針を取っています。
編集部
さまざまな事業部を持つNSグループさんなので、好奇心旺盛な人も適していそうですね。
荻野さん
そうですね。実際、多様な興味を持つ人たちが多いと思います。就職活動では「一つの専門分野に絞るべき」という考えが一般的かもしれませんが、弊社では幅広い興味を持つ人を「フットワークが軽くて行動力がある人」と前向きに捉えます。
編集部
ここまでお話を聞いて、NSグループさんはコミュニケーションを大切にし、主体的に仕事に取り組む人が多い会社だと感じました。
NSグループが求める人材:「日常のハレの日」を創造する仲間募集
編集部
最後に、記事を読んでNSグループさんのお仕事に興味を持った方にメッセージをお願いします。
荻野さん
コロナ禍によって、多くの皆さんがリアルで人と会う時間の尊さを感じたのではないでしょうか。その一方で、サービス業が大きな打撃を受ける様子を見て、サービス業で働くことに不安を持った人もいるかもしれません。
しかし、弊社はそんな逆境を乗り越えました。あの時に必死に努力し、多くのチャレンジをした経験は、NSグループを強くしました。そんな弊社の姿を見ていただければ、「もしまた大きな変化が起きたとしても、NSグループなら乗り越えられる」と感じていただけると思います。
ご興味をお持ちいただけましたら、ぜひご応募ください。私たちと一緒に、お客様に「日常のハレの日」を届けるような新しいビジネスを創造しましょう。
編集部
失敗を恐れずチャレンジする姿勢で、コロナ禍でも魅力的なサービスを相次いで開発してきたNSグループさん。これから先、どのような新事業が生まれるのか楽しみです。
本日は、ありがとうございました。
■取材協力
株式会社NSグループ:https://www.nsgrp.co.jp/