新採用の若手や中途入社の職員が活躍できる職場づくりを進め、SDGsにも熱心に取り組む企業や自治体にインタビューする本企画。今回は、秋田県由利本荘市にお話を伺いました。
山、河、海の自然と、土地ならではの美食に恵まれたまち。秋田県由利本荘市
由利本荘市は、秋田県の南西部に位置する、人口約7万2000人のまちです。2005年に、1市(本荘市)と7町(矢島町・岩城町・由利町・大内町・東由利町・西目町・鳥海町)が合併して誕生しました。秋田県内で1番の面積を占めています。鳥海山や出羽丘陵、子吉川、日本海に面する海岸平野など、地域ごとに様々な歴史や特色があります。県の中核市である秋田市から近く、利便性と自然の豊かさを兼ね備えた、暮らしやすさを実感できるまちです。
自治体名 | 秋田県由利本荘市 |
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本庁舎住所 | 秋田県由利本荘市尾崎17番地 |
公式ページ | https://www.city.yurihonjo.lg. jp/index.html |
今回は、総務部総務課人事班で班長を務める前川亮さん、観光文化スポーツ部まるごと売り込み課売り込み班で班長を務める小助川拓己さん、総務部総務課人事班の主査でいらっしゃる志村瑠理子さんに、若手や中途入社した職員が活躍できる組織について、また暮らしを便利にする事業の拡充や、まちの魅力を全国に発信する取り組みなどについて、お話を聞かせていただきました。
若手が自由に参加する「職員提案」制度で斬新なアイデアが集まる
▲全国規模のスポーツやイベントで活用されるほか、災害時には市民を守る防災拠点として機能する「由利本荘市総合防災公園ナイスアリーナ」
編集部
由利本荘市役所で若手職員の方はどのような活躍をされているでしょうか。
志村さん
市のトップと若手職員を直接つなぐ制度「職員提案」を使って活躍しています。これは、2021年度から導入している制度で、市民の方からの意見を聞いて考えたことや、暮らしながら気づいたことを職員から広く集めるものです。自由に意見や提案を出してもらっていて「なるほど」という優秀な内容には市長、副市長三役からの表彰を行っています。
若手職員からの応募は多数あります。実効性があるものはどんどん採用されて、新しい取り組みや制度の改革などとして実現しています。
編集部
若手職員の方からの提案で採用されているのは、どのような内容ですか。
志村さん
市役所内部のことはもちろん、市民生活のためになる有意義な提案も多くあります。2022年度には「リモート会議用のスペースを創設したい」「災害メール送信時に共有する情報を拡充しよう」「来庁者がスムーズに目的の窓口にたどり着けるようビデオ通話を導入したい」などの提案が表彰されました。
編集部
若手の方の意見が自由に発せられる場があり、またそれらが採り上げてもらえる機会があるのですね。市民の方と触れ合いながら感じたことが、業務改善などに活かされるのですね。
ブラザーシスター制度で新人の不安を払拭。暮らしを支える様々な業務を経験
▲新採用職員は、先輩職員が一人付き何でも相談できる「ブラザーシスター制度」で、スムーズに職場に慣れていける
編集部
由利本荘市役所に入庁された方々は、どのように業務の内容を学ばれるのでしょうか。
志村さん
新採用の職員は「ブラザーシスター制度」で、スムーズに職場や業務に慣れてもらっています。先輩職員がマンツーマンで、基本的なルールの指導や疑問をなくすサポートを行います。業務以外でモヤモヤ感じていることなども、気軽に相談できるような体制を整えています。
前川さん
「ブラザーシスター制度」は、ブラザーやシスターを担当する先輩職員のスキルアップにも役立っています。先輩職員たちは「どのような指導をしたらいいのか」という内容を、メンター研修で身につけた上で、新採用の職員に対応します。
新採用の職員も、先輩も、お互いが成長できるような仕組みで研修を行っています。
編集部
職員の方々のキャリアアップについては、何か制度などがございますか。
志村さん
由利本荘市の一般行政職は、大体3年から5年のサイクルで職員のジョブローテーションを行っています。
もちろん、人によって長かったり短かったり、スパンの違いはありますが、異動希望の調査で住まいや本人の希望を聞き、それを加味しながら、様々な部署、支所の業務を担当してもらいます。
編集部
定期的なジョブローテーションを行って、様々な業務のノウハウを蓄積できるのですね。希望の業務を経験することもできるのですね。
異業種からの中途入庁者も活躍。市民の暮らしを第一に考える仕事
編集部
由利本荘市役所さんに、中途で入庁されている方はいらっしゃいますか。
小助川さん
私は食品メーカーから由利本荘市役所に転職して約10年になります。それまでは、食品の開発や製造に10年間携わっていました。
編集部
民間企業から市役所に転職されて「前職と違うなあ」と感じられたのは、どのようなことでしたか。
小助川さん
前職では常に利益追求が課題でした。とにかく能率を上げて無駄をなくし、コストを下げることを最も重要視していましたが、市役所はそのような世界ではありませんでした。そのあたりに大きなギャップを感じました。
例えば、製造ラインを1日動かして売上げがいくら、利益がいくらというようなことが自分の仕事の中心だったわけです。市役所では「どれだけ市民の方々に貢献できるか」ということが業務の軸となるので、仕事に取り組む際には市民の方の暮らしを意識するようになりました。
編集部
由利本荘市役所さんに入庁して、良かったと感じられることをお教えください。
小助川さん
実感しているのは働きやすさです。残業も少しはありますが、たくさんの市民の方の暮らしを支える仕事には、楽しんで取り組めています。
編集部
「由利本荘市のために」という思いを一番大切にして働ける環境なのですね。
デジタル化を推進し、便利なサービスを市民の方々へ届けたい
▲市職員が市民のもとへ出向く「移動市役所」では、様々な行政サービスが受けられる
編集部
サービスの改革など、由利本荘市役所さんが力を入れていらっしゃる取り組みについてお聞かせください。
志村さん
2022年から「デジタル化推進計画」を策定し、取り組んでいます。業務提携しているNTT東日本秋田支店さんから非常勤のDXの推進監が来て、業務をサポートしてくれています。
これにより、窓口で手続きの際に発生する手数料が、キャッシュレスで決済できるようになりました。また、タッチパネルで観光情報を調べることができる「デジタルサイネージ」、市役所の福祉支援課とオンラインでやりとりしたりできる「遠隔窓口システム」、マイナンバーカードで各種証明書が取得できる証明書発行機を集約した「デジタルスポット」が誕生しました。いくつかの公共施設に設置しています。
マイナンバーカードを利用したオンラインの申請サービス「スマート申請サービス」もできました。市民の方々は、来庁しなくても様々な手続きができて、必要な書類が郵送で届くというサービスです。これらはごく一部で、デジタル化が進んでいるサービスは、ほかにもたくさんありますよ。
編集部
市役所に行かなくても、オンラインで手続きができるのは便利ですね。
▲新しい移動市役所の車両「ゆりほん窓口GO!」
志村さん
市民の方々が来庁しなくても行政サービスが受けられるように「移動市役所事業」も行っています。職員がワンボックスカーに乗り、駅前や道の駅、支所を回ります。
移動市役所では、マイナンバーカードの発行や住民票などの証明書発行をはじめとする様々な手続きが可能です。2022年に実証実験を行い、2023年から本格的に稼働しました。満足度調査では大変評価が高く、市民の方々に喜んでいただいています。2月20日からは新車両が稼働し、愛称は「ゆりほん窓口GO!」に決まりました。
編集部
なるほど、便利なサービスがどんどん増えていっているわけですね。
特産品のPRを担いまちの魅力を発信する「まるごと売り込み課」
▲ふるさと納税の事業を担うほか企業・団体とのコラボでまちの魅力を発信する「まるごと売り込み課」
編集部
まちの魅力を全国へ発信していくために、工夫していらっしゃることなどはございますか。
小助川さん
私が所属している「まるごと売り込み課」で、ふるさと納税の業務を行っています。これをきっかけに、より多くの方に由利本荘市を知ってもらいたいですね。
ポータルサイトの運営は外部委託していますが、返礼品の選定や周知の方法の検討などは、まるごと売り込み課も協同しています。
編集部
由利本荘市さんでは、どのような返礼品が人気でしょうか。
小助川さん
おすすめは米ですが、ほかにも蜂蜜や和牛、日本酒など人気の返礼品がたくさんあります。「ふるさとチョイス」や「楽天ふるさと納税」など、様々なふるさと納税の受付サイトで広告の展開もしています。
▲2024年1月に「秋田県伝統的工芸品」に指定された「本荘こけし」
編集部
ほかにはどのような方法で特産品をPRされているのでしょうか。
小助川さん
首都圏の複数の企業・団体と連携協定を結んでいます。例えば小売店との協定の場合は、店頭で、由利本荘市の特産品を販売してもらうような内容です。小売店を訪れた方に特産品を手に取っていただけるように、小売店のバイヤーさんと相談しながら、内容量やパッケージのデザイン変更などを手掛けています。
また、由利本荘市の「食を体験」する取り組みとして、生産者訪問ツアーやマルシェ、試食販売会イベントなどを展開しています。「食」を入り口に、私たちのまちをより多くの方に知ってもらい、また「食」に関わる人と人とのネットワークづくりにも貢献できればと考えています。
もうひとつ、日本最大級の洋上風力発電の建設が進んでいて、こちらのPRも観光に絡めて、何かできないかと模索しているところです。三菱商事さんのような巨大企業とタイアップして、再生可能エネルギーについて、また由利本荘市について知ってもらえるような活動をしていきたいと思っています。
SNSを使い、旬の話題を市民の目線で発信
▲鳥海山修験のひとつ、羽黒派滝沢修験の活動拠点「森子大物忌神社」国の史跡に指定されている
編集部
由利本荘市さんではSNSを使って、市のPRもされているのでしょうか。
小助川さん
「まるごと売り込み課」が運営しているSNSがあります。市の公式SNSもありますが、私たちは独自に由利本荘市の「食」「観光」などのコンテンツを堅苦しくならないようにスピード感を持ってInstagram、X、YouTubeでアップしています。
例えばテレビで紹介されたような、話題になっている特産品や観光地について、私たちが実際に食したり出かけたりして、詳細な情報や感想をコメントしています。
▲レトロな雰囲気が漂う羽後本荘駅と矢島駅を結ぶローカル線
編集部
「まるごと売り込み課」で運営しているSNSは、旬の情報が集まったコンテンツになっているのですね。由利本荘市さんのことを知りたい方にとって、PRの窓口が一本化されていると、とても便利でしょうね。そのほか、由利本荘市のことで小助川さんが特にPRしたいものはございますか。
小助川さん
自然が豊かなことはもちろんですが、私が個人的に「いいな」と思っているのは、昔ながらの食堂。由利本荘市に比較的多くあります。そこのメニューに必ずと言っていいほどある、ホルモン煮込み定食をたくさんの方に知ってもらいたいですね。
ホルモン煮込み定食は、食堂に行けば、もう当たり前のようにメニューに載っていて、由利本荘市の特徴の一つと思っています。食堂それぞれに味わいが異なるので、自分の好みの味を見つけるのも楽しいのではないでしょうか。
あとは、居酒屋でも地元ならではのお店が多いんですよ。その店で手づくりされている料理が、お手ごろな値段で美味しく食べられるので、観光に来た方にはぜひ行っていただけたらなと思います。
編集部
まち歩きが楽しそうですね。美味しいしいものがたくさんあるのですね。
市外からの応募も歓迎。コミュニケーション力が活かせる職場
▲由利本荘市役所内の若手を育てる雰囲気を教えてくれた小助川さん、志村さん、前川さん
編集部
由利本荘市に興味を持ち、市役所で働いてみたいと思われている方へメッセージをお願いします。
志村さん
少しでも由利本荘市に興味を持たれた方は、特に由利本荘市にゆかりがなくても、ぜひご応募いただければと思います。
現在活躍中の職員も、市内に限らず全国から集まった多様なキャリアを持つ人材です。みんな一致団結して市を支えています。私たち職員は「由利本荘市を良くしたい」という一つの思いで、それぞれの職務にあたっています。
編集部
採用に関して、何かトピックがございましたらお聞かせください。
志村さん
移住枠の職務経験者を積極的に募集しています。特に土木職の人材を増やしていこうとしています。土木職については、受験可能年齢も引き上げていて、これまでの資格や経験を活かせる方、即戦力として活躍してくださる方は大歓迎です。
編集部
どのような方が由利本荘市役所の雰囲気にフィットするでしょうか。
前川さん
人と人との交流を大切にしていますので、コミュニケーションを大切にできる方がいいですね。業務の中で市民の方や職員同士のコミュニケーションを通じて、職員一人ひとりが成長できるような体制をつくっています。
志村さん
ジョブローテーションや支所間の異動がありますので、前任者や新しい職場の仲間といった職員同士のコミュニケーションがとても重要です。相談したいことを1人で抱え込まず、周囲にどんどん相談できる雰囲気づくりや、周りのみんなで解決策を模索する文化は浸透していますので、安心して働ける環境だと思います。
編集部
まちづくりに欠かせない、土木職の方を積極的に採用したいということですね。中途で入庁された方、市外から通勤していらっしゃる方も多いことがわかりました。若手が自由に提案でき、それが受け入れられる職場であることも興味深かったです。本日はありがとうございました。
■取材協力
秋田県由利本荘市:
https://www.city.yurihonjo.lg.jp/index.html
採用ページ:
https://www.city.yurihonjo.lg.jp/1001506/1001558/1001625/index.html